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20 対自衛隊耐久戦

 ダンジョンちゃんの一階層は既に冒険者や国の研究者・専門家によってマッピングが終わっていて、モンスターの対策もされている。短期間で踏破される事は予測していた。

 それにしても二時間は早い。あまりにも早い。ゴブリンもルーンウルフも弾幕を張られ紙のようにぶち抜かれて消滅していった。

 それだけではない。迅速なバリケードと歩哨設置によって一階層に追加のモンスターやトラップを置けなくなってしまった。事実上の一層完全攻略である。


 ダンジョンちゃんはダンジョン内にモンスターやトラップを設置する能力を持つが、全く自由自在というわけではない。コストとして生命力(ライフ)の消費が必要だし、侵入者の背後にモンスターを召喚し奇襲、という事もできない。侵入者の生命力(ライフ)と干渉してしまう? からとかなんとか。


 不幸中の幸いはまだダンジョン内の滞在で衰弱する事には気付いていても、それがダンジョンちゃんに生命力(ライフ)として還元される事には気付いていない事だ。

 即落ち2コマをキメたダンジョン二号はどうやら情報をポロポロ零し余計な事をしまくったようだが、喋っていない事もあるらしい。


 例えばダンジョン内の死亡・負傷がダンジョンを強化してしまう事、ダンジョンコアに非常に大きな価値が――――人類の科学力に数段飛ばしのブレイクスルーを起こしかねないほどの価値がある事は知られてしまっている。


 そのせいで自衛隊は負傷を明確に避けていた。自衛隊ほどの装備があればゴブリン程度格闘で倒せそうなものだが、明らかに接近を避け遠距離からの射撃で倒すよう注意を払っている。そして負傷者はすぐにダンジョン外の後方に下げられる。

 ダンジョン制圧開始から丸一日が経過しても負傷者が突き指一名、足首の捻挫一名のみというのは驚異的だ。もっとばんばん怪我してくれないと生命力(ライフ)を吸収できない。困るんですよねぇ! そういう事されると!

 

 また、ダンジョン内で盛んにダンジョンコアを探していたり、ダンジョンコアの見た目を確認し合っていたりしていた(ダンジョンがダンジョン内の会話を盗聴できるという情報は渡っていないらしい)。曰く、市民の安全と同等の優先順位がダンジョンコア確保につけられているようだ。どれだけ重要視されているかが伺える。

 やめて? 死ぬよ? 国家を挙げてダンジョンちゃんの命ガチで狙ってるって事じゃん……


 まあ結論として一番やられたくなかった少数精鋭による電撃戦は避けられた。自衛隊は安全確実、大人数による多方向からの同時侵攻を選んだ。

 一般人より遥かに屈強な自衛官が群れを成し油断もせず押し寄せるのは死ぬほどヤバいが、大人数が24時間態勢で攻め込んでくるという事は刻印の生命力(ライフ)収入も跳ね上がるという事だ。

 歩哨も収入の助けになる。モンスター召喚は封じられてしまうが、立っているだけで何もしないので丸々刻印吸収の収入になる。


 差し引きで怒涛の勢いで攻め込まれてはいるもののなんとかダンジョンちゃん即落ちは避けられている。


 一層陥落時点でダンジョンちゃんは第三階層を拡張した。第二階層にも複雑な迷路を張り巡らし、ありったけのロックゴーレムを配置する。

 ロックゴーレムは石でできている。俺も自衛隊の装備には詳しくないが、wikiやネットの動画を見る限り基本配備の自動小銃で石を削り切って倒すのは難しいはずだという見込みの上での事だ。鈍重な分馬力も高いので当然近接格闘でどうにかなる存在でもない。


 しかしこれで時間を稼げるはず、という目論見はあっさり外れた。

 簡単な話、爆破で突破されたのだ。


 自衛隊はロックゴーレムに弾幕を張っても効果が薄いとみるや、さっさと爆破攻略に切り替えた。ダンジョンが崩落せずかつロックゴーレムをバラバラにできる絶妙な加減の爆破で片っ端から撃破されていった。

 ごっそり生命力(ライフ)をつぎ込んで召喚したロックゴーレムがボカンと爆発一発で消えるのはもう切ないやら悔しいやら。ダンジョンちゃんはあまりのストレスに壁(肌)荒れが酷くなり無限に泣き事を言っている。


 ガス爆発をかなり警戒しながら進んでいるようで、爆薬使用前は特に入念にガス検知をしているおかげもあって、二階層の攻略で丸一日稼ぐ事に成功した。

 そしてその一日の間に稼いだ生命力(ライフ)を拡張するだけして中身が空だった三階層へのモンスター配置に注ぎ込んだ。


 単純にロックゴーレムの上位互換モンスターはリビングアーマーだ。

 リビングアーマーは中身の無い動く鋼鉄の鎧で、ゴーレムを超える頑健さとルーンウルフ並の俊敏さ、連携能力、そして武器や防具を扱える器用さを併せ持つ。ダンジョンちゃんの故郷では冒険者としての一人前の壁となる、と言われていたモンスターだ。

 リビングアーマーより格上のモンスターから魔法行使能力を持つようになっていくため、魔法を使わないモンスターの中では最もバランスがとれ、強力であり、ある種の完成の域にあると評される。


 が、そのリビングアーマーも爆破一発で死ぬ。

 二階層から三階層へ繋がる階段に一体置いてみたがそれでやられた。

 ロックゴーレム三体分の生命力(ライフ)を注ぎ込んでも一撃で何もできず殺されれば何の意味もない。自衛隊の現代火力にかかれば石のモンスターも鋼鉄のモンスターも同じだ。エグい。


 薄々リビングアーマーもやられるだろうな、と予測していたので、ダンジョンちゃんは俺考案の悪質遅延作戦を全面採用し、リビングアーマーではなくファイアバットを三層全域に鬼のように放った。


 ファイアバットは赤い体色の手のひらサイズの蝙蝠で、鋭い牙を持つ。この牙には毒性成分が含まれ、噛む事により注入し火傷のような症状を引き起こす。

 が、牙が短いため革の防具(服に雑誌を仕込んでも可)で簡単に防げてしまうし、普通の蝙蝠と比べて特に頑丈な訳でも素早いわけでもない。火傷症状は一般人の自然治癒で二週間はかかるが、そもそも攻撃が通りにくいので意味は薄い。治癒魔法でも容易に治ってしまう。連携能力もない。

 召喚コストは3000生命力(ライフ)

 最下級クソザコモンスターのゴブリンが1000生命力(ライフ)で、ルーンウルフが10000生命力(ライフ)だから、その程度のモンスターだという事だ。


 しかし対自衛隊の時間稼ぎだけを考えればベストなモンスターだ。

 ファイアバットは脅威度は低いが敵対的モンスターであり、まさか無視するわけにもいかない。撃破する必要がある。どう撃破するか? 銃撃だ。

 空中を不規則に飛ぶ蝙蝠はゴブリンと違い三次元的に動き回るため、単発で撃ってもまず当たらない。弾幕を張れば死ぬが、撃たせる事に意味がある。

 一匹出るたびに呼吸を揃えて弾幕を張らなければならないため、非常に有効な足止めとして機能した。目論見通りだ。


 ところが上手くハマったのは半日だけで、自衛隊はすぐに解答を持ってきた。

 頑丈な網を用意し、投網してきたのだ。

 不規則に飛び回るファイアバットも網を投げて絡めとり地面に降ろせば後は踏みつぶすだけで倒せてしまう。


 ずるいじゃん……自衛隊の武装ググったけど網なんて書いてなかったじゃん……なんで用意しちゃうんだよ……臨機応変な対策やめて?


 信じられない事に人員を交代しながら24時間態勢で間断なく攻めて来る自衛隊の侵攻速度は全く落ちなかった。

 ほぼ24時間キッカリで陥落した二階層に対し、三階層は23時間。ペースが落ちないどころか若干上がっている。

 なんでだよ! ぶちキレそう。もう怖い、怖いよ。


 三階層で稼いだ生命力(ライフ)を消費し大急ぎで四階層を拡張したが、ダンジョンの階層は階を重ねるごとに拡張費用が上がっていく。四階層を作っただけで大部分の生命力(ライフ)を使ってしまい、残った生命力(ライフ)でせめてもの抵抗としてファイアバットとルーンウルフの混成小集団を散発的に配置するだけで精一杯。


 四層が突破されても、稼いだ生命力(ライフ)で辛うじて五階層までは拡張できるだろう。しかし拡張するだけでモンスターの配置は間違いなくできない。ガラ空きの五階層を突破されたらもうダンジョンちゃんのコアがある最深部に到達してしまう。


 対策済みのモンスターしか出てこない四階層と、ガラ空きの五階層。

 合わせて24時間あれば突破されるだろう。

 つまりダンジョンちゃんの余命は残り24時間!!!


 あ゛ーッ! 逃げてぇ!

 逃げてぇええええええ!

 警察の時より段違いにヤバい!


 正直、ダンジョンちゃんを見捨てて俺だけでも逃げたい気持ちはめっちゃある!

 死ぬのは怖い。もちろん怖い。

 まだ5憶円ぐらい貯金があって可愛くて性格良くておっぱい大きくて俺の事が大好きで他の男にフラフラしない女性と結婚して幸せな新婚生活をしていない。死んでも死にきれない。

 逃げたい、猛烈に逃げたい。自分だけでも助かりたい。

 ダンジョンちゃんも俺が逃げるのを許してくれるだろうという打算もある。


 でも見捨てられない。

 絶対見捨てられない。

 俺が濡れ衣でクビにされる時、我が身可愛さに窮地の俺を見て見ぬふりをしたかつての同僚達と同じところには絶対に堕ちたくない。

 どん底だった俺を理解し、共感してくれたのはダンジョンちゃんだけだった。

 無二の親友は見捨てられない。


 だからこれはダンジョンちゃんの詰みであり、俺の詰みでもある。

 俺の寿命は残り24時間!!!


 誰かーッ!

 誰か助けてくれ!!!

「いるさッ、ここに一つな!」

「ひょ、評価ボタンさん! 評価ボタンさんだ!」

 評価ボタンさんが助けにきてくれた! これで全部大丈夫だ!

 俺は歓喜したが、評価ボタンさんは厳しい顔で言った。

「喜んでもいられないぞ。評価ボタンを押すんだ、お前の手で。俺は俺だけでは力を発揮できない。評価ボタンは読者に押してもらってはじめて全力を出せるんだ」

「評価ボタンさん……分かりました。俺、押します!」

「ああ! やっちまえ!」

 俺が評価ボタンを押すと、自衛隊は謎の波動で消滅した。よし!

 俺と評価ボタンの絆の勝利だ!


~ハッピーエンド~

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[一言] ダンジョンちゃんはぶられてら
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