18 即落ち2コマ
アパートで呑気に昼飯を食っている最中に緊急ニュースを見た俺は、急遽玄関の入り口からダンジョンちゃんの最奥部屋に移動して緊急会議を開いた。
慌て過ぎて取っ散らかった俺の話を聞き終えたダンジョンちゃんは、宙に浮く紅いコアを点滅させながら確認してくる。
『じゃ、この国の戦力が集中してる場所にダンジョンが出現しちゃったって事?』
「そう、そういう事だ」
『マ? よりにもよって?』
「よりにもよって」
『何それどうしようどうしたらいい? ヤバいヤバいヤバいって……いやヤバいかな?』
「ヤバいだろ! ……いやヤバいか?」
二人揃って慌て、揃って少し冷静になる。
一度落ち着こう。ちょっと情報を整理して考えてみよう。
異世界の生物であるダンジョン族は独自の社会を築いている。そこで犯罪を起こすと追放刑――流刑――を喰らい、地球に飛ばされてくる。
ダンジョンちゃんはそうして地球にやってきたダンジョン第一号で、今回鹿児島の自衛隊基地にやってきてしまったダンジョンは二号だと思われる。
ダンジョンはほとんど身一つ無一文に近い状態で地球にやってくる。モンスターもトラップも迷路も無く、ただダンジョンコアと部屋一つだけしかない。ダンジョンはダンジョンコアを奪われると死ぬから、剥き出しの心臓をさらけ出した状態でスタートするに等しい。よほど幸運に恵まれるか、上手くやらなければ死だ。
ニュースの情報によればダンジョン二号の状況は心臓をさらけ出した状態で銃口を突きつけられているに等しい。
あとは引き金を引くだけで死ぬ。ヤバい。
ヤバいが、それはダンジョン二号にとっての話だ。
二号が開幕即死してもダンジョンちゃんに別に害は無いように思える。
別に連鎖爆発でダンジョンちゃんが死ぬわけでなし。
ダンジョンちゃんにとっては対岸の大火事。それに二号にとっても口八丁で切り抜けられる範囲とも思えた。
ダンジョンは種族の特性として翻訳能力を持っている。ダンジョン二号も当然人間との対話が可能だ。
現在、日本はダンジョンと敵対していない。むしろ保護すべき貴重な資源、研究対象として見て慎重に動いている。ダンジョンちゃんと俺のこれまでの行動の賜物だ。
下手を踏まず慎重に対話すれば生き延びられる可能性は十分あるのではないだろうか。
このあたりはダンジョンちゃんと見解が一致した。
ただし、ダンジョンちゃんはできれば見捨てず助けたいと言い出した。
「まあいうて同族だしなあ。ダンジョンちゃん好みの男ダンジョンかも知れんし」
『それもあるんだけど、やっぱりダンジョン同士で連携取った方が生き残りやすいし儲けやすいから』
「ああ、地元じゃそれで会社作ってたんだっけか」
『そうそう』
ダンジョンちゃんは故郷で会社勤めの働く女だった。それはそうしないと生き残れなかったからだ。会社に属さず単独でダンジョン営業をしている奴はあっという間に人間に攻略されて死ぬのだとか。
世界は違えどダンジョンを運営していくなら今後ダンジョン間での連携が必要になる事もあるだろう。単独でやっていけるとしても、連携が取れた方が楽なのは間違いない。
「でもさあ、俺達だって他のダンジョン助けてる余裕ないんだよな。自衛隊が本腰入れたらすぐ死ぬ説ある」
『そう。だから「できれば助けたい」ぐらいなの。できればね。ギドーはどう思う? 助けた方がいいかな』
「んー……」
ここで考えるべきはやはり目標だ。
俺達は婚活戦線。お互いに最高の結婚相手を見つけ、幸せな結婚に辿り着くのが目的だ。
何やら段々大事になりつつあるが、根本は婚活で、そこを大事にしていきたい。
俺の目標達成はダンジョンちゃんより簡単だ。何しろ人類総人口70億人の時代。人口の約半分は女性、つまり35億人の女性がいる。
35億人もいれば一人は5憶円ぐらい貯金があって可愛くて性格良くておっぱい大きくて俺の事が大好きで他の男にフラフラしない女性見つかるだろ。
しかしダンジョンちゃんはそもそも同族の異性が少ない。
ダンジョンの世界間移動は一方通行らしい。異世界から地球に来る事はあっても、地球から異世界には行けない。ダンジョンちゃんが出会いを求めて地元に帰る事はできないのだ。ゴミ箱に投げ込まれたゴミの如く追放されてくるダンジョンの中から結婚相手を見つけなければならない。俺の婚活より段違いにハードルが高い。
だから僅かなチャンスも逃せない、今回の二号がダンジョンちゃんの理想の結婚相手だったら? 見捨てたせいで死んでしまったら? 取り返しがつかない。
一回一回のチャンスに貪欲に行った方がいい。自分が死なない程度に。
俺が私見を述べると、ダンジョンちゃんは堅実に前提の確認をしよう、と言った。
『とりあえず本当にダンジョンが来たのか調べてみる。ちょっと待ってて』
「え、そんな事できんの?」
『けっこう生命力使うけどね。探知魔法の一種』
そう言ってダンジョンちゃんは沈黙した。紅いダンジョンコアの表面に光る複雑な紋様が走る。
これ見てるとなんとなく処理作業中のコンピューターの基盤を思い出すんだよな。モンスターを召喚したり財宝を配置したりダンジョンを拡張したりする時も同じエフェクトが入る。
ややあってダンジョンちゃんが可愛らしい喜びの声を上げた。
『あっ、ホントだいるーっ! いるいるっ、南の方、鹿児島だっけ? そのあたりにホントにいる、反応が一つある!』
「おお、いいじゃんやったじゃん」
『しかも男! えーっ、やだ、カッコいいかな、趣味とか……えっ? ……待って消えた?』
「え?」
なんて?
『反応消えっ、あああああああああああこれ死んだぁああああ! 死んだ! このダンジョン死んだ! 今死んだ!』
ダンジョンちゃんが半狂乱で叫び散らしている。
待て待て待て待て待て!
死ぬの早過ぎぃ!
仕方ない。
これだけは奥の手として取っておきたかったがやむを得ない。最終手段だ!
俺がこのあとがきの下の方にある評価ボタンを押し、ついでにお気に入り登録をすると、連鎖反応により莫大なパワーが発生し死んだダンジョンが生き返った。
これで一安心だ。
評価ボタンってすごい。俺は改めてそう思った。
~ハッピーエンド~