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13 誰もかれもが右往左往

 警察を物理的にぶっ飛ばしてしまった以上、自衛隊が間髪入れずにやってきて地獄の耐久迎撃戦が幕を開けるものとばかり思っていたが、ガソリンを使ったのが良い方向に働いた。

 作為的なトラップではなく、地下のガス溜まりに引火したと判断されたのだ。


 昔から地下洞窟や坑道では時折ガスが出て溜まり、ランプの火や電気に引火し大爆発大惨事を起こす事件がある。

 俺はダンジョンちゃんのダンジョンをモンスターが出てトラップがあって財宝があるダンジョンだとしっかり認識しているが、ダンジョンちゃんの事情を知らなければそんな事は分からない。摩訶不思議なダンジョンであると考えるより、未確認の生物が住んでいるだけの天然の地下空洞だと考えた方がまだ納得できる。


 中にはフィクションで描かれるような意味でのダンジョンなのではないか? と主張する者もいたが、一笑に付されただけだった。

 まあ、常識的に考えて荒唐無稽に過ぎる。典型的なゲームと現実の区別がつかなくなった精神異常者の戯言にしか聞こえない。そんなファンタジーが有り得るならアメリカ軍は既にUFOを鹵獲して宇宙人と極秘の国交を成功させているし、中国は人工地震発生装置で日本を攻撃しているし、イースター島のモアイ像の正体は古代の人型兵器で決まりだ。もっとも今回ばかりは東京都心陥没孔=ファンタジーなダンジョン、という認識で正しい。世の中何が起こるか分からないものだ。


 また、自衛隊ではなく鉱山関係者が招聘され対策委員会が規模を大きくした他、石ナイフを使う知能のある人型二足歩行生物であるところのゴブリンを殺害した結果国内外の生物学者や動物愛護団体から対策委員会が機能不全に陥るほどのクレーム暴風雨が叩きつけられているらしい。

 大組織がゆえの動きの重さ、内部対立は正直たすかる。国が一丸になってかかってこられたらダンジョンちゃんと俺はひとたまりもない。


 なお、このあたりの情報は全てネットで聞きかじったり雑誌やニュースを漁ったりダンジョンでの関係者の雑談を拾ったりしたものをまとめたものだ。情報化社会万歳!


 屈強な警官隊18人をズタボロにして撃退した事による生命力(ライフ)収入は大きく、今までの貯蓄と合わせて念願の第二階層を実装できた。更にダンジョンの入口も増やし、東京の近隣六区からアクセスできるようにした。

 警察突入隊が作戦に失敗し逃げ帰ったというニュースは全国紙新聞の一面に載りSNSのトレンド入りするぐらい強く報道され広まり、恐怖と好奇心を同じぐらい強烈に煽った。全国から腕試しのために、好奇心のために、研究するために、真相究明のために、色々な理由で色々な人がやってくるようになり結果的に侵入者の数は右肩上がりに増えている。

 警察は立ち入り禁止だと繰り返し警告しているが、国民全員がお巡りさんの言う事を素直に聞いていたら犯罪など起きるはずもなく。不心得者は当然のように警察の警告を無視し、悲しくも嬉しい事に今日もダンジョンは繁盛している。


 あと中学二年生ぐらいの年頃の男子の侵入者が激増している。全校集会で注意喚起されたり保護者に連絡が回ったりしているが熱心に手の甲に刻印を刻もうとする中二男子は後を絶たないとか。

 なんでだろうなー。おにいさんよくわかんないよ。


 モンスターのバリエーションも増やした。そろそろゴブリンだけでは辛い。市販のクロスボウを撃ってゴブリンを近寄らせなかったり、雑誌を服の中に入れたり丈夫な革の服を着たりして防御を固める侵入者が増えてきた。ガチ格闘家の人も現れ、ゴブリンは最早敵ではなくド素人をふるい落とし冒険者としてやっていけるかを見極める目安として扱われるようになりつつある。


 入口近くに出没するゴブリンを倒して一階層後半領域に進むと、ルーンウルフの領域に入るように設定した。

 ルーンウルフはざっくり言えば白い毛並みの狼だ。召喚費用はゴブリンの10倍の10,000生命力(ライフ)

 動体視力が良く俊敏で、青銅並の切れ味を持つ爪と牙を備え、数匹で連携する。背後を取る知能もあるし、獲物が油断するまで根気強く付け回す事もある。低い位置から襲い掛かってくるルーンウルフを蹴り飛ばそうとして回避カウンター噛みつきを喰らい撤退を余儀なくされた冒険者は数知れない。

 ゴブリンの十倍のコストも納得の有能ぶりである。その分倒されると痛いが、自己判断で一時撤退する知能もあるため倒されにくい。群れで真価を発揮するため運用には数を揃える必要があり、今まではできなかったが今ならできる。


 ルーンウルフに一般人が手軽に揃えられる装備で勝つのは無理がある。ちゃんとした金属製あるいは炭素繊維製の防具、俊敏な狼を捉え仕留める能力などが必要になる。

 今のところルーンウルフの領域を突破する者は出て来ていない。とはいえ自衛隊が来て自動小銃を掃射でもしやがったら一方的に全滅させられる。近代兵器は強い。


 そこで二階層には鉄の棍棒を持たせたロックゴーレムを二体置いた。

 ロックゴーレムの召喚費用は50,000生命力(ライフ)。人間大・人型・石製のモンスターで、動きが鈍い代わりに馬力が高く防御性能が高い。アンチマテリアルライフルあたりを喰らえばそりゃ一発で吹き飛ぶが、小口径の拳銃や自動小銃で削り切るのは苦労するだろう。

 狭めの通路に二体で立ちふさがり突進すれば自衛隊の偵察隊程度なら押し返せるだろうと踏んでいる。鉄の棍棒を振り回せば防具を砕き吹っ飛ばして戦闘不能に追い込める。たぶん。おそらく。

 ロックゴーレムの数を揃えたり、更に強いモンスターを召喚したりするのは収支の関係上まだできない。収入は増えたが、ダンジョンちゃんの拡張、黄金の用意、倒されるモンスターの補充などで支出も増えているのだ。


 そんな感じでまあ警察襲撃後もなんとかかんとかやれている。

 薄氷の上の運営だが、薄いとは言え氷の上に立っていられるなら溺れるよりずっといい。






 さて。

 ダンジョンちゃんはいずれ異世界から追加で追放されてくるであろうイケメン(?)雄ダンジョンを捕まえゴールインするために自分磨きに精を出しているわけだが、俺も俺で自分の婚活に向けてやる事をやっている。


 その一つが冒険者としての地位の確立だ。


 今の俺の、堀内(ほりうち)義道(よしみち)の社会的立場は無職だ。

 無職で婚活はツラい。ツラいなんてもんじゃない。不可能に近い。

 結婚するなら無職の俺でも好きになってくれる人がいい。しかし「無職でもいい」と「無職がいい」の間には天と地ほどにも差がある。


 かといって就活するのは嫌だ。俺がしたいのは婚活であって就活ではない。もう会社で働くのは絶対に嫌だ。

 就活せずにこの現代日本で自立して生きていきたいなら起業しかなく、俺にできる一番の起業はダンジョンを探索する冒険者になる事だった。


 冒険者は未だ職業として全く認知されていない。ダンジョンに潜る人々が自称を始め、ネット上でそういう呼称が使われはじめたばかりだ。

 ダンジョンに潜るのは変わった趣味人、どころか危険を冒してまで妙な事をしている危ない人というのが一般的な認識である。ほとんど犯罪者予備軍扱いだ。

 事実冒険者は警察の進入禁止令を無視している(法的拘束力は怪しいとはいえ)わけだし、それを抜きにしても新しいモノと変わったモノはとりあえず叩かれる宿命にあるからには批判は免れなかっただろう。


 しかしこれから先、ダンジョンを探索する冒険者は知名度と地位を上げていくだろう。

 ダンジョンちゃんの出身世界では異世界追放刑が始まっているという。聞いた感じだと、ダンジョンちゃんの後続の追放ダンジョンたちもこれから次々とやってくる事だろう。

 そういったダンジョンを探索し、踏破していく職業が燻ったまま終わるわけがない。


 ダンジョンはこれから急成長する事が半ば確定している産業だ。個人的にはITの次の時代を担うだけのポテンシャルを秘めていると踏んでいる。ダンジョンちゃんとの婚活戦線周りの事情抜きで考えてもこの波に乗らない手はない。


 そんな訳で俺は時間がある時に積極的にダンジョンをうろつくようにしていた。実地経験は重要だ。

 冒険者なのに刻印が無いと不審に思われるので俺の手にも刻印は刻まれているが、ダンジョンちゃんの計らいで生命力(ライフ)吸収はOFFにしてもらってある。やっぱり婚活戦線なんだよなあ。


 ダンジョンは基本的に岩剥き出しの迷路構造が主体になっている。通路の幅は2~4メートル程度。白っぽい壁と地面に凸凹が少なく割と滑らかなのはダンジョン族の美意識によるものだ。

 通路は凸凹していて亀裂や障害物が多い方がモンスターや罠を隠す場所が多いため戦術的には良いのだが、そういったモノを活用するのは主に雄ダンジョンなのだとか。

 雌ダンジョンは滑らかで綺麗な壁と地面をしている方がモテる。人間の美意識に直すとどうやら美肌の方がモテる、というような感覚らしい。


 モンスターに襲われる事も無い俺にしてみればダンジョンを歩いていて一番危険なのはむしろ人間の方だ。

 まだ殺傷事件にこそ発展していないが、落ちている黄金の所有権を巡り口論や恐喝は散発的に起きている。ルーンウルフの領域である一階層後半領域は冒険者の数が少なく、鉢合わせを起こす確率も比例して下がる。


「あ、ギドーだ」


 下がるとはいえ出会う時は出会う。俺は曲がり角で出雲とばったり出くわした。

 俺を見つけた出雲はハッとして周囲を見回した。

「どうした?」

「いや、何か気配がした気がして……気のせいだったわ」

 安心して肩の力を抜いた出雲のすぐ横に虚空からにじみ出るように評価ボタンが現れた。

 びっくりして腰を抜かした出雲に厳しく語りかける。

「まだまだ精進が足りんな。冒険者としてもオオカミとしても半人前だ」

「そ、そんなあ。どうすれば評価ボタンさんのようになれますか?」

「簡単な事。あとがきの下の方にある評価ボタンを押してついでににお気に入り登録もポチる。これだけでいい。スマホだと評価ボタンが折り畳まれてる事には気を付けろ」

「なるほど!!!!!!」

 評価ボタンを押した出雲は空気と同化するレベルの隠形を身に着け、そこから地球全域に広がった波動が人類に愛と慈悲を思い出させた。


~ハッピーエンド~

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[一言] ドジっ子暗殺者出雲ちゃん
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