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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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64 サザランド訪問11

「ご、ご丁寧にありがとうございます。王国第一騎士団に所属していますフィーア・ルードです」

私はラデク族長に自己紹介をすると、ぺこりと頭を下げた。


族長とカーティス団長は既知の仲らしく、互いに小さく頷き合っている。


族長は皺の寄った顔を柔和にほころばせると、近くのラグを指し示した。

「お座りになりませんか? 私も座った方が楽なので、よろしければ」


3人でラグに座ると、住民たちは興味深げに周りに集まってきた。

ラデク族長は感心したような表情で私の髪を見ると、口を開いた。

「見事な赤い髪ですね。言い伝えでしか知りませんが、伝説の大聖女様もこのように鮮やかな赤い髪をしていたといいます。とても美しい赤だ」

「ありがとうございます。でも、前公爵夫人も赤い髪だったと聞きますし、王都では珍しくもない色ですよ」

至極当然のことを返すと、族長は穏やかに続けた。


「そうですね、前公爵夫人の髪は私も拝見したことがありますが、オレンジがかった赤で、このように鮮やかではありませんでしたよ。お役目で何度か王都に足を運んだことがありますが、皆さん赤い髪と言っても黄色がかっていたり、一部は茶色だったりと、全てがあなたのように深紅の髪というのは見たことがありません」

「そうですか?」

そう言われたら、そんな気もする。

改めて考えると、これまで他の赤い髪にじっくり着目したことがなかったので、自分の赤い髪が珍しいと言われると、違うともはっきり言えない。


族長は楽しそうに笑うと、手に持っていたアデラの枝を差し出した。

「ははは、上位の聖女様ほど、伝説の大聖女様と同じ赤い髪であることにこだわられますが、あなたのように真に赤い髪の方だと、全く頓着されないのですね。……どうぞ。大聖女様が植えられたアデラの木は守れませんでしたが、あの木が倒された際に分けてもらった枝で挿し木をしたところ、大きく育ちましてね。その木の枝になります」

「まぁ、ありがとうございます」

枝についていた赤い花を見て、にこりと笑う。


族長はそんな私を見て、顔をほころばせた。

「フィーアさんはこの地のことをよくご存じだと皆が言っていましたが、お知り合いでもいるんですか? 始まりの踊りを見て、なぜイルカの踊りだと思われたのでしょう?」

「知り合い、というか……その、以前サザランドの領主だった『青騎士』に興味がありまして、いつかこの地の海や街を見てみたいと思っていました。イルカは……ええと、まぁ、大きく括ればイルカとクラゲは同じですからね。ちょっと勘違いをしてしまったようです」


私が言葉を発した瞬間、周りで聞き耳を立てていた住民たちがひゅっと息をのんだ。

誰もかれもが信じられないといった表情で私を凝視してくるので、居たたまれなくなって身じろぎをする。

困ってしまって族長を見つめると、族長は真剣な顔で私を見返してきた。


「フィーアさん、よろしければ、私たち離島の民が長年受け継ぎ信じている、『蘇り信仰』の話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え? あ、はい、もちろんです」

とても断れる雰囲気ではないので、謹んでお受けする。


「私たち離島の民は、思いが深いと魂は蘇ると信じています。深い深い思いは、長い時を経て、再び私たちを出会わせてくれるのです。……あなたが気にされていた、サザランド領主だった『青騎士』は大聖女様の護衛騎士でした。あなたが先ほど言われた、イルカとクラゲのお話も大聖女様のお言葉として同じものが残っております。……あなたはきっと、大聖女様の魂を持った生まれ変わりなのです」


「………………」

私は思わず絶句した。


突然の正鵠を射た話に、二の句を継ぐことができない。

「………え、………あ…………」


意味を成す言葉を発することができない私を見て、族長は心配そうに顔を覗き込んできた。


「大丈夫ですか? 突然の話で驚かれたことかと思いますが、そうして到底信じられない話だと思いますが、私たち一族は魂の蘇りを信じています。大きな思いと役目を持った魂は、必ず還ってくると。そうして、これは私たちの願いでもあります。私たちは大聖女様に大きな恩義があり、いつか必ず大聖女様のお役に立とうと一族で誓いました。けれど、結局、何一つお返しすることができなかった」


族長は悲し気に、私の手の中の赤い花を見つめた。

「大聖女様はこの地に戻られると約束をしてくださった。だから、私たちはいつか必ず、還ってきてくださると信じ続けていました。あなたはきっと、自分は大聖女様の生まれ変わりではなく、私たち一族におかしな言いがかりをつけられたと気味悪く思っているでしょうが、一族の代表としてお願いします。どうか、どうか、私たちの行為を受け入れてはもらえないでしょうか」


「あの……」

口を開くけれど、何を言っていいのかが分からず、次が続かない。


「偶然にしては、あなたの行動は大聖女様を彷彿とさせすぎるのです。大聖女様の護衛騎士だった『青騎士』を気にするのは、大聖女様だったからではないだろうかと、私たちは希望を持って見てしまう。私たちの勘違いだとしても、長年持って行き場のなかった私たちの思いを、受け入れてもらえないでしょうか」


「えーと……」

私はどきどきと大きく高鳴りだした心臓の音をうるさく感じながら、頭を働かせる。

ええと、これは、私の前世が大聖女だとばれたわけではないようね。

ただ、離島の民には魂の蘇りという思想があって、私が大聖女の魂の蘇りではないかと疑っているということね。


……当たりです! 根拠も何もなく、正解を言い当てられてしまいましたよ!

私は「ふひぃー」と心の中でつぶやくと、どうしたものかと考えを巡らせ始めた。


そんな中、カーティス団長は言いにくそうに族長を見つめると、口を開いた。

「フィーアが赤い髪なので、大聖女様との類似点が少しでも見つかると、生まれ変わりと信じたい気持ちは分かるが……。フィーアは聖女様でもない訳だし」

「フィーアさんが騎士である時点で、そのことは了解しております。魂の蘇りですから、体は別物で力は受け継がないのかもしれない。……実際に、魂の蘇りを信じてはいますが、蘇った方を見たのは初めてなので、私たちもよく分かっていないところがありまして」

「……なるほど」


魂の蘇りを見たのは私が初めてだという族長の言葉を聞いた瞬間、カーティス団長が「族長たちの勘違いだな」と確信したのが分かった。

けれど、一族の気持ちを傷つけないように、理解した振りをし始める。


「確かにフィーアは、赤い髪に金の瞳だしな。うん、『青騎士』に興味があるというのも、魂のどこかで以前の生を意識しているのかもしれない」

「ちょ、カ、カーティス団長!」

あまりの悪乗りぶりに苦情を述べようとすると、小さな声で囁かれる。

「フィーア、これはチャンスだ。君を大聖女様の生まれ変わりだと信じるならば、騎士としての君を……ひいては、騎士たちを受け入れてくれるかもしれない。サザランド公家と住民たちが仲直りできるかもしれないぞ」

「うぐ……」


私はカーティス団長を睨みつけたけれど、懇願するような表情で軽く頭を下げられる。

くぅぅぅぅ。足元を見るわね。

確かに私だって、シリル団長のお役に立ちたいとは思っていますけど……


私は族長に向き直ると、ぽんと手を打った。

「ああ、そうですね。何だか私は大聖女様だったような気がしてきました! うんうん、カノープスは私の護衛騎士だった気がしてきました」

「カノープス様のお名前までご存じだぞ! ほ、本物だ!! 本物の大聖女様だぞ」

一気に騒めき立つ住民たちを見て、私は青ざめる。


……あ、しまった。

加減を間違えた。そうだった、カノープスの名前は出すべきではなかったわ。

けれど、カーティス団長はよくやったとばかりに満面の笑みで見つめてくる。


大喜びし、「大聖女様」と連呼し出した住民たちを見て、私は顔がひきつってくるのが分かった。


………ど、どうしよう。

これはシリル団長に怒られるパターンかしら? 褒められるってことは、あるのかしら?


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― 新着の感想 ―
[良い点] フラグを立てるのがうまいなあ……
[良い点] この話は読んだ当初からですが、何故か涙腺を刺激されます。ふと、思い返して読んだ今でも同じ気持ちになります。 自分はサザランド訪問編?が一番好きです。 離島の民の一途な思い、願い、恩に報いね…
[良い点] >>大きく括ればイルカとクラゲは同じですからね。 つまり……イルカはクラゲであると言っても過言ではない!?
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