【SIDE】次男レオン
オレは、レオン・ルード。
ルード騎士家の次男で、茶色の髪と剣の腕を父親から受け継いだ。
騎士家というのは、騎士になって初めて人間と見做される。
だから、我が家で人間ってのは、騎士である父と兄と姉のことで、妹のフィーアは人間未満だ。
しかも、あいつの剣の腕はひどい。騎士には、一生なれんだろう。
つまり、あいつが人間になることはないってことだ。
だから、どこかで野垂れ死のうがどうでもいい。むしろ、死んでくれたほうが、無駄な食い扶持が減って、万々歳じゃないか。
なのに、朝っぱらから、『成人の儀』を受けに行ったあいつが、予定の時間を過ぎても戻ってこないと姉が大騒ぎしてやがる。
騎士になる前段階である『成人の儀』すらクリアできないなんて、騎士には絶対なれないってことだ。だから、放っておけばいいのに。死体にしても、死にぞこなって生きているにしても、森の獣か魔物が処理してくれるだろう。
だのに、姉は、捜索隊を編成して森に向かうと言い出した。
いつの間にか、オレまで一員に組み込まれてやがる。
騎士団の中じゃあ、先に入団した姉が先輩にあたるので、簡単に嫌だとも言えない。
くっそ、『成人の儀』の際は、家族全員が集まるってしきたりも、今回限りは無視しとけばよかった。
オレは鎧を身に着け、剣を腰に差すと、玄関前にいた捜索隊に合流した。
既に集まっていたメンバーの中に、よく見知った顔を見つけて驚く。
何と敬愛する兄上まで、集まっていらっしゃる!
オレは、兄上まで引っ張り出した姉の手腕に感心しながらも、嬉しくなって兄上に話しかけようとした。
その時だ。その場が騒がしくなったのは。
「あれは何だ!」
「魔物だ! 大型の魔物がすごい速さでこちらにくるぞ!」
振り向くと、遠目からでも大型と分かる魔物がこちらをめがけて飛んでくる。
背中を悪寒が走り抜ける。
うっは、やべぇな。
黒い竜に見える。
……マジで伝説の魔物、黒竜王か?
だとしたら、全滅だ。
団長クラスに率いられた精鋭の騎士300名が相手にして、勝てるかどうかだ。ここにいる20名程度の騎士と従騎士じゃ話にならねぇ。
オレは、剣を抜くと兄上に向かって叫んだ。
「ここは、オレらが防ぎます! 兄上は、魔物の出現について騎士団にご報告を!」
しかし、兄上は、微動だにせず、突っ立ったまま黒竜を見ている。
何だ?兄上ともあろう方が恐怖で動けないのか?
そう思うオレに、兄上はとんでもないことをおっしゃった。
「あの黒竜の背中にいる人間は、妹のフィーアか?」
「……は??」
兄上ともあろう方が、恐怖で幻覚を見られているのか。
不思議に思いながらも黒竜に目をやったオレは、驚愕で目を見開いた。
といっても、元々目が細いため、傍目にはあまり分からないだろうが。
……確かに、黒竜の背中にあいつの、…フィーアの姿が見える。
……とうとうオレも、恐怖で幻覚が見えるようになったようだ。