47 黒竜探索後始末
遅くなってすみません。待っていただいた方、ありがとうございます。
書籍化用の中編を書くのに、時間を取られました(終わりました)。
6/15(土)アース・スターノベル様から書籍化されることになりました。
読んでくださる方、ブックマーク、感想、評価、誤字脱字報告、レビュー、ファンアートなどなど、本当にありがとうございます!!
ザビリアが、見えなくなってしまった……
本当に行ってしまったんだなー、と思いながら、ザビリアが消えてしまった北の空をぼんやりと眺める。
けれど、それは私だけではないようで、周りの騎士たちも半分夢を見ているような感じでぼんやりとしていた。
あら、今日は、ぼんやり祭りかしら?と、あまり働いていない頭で考えていると、一番に我に返ったザカリー第六騎士団長が声を上げた。
「お前ら、しっかりしろ!」
……さすが騎士団長ね。立ち直るのも早いし、もうぼんやりしている部下たちを気遣って、声を掛けだしているわ。
感心して見つめていると、ザカリー団長は皆を見渡しながら、よく通る声で続けた。
「黒竜王という恐怖を目の当たりにして錯乱しているようだな! いいか?! お前らが見たと思い、聞いたと思ったことの多くは、恐怖による幻覚で幻聴だ!!」
……はい?ザカリー団長は、何を言い出したのかしら?
感心した次の瞬間に意味不明なことを言い出したザカリー団長を、私は不審げに見つめた。
あれ?もしかして、ザカリー団長こそが錯乱していて、おかしなことを言い出しているのかしら?
けれど、私の視線の先にいるザカリー団長は真顔で、私の方こそ大丈夫かというような顔で見つめ返してくる。
「特にフィーア、お前だ! 自分では大丈夫だと思っているのかもしれねぇが、お前は完全に錯乱している!!」
「えっ?! わ、私ですか?」
突然名指しされ、驚いて思わず問い返す。
……え?私が錯乱しているんですか?自分じゃ何ともないと思っていたのだけど、これは錯乱状態なんですか?!
そ、そんな訳はないですよねー、と周りの騎士たちに同意を求める笑顔を送るけれど、視線が合った騎士たちは皆、真顔で首を縦に振ってきた。
「そ、そうだ、フィーア! お前は混乱している……と、オレが思いたい」
「あ、ああ! フィーア、お前が普通だ……とは、思いたくない」
騎士たちの言葉のうち、最後の方は小声になったのでよく聞こえなかったけれど、結局ザカリー団長の言葉を肯定していたわよね。
「ふぇ? つまり、本当に私は異常状態ってことですか?!」
騎士たちの言葉に心底驚いて、素っ頓狂な声になる。
え?本当に私っておかしいの?……ど、どうすれば元の状態に戻れるのかしら?!
困ってザカリー団長を見つめるけれど、既に団長は騎士たちに向かって話をしていた。
「全員! 後からオレが、現実と幻覚の区別をつけてやるから、それまでは見て聞いたと思ったことについては一切口外するな、分かったか?!」
「「「分かりました!!」」」
私以外の騎士たちが全員声を揃えて返事をする。
……あ、あれ?私だけ出遅れるなんて、本当に私って異常状態なのかしら?!
……ど、どうしよう?
青くなる私とは対照的に、ザカリー団長は騎士たちを満足げに見つめると、表情を引き締めて指示を出し始めた。
「よし! 右から3名は森の中に逃げ込んだ聖女様を探してこい! 残りのうち半数はオレと共にザカリー隊に合流し、半数はクェンティンと共にギディオン隊に合流しろ! 2隊とも魔物と交戦中の可能性が高いから、気を付けろ!!」
ザカリー団長は私に「ついてこい!」と短く指示を出すと、先ほど残してきた部下たちがいる東へ進路を取った。
異常状態だという自分の状態が気にはなったものの、数分間ザカリー団長の後ろを走っていくと、先ほど別れた場所でザカリー隊の騎士たちに合流した。
遠目に見ても辺りに魔物は見当たらず、騎士たちはばらばらと立ち尽くしたまま、茫然とした様子で空を見つめていた。
……あ、あれ?これと同じ光景をさっきも見たような?
やっぱり今日は、ぼんやり祭りなのかしら?
なんて考えていると、ザカリー団長に気付いた隊長代理が足早に近付いてきた。
「ザ、ザカリー団長! 救助にお戻りいただき、感謝いたします!」
「ああ、そのつもりだったが、……片がついた後だったようだな」
言いながらザカリー団長は、周りに目を走らせる。
「全員無事か?」
「はっ、怪我人は出ましたが、全員無事です!」
それを聞くと、ザカリー団長は安心したかのように小さく息を吐いた。
「魔物は? 死体が足りないようだが……」
見ると、フラワーホーンディアの死体が一頭あるだけで、他に魔物の姿は見当たらない。
「先ほど、西の空に黒竜王が現れました! ……あまりの迫力に思わず目を奪われ、オレらも魔物たちも戦いの手を止めて、空中での戦闘を眺めていたのですが、……はは、青竜が倒された瞬間、魔物たちは一目散に森の奥に逃げていきましたよ」
「ああ……、上空の戦闘だったから、ここからも見えたのか? あれを見たのなら、逃げ出しても仕方がねえな」
つぶやくザカリー団長を、隊長代理ははっとしたように見つめた。
「ザ、ザカリー団長こそ、よくぞ無事で! 上空に青竜が舞い上がるのを目にした時は、あんな凶悪な魔物を2頭も相手にしなければならないとはと、心配が先に立ちました!!」
「ああ……」
「そうしたら、今度は黒竜王が上空に現れて、……あ、ああ、そうだ! ザカリー団長は、黒竜王と対峙したんですよね?! 間近で! ……ほ、本当によく無事で!!」
隊長代理は嬉しそうにザカリー団長の両手を取るとぶんぶんと上下に振った。
そうして、そのままザカリー団長の手を握りしめると、隊長代理はカタカタと震え出した。
「あ、あれは、『黒い恐怖』そのものですね。圧倒的で、完全なる魔物の強さだ。青竜を倒していく黒竜王を見た時は、正直、オレらが全滅する未来しか見えず……。皆で、ただ茫然と黒竜王を見つめて立ち尽くすことしかできなかった。それなのに、黒竜王はオレらには見向きもせず、北方へ飛び去って行った。何というか、黒竜王の気まぐれに生かされた形になりました……」
「……ああ、そうだな」
ザカリー団長は隊長代理の言葉に同意した後、気を取り直したように言を継いだ。
「いいか、よく聞け! 黒竜があれだけ派手に暴れたから、しばらく魔物は近付いてはこないだろうが、今日の魔物の動きは予測がつかねぇ。何が起こるか分からねぇから、出来るだけ早く森から脱出しろ。それから、今回の戦闘には黒竜を含め機密事項が混じっている。オレが指示するまでは、全員に箝口令を敷いとけ。いいな!」
「承知いたしました!」
頷いた部下の姿に背を向けると、ザカリー団長はさらに東へ向かって移動し始めた。
「あれだけ派手に黒竜が動いたんだ、ギディオン隊と対峙していた魔物も逃げ出している可能性が高いな」
そうして実際に、ギディオン隊に合流する前に、引き返してきたクェンティン団長たちに遭遇する。
「ザカリー! ギディオン隊は全員無事だ。黒竜王様の気高きお姿を前に、魔物が自ら逃げ出したようだ。遠くから御姿を現すだけで、魔物たちを蹴散らすとは、さすが黒竜王様!!」
「……………………………………………そうか」
ザカリー団長は一瞬げんなりとした表情を見せたが、否定することもなく受け入れる。
さ、さすがですね、ザカリー団長!懐の深さでは、ナンバーワンですよ!
「よし、オレらも森を抜けるぞ!」
ザカリー団長は力強い声を上げた後、大きな肩を丸めると、心底残念そうにため息をついた。
「はぁ、1週間野営をするつもりで荷物を持ってきたのに、1時間も滞在しないとは……。ピクニック以下だな」
それから、10分程度で森の入り口に到着した。
「よし、隊毎に分かれて昼食を取れ! 昼食後、隊毎に話がある!」
ザカリー団長が大声で指示を出すと、騎士たちは一斉に動き出した。
私も手伝おうと、元々参加していたザカリー隊の騎士たちに向かって歩き出すと、ザカリー団長に襟首をつかまれる。
驚いて振り返る私に、ザカリー団長は歪んだ笑みをみせた。
「お前はこっちだ。クェンティンとオレと3人で昼食だ」
「へ?」
……あ、あれ?ザカリー団長から黒いものが出ていますよ。
「ちょ、公明正大なザカリー団長らしからぬ禍々しい何かが出ていますよ。や、騎士団長二人と昼食だなんて、私には荷が重すぎます。ちょ、は、離してください。見逃してください。私は一人でゆっくり考えたいことがあるのです」
行ってしまったザビリアのこととか、ザビリアはいつ帰ってくるのかとか、そういったことをゆっくり考えたいんですよ。
けれど、私の言葉を聞いたザカリー団長は、作り物と分かる真顔で頷いた。
「そうか、オレはこれでも騎士団長だ。お前より長く生きているし、経験もある。さぁ、お前の悩みとやらをオレに相談してみろ」
言いながら、ずるずると私を引きずっていく。
「ちょ、強引ですよ。ザカリー団長……」
引きずられる途中、何人かの騎士たちと目が合ったので、助けてほしいとの期待を込めて見つめてみるけれど、みんな苦笑しながらひらひらと手を振り返してくるだけだ。
「くっ……、この縦社会の住人たちめ」
私はずるずると引きずられるまま離れた場所に連れていかれると、クェンティン団長とともに地面に座らされる。
「よし、フィーア、クェンティン、お前ら二人とも間違いなくオレに話があるはずだ! じっくり、たっぷり、どれだけでも聞いてやるから話せ!!」
ザカリー団長はどかりと地面に座り込むと腕を組み、私とクェンティン団長を交互に見比べた。
ちらりと見ると、岩のように硬い、何事かを決心した表情をしている。
……ああ、この雰囲気は知っていますよ!尋問が始まる予感しかしません。
そうして、尋問係はザカリー団長ですか。
対する、私の唯一の味方はクェンティン団長……
ええ、数の上では2対1と、圧倒的に有利ですね。
でも、なぜでしょうか。
完全敗北の未来しか見えません……
書籍化用のキャラクターラフを活動報告に載せています。
よかったらご覧ください。









