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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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44 黒竜探索4

ザカリー団長は、にこりと微笑んでいる私を恐ろしそうな表情で凝視すると、叫んできた。


「フィ、フィーア! 突然、お前が地獄の使者のように見えてきたぞ!!」

「まぁ、言いがかりは止めてください。私はただの従順な新人騎士ですよ。ザカリー団長のお言いつけ通り、おとなしくしているじゃあないですか」

「嘘つけ! ただの従順な騎士は、笑顔で騎士団長を脅したりしねぇだろ!!」

ザカリー団長に、そう叫び返される。


「脅し? 人聞きの悪いことを言わないでください。笑顔でザカリー団長を力づけようとしただけじゃあないですか」

「フィーア、オレは騎士養成学校時代を思い出したぞ!! 禿マッチョの教官がいたが、まるでお前のようだった。知識も技術もオレらの遥か上にいて、空恐ろしい笑顔で発破をかけるんだが、ありゃー完全に脅迫だった。地獄の魔王のような笑顔で実行不可能な課題を次々に出すんだ! 毎回、「死ぬわ!」と思うような、ギリギリ首の皮一枚で生き残る戦闘の繰り返しだった! この背筋が凍り付く感覚は、正にそれだ!!」


「……はげマッチョ? はげマッチョに私が似ているんですか? は、はは、は、思う存分戦ってくださいな!!」

私は左手を空に向かって掲げると、隠蔽魔法のレベルを引き下げた。

ちょうど真下からだけ、従魔たちを囲む檻が見えるように。


……ええ、私は冷静ですよ。相手は騎士団長ですもの、新人騎士相手に好きなことを述べる権利は十二分にありますとも。

そして、私にも同様に、魔法を自由に制御する権利があるということです!


夢見鳥は何度も従魔たちに攻撃を仕掛けようとしていたけれど、見えない檻に遮られているのが分かったようで、悔し気に檻の周りを飛び続けていた。その檻が、真下に位置した瞬間、突然可視化する。


一目見たら、とても破れる代物ではないと分かったのだろう。

忌々し気にひと鳴きすると、夢見鳥は従魔たちの元を離脱した。

そうして、騎士たちに向かって羽ばたいていく。


幻覚から解放された弓矢使いと魔道士たちは、落ち着きを取り戻したようで、再び夢見鳥に攻撃をし始めた。先ほどの経験から学習したようで、距離を縮めることで威力を大きくしているし、試した魔法の中で効果が大きかった火魔法に特化している。


そう、この魔物は幻覚を見せるから厄介だけど、それ以外は大したことはない。

ふわりふわりとした飛び方が独特で軌道を読みにくいけど、当たれば威力は大きいのだ。

たった1回の戦闘で、攻略方法を編み出すなんて優秀だわ。


……だけど、私のことを禿マッチョに似ているといった、どこかの団長はいただけないわね。

いえ、私怨が入っているわけでなくて、純粋な感想として。……いや、嘘です。完全に私怨です。私怨ですが、もったいないので言わせてください。


指揮官として、全体を見渡しているのは必要なことですよ。ですが、ザカリー団長の攻撃力は突出しすぎています。この攻撃力をフル活用しないなんて、すごく勿体ない話です。


視界の端で、夢見鳥がふわりと独特の軌道を描きながら降下していくのが見える。


そう、夢見鳥は幻覚空間を形成するため、円を描く際に高低差をつけて飛ぶ必要がある。

高低差の付け方には規則性があるから、一番低い位置で飛ぶ場所に予測をつけることは不可能ではない。

だから、ザカリー団長が軌道を読んで、予測軌道上にさり気なく待ち構えていて、タイミングを合わせて踏み込めば、あの攻撃力ならば一撃で倒せるはずなんだけど。

……けど、初見であの軌道を読むのは、無理かしらね。

いけないいけない、ザカリー団長は能力が高いから、ついレベルの高いものを求めてしまうわ!


けど、できるだけ素早く倒した方がよいのは本当なのよね。

幻覚を見せていない状態の夢見鳥は大して強くはないけれど、夢見鳥もそれを分かっているから、大抵は他の魔物と一緒に現れる。今、単体で現れたのは、珍しくもありがたい状況なのだ。

そして、一頭の魔物討伐にチーム全員であたることができるなんて、恵まれた状況だ。

魔物が減ったらしい今世では、これが当たり前の感覚なのかもしれないけれど。

でも……


「新たな魔物が3体、出現しました! 7時方向から移動してきます!!」

索敵担当が叫ぶ。


そう、森の魔物たちの行動範囲が狂っている今なら、連続で魔物に遭遇することも十分あり得る話よね。

私は聖女たちと魔物の間に立ちふさがる位置に直立しながら、7時方向に視線を転じた。


生い茂る背の高い草を掻き分けて現れたのは、2頭の猪型の魔物と1頭の鹿型の魔物だった。

「バ、バイオレットボアー2頭と、フラワーホーンディアです!!」

7時方向に一番近い場所に位置していた騎士が叫ぶ。


バイオレットボアーはまだしも、フラワーホーンディアは30名の騎士が必要と言われるBランクだ。

既に私たちの隊はBランクの魔物に対峙している最中なのに。なかなか鍛えられるわね!


「Bランクの魔物が2体だなんて……。詰んだな」

ぼそりとつぶやく騎士の声が聞こえてくる。


いやいや、詰んではいませんよ。ちょっと、大げさです!

これくらいの魔物だったら、ザカリー団長が何とかしますよ。

それに、いざとなったら、近くに味方がいるでしょう?


……と思っている私の耳に、東方向から救助笛の音が聞こえた。

東方向といえばギディオン副団長の小隊ではないですか。あれ、呼ばれている?


……と首をかしげていると、同じ音が西方向からも聞こえてくる。

西といえば、クェンティン団長ですよね?まさかとは思うけど、助けを求めている?


「くっ、厄日か! 魔物が集まりすぎるにも、程があるぞ! くそ、あいつらが応援を呼ぶなんて、マジで困っているはずだ!!」

ザカリー団長は、焦ったような大声を上げた。


……けれど、私は思わず首をかしげてしまう。

一体何の魔物が出たから、救援を要請しているのかしら?

クェンティン団長の攻撃力があれば、Bランク以下の魔物なら対応可能なはずだ。ギディオン副団長だって、時間をかければ討伐できるに違いない。

っていうか、クェンティン団長にはAランクのグリフォンがいるのに、どういうことかしら?


そこまで考えて、はたと思い当たる。

あれ、もしかして、クェンティン団長はAランク以上の魔物に襲われているのかしら?


嫌な予想をザビリアが肯定する。

「まずいね、フィーア。西側には竜が出たよ。しかも、2頭だ」

わ―――あ!まさかの竜が2頭!!

「ねぇ、ザビリア。竜ってSランクだったよね? 100名の騎士で討伐が基準の。ちょっと、まずくないかしら」

「ん――。大概の竜ならば、僕が何とかできるけど?」

「まぁ、頼もしい! ところで、ギディオン副団長のところはどんな魔物が出ているのかしら?」

「鹿が一頭と、猪が一頭だね」

「フラワーホーンディアとバイオレットボアーってこと? だったら、大丈夫ね。……放置しても!」


私はザカリー団長に向かって叫んだ。

「ザカリー団長! ギディオン副団長がフラワーホーンディアとバイオレットボアーと遭遇しました!」

「は? お、おい、なぜ分かる?!」

質問で返されたが無視をして、自分が言いたいことだけを伝える。

「だけど、こちらも余裕がないので自分たちで対処してもらいましょう。そう救助笛でお知らせください」

「お、おう!」

ザカリー団長が、今いち理解しきれてない表情ながらも、肯定する。


「それから、クェンティン団長が竜2頭と遭遇しました! こちらは助けが必要ですので、すぐに合流することをお勧めします!」

「り、竜だと?! しかも、2頭?! おい、それ、まずいだろ!!」

「ご指摘の通りです。今すぐ合流するためにも、その猪と鹿と鳥を速やかに討伐していただけると助かります」

「くっ、またお前は簡単に、実行困難な課題を! この禿マッチョ2号が……!!」


なんと?

……どうやら、ザカリー団長は襲い来る魔物に混乱しているようで、控えめに進言する新人騎士を、無理難題を押し付けた学生時代の鬼軍曹と取り違えているようだ。


ザカリー団長めぇ!とむっとしながらも、口では呪文を紡ぐ。

「《身体強化》重量2倍!」


通常なら自分か味方にかけるべき重量増加の強化魔法を夢見鳥に掛ける。

突然体が重くなった夢見鳥は驚いたように一鳴きした後、羽ばたきの速度を上げ出した。

けれど、どうにもできない。ばさりばさりと必死に羽ばたくけれど、高度を保てなくてどんどんと降下していく。


―――ああ、手を出してしまったわ。

自ら学び取る機会を奪ってしまうのは本当に申し訳ないなと思いながらも、クェンティン隊が心配なため本格的に手を出してしまう。


反省の気持ちを込めて、手柄となるとどめを刺す役は、自分ではなくザカリー団長にお願いする。

「ザカリー団長、時間がないので一刀でお願いします!」

「おま、ホントに容赦ねぇな……!!」

ザカリー団長は文句を言いながらも、全力で夢見鳥に走り寄って抜刀すると、一太刀で切り伏せた。


夢見鳥を一刀で切り捨てたザカリー団長の鮮やかさに、一瞬見とれる。

というか、ザカリー団長の剣は、両手で使うタイプの大剣ですね。珍しいけど、似合っています。


それから、ザカリー団長が元々立っていた場所を見た私は、流石だわと小さくつぶやいた。

その場所は、夢見鳥が一番低い位置に降りてくる軌道の近くだったからだ。

あの短い時間で夢見鳥の軌道を読むなんて、やっぱりザカリー団長はすごいですね!

「お見事です、ザカリー団長!」


私は、西方向を指さしながら、ザカリー団長に叫んだ。

「クェンティン団長の応援に行きましょう! ここは、皆を信じて任せましょう!!」

「は?! フィ、フィーア、お前は正気か?! まだ、Bランクのフラワーホーンディアが残っているんだぞ! とても、こいつらだけにまかしておけるレベルじゃねぇ!!」

どこまでも部下思いのザカリー団長は、魔物を残したままこの場を離れることに抵抗があるようだった。

くうっ、気持ちは分かりますが、危険度は竜が何倍も上です。ここは一旦離脱して、竜を優先させるべきだと思うのですが。ですが、指揮官はザカリー団長ですね。


私は悔しさでぐっと唇を噛みしめたけれど、背に腹は代えられない。

負けた気持ちになりながらも、フラワーホーンディアとバイオレットボアーに対峙している第六騎士団と魔物騎士団の騎士たちに叫ぶ。

「第六の皆さんは、フラワーホーンディアの倒し方は、この間学習しましたよね? あの美味しいお肉を一緒に食べましたよね?! 今度は、私にあのお肉を食べさせてくれる番ですよ!!」

「フィ、フィーア、お前、それ完全なる脅迫だぞ……」

騎士の一人が叫び返してきたが、聞こえないふりをする。


「だけど、私も諦めることを知っています。もう、どうしてもこのお肉は脂ののりがイマイチだから次回に回すと思った時は、角を切り落としてください。どちらか1本でも落とせば、フラワーホーンディアは逃げていきます。角を折るのは、真横から打ち込めばスグです!」

「フィ、フィーア、お前、この前わざとその情報を出さなかったな……」

「ちょ、お前、救世主というよりも、地獄の使者に見えてきたぞ……」

騎士たちが恐ろし気につぶやいてきたけれど、私はしょんぼりとうなだれるしかない。


一度人間と対峙して逃げおおせた魔物は、より狡猾で用心深くなる。

だから、よっぽどのことがない限り、見逃すのは危険だ。次の討伐者に、重い負の遺産を残すことになるのだから。

だから、魔物を逃がす情報なんて教えたくはなかったんだけど、背に腹は代えられない。


私の見立てでは、ザカリー団長が今すぐ離脱して、クェンティン団長の様子を見た後に戻ってきても、騎士たちは誰一人死なずに持ちこたえていると思う。

思うけれど、部下思いのザカリー団長は、更にリスクを減らさないと動けないようだ。

もちろん、新たな魔物と更に遭遇する可能性もゼロではないし、ザカリー団長のお言いつけ通りに動きますよ。従順な新人騎士ですから!


私は気持ちを切り替えると、ザカリー団長を振り仰いだ。

「さぁ、これで心残りはなくなりましたね! クェンティン団長の元にいきますよ!」

「お、お、おう!」


それから、私はもう一度騎士たちを振り返った。

「魔物騎士団の皆さん、クェンティン隊に竜が出ました! 救助に向かいますので、従魔を貸してください!」

「り、竜?! 嘘だろう……。だ、団長は大丈夫なのか?! も、もちろん団長のためなら、いくらでも貸すぞ!」

「貸す気はあるが、従魔はお前の言うことなど聞かんぞ! さっきからオレら契約主の言うことすら聞かず、勝手に上空を飛び回っているような従魔たちだからな!!」

いえ、あれは私の指示に従っているだけです。とても賢い従魔たちですよ。

―――とは思ったが、沈黙の価値を知っている私はもちろん口に出さない。


「許可いただき、ありがとうございます!」

お礼の言葉と同時に、従魔たちを守っていた魔法の檻を消す。

すると、上空から3頭の魔物が、その動きに合わせて地上から2頭の魔物が私目掛けて近付いてきた。


「え? な、一体……」

「と、突然、フィーアに向かって行ったぞ……。お、おい……」

騎士たちが驚いたような声を上げているが、応える時間が惜しいので答えず走り出す。

同時に、ザビリアが心得たように空に舞い上がった。


何もいわなくても分かっているようで、ザビリアはクェンティン団長がいる方向を目指して一直線に羽ばたいていく。

うん、場所を正確に把握できているのはザビリアだけだから、先導してちょうだい。


そうして、ザビリアを先頭に、ザカリー団長と従魔たちとともにクェンティン団長の元に向かう私に向けて、騎士たちが叫ぶ声が聞こえる。


「じ、地獄の使者というか、フィ、フィーアは伝説の魔物使いじゃないのか?!」

「おい、どうして契約主であるオレたちに対するよりも従順なんだ?! あいつら勝手にフィーアについて行ったぞ!!」


……伝説の魔物使いって言われたけど、何を意味するのかさっぱり分からないわね。

でも、禿マッチョよりは、100倍いいわ!!



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― 新着の感想 ―
[一言] > 毎回、「死ぬわ!」と思うような、ギリギリ首の皮一枚で生き残る戦闘の繰り返しだった! 生き残れるんなら実行不可能ではないと思うの。 ギリギリの戦いを繰り返した方が早く成長できるし、ちゃん…
[一言] 勇者より強い、伝説の魔物使い
[良い点] 個性的な団長達のやりとりによる独特の雰囲気。
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