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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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43 黒竜探索3

夢緑は一度だけ高く鳴くと、長く太い脚で地面を蹴り、騎士たちに向かって突進してきた。体が硬く重い鱗に覆われた弊害として、夢緑は空を飛べなくなる。それだけが、救いだろう。


ただ、騎士たちの視覚、聴覚、嗅覚は狂わされているため、本体を捉えるのが難しい。

ザカリー団長はどうするつもりなのかしら?


私は、騎士たちを見つめながら考える。


ザカリー団長は、夢緑の特性を分かっているのだろうか?

魔物の特性を知って戦うのと、知らずに戦うのでは雲泥の差がある。

夢見鳥ならば、ただ幻覚を見せるだけの魔物だけど、夢緑は大きな体と固い鱗、鋭い牙と爪を持っている。あの凶暴な魔物を幻覚空間に解き放つのは酷い恐怖なんだけど……


ザビリアが黒竜としてこの森に現れたため、森内の魔物の行動範囲がおかしくなっていて、入り口付近に夢見鳥が現れたけれど、本来ならフラワーホーンディアと同じく深淵に棲んでいる魔物だ。森の奥深くに立ち入らない限り出会うことはないだろう。


多分だけど、300年前と比べると、魔物の数が減っているのじゃないだろうか。

フラワーホーンディアを討伐した時の経験しかないので、判断するのは早計な気もするけれど、……魔王は封じ中だから、魔物が減少するというのは理にかなっている。

だとしたら、騎士たちの戦闘経験は前世の騎士たちより少ないんじゃないかしら。


そして、夢緑に成り上がるのを簡単に許したなんて、ザカリー団長がこの魔物と遭遇するのは初めてじゃあないのかな?

一度でも討伐経験があるならば、何としてでも成り上がるのを阻止するはずだもの。


シリル第一騎士団長なら、「この森の『生息魔物リスト』を読んでいるはずだから、戦い方くらい分るでしょう」って言いそうだけど、そんな簡単なものじゃあないわよね……


見ていると、ザカリー団長の指示の下、魔道士たちが西から東へ向けて横一列になるように、地面の上に罠魔法を仕掛け出した。

魔物が罠を踏むと爆発する初期魔法だ。どうやら、夢緑の位置把握のために使用するらしい。

騎士たちは罠魔法の5メートル程後方に等間隔で立ち、剣を構えている。


騎士がずらりと並んで剣を構える姿は壮観だったけれど、夢緑は待ち構える騎士たちを気にすることなく、すごい速さで突進してきている、……ように見えた。

その恐れ知らずの魔物の姿を見て、幾人かの騎士の体に、緊張でぐっと不必要な力が加わる。


夢緑が踏み込む度に感じる振動。舞い上がる土ぼこりの匂い。ぎらぎらと光る爪と牙。

迎え撃つために踏みとどまっているだけでも、すごい恐怖だろう。


―――そして、夢緑が罠魔法のラインを踏んだ。その瞬間、正面に位置する騎士たちは、剣を構える腕に力を入れた!


―――が、爆発は起こらない!


「え?!」と瞬間的に呆けて、硬直したように動きを止める騎士たち。


爆発が起こらないということは、騎士たちの眼前に迫っている夢緑は幻覚で、実体は別の場所にいるということだ。


だけれども、騎士たちは自分の視覚を優先させてしまったようで、夢緑の幻に対して、闇雲に剣を振り回し始めた。どこにいるか分からないという恐怖が騎士たちを怯えさせている。


その場が恐怖に支配された一瞬後、夢緑の幻から10メートルほど東側の罠魔法が爆発した。

「えっ?!」

爆発近くの騎士たちが、慌てて剣を構え直す。けれど……

「うわっ!」「ぎゃっっ!!」

爆発位置から更に10メートル程東側の騎士たちが吹き飛ばされる。

どうやら、夢緑は斜めに跳躍したようだ。


正しい像を結べず位置を把握できない以上、集団で戦うのは不利だな……

下手をすると、振り回した剣で味方を傷つけてしまう。

そう考えている間にも、騎士たちが次々に跳ね飛ばされている。


ザカリー団長は、剣を握る腕に力を入れたけれど、動きあぐねて立ち尽くしていた。ぎりりと奥歯を噛みしめている。


……「おとなしくしていろ」と言われたことは覚えているけれど、とても我慢ができなくなって、控えていた他騎士の従魔たちに目をやった。

私がいる小隊に配置された魔物騎士団の騎士は5名で、従魔も5頭だ。そして、そのうちの3頭が翼持ちだ。

その3頭の魔物、Cランクの鷲型の魔物2頭と、Dランクのフクロウ型の魔物と目が合う。


「魔物は生存本能が強いからね。瞬時に傷を治したフィーアの力は、何としても欲しいはずだよ。だから、契約をしていないとしても、フィーアを仮の主として認めるんじゃないかな。役に立つことで、フィーアからの報酬、つまり回復能力の恩恵にあずかれることを期待してね。既に契約主がいる魔物だから、人に従うことに抵抗はないだろうし」

だから、フィーアを見ているのは指示を待っているんじゃないか、とザビリアが肩口でつぶやいた。


……うん、私もザビリアの想像は当たっているような気がするわ。

だって、先ほどから一度も、従魔たちは私から視線を外さないもの。


でも、指示を与えると言っても、契約をしていない以上、ザビリア相手のように思っただけで意思疎通を図ることは無理だよね。魔物は人間の何倍も勘が鋭いとは言うけれど……


私は片手を上げると、夢緑を指し示し、その上空へ向けて手を払った。

―――通じたかしら?


果たして、3頭の魔物は私の意図を完全に理解し、手を振り払った瞬間、夢緑の上空へ向けて飛び立った。


幻覚は、夢見鳥が飛んで作った円陣の中でだけ有効だ。高さで言えば、夢見鳥が円を描いた時に飛んでいた高さまでで、それ以上の高度になれば実体を見ることができる。

だから、夢緑の真上に位置してもらうことで、ザカリー団長たちに実際の位置を教えることができるはずだ。従魔たちの真下に夢緑がいると。


問題があるとしたら、夢緑は自在に夢見鳥に戻ることができることだ。

夢緑への変態は時間がかかるけれど、夢見鳥への変態は一瞬で完了する。

こちらの意図を悟ったら、夢見鳥に戻って空を飛び、Cランク以下の従魔を蹴散らすんじゃないだろうか。


私は片手を上げると、小さな声で呪文を唱えた。


「拘束せよ。然らば、罪は問わず。―――『簡易牢獄』!」

本来は敵を拘束するためのものだけれど、従魔たちを外側の敵から守るための檻として使用する。

Bランクの夢見鳥相手なら、簡易なやつでも十分だろうとレベルを下げる。


「その秘すべきもの、悪意と善意で覆い隠せ。―――『第二級隠蔽』!」

そうして、魔法で作る牢獄は視認できるので、隠蔽魔法を重ね掛けする。


「ふふふ。これで、夢見鳥程度じゃあ従魔たちに手出しはできないわ」

にこりとしてつぶやくと、ザビリアが嫌そうな顔をした。

「やりすぎじゃあないかな。あんな快適な空間を用意したら、従魔たちは癖になっちゃうよ。従魔は人に従うことに抵抗がないから、自分を守ってくれるものにはどこまでも従順だからね。フィーアに心酔しきって、べったりくっつかれても知らないよ」

「えええ?」


「それは困るわ、ザビリア!」と言っているうちに、従魔たちは夢緑の真上に辿り着いた。

夢緑はAランクの魔物だから、知能は高い。一瞬にして従魔たちの意図に気付くと、夢見鳥に姿を変え、たった一度の羽ばたきで従魔たちのもとに辿り着いた。

そうして、その鋭い鉤爪で従魔たちを引き裂こうとしたが、かきんと鳴る高い音とともに、空中で弾かれる。


それを見た私は、得意げにザビリアに話しかけた。

「どう、これ? 見えない檻って幻覚みたいでしょ。『幻覚返し!』みたいな感じで、意趣返しとしてはハイセンスじゃない?」

「うん、騎士たちに披露できないから、感想を聞けないのが残念だね」


くうっ、だったらザビリアが「素敵だよ」とか感想を言ってくれれば良いじゃない!

私はくやしい気持ちのまま大声を出した。

「ザカリー団長!」


私の叫び声にはっとして、視線だけをこちらに向けたザカリー団長に向けて、大声で叫び続ける。

「夢見鳥は幻覚範囲の外にでましたので、今見えている場所が正しい位置です! 弓矢使いと魔道士に足止めをさせてください! 上空にいる従魔たちは、自己ガードして弓も魔法も防ぎますから、気にしなくて結構です! 足止めをしている隙に、その場から離脱してください! 夢見鳥が初めに描いた円陣の外に出れば、その幻覚は消えますので!」


ザカリー団長は驚いたように私を見たが、疑う理由はないはずなので、私の言葉通りに動く。

そうして、騎士たちは上手に役割分担すると、それ以上の被害を出すことなく幻覚空間から脱出した。


……その場には、見えない安全な檻で守られる従魔たちと怒り狂った夢見鳥、そして、幻覚から解放された騎士たちが残った。


―――はい、5分前の情景に逆戻りです。


私は改めてザカリー団長と騎士たちを見つめると、にこりと笑った。

「もう一度、初めからですね」


さぁ、ザカリー団長、もう討伐経験がないなんて言い訳はできませんよ。


夢見鳥の討伐、よろしくお願いしますね……



読んでいただきありがとうございました。

また、ご感想、誤字報告、レビュー、ブックマーク、評価をどうもありがとうございます。

今回、ファンアートをいただきましたので、活動報告にてご紹介しています。


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― 新着の感想 ―
多分、夢見鳥が幻影を掛けた後に、形態を変えて陸戦タイプになった時の呼称が、夢緑となるんですよね。文中では『成り上がる』としていたので分かり難かったんだと思います。 夢見鳥に戻った時のように『姿を変えた…
[気になる点] 夢見鳥が夢緑になっている箇所があります。 最初から夢緑となっているので、何か別の生物かと戸惑いました。 すでに、別の方からご指摘があったらすみません。
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