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4 大聖女

前世の私は、「大聖女」だった。

聖女の中でも、飛びぬけた力を持つ者、具体的には、あらゆる傷を瞬く間に治し、欠損を補い、ほとんどの病気を快癒させる力を持つ者に与えられる尊称。

私が生きていた間は、私にしか与えられなかった呼び名だ。


「大聖女」としては敬われていたと思うけれど、「聖女」自体は、そもそも尊敬される職業ではなかった。

なぜなら、聖女の数がとても多かったから。


当時、女性の半分以上は聖女だった。

攻撃魔法とは異なり、回復魔法には、精霊との契約を必要とする。

そして、精霊との契約は簡単に与えられた。


言い伝えによると、国の始まりには精霊王がいたという。

精霊王は人間の娘と恋におち、子をなし、その子が王家の始祖となった。

このため、国は精霊から愛された。

精霊は女性しか相手にしないが、請われると、必ず契約を結んでいた。

精霊と人間の蜜月。人間たちは、精霊を愛し、敬い、大事にすることで、精霊は聖女に回復の力を貸していた。


前世での私は、王女だった。

精霊の力を最も濃くひいており、幼いころから山や森で精霊たちと一日中遊び暮らすことで、その絆をより深くしていた。

精霊は話をしないと言われていたが、私は、精霊の声を聞くことができた。

精霊たちの声を聞くことで、私は、聖女としての力の使い方を学んでいった。


怪我を治すこと。欠損を再生させること。病気を快癒させること。軽い怪我を治す回復薬を作ること。これが聖女としての全てだと思っていた私は、精霊の教えに驚かされた。


聖女は。

麻痺や魅了といった状態異常を回復できた。

スピードアップ、攻撃力アップといった身体強化を行えた。

物理攻撃防御、魔法攻撃防御といった防御魔法を行使できた。

武器や防具、アクセサリーに魔法効果を付与できた。

そして、回復魔法、状態異常回復魔法、身体強化魔法、防御魔法の力を薬に込めることができた。


私は、教えられた力を全力で使用した。

そうすると、希代の大聖女と称えられ、悲願であった魔王討伐も夢ではないと請われ、兄王子たちとともに魔王討伐へ出かけた。

そして、ボロボロになりながらも、魔王を封じることに成功したのだ。


戦いが終わった時、私の魔力はゼロだった。

回復魔法を使用する際には、精霊の力とともに魔力が必要になる。

魔力が切れた私は、その時、一切の回復魔法が使えなかった。

その私を、兄王子たちは、魔王の城に置き去りにしたのだ。


「お前、マジで目障りだ。『大聖女』って言われて、調子に乗っているんじゃねぇよ!」

と、第一王子である兄が叫んだ。


「ははっ、聖女なんてな、国中に掃いて捨てる程いるんだよ。お前は、しょせん使い捨てだ!」

第二王子である兄が罵った。


「このまま凱旋して、国中から称えられるつもりだったんだろうが、残念だったな。お前は、ここで魔族どもに切り刻まれて、のたれ死ぬんだ。はは、お前も一応女だから、その前に、きたねー魔族から犯されるのか。……傷を負いながらも、剣を持ち、斧を持って魔王を倒したのは俺たちだ。お前は、ただ後ろに陣取って、安全な場所から回復魔法をかけていただけだろうが。ここで死ね!」

第三王子である兄が吐き捨てた。


私は、私は……


魔力がゼロになるまで回復魔法を使用し、全身汗みずくになって、もう指一本も持ち上げられない程の疲労の中で、地面に倒れこんだまま3人の兄を見ていた。

彼らは、あらかじめ渡していた私が作った上級回復薬を飲み、空になった瓶を私の目の前に投げ捨てると、もう一顧だにせず去っていった。


隠れないと……


自分たちの王である魔王を封じた私への憎しみは、果てしないものだろう。

捕まったら、きっと、ひどい殺され方をする。

隠れることができ、魔力さえ回復すれば、逃げ切ることができるかもしれない。


そう思い、這って逃げようとしたが、わずかも進まぬうちに、私の片手は、一人の魔族に踏みつけられた。

絶望的な思いで視線を上げる私の目の前に、それはそれは美しい魔人が立っていた。

魔人は、美しさと強さが比例する。それは、絶望が形を取って私の前に現れたことを意味した。

目の前にいるのは、魔王の右腕と呼ばれた魔人だった。


私は、その魔人に、なぶられ、いたぶられ、時間をかけて殺された。

魔人は、私を拘束し、全身に魔族の紋を刻んだ。逃げ出そうとする私をみては、嘲笑い、侮蔑的な言葉を投げつけた。


「お前が聖女だから、こんな目にあうのだ」


その魔人は、敬愛する魔王を封じた聖女が憎かったのだろう。

事あるごとに聖女であることを馬鹿にし、聖女であるがために拘束され、痛めつけられているのだと言い募った。


お前が聖女だから、なぶられるのだ。

お前が聖女だから、いたぶられるのだ。

お前が聖女だから、辱められるのだ。


行為とともにそうつぶやかれる言葉は、遅効性の毒のように、少しずつ少しずつ、私に染み込んでいった。

拘束されて、どのくらいがたったのだろう。もはや、時間の感覚も狂いだした私は、ようやく理解した。


そうだ、私が聖女だったから。

聖女だったから、なぶられ、いたぶられ、辱められて、殺されるのだと。


そして、理解した瞬間、その魔人に殺された。



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― 新着の感想 ―
んー、色々気になる事あって読み返してみたけど… 魔人は人の言葉を話さないとあったけどやっぱり普通に喋ってるよね、この右腕。なんでだ? なぶられ〜とかは物理的にちまちま切り刻まれる拷問的なのかと思…
[一言]  久しぶりにコミックの1話を読んで、コッチの該当部分はどんなだったかなと読みに来て、ふと疑問。  この兄弟王子ズ、まともに死ねたんだろうか。現代で聖女が減ってるのがこの時の行いに対して精霊が…
[気になる点] たぶん作風的に辱められってのは、全部で33あるという魔族の紋を刻印される事なんだろうなあ。 それにしては兄王子の言葉が不穏当だけどそもそも魔族に生殖がなさそうだしね、発生するものだった…
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