3 聖女
私が住んでいるナーヴ王国は、大陸でも1、2を争う大国だ。
国の始まりは、「大聖女」とともにあり、彼女の子孫が、王家を創ったと言われている。
曰く、大聖女は、当時、世界を恐怖に染め上げていた魔王を封じ、ともに討伐を行った勇者と結ばれ、その子が代々国を治めるようになったと言い伝えられているのだ。
……真っ赤なウソだけど。
聖女の力は、癒しの力。
あらゆる傷を瞬く間に治し、欠損を補い、その力は病気まで快癒させたという。
けれど、100年経ち、200年経つうちに、聖女の力はどんどん弱まっていった。
もともと、聖女は、大陸中に大勢いた。
だから、王家の一族は、聖女の力を色濃く持つ女性と婚姻を重ねることで、聖女の力を保っていた。貴族も然り。なぜなら、聖女の力は、魔力以上に次代に継承されることが分かっていたから。
聖女の力は、国の始まりを導き、平安に保つ貴重なものだから、大事にされ、次代に継承することが最重要とされた。
現実的な問題もある。
魔物と戦う時、あるいは、敵国と戦う時。
回復魔法の使い手がいるかどうかで、戦局は大きく変わる。
この貴重な回復魔法を使えるのは、聖女だけなのだ。
なのに、どんどん聖女の数は減っていく。
攻撃魔法を使える子どもは稀ながらも一定数生まれてくるのに、回復魔法を使える聖女はほとんど生まれなくなってしまったのだ。
このため、聖女は国に保護されるようになる。教会に集められ、聖女の力について教えられ、使い方を練習する。
貴族からの求婚が殺到し、幼いうちから、どんどん婚約が結ばれる。平民出身であろうとも、聖女の力がある限り、貴族の一員となれるのだ。
絶対数が少ないため、冒険者として活動する聖女はいなくなり、全員が王国所属となる。平常時は、回復薬を作成して過ごし、騎士団が出兵する時に付き従う。騎士団に守られ、かしずかれながら。
どんな場に出ても「聖女様、聖女様」とあがめられ、下にも置かぬもてなしをされる。
このため、聖女たちは、自分が選ばれた者と思い込み、うぬぼれ、傲慢になっていった。