表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/320

33 第四魔物騎士団7

「こんにちは、聖女様」

私は、聖女の目の高さに合わせて腰をかがめると、返事をした。


聖女は、小さく首をかしげると、何を言ったものかという風に言い淀んでいる。

オレンジ色の髪はつやつやだし、ほっぺは子ども特有の赤みがさしているし、間近で見ると、とても可愛らしい聖女だ。

彼女が自分の言葉を整理するのを待っていると、しばらくした後、思い切ったように口を開いた。

「……あの、騎士様はすごいのですね。契約主でもないのに、脅すこともなく魔物に薬を飲ませることができるなんて」

「フィーアです」

言うと、きょとんとした顔で見返される。私は、にこりと笑うと、繰り返した。


「私は、フィーアと申します。よければ、名前でお呼びください」

それを聞いた聖女は、どういう訳か真っ赤になった。

「あ、私、私は、シャーロットと言います。あの、よかったら、どうか、シャーロットと呼んでください」

「シャーロット様……?」

「いえ、シャーロットで! あと、どうか、話し方も普通で。あの、家族みたいに話してください」


う――ん? 聖女って、ものすごく敬われているんだよね? それは、どうなのだろう?

ちらりとシャーロットを見ると、両手でローブの膝のあたりを掴み、涙目でぷるぷると震えている。

な、なにこれ。可愛いんだけど。

「はい、シャーロット。これでいい?」

言うと、シャーロットはにっこりと笑ってくれたけど、目からは涙がぼろぼろと零れ落ちる。

「え? ど、どうしたの?」

驚いて手を差し伸べると、シャーロットはその手にしがみついてきた。

「私には、お母さんがつけてくれたシャーロットって名前があるのに、誰も呼んでくれないの。みんな、『聖女様』って呼ぶの。それは、私の名前じゃないのに」

私の袖口に、次々とシャーロットの涙が零れ落ちる。


私はシャーロットをぎゅっと抱きしめると、ぽんぽんと背中を叩く。

「そっか。シャーロットは、3歳の時の検査で聖女様って認定されたのね?」

尋ねると、私の胸に頭をぎゅっと押し付けながらも、こくこくと頷く。

「聖女だから、もうお母さんとは一緒にいられないって、教会に連れていかれたの。立派な聖女になったら、お母さんにも会いに行けるよって言われた。でも、私は、出来損ないなの。聖女の力は弱いし、回復薬も作れない。だから、きっと、お母さんは恥ずかしい思いをしている…………」

それ以上は言葉にならないようで、シャーロットは私にしがみついて、本格的に泣き出した。

私は、ぽんぽんとシャーロットの背中を叩きながらも、首をひねらずにはいられなかった。


一概には言えないけど、オレンジ色の髪って聖女向きだと思うんだけどな?


精霊は、聖女の血に惹かれて契約を結ぶから。

だから、血の色に繋がる赤髪が最上の聖女の器と言われていた。

その考えでいくと、赤の類似色であるオレンジも、上位の器のはずなのだけれど?

その利点を打ち消すほど才能がないってことかしら?


ぽんぽんと背中を叩き続けていると、少しずつシャーロットは落ち着いてきた。

すっかり泣き止むと、恥ずかしそうに顔を上げる。そして、いつの間にか私の肩に乗っていたザビリアを見つけると、目を丸くした。

「青い鳥! お母さんが、幸福を運ぶ鳥って言っていた」

私はにこりと笑うと、シャーロットの頭を撫でた。

「そうね。私はこの子がきてくれてから、楽しいことばかりよ。きっと、シャーロットにもいいことが起こるわ」

それから、シャーロットの手をそっと握る。

「まだ怪我をしている魔物が何頭かいるから、私は回復薬を飲ませないといけないの。手伝ってくれる?」

シャーロットは、嬉しそうな顔でにっこりと笑った。

「うん、フィーア!」



その後の、回復薬投与はスムーズに進んだ。ザビリアの警告音とやらは絶大で、どの魔物も素直に回復薬を飲みだす。

ただ、飲んでしばらくすると、膝を折り曲げ、苦しそうに低い声で唸り出すのがいたたまれない。


……うん、これは痛いのよ。

自分も経験したので、つい魔物の気持ちに寄り添ってしまう。


自己治癒のための回復魔法は、体中の隅々までいきわたっている。

それに悪作用するならば、全身が軋み出し、もだえ苦しむのも当然だ。


手をぎゅっと強く握られたので見ると、シャーロットが涙目になって魔物を見ている。

うん、魔物が痛みに苦しんでいるのを、可哀そうに思えるなんて優しい子だな。

やっぱり、聖女に向いているんじゃないかしら。


ケガをした魔物に回復薬を飲ませ終わると、シャーロットとともに従魔舎を出た。

「シャーロット、時間があるなら、ちょっとお散歩しない?」


城内の東側には、湧水群があったはずだ。

肩にザビリアを乗せ、シャーロットと手をつないで歩く。


ああ、おひさまがぽかぽかして、気持ちいいなぁ。


目当ての場所につくと、複数ある泉を見て回る。

「うん、これがいいわね。小さくてちょうどいいわ」

一番小さい泉を前に私は独り言ちた。そして、シャーロットを覗き込む。

「ねぇ、シャーロット。私と回復魔法の練習をしてみようか」

「えっ? でも、私…………」

シャーロットがしょんぼりと下を向く。

「ふふ、大丈夫よ。私は回復魔法を使えないし、シャーロットが上手くできなくても分からないわ」

シャーロットが顔を上げたので、にこりと笑ってみる。

「練習ってのは、だいたい失敗するものよ。失敗する練習をしてみない?」

シャーロットは私の手を強く握り返すと、こくりと頷いた。


それから、二人でそこかしこに生えている、薬草を摘んでまわった。両手いっぱいの薬草を摘んでは、泉に投げ入れるという行為を繰り返す。

「ねぇ、ここの薬草はきれいでしょう。この青々とした薬草を体に取り込んだら、色んなところがよくなると思わない?」

シャーロットの見る目は確かで、たくさんの種類の草の中から、的確に薬草だけを選んで摘んでいく。

ザビリアは定位置である私のお腹から出て、草の上で昼寝を楽しんでいた。


どのくらいの時間が経ったのだろうか。小さな泉に十分と思える薬草を投入できたので、シャーロットに声を掛ける。


「それじゃあ、袖をまくって両手をこの泉につけてみて。それから、回復魔法を流してみて。回復薬を作る練習よ」

「え、でも、他の聖女様たちが回復薬を作る時は、乾燥した薬草を砕いて水に溶かしたものを使っていたけど。というか、みんな、瓶に入れて作っているし、泉って…………」

大き過ぎて、よくわからないとシャーロットは小さく呟いた。


「ふふ、練習だから気にしないで。さぁ、手を出してみて」

言いながら、袖をまくったシャーロットの両手を両手で掴む。

そして、泉に手を付けるとシャーロットの額と額を合わせる。

「回復魔法を流してみて」

シャーロットは緊張しているようだったけど、ゆっくりと小さな魔力が流れてくる。


……うん、確かに流れが悪いな。

頻繁には回復魔法を使っていないのだろう。シャーロットの体の数か所で魔力の軽い遮断が行われている。

……回復魔法を使い続けていると、抵抗が取り除かれて、きちんと流れるようになるんだけど……


まぁ、いいか。と、シャーロットの体に少し魔力を流し、抵抗を押し流す。

「………………え?」

シャーロットが驚いたような声をあげた。

「え? え? え? あれ? あ…………、ま、魔力が流れている…………」


私はにこりと笑うと、シャーロットの手を離した。

「上手よ、シャーロット。さ、その魔力を泉に流してみて。いい? 魔力は体中を巡っているから、それを少しずつ手の先に集めてみようか。泉を見て。澄み渡ってきれいねぇ。さっき、瑞々しい薬草をいっぱい入れたわよね、ほら幾らかはまだ浮かんでいるわ。ここに、あなたの魔力を流してみて」

シャーロットが少しずつ、指先から魔力を泉に流す。

ふふ、素直ないい子。やっぱり、いい聖女になるんじゃないかしら。


「その調子よ。さぁ、イメージして。ケガをした魔物がいて、痛い痛いと泣いているの。かわいそうね。……ここには、長い時間、大地の力を取り込んだ水と、自然の力をもらった薬草があるわ。この力を借りるのよ。さぁ、あなたの魔力を流して。この水と薬草と魔力で回復薬ができたら、ケガをした魔物はどんなに喜ぶかしら?」


言いながら目をつむり、私も少しずつ魔力を流す。

「そう、上手よ、シャーロット。少し、左手の方から放出される魔力が多いみたいだから、両手から同じだけ流れるようにコントロールできるかしら?」

少しずつ、少しずつ、シャーロットの魔力を整えていく。


そうして、私の魔力が空っぽになったころ、泉の底からきらきらとした光が立ち上ってきた。

薬草が水に溶けだし、透明だった水が緑色に変化していく。

「ああ、綺麗ねぇ…………。癒しの色だわ」

思わず、つぶやいた私を前に、シャーロットは泣きそうな声を出した。

「フィ、フィーア。私、体がおかしいの。何だかぽかぽかするし、体中を力が駆け巡っている感じ……」

私は、よしよしとシャーロットの頭を撫でる。

「おりこうさんよ、シャーロット。それが、回復魔法を使うということよ。よくできたわね。ほら、だから、この泉の水がぜ――んぶ、回復薬になりました!!」


私はにこりとして、じゃじゃーんとばかりに両手を広げて泉を指し示した。


「………………え?」

シャーロットは、ぽかんと口を開けて私を見つめる。


「……うん、分かるよ。思考停止は、逃避の有効な手段だよね。僕は、……気絶してみよっかな」

草の上で寝転がっていたザビリアが、小さくつぶやいていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています

★【大聖女 (本編) 】コミカライズへはこちらからどうぞ
★【大聖女(ZERO)】コミカライズへはこちらからどうぞ
ノベル11巻が発売中!
【SIDEザカリー】国宝の鎧を真っ二つにしてしまったオレの顛末、続・シリウスと恋人デート(300年前)など、5本を加筆しています。

また、通常版に加えて、小冊子(これまでの超美麗カバー等ポストカード+SS「フィーア、シリル団長の騎士服に刺繍をする」)付きの特装版もあります!

ノベル11巻

ノベル11巻特装版

10/16ノベルZERO6巻が発売!
立派な聖女になりたいと思ったセラフィーナは、聖女の修行をしようとするけれど……
『騎士団長たち酷い』案件勃発。

ノベルZERO6巻

10/10コミックス13巻発売!
フィーアがサヴィス総長にとっておきの花を取ってきたり、クェンティン団長に特別なお土産を渡したりします。
半分以上がWEBにないノベルオリジナルの話になります。

コミックス13巻

10/10コミックスZERO4巻発売!
とうとう西海岸に到着した近衛騎士御一行様。不審な男性に遭遇するも……
コミックスZERO4巻
どうぞよろしくお願いします。

― 新着の感想 ―
△: 脅すこともなく魔物に薬を飲ませることができるなんて ○: 自分で脅すこともなく―― ってことですね。さすが支配者側の者。 > 私の魔力が空っぽになったころ 込め過ぎィ!
[良い点] いつか聖女改革をする流れになるだろうとは思ってましたが、こういうパターンでしたか! すごく好きな展開で今後もとっても楽しみです。
[一言] ギャグストーリー……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ