28 第四魔物騎士団2
対応を迷っていると、外からノックの音がした。
「入れ!」というギディオン副団長の声に、若草色の髪のすらりとした20代半ばの女性騎士が入ってくる。
わぁ、綺麗なお姉さんですね。好きです!
「お話し中すみません、副団長。Rが副団長を呼んでいますが」
「何っ?! すぐに行く!」
ギディオン副団長は慌てたようにドアに向かうと、思い出したように私を振り返り、「お前に頼むことはねぇ。好きに過ごしとけ」と言い捨てて、足早に部屋から出ていった。
部屋の中には、若草色の騎士と私の2人が残される。
「初めまして、第一騎士団のフィーア・ルードです」
「初めまして、第四魔物騎士団のパティ・コナハンです。副団長補佐をしています」
「副団長補佐! ということは、団内の仕事を采配する側の方ですね。ええと、取り急ぎの仕事がないようですので、言っていただければ何でもやりますけど?」
「ふふっ、シリル第一騎士団長名指しの騎士ということで、どんな歴戦の勇者が来るのかと思っていたら、こんなに年若い騎士とは意外ですね。……ギディオン副団長の態度は、申し訳ありません。副団長は、常々、魔物騎士団が冷遇されていると感じておられるので、筆頭騎士団である第一騎士団が特にお嫌いなのですよ」
ええと。それは、八つ当たりというやつではないでしょうか。
「副団長は、少し子どもっぽいところはありますが、根は真面目だし、そこまで馬鹿ではありませんので、そのうち正気に戻って、君に仕事を頼むと思います。それまで、しばらく待ってもらえますか?」
お――う。あれでも、部下には慕われているのですね。だったら、やっぱし、悪い騎士ではないはずですね。
「了解しました、待ちます。ところで、Rさんってどなたです? ギディオン副団長が飛んで行ったところを見ると、恋人なんですか?」
「ははは、副団長に恋人ですって?! ないです、ないです! Rってのは、副団長に隷属している魔物のことですよ」
「あー、魔物!」
パティは、取りあえず座りましょうか、と部屋の隅にあるソファを指さした。言われた通りに座ると、温かい飲み物を出してくれる。それから、「確かこの辺に……」と言いながら、ソファの横にある戸棚をごそごそと探し出し、銀色の缶を探し出すと、中から数枚のクッキーを取り出して皿に並べてくれた。
「あんな見た目ですけれど、副団長は甘いものが好きなのですよ」
へー、意外ですね。お肉とお肉とお肉が好きかと思っていました。
「フィーアは、魔物騎士団は初めてでしょうから、少しご説明しますね。簡単に言うと、魔物騎士団は、魔物を隷属させ、使役することで力を発揮する団です。魔物は、隷属させる時が最も大変ですが、その後も継続したケアが必要です。個体にもよりますが、魔物は甘えてきたり、独特な要求をしてきたりと手がかかり、そのケアをどれだけ行うかで魔物の契約主への従順度合いが決まってくるんです」
……え、そうなんですか? ええと、黒竜ザビリアと契約はしたけれど、それ以来会ってないってのは、まずいのでしょうか?
「放置したからって攻撃されることは、ないですよね?」
心配になって、思わず聞いてしまう。
「ええ、契約主に攻撃することはありませんが、拗ねて体当たりをしてきたり、尻尾がある魔物なら尻尾を振り回してきたりはするので、強大な魔物ならばそれで怪我をすることはあるかもしれませんね」
黒竜の体当たり! 黒竜のしっぽ攻撃!
死ぬわ。これ、完全に死ぬパターンだわ。
「どうかしましたか?」
思わず黙ってしまった私を心配したようで、パティが声を掛けてきた。
「いや、私、魔物と契約したんですが、その後ずっと放置していたので、怒っているのじゃないかと心配になりまして……」
「え?! 君には従魔がいるのですか?! 腕を見せてください!」
そして、私が返事をするよりも早く、団服の袖をたくし上げられる。
パティは、私の左手首にある幅1ミリの証を見ると、思わず残念そうな顔をした。
「そうですよね。魔物騎士団以外の騎士が、契約を行うこと自体がすごいことですよね」
そう、納得したようにつぶやいている。
「副団長があんな調子なので、しばらく、急ぎの仕事はありません。フィーアの従魔が近くの森か林にいるのならば、迎えに行ってやったらどうですか?」
「え、いいんですか? 行きます! 行ってきます!!」
私はぴょこんとソファから立ち上がると、パティに一礼した。
「では、行ってきます!」
「え、そんなに突然行くのですか? というか、森や林は魔物が出るから、一人で行ってはいけません。王都付近を管轄している第六騎士団の討伐に参加するのが、よりよい方法だと思いますよ」
「大丈夫です! せいぜい森の入口までしか入りませんので」
「……ああ。証がその細さなら、確かに入口近くの魔物でしょうね」
パティが納得したようだったので、私は急いで部屋を後にした。
黒竜ザビリアのことが、突然すごく気になりだす。
ザビリアは、初めて会った時に大ケガをしていたわよね。
Aランクの魔物を倒していたから、弱いってわけじゃあないだろうけど、もっと強いいじめっ子がいるのかもしれない。
また、ケガをしていたら、どうしよう。
馬を駆り、一番近い森に行く。
ザビリアは、従魔の契約を結んだから、私が呼べばどこからでも聞こえると言っていた。
ただし、竜が突然現れれば大ごとになるだろうから、城や町を避け、森を選ぶ。
「ザビリア――! ザビリア―――――――!!」
馬から降りながら、大声で叫ぶ。
私の声が、静かな森の中に響いていく。
―――――――――瞬間、天が割れた。
雲一つない青空に突然、剣で切ったような一線が入り、その線が割れてできた楕円の空間に、黒い雲と豪雨と雷という全く異なる景色が現れる。そして、その中から、傲然と翼を広げた黒い竜が舞い降りた。
それは、今まで見た中で最も美しい生物だった。
体長10メートルはあろうかという大きさにもかかわらず、鱗の一枚一枚が名工の手による芸術品のような輝きを放っている。黒は単純に黒という一色ではなくて、様々な色合いがあると、初めて知った。
竜は、始まりの生き物で、その形状は、最も完成されていると言われているが、確かにそうだ。
立派な体躯に大きな翼を広げ、舞い降りてくる竜の姿の何と美しいことか!
……だけど。
あ、あれ? ザビリアって、もっとずっと小さかったよね。鱗もこんなきらきらしていなかったし、体格もこんなにしっかりしていなかったし。
……ええと、どちらの黒竜でしょうか?
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