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259 聖女フィーアのお薬作り教室 8

聖女たちが話し合った結果、作る薬は聴力回復薬、頭痛薬、キノコ専用の解毒薬……に疲れ目の薬を追加した4つになった。


人々の間で一番よく使われるのは回復薬だ。

しかし、素材や製作者によって、回復薬の効能には大きな差が出る。

そして、一般に出回っている回復薬は、最も効果の小さい低級のものになる。


そもそも怪我や病気を何だって治す回復薬は、汎用性が高い分、効果が小さくなる傾向にあるので、頭痛薬や疲れ目の薬のように、症状に特化した薬を作った方が大きな効果を期待できる。

だから、聖女たちはいい選択をしたのじゃないかしらと感心しながら、まずは聴力回復薬を作ることにした。


この薬は以前、シャーロットと作ったことがある。

そして、シャーロットは一人で薬を作れるようになったので、私の教え方が分かりやすかったということの表れだろう。


聴力回復薬なら任せてちょうだいと胸を張っていると、ケイティともう一人の聖女が前に進み出てきた。

私は笑みを浮かべると、ローズの本を見ながら素材を列挙する。

「この本によると、素材は『ぷちぷちの葉』と『棘なし緑薔薇の花びら』『百黄花の蜜』、それから、『丸緑の実』ね!」


初めに素材を全部告げるのは、お薬作り教室の基本よねと考えていると、ケイティが目を丸くした。

「まあ、王家直伝の製薬方法って本当にすごいのね! ローズ聖女の本には、フィーアが言った素材の半分も書いてないのに、フィーアはすらすらと全部の素材を列挙できるんですもの。これはとんでもないことだわ!」


そうだった。聖女たちは私が王家直伝の製薬方法を学んだから、皆が知らないことを知っていると信じているんだったわ。

何て便利なのかしらと考えていると、見学していた聖女たちが次々に私を褒めてくれる。

「というよりも、フィーアの記憶力がすごいわ!」

「ええ、いくら製薬方法を伝授されたにしても、薬ごとに異なる素材を覚えていて、すらすらと言えるなんて大変なことよ!」


褒めてもらって嬉しいけど、これらの知識は全部、前世で覚えたことなのよね。

「ありがとう。ただ、私は秤を使わないでしょう。覚えるのは素材名だけで、分量を覚える必要がないから、記憶しやすいんじゃないかしら」


正直に答えると、全員が悩まし気に顔をしかめた。

「ううーん、分量を覚える必要がないというのは、さらにすごいことよね。でも、素材を覚えることだけにフォーカスしたら、そういうことになるのかしら?」

「フィーアの言うことは難しいわね」


いえ、私は簡単なことを言っているのに、聖女たちはいつだって難しく考えるのよね。

「王家直伝っていうけれど、どうしてこれらの薬の作り方がもっと世に出回っていないのか不思議なくらいよ」

正直に言って、ローズが持っていた本に作り方の一部が残っているくらいで、他には一切残っていないなんて不思議だわ。


「大聖女様はいつだって調合方法を公開していたから、記録としてたくさん残っていてもおかしくないのよね。でも、……そういえば、他の聖女たちは、あまり大聖女様のやり方を真似しなかったのよね。だから、使われないものは、どんどん忘れ去られていったのかもしれないわ」


前世のことを思い出しながら話をすると、アナが分かるわと頷いた。

「すごく実感できる話ね! 大聖女様の製薬方法であれば、そこらの聖女では到底真似できないようなとんでもないものだったはずよ。フィーアから薬の作り方を教えてもらった際、私にはさっぱり理解できない方法があるのだということを、身をもって体験したもの。きっと、当時の聖女たちは、大聖女様が言われていることの半分も理解できなかったはずよ」


「いえ、私のやり方はものすごく簡単よ。何といっても秤がいらないんだもの。一度やってみたら、やみつきになるわよ」

そそのかすように言ってみたところ、アナは慌てて首を横に振った。


「えっ、そ、それはその通りだろうけど、私はやっぱり大聖女様のやり方を学ぶわ! ……私の推測だけど、あの本は当時の聖女たちの血と涙と汗の結晶じゃないかしら。天才と呼ばれた方のやり方を言語化するなんて、ものすごいことだもの」


「そうかもしれないわね」

確かに大聖女の権威付けのため、簡単なことをより難しく書くのは大変だったでしょうねと思いながら頷く。


それから、私は説明の続きに戻った。

「ええと、聴力回復薬の素材は、基本的に王城で採取できるものばかりね。ただ『丸緑の実』が足りないわ。どうしようかしら……」


聖女たちにとって、どのやり方が一番いいかしらと考えていると、アナがテーブルの上から何かを手に取り、私の前に差し出してきた。

「この直伝書のイラストにある素材なら、王城内に作られた臨時の薬草園にあったわよ。そして、私たちには魔法を使えない期間が2日半もあったから、薬草園のものは全部採ってきたの。ほら、これでしょう?」


さすが聖女たちだわ。魔力を使用しない期間を有効活用しているじゃないの。

「ええ、それよ! これで全部揃ったわね。じゃあ、始めましょうか。まずはどちらから試してみる?」

聴力回復薬作りを希望した聖女は2人いたので、作る順番を尋ねると、ケイティが前に進み出てきた。

「私からいいかしら」


私は頷くと、テーブルの上に積まれた素材の中から、必要なものを選り分けようとしたけれど、ケイティは隣のテーブルに並べてあるガラスの瓶を指差した。

「フィーア、これらの瓶にも素材が詰めてあるわ。同じものがあるから、私はこちらを使いたいわ」


瓶の中には、既に乾燥させた素材が詰められていた。


そう言えば、事務官が王城内にあるものは全て使用していいと言っていたわね。

そして、この離宮内には聖女たちが乾燥させた素材がたくさん置いてあるのだったわ。


「自分で採取した素材を使用する方がポイントは高くなるとのことだったけど、私はあまり魔力がないから、少しでも魔力を節約したいの」

ケイティの言葉を聞いて、なるほどと思う。


瑞々しい薬草を使用した方が薬の効能は高くなるけど、その分多くの魔力が必要になる。

だから、乾燥させた薬草を使うと、魔力量が少なくて済むというのはその通りだわ。

「さすがね、ケイティ! 魔力を節約しようだなんて、私には思いつかない視点だわ」


「そうでしょうね」

ケイティは頷くと、素材を選び始めた。

それから、尋ねるように私を見る。

「私の魔力量的に、一人前の薬を作るのは無理だと思うの。どれくらいならいけると思う?」


聴力回復薬はそれなりに魔力を使うのよね。

「そうねえ……0.2人分くらいかしら」


ケイティがローズに顔を向けると、彼女は『プリンセス・セラフィーナ直伝書』を手に取って、分量の部分を読み上げた。

「混ぜる割合は、『丸緑の実』は1、それ以外の素材はそれぞれ0.7とすること……とあるから……」


ローズが困ったように言葉を途切れさせたところで、アナが私に質問してきた。

「フィーア、通常『丸緑の実』はどのくらい入れるの?」


「そうねえ、これくらいかしら」

片手で『丸緑の実』を掴むと、アナは私の手の中にあった『丸緑の実』を受け取り、数を数え始めた。

「……28、29、30個あるわ。だったら、これの5分の1だから……6個ね! 他の素材はこの0.7になるよう、秤を使って量ればいいわ」


皆すごいわね。私とは違って、秤を使わないやり方を誰一人選ばないわと感心している間に、ケイティが素材を量り終えたようで、ローズが再び本を読み上げ始める。

「『ぷちぷちの葉』は、葉の表面にあるぷちぷちとしたでっぱりを3分の1潰すこと。その際、葉の真ん中部分にあるぷちぷちを優先して潰すこと……」


ケイティが本に書いてある通りにやり終えたところで、私は彼女に声をかけた。

「じゃあ、魔力を流してちょうだい。多分、体中の魔力を全部使い切ってしまうと思うわ」

「分かったわ! 最後まで使い切るつもりでやるわね!!」


黙って見守っていると、ケイティは少しずつ瓶の中の素材に魔力を流していき……数分後には、無事に薬を完成することができた。

「ケイティ、やったわ! 成功よ!!」

はしゃいだ声を上げると、ケイティは荒い息をつきながら見つめてきた。


あ、魔力が切れてきつそうだから、そっとしておくべきねと、私はもう一人の聖女に顔を向けた。

彼女が作る分量も0.2人分が適当だったので、同じようにやってみると、これまた成功したので、聖女たちは優秀だわと嬉しくなる。


ただ、2人合わせて0.4人分だから、足して1人分となるよう、あと0.6人分を作った方がいいわねと、ささっと作る。


すると、そのことに目ざとく気付いたプリシラが、じろりと私を見てきた。

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ノベル11巻

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どうぞよろしくお願いします。

― 新着の感想 ―
大聖女には負けるかも知れませんが、大聖女と別次元で当代の聖女も優秀な方々の集まりですね
どんどんフィーアの凄さが露呈して欲しいという思いと長く見たいという思いが拮抗してる。忙しいのに更新してくれて本当にありがとうございます!応援してます!
勤勉な聖女だ 最初の討伐にでて魔力温存でサボってた聖女の姿はなんだったのかと思うほどに
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