234 筆頭聖女選定会 二次審査 2
慌てて両手で口を押えたのがよかったのか、私が驚きの声を発したことに対して、誰からも咎められることはなかった。
というか、三人の騎士団長はこちらを見もしなかった。
ああ、よかったわ。三人がよそ見をしないタイプで。
ほっと胸を撫で下ろしていると、事務官が誇らし気に騎士団長たちを紹介し始める。
「患者の方々をご紹介します。一人目は第二騎士団のデズモンド団長です。彼は魔物から傷を受け、額を深く怪我しています。その他にも、長年の体調不良に悩んでいるとのことです」
事務官の説明を聞いた私は、首を傾げた。
……デズモンド団長が魔物から傷を受けた?
はて。デズモンド団長はシリル団長と双璧をなすほど強い騎士団長だ。
それなのにこれほど酷い怪我をするなんて、通常の魔物討伐では考えられない。
しばらく姿を見ていなかったから、普段は行かないような森の奥深くまで潜ってきたのだろうか。そして、魔物と遭遇した?
うーんと考えていると、カーティス団長が紹介される。
「次に第十三騎士団のカーティス団長です。彼も魔物に怪我をさせられ、胸部に深い裂傷があります」
えっ、二紋の魔人を倒したカーティス団長が怪我をさせられたですって?
ううーん、一人で複数頭の竜でも相手にしたのかしら。
分からないわねー、とカーティス団長を見つめていると、クラリッサ団長が紹介される。
「最後に第五騎士団のクラリッサ団長です。こちらの団長には、外傷は一切見当たりません」
えっ、つまり、怪我はしていないけど、どこかが悪いということかしら。
首を傾げてクラリッサ団長を見つめていると、事務官の説明する声が響く。
「詳細については、それぞれ騎士団長たちにヒアリングを行い、症状を確認してください。それから、症状に合うと思われる薬を作って提出ください。この場合も事務官が立ち会い、調合方法をおまとめします」
なるほど。症状が事細かにカルテに記載されていた第一次審査と違い、今回は自分で聞き取って、患者の症状を判断しろということね。
「提出いただいた薬が患者の症状に合ったものであれば、実際に患者の方々が服薬して、薬の効果を確認します。患者の症状の改善具合に応じてポイントを付与しますが、その際、通常の倍のポイントを付与させていただきます」
患者に魔法をかけても、必ずしも完治しないように、症状によっては、薬を飲んでも完治できないものがある。
だから、団長たちの症状を改善させたら、それだけでポイントになるということね。
さらに、ヒアリングして症状を特定する手間がかかるから、ポイントが倍になるのね。
「最後に、第三次審査は第二次審査が終了した翌日に実施します。第三次審査では、聖女様方に魔法を使用していただく予定ですので、第二次審査の期間中に魔力回復薬を作製し、最終日に服薬することをお勧めします。なお、ただ今より第三次審査が開始するまでは、ご自分が作られた物以外の魔力回復薬の服用を禁止します」
なるほど。騎士団長たち三人の患者を除くと、聖女たちが提出した薬を服薬して確認することは、基本的にないと言っていた。
だから、代わりに聖女本人たちの身をもって確認させるというわけね。
聖女たちが私を振り返り、縋るように見つめてきたため、任せてちょうだいと大きく頷く。
事務官は他の聖女に調合方法を教えてはいけない、という説明はしなかったわ。
ほほほ、事務官がはっきり明言しないことは、自由に解釈していいはずよ。
そうであれば、魔力回復薬の作製方法を皆に伝授することにしましょう。
魔力回復薬は王城産よ、とアナたちに説明したように、必要な薬草の一部は敷地内に生えているからちょうどいいわ。
そう考えていると、事務官が聖女たちをぐるりと見回した。
「これにて審査の説明を終了します。この後は王城の敷地をご案内し、薬草園や離宮をご紹介させていただきます。全ての確認が終わった後、皆様方は薬の作製を開始してください。なお、騎士団長たちは離宮に移動します。審査の間は離宮の一室で待機していますので、そちらでヒアリングを行ってください」
事務官が説明を締めくくった途端、私は素早く部屋を後にした。
騎士団長たちが私の存在に気付いているのかいないのか分からないものの、その場に残るメリットは一切ないと思ったからだ。
怪我や病気をしている人を見て見ぬ振りをするなんて、私の信条に反するけれど、背に腹は代えられないわ。
これだけ優秀な聖女が揃っているのだから、誰かがあの三人を治してくれるはずよ。
そう考え、デズモンド団長、クラリッサ団長、カーティス団長には近付かないと決意していると、私を追いかけてきたアナに声をかけられた。
「フィーア、一つ忠告しておくわ。あの三名は引っ掛けだから、手を出さない方がいいわ」
「えっ、引っ掛け?」
どういう意味かしら。
立ち止まって尋ねると、アナは真面目な顔で口を開いた。
「事務官が患者へのヒアリングを行うように言ったでしょう。恐らく、あの三人は面倒な病気か怪我をしていて、特殊な治療が必要なパターンだと思うわ」
なるほど。私は一目見たら、相手の症状がだいたい分かるのに、怪我以外はよく分からなかったのはそれが理由かしら。
まあ、距離が離れていたから、分からなかっただけかもしれないけど。
というか、最後に見た時、全員ぴんぴんしていたから、患者として現れたことに驚いたのよね。
どの道、私は君子だから、騎士団長たちに近付くつもりはないけど。
そう心の中で決意していると、アナがかつんと靴を鳴らす。
「例年と比べて、私たちが第一次審査で獲得したポイントは、恐ろしく高かったわよね。もちろん、重症者を治癒したのだから当然の結果だけど、通常だったら過去の実績と点数が開き過ぎてはいけないと、全体調整が入ってポイントが引き下げられるはずなのよ」
そう言われればそうね。
前回と比べて今回のポイントがものすごく高ければ、次代の筆頭聖女の方が現在の筆頭聖女よりも優れて見えるわよね。
それは現在の筆頭聖女にとって好ましくないから、調整が入るのは当然でしょうね。
「今思えば、あれほどの高ポイントを全員に獲得させたのは、医師のカルテを導入したことが理由じゃないかしら。ほら、国は聖女と医師を協力させたがっているから、医師のカルテを導入したら、これほど効果的な治癒が行えるんですよと国中に喧伝したいのよ」
なるほど。各審査が終了するごとに、国民に向けてポイントを公表すると言っていたものね。
今回、全員のポイントが上がったのは、医師のカルテを導入したからだと説明するのね。
「そして、今回の患者はカルテなしでしょ。カルテ付きの患者との差分を出すためにも、あえてポイントを取らせないように細工してあるんじゃないかしら」
「ふうん、色々と難しいのね」
そう呟くと、私たちはアナたちとともに王城の庭に出たのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
12/18(水)大聖女ZERO5巻が発売されるのでお知らせします。
どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)









