227 筆頭聖女選定会 一次審査18
結局、カーティス団長はそれ以上何も言うことなく、私を解放してくれた。
彼は前世で私の護衛騎士だったため、私の考えをよく理解してくれている。
だから、私のことが心配ではあるものの、私のやりたいようにやらせよう、と考えてくれたのかもしれない。
カーティス団長はいつだって私のことを考えてくれるのよね、と嬉しく思いながら、中等症者の病室に行く。
そこにはアナたちがいて、私を見ると慌てた様子で駆け寄ってきた。
「フィーア、心配したのよ! ローズ聖女は大丈夫だった?」
「体調が悪そうだったから、控室のベッドに寝かせてきたわ。時間が経てば回復するんじゃないかしら」
私の言葉を聞いたメロディが、考える様子で口を開く。
「多分、ローズ聖女はフィーア特製の赤い魔力回復薬を飲まずに、教会伝来の魔力回復薬だけを飲んだんじゃないかしら。体調が悪いのは、そのせいだと思うわ」
「えっ、『やせ薬』に引っ掛からなかったってこと?」
プリシラを始め、聖女たちは皆やせ薬を飲んだのに、ローズは一人だけ我慢したということかしら。
「ローズ聖女は我慢強いのね」
すごいわと感心していると、ケイティが首を傾げた。
「筆頭聖女は誇り高いから、彼女のもとで暮らしてきたローズ聖女も同じような性質になったんじゃないかしら。自分の魔法と魔法薬を最上のものと思っているから、他人が作った薬を口にすることはないのよ」
「そうなのね」
確かに、自分で作った方が早いから、私も必要な薬は手作りするわね。
なるほどと納得していると、アナがうずうずした様子で大きな声を出す。
「それよりもフィーア、昨日の続きをしましょうよ! 私は昨日、眠る前に何度も回復魔法をかける練習をしたから、今日はすごく上手にできる気がするわ」
メロディとケイティも興奮した様子で口を開いた。
「うふふ、アナに付き合わされて、私たちも夜遅くまで魔法の練習をしたのよ」
「今日の私は昨日の私より何倍も上達しているわ」
まあ、アナたちはやる気満々だわ、と嬉しくなった私は、彼女たちとともに患者のもとに歩いていった。
それから、皆で患者を治癒したのだった。
「じゃあね、3人とも素晴らしかったわ!」
私はそう言うと、王城に戻るアナたちに手を振って別れた。
元々、中等症者の病室には多くの患者が残っていたわけではないけれど、アナたちの魔法が上達したこともあり、ローズが治癒したがっていた患者を一人残して、病室は空っぽになってしまった。
あの3人はさすがだわとにまにましながら、控室にローズを見にいったところ、なぜかこちらの部屋も空っぽだった。
ローズは元気になったのかしら、と思いながら彼女を探したけれど見つからない。
どこに行ったのかしら、ときょろきょろと病室や廊下を見回していると、廊下の隅に置かれた椅子に座るプリシラの姿が見えた。
「プリシラ」
声を掛けると、用心するような目で見られる。
「ローズ聖女を知らない? 一緒に患者を治癒しようと伝えていたのに、いなくなってしまったの」
私の言葉を聞いたプリシラは、「ああ」と何かに思い至った様子で頷いた。
「彼女なら重症患者の病室に来て、回復魔法をかけていたわよ。相手は3年前に足を骨折した際、骨の変形が残った患者だったから、ほとんど効果が見られなかったわ。それが分かった途端、ローズ聖女は真っ青になって部屋を出ていったわ。魔力を使い果たした様子でふらふらしていたから、王城に戻ったんじゃないかしら」
「えっ、そうなの?」
一緒に治療するつもりだったけど、一人で先にやってしまったのね。
もしかしたらローズは、一人で治癒したいタイプなのかしら。
あるいは、私がアナたちと治癒していた時間が長過ぎて、ローズが待ちくたびれてしまったのかもしれない。
うーん、ローズに悪いことをしたわね、と考えていると、プリシラも同じように考える様子を見せた。
「……フィーア、以前、私が大聖堂の下働きの娘の話をしたことを覚えている?」
「え、大聖堂の下働き?」
突然どうしたのかしら、と思いながら記憶を辿る。
確かオルコット公爵邸を訪問した時、私と同じように赤い髪をした娘が大聖堂の下働きにいたって話を、プリシラがしていたわね。
「ええと……赤い髪をしているって話だったかしら?」
その時の会話を思い出しながら答えると、プリシラがその通りだと頷いた。
「ええ、そう。その娘は全く回復魔法が使えないのに、知ったかぶりをして聖女のことにあれこれ口を出してくるから、すごく不愉快だったわ。でも、いつの間にかその娘は大聖堂からいなくなっていたの……。それで、その娘は……ローズ聖女だったわ」
「え?」
どういうことかしらと尋ねると、プリシラが嫌なことを思い出すかのように顔をしかめる。
「さっきね、重症者の治癒が上手くいかなかったローズ聖女が、私を憎々し気に睨みつけてきたの。その表情を見て思い出したわ。彼女は大聖堂で下働きをしていた娘だって」
そう言われて思い出す。王太后がローズは大聖堂で働いていたと言っていたことを。
『こちらはローズ・バルテよ。元々は大聖堂の下働きをしていたのだけれど、聖女だったので預かることにしたの。それ以来ずっと、私と一緒に離宮で暮らしているわ』
「まあ、2人は元々の知り合いだったのね。すごい偶然だわ」
びっくりして思わずつぶやくと、プリシラが顔をしかめた。
「フィーア、私が言えた義理ではないけど、ローズ聖女はだいぶ難しい相手だと思うわよ。下働きをしていた時の彼女しか知らないけど、大変な理屈屋だったわ。それに、感情的になることはあまりないんだけど、時々、どうしても納得がいかないことがあると、憎々し気に睨みつけてくるのよ」
「それは問題ないわ。私は睨みつけられることに慣れているから」
私は笑顔でプリシラの言葉を退ける。
うふふ、まさかデズモンド団長にしょっちゅう睨みつけられている体験が活かされるなんて思わなかったわ。
人生何が役立つか分からないわね、とにまりとしていると、何かを勘違いしたらしいプリシラが、痛ましいものを見る目つきで見てきた。
「フィーア……」
「あっ、違うわよ。そうじゃなくて」
心配されるような話ではなかったため、デズモンド団長のことを面白おかしく話そうとしたところで、はたと動きを止める。
そう言えば、デズモンド団長はああ見えて貴族だったわ。
ということは、もしかしたら筆頭聖女選定会に参加した聖女と結婚する未来があり得るのかしら。
そうだとしたら、ここでデズモンド団長の悪口を言うわけにはいかないわね。
「あー、プリシラも知っての通り、私は騎士たちと懇意にしているけど、皆とってもいい人だわ」
「どうして突然騎士の話を持ち出すの? そして、褒め出すの? えっ、まさか騎士たちに睨みつけられているんじゃないでしょうね」
あれ、どうして正解に行きつくのかしら。
「……うふふ、騎士の中には目つきが悪い人がいるから、私も最初のうちは睨まれているのかしらと勘違いしたけど、実際には熱心に見つめられていただけだったわ」
デズモンド団長の睨み癖をフォローしようと発言したけれど、プリシラは信じていない様子でじとりと見つめてくる。
そうだった、プリシラは疑い深いんだったわ。
「うふふふふ、私はただ……騎士は結婚相手として向いているんじゃないかしらと思ったの。実のところ、騎士の中には高位貴族がいるから、プリシラの結婚相手になるかもしれないわ」
プリシラは馬鹿げたことを言うわねとばかりに顔をしかめた。
「私たちの結婚なんて、自分で相手は決められないわ。そして、結婚した後も、聖女としての役割が優先されるから、相手が誰でも変わらないわよ」








