225 筆頭聖女選定会 一次審査16
一体何があったのかしら、と2人を交互に見ると、アナは素早く床から立ち上がり、安心させるような笑みを浮かべた。
「ちょっとした行き違いよ。私が治癒しようと思った患者とローズ聖女が治癒しようと思った患者が被ってしまったの」
「行き違い? あなたが私の患者を盗ろうとしたのでしょう」
淡々と指摘するローズに対し、アナは諭すような声を出した。
「ローズ聖女はこの部屋を見回っていただけで、誰を治すかの意思表示をしていなかったわ。だから、この患者はまだ誰も担当がいないと思ったのよ」
アナが反論したことが気に入らなかったのか、ローズは目を細めるとそれは違うと言い募る。
「あなたはさっき、私がこの患者に質問していたのを見ていたはずよ。私が声を掛けたのだから、治癒しようと考えていることくらい分かるでしょう?」
どうやらローズは彼女の行動をずっと見ていて、どの患者を治療しようと考えているのかをアナは推測すべきだった、と主張しているようだ。
ううーん、もしかしたらローズは何年も筆頭聖女に仕えているから、いつだって全ての言動が最優先される筆頭聖女の基準を、自分に当てはめているのかもしれない。
けれど、今は次代の筆頭聖女を選ぶ選定会の最中で、ローズが次代のそれに選ばれるかは分からないのよね。
だから、この場において、全ての聖女は平等じゃないかしら、と思ったのは私だけではなかったようで、ケイティが皮肉気な様子で言葉を差し挟む。
「こちらの患者にローズ聖女の印が付いているわけではないし、何かを宣言したわけでもないから、あなたがこの患者を担当するつもりだったってことが、アナに分かるはずないわ。おやまあ、今後はローズ聖女が質問をした患者は全員、あなたが担当すると考えなきゃいけないのかしら?」
「その通りだわ」
当然だとばかりに頷くローズを見て、ちょっと態度は尊大だけど、患者を治したくてうずうずしているのね、と嬉しくなる。
そして、アナがローズと同じ患者を治したいのであれば、私はいい方法を知っているわ、と得意気に皆を見回した。
「あのね、私はさっき、プリシラと一緒に患者を治癒したの! つまり、2人で一緒に治す、という方法があるんじゃないかしら」
自信満々に胸を張ると、アナ、メロディ、ケイティの3人がぎょっとした様子で私を見てくる。
「えっ? プ、プリシラ聖女ですって!?」
「嘘でしょ! あのプライドが高いプリシラ聖女が、フィーアと一緒に同じ患者を治癒したの??」
「というか、待って! プリシラ聖女が担当していた患者は、脚が欠損していたわよね? えっ、フィーア、あなたもあの患者に手を出してしまったの!?」
あら、話がズレたけど、これはこれでちょうどいいわ。
モーリスを治したのはプリシラだという話を皆に広めるチャンスだわ、と考えた私は敢えて神妙な表情を作る。
「ええ、そうなの。教会推薦組のナンバー1聖女であるプリシラなら、色々と教えてもらえると思ったのよ」
私の言葉を聞いた3人は、やってしまったわねといった表情を浮かべた。
「……ああ、そうなのね。フィーアは勉強熱心だものね」
「まあ、気持ちは分かるけど、随分思い切ったわね」
「というか、あのプリシラ聖女に受け入れてもらうなんて、フィーアは大したものだわ。それで、何か身になることはあった?」
私はここぞとばかりに残念そうな表情を作ると、首を横に振る。
「それが、プリシラがあっという間に欠損部位を再生させてしまったから、学ぶ時間がなかったわ。でも、すごい魔法を間近で見ることができた、と言う意味ではためになったのかしら」
私の言葉を聞いた3人は、驚愕した様子で私との距離を詰めてきた。
それから、目を白黒させながら、信じられないとばかりに大きな声を出す。
「は、何ですって?」
「プリシラ聖女が欠損を治したの!?」
「う、嘘でしょう!! えっ、プリシラ聖女ってそこまで優秀だったの!??」
私はうんうんと頷きながら、さらに言葉を続けた。
「そうなのよ、教会にはたくさんの聖女が集められているから、そこのナンバー1というのはとんでもない実力者だったわ! プリシラが私にも手伝わせてくれるって言うから、最後にほんのすこーしだけ魔力を流させてもらったんだけど、格の違いを見せつけられただけだったもの」
私の言葉を聞いた途端、興奮していた3人は落ち着きを取り戻したようで、なぜだか疑うような表情で私を見てくる。
「……フィーア、あなたも患者に魔力を流したの?」
「それで、……患者が治ったのは、あなたが魔力を流した後かしら?」
「私たちはプリシラ聖女がものすごい聖女だということを知っているけど、欠損を治せるほどでは絶対にないわ。フィーアの実力は全然分からないけど、あなたは私たちが想像もできないようなことを次々と成し遂げているわよね」
……3人が何を言いたいのかは分からないけど、よくない雰囲気のような気がするわね。
私はアナたちの質問に答えることなく、もう一度「プリシラはすごかったわー!」と言ったけれど、何度も繰り返したせいか、今度は3人にあまり響かなかった。
困ったわねと周りを見回すと、その場で硬直しているローズと目が合う。
ローズはわずかな時間で倒れそうなほど顔色を悪くしており、実際にふらりとよろけたため、咄嗟に手を伸ばして彼女を支えた。
「ローズ聖女、大丈夫?」
自分の足で立っていられない様子だったため、心配で声を掛けてみたけれど、ローズは真っ青な顔色のままぼそりと呟いた。
「……プリシラ聖女が欠損を治したの?」
「え? ええ、そうよ! それはもう鮮やかなお手並みで、瞬きをする間に患者の足を生やしてしまったわ!!」
たった今、アナたちに対して、『モーリスを治したのはプリシラなのよ大作戦』を実行してみたものの、あまり上手くいかなかった。
けれど、もしかしたらローズ相手ならば上手くいくのかしら、と私は勢い込んで言い募る。
「患者は脚が再生した後、すぐにベッドから下りて、自分の足で歩いていたけど、何の問題も見当たらなかったわ! プリシラはものすごい聖女だわ!!」
私の言葉を聞いたローズはさらに顔色を悪くすると、がくがくと震え始めた。
「プリシラ聖女が……欠損を治した」
ローズの態度を見て、どうやら筆頭聖女お抱えの聖女は純粋培養で、何でも信じてしまうみたいねと考える。
以前、アナたちが何でも信じ過ぎることを心配したけど、ローズはそれ以上みたいだわ。
ん? というか、ローズが何でも信じてしまうのならば、彼女にもずどんを伝授して、他の重症患者を治してもらおうかしら。
そうしたら、この病院の患者を不自然な形でなく治してしまえるし、優れた聖女がたくさん生まれるし、私の実績も薄まるんじゃないかしら。
「私は天才だわ!」
自分の閃きに感心し、思わず自画自賛すると、アナ、メロディ、ケイティが用心するように一歩後ろに下がった。








