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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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218 筆頭聖女選定会 一次審査9

翌朝、私は晩餐室でアナに敗北宣言をした。


「アナ、あなた天才だわ! 魔力回復薬の瓶が空っぽになっているわ」

聖女たちに薬を飲ませるためにこんな方法があったのね、と目から鱗が落ちる思いでアナを称賛する。


私が作製した魔力回復薬を飲んでほしくて、晩餐室のデザートコーナーに薬入りの瓶を置いたのは昨晩のことだ。

しかしながら、市販に出回っている物とは色が異なるため、聖女たちは手を出さないかもしれないと半分諦めていた。

そんな私にアナは任せなさいと言って、「やせ薬」と書いた説明カードを魔力回復薬の前に設置してくれたのだ。


果たしてこんな方法で上手くいくのかしら、と昨夜は半信半疑だったけれど、目の前にある魔力回復薬の瓶は全て空っぽになっていた。

まあ、アナの作戦は大成功じゃないの、と彼女の手腕に感服する。


心から称賛の言葉を贈ると、アナは大袈裟に腰を曲げて深い礼を執った。

「ははあ、偉大なる聖女様に褒めていただいて光栄です!」


アナったら冗談ばっかり、と私は呆れてため息をつく。

「何を言っているの。あなただって偉大なる聖女様じゃない」


私の言葉を聞いたメロディがおかしそうに微笑んだ。

「フィーアってすごいわね。本心でそんな言葉を言えるのもすごいし、そんなことを言っても嫌味に聞こえないのもものすごいわ」


「え?」

「いえ、突出過ぎる天才ってこうなるのね、としみじみと感じ入っているところよ」

ケイティの言葉に首を傾げると、3人は仕方がないわねとばかりに微笑んだ。


何だか昨夜あたりから、アナたちがよく分からないことを言うようになってしまった。

そう思ったものの、まあいいわと聞き流す。

目の前にある美味しそうな朝食を食べること以上に大事なことはない、と思ったからだ。


私たちはたっぷりの朝食を取ると、再び選定会会場に向かったのだった。



馬車の中では、アナ、メロディ、ケイティの3人が賑やかに話を始めた。

内容はもっぱら赤い魔力回復薬についてだ。


「やっぱりまだ信じられないわ! 本当に魔力が全回復しているのよ。しかも、私は一度だって激痛に苛まれていないのに。……世の中には、こんな薬が存在したのね」


「本当に恐ろしくなるわよね。私は昨日、ベッドに入ってから、世の中には私の知らない魔法や薬がたくさん存在するんじゃないかと考え始めてしまったの。そうしたら、恐ろしくなって明け方まで眠れなかったわ」


「分かるわ。私は今、大きな海を見た、井戸から出た蛙の気持ちになっているの。……いえ、フィーアは誰よりも小さいのだけど」


「ほほほ、私は今から身長が伸びる予定だからね。大器晩成型なのよ」

3人に向かって高笑いをすると、呆れたようにため息をつかれる。

「……使い方も、使う相手も間違っているわね」


そんな風に褒められているのか貶されているのか分からないうちに病院に到着する。

視線をやると、昨日私にくっついていた医師が玄関前に立っていた。

玄関にはシリル団長やカーティス団長もいたのだけれど、医師は背の低さを利用して団長たちの間をするりと抜けてくると、脱兎のごとく走ってきて、あっという間に私の前に到着した。


「2日連続で顔を合わせたので、自己紹介させてください! 医師のバート・オッグです。フィーア聖女、本日も付き添わせていただいてもよろしいでしょうか!!」


「えっ、ええ。もちろんだわ」

勢いに飲まれて頷くと、いつの間にか隣に来ていたカーティス団長が嫌そうに顔をしかめた。

「一人の聖女様だけを特別扱いするのは感心しないな。平等を期すために、聖女様たちを等しく扱うべきだろう」


さすがカーティス団長、ごもっともな意見ねと頷いていると、バート医師が勢いよく団長に反論する。

「おっしゃる通りではありますが、フィーア聖女は私たちが全力で作成したカルテの不備を指摘されたのです! これはフィーア聖女のみの偉業です! 私たちは後学のために、フィーア聖女からできる限りのことを学ぶ所存です!!」


「フィー様……」

なぜそんな余計なことをしたのだ、とばかりにカーティス団長が呼びかけてきたので、私は誤魔化すかのようにぱちりと両手を打ち鳴らした。

「あー、そうそう、将来的に医師と聖女が組んで、患者を治す方法を模索しているんですって! そのお試しだと思えば、一対一で組んでやるのもいいかもしれないわね」


私の言葉を聞いたバートは嬉しそうに目を輝かせた後、カーティス団長に向き直る。

「フィーア聖女の許可をいただきましたので、ご一緒させていただきます。しかし、ご安心ください!フィーア聖女は昨日、3人もの患者を治癒されたのです。本日を含めて3日間は回復魔法を使用できないことは分かっております」


力強く自分の胸をどんと叩いたバートを無視すると、カーティス団長は無言で私を見つめてきた。

彼の言いたいことが分かった私は、「あー」と誰にともなく呟く。

「それなんだけど、魔力回復薬を飲んだから、魔力がだいぶ、結構、ほとんど回復したみたいだわ。昨日と同じくらいには魔法が使えるんじゃないかしら」


「はい?」

目を瞬かせるバートに対し、後ろにいたアナ、メロディ、ケイティの3人が元気な声を上げる。


「私も同じ回復薬を飲んだから、魔力が全回復したわ!」

「私も」

「私もよ」


「ええっ!?」

驚きのあまり眼鏡がずり落ちたバートだったけれど、3人の聖女は気にする様子もなく私の手を取った。

「「「フィーア、行きましょう」」」


「えっ、ええ」

バートに魔力回復薬についてしつこく聞かれたらマズいわと思った私は、渡りに船とばかりに3人と一緒に建物の中に入っていく。

その後をバートが慌てた様子で付いてきたので、今後は発言には気をつけよう、と気を引き締めたのだった。



病室前に到着すると、私はそうだわと足を止めた。

言い忘れていたことを思い出したからだ。

私は3人に向き直ると、にこやかに切り出す。

「昨夜飲んでもらった魔力回復薬だけど、まだたくさん残っているの。あと4日くらいなら、全員分もつんじゃないかしら。だから、一次審査の間は毎日、この病院に来られるわね」


私の言葉を聞いたアナは驚いたように目を見開いたものの、すぐに疲れた様子でため息をつく。

「聖女全員分の魔力回復薬が、あと4日分もあるの? 信じられない量ね! 王家はレア薬が湧き出る泉でも持っているのかしら?」


続けてメロディが、両腕でぎゅうっと自分の体を抱きしめた。

「2日連続で回復魔法をかけるのは初めてだから、これでも今日は恐る恐る行動しているのよ。それなのに、あと4日も続けて魔法をかけることができるなんて、未知の世界過ぎて恐ろしいわ」


最後にケイティが諦めたように首を振る。

「フィーアが言っていることは常識外れのとんでもないことだけど、どういうわけかこれっぽっちも嘘だと思わないのよね! たくさん非常識なことを言われたけど、疑うたびに目の前で証明してみせられたから、フィーアは何だってできるんだ、とたった一日で頭が信じちゃったんだわ」


まあ、何ていい傾向かしらと思った私は、今日の本題に入る。

「私を信じてくれて嬉しいわ。それで、私たちにはあと4日も残っているでしょう。ここら辺で重症者を治すのはどうかしら」


「えっ、それはさすがに無理でしょう!」

「重症者の病室には、3年以上もの間、症状が固定している患者が集めてあるのよ!」

「前にも言ったけど、過去の傷に回復魔法はほとんど効果がないわ!!」


否定的な意見を口にする3人に、私は回復魔法の真理を口にする。

「古傷を治す時に大事なのは勢いよ。勢いがあれば何とかなるわ」


「……そのフレーズには聞き覚えがあるわ。フィーアは昨日も同じことを言っていたわよね」

さすがアナね、大事なことをよく覚えているわ。


私はにこりと微笑むと、さあ、これからこの3人をその気にさせないといけないわ、と説得を開始する。

「考えたのだけど、怪我や病気が酷い時は、複数人の聖女で治療にあたるわよね」


「……必要がある場合はね」

アナは用心深そうな表情を浮かべると、条件付きで肯定してきた。

まあ、いつになく慎重ね。


そう思ったものの、笑顔を保ったまま言葉を続ける。

「それでね、この4人で一気に治癒すれば、ものすごい勢いがつくと思うのよ」


「……複数人で治癒に当たるのは、必要がある場合だけだからね」

メロディも珍しく即答しない。

おかしいわね。私は笑顔でいい話をしているのに、何を疑われているのかしら。


不思議に思いながらも、説得する手を緩めることなく、勢いよく言い切った。

「今日は朝ご飯をいっぱい食べたから、4人でやればどんな治療でも上手くいくはずよ!」


私の提案は素晴らしいものだったのに、ケイティが身もふたもない言葉を返してくる。

「でも、フィーアに私たちは必要ないわよね! あなたなら一人で治療できるんじゃないかしら?」


「まあ、何を言っているの! 私は正に今、アナとメロディとケイティの力が必要だって言っているのに。それに、重症者の患者は一人で治療してもあまり効果が出ないんでしょう? そうであれば、4人で治療に当たるべきだわ」


びっくりして言い返すと、アナは悩む様子で首を捻る。

「そうなのよね。いくら聖女でも重症者を治せるわけがないんだけど、どういうわけかフィーアなら一人で治しそうな気がするのよね」


アナったら鋭いわね。

もしかしたら彼女は感知能力に長けた聖女で、相手の魔力量が何となく分かるのかしら。


どきりとしたものの、アナはそれ以上言い募ってこなかったので、まあまあ、とりあえず患者を見てみましょう、と軽い調子で3人を重症者の病室に引っ張っていく。


病室前に到着したところで、アナが扉横に設置してあるボードを見上げながら質問してきた。

「フィーア、あなたが治したい患者の名前は分かる?」

「ええ、モーリスと言うの」


私の言葉を聞いたアナは、視線をボードに固定したまま顔をしかめた。

「ちょっと遅かったようね」


「え?」

どういうことかしらと聞き返す私に、アナはボードを指し示した。


「プリシラ聖女がモーリスの担当になっているわ」

いつも読んでいただきありがとうございます!

年度末の忙しい時期に突入しましたので、4月末くらいまで更新が不定期になります。

お楽しみいただいている皆様には申し訳ありません。よろしくお願いします。

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