216 筆頭聖女選定会 一次審査(時間外) 前
筆頭聖女選定会が行われる間、聖女たちは王城に宿泊する。
当然のこととして、王城では食事が提供されるし、聖女は自由に晩餐室を使用できることになっている。
そのため、私はアナ、メロディ、ケイティの3人と連れ立って晩餐室に向かった。
一緒に夕食を食べる約束をした時に、皆が「ご当地の特産品を持ってくるわね!」と言っていたので、だったら私も、と小さな瓶をたくさん詰め込んだ籠を手に持つ。
席に着くと、アナは早速オレンジ色の液体が入った大きな瓶をテーブルの上に置いた。
「往復する期間を含めると、結構な日数を地元から離れることになるでしょう。ホームシック対策として、地元の味を持ってきたの」
そう言うと、アナは4つのグラスにオレンジ色の液体を注いでいく。
「これはね、私が住んでいる地域特有の柑橘で作ったジュースなの。これを飲むと、腸の働きがよくなるのよ」
その隣ではメロディが綺麗な缶を取り出して、ぱかりと開けた。
「私は蜂蜜漬けのナッツを持ってきたわ。この蜂蜜はレアな魔物である暴虹蜂のものなのよ。だから、信じられないほど甘くて、一口食べるとほっぺが落ちるわよ」
ケイティは枯れた葉っぱに包まれた茶色い食べ物を空いた皿の上に載せる。
「私は魚の燻製よ。私が住んでいる地域にしか棲まない魚で、この卵を食べると将来子だくさんになるらしいわよ」
最後に私も、皆の真似をして小さな瓶を3人の前に並べた。
「私は王室特製の魔力回復薬を持ってきたわ。痛みなし苦みなしの良品で、飲むと朝までに全魔力が回復するのよ」
「…………」
「…………」
「…………」
笑顔で特産品アピールをしていた3人が、突然表情を消したので、あれ、ご当地アピールを入れるべきだったかしらと反省する。
「言い忘れていたけど、この魔力回復薬には王城の庭に生えている薬草を使っているの。だから、間違いなく王城特産品と言える代物よ」
胸を張る私に、アナは気のない様子で答えた。
「……うん、それはどうでもいいわ」
えっ、どうでもいいのね。
がっかりする私に目もくれず、メロディは魔力回復薬が入った瓶を手に取ると光にかざす。
ガラス瓶に入った液体はシャンデリアの光を浴びて、きらきらと深紅に輝いた。
「魔力回復薬って透明じゃなかったかしら。それから、超激痛あり、悶絶必至の問題薬で、丸一日苦しんだあげく、やっと魔力の半分が回復するものよね」
ケイティはうんうんと頷きながらローブのポケットを探ると、小さな瓶を取り出す。
「さらに死ぬほどマズいわ。選定会に参加する以上、最善を尽くさないといけないから、魔力回復薬を飲まなきゃいけないかしら、って考えて憂鬱になっていたところよ。ほら、一応持ってきたけど、これが魔力回復薬よ。どう見ても透明よね」
確かに透明ね。
でも、赤い色が正解だから、きっとこの薬も回復薬と同じで、材料が不足しているか作り方が間違っているんだわ。
「魔力回復薬の材料には赤い実が使われるのだけど、それが入ってないのかもしれないわね」
一般に出回っている魔力回復薬は効き目が悪いし、激痛まで伴うのだから、何かが大きく間違っているのは確実だ。
私の言葉を聞いたアナは、そうねと言いながら頷いた。
「ここまで色が違うんだから、この2つの魔力回復薬の材料が異なるのは間違いないでしょうね。でも、私たちが教会で使っている透明の魔力回復薬が失敗品ってことは、さすがにないはずよ。だって、もうずっと長いこと、聖女の全員で使ってきたんだから」
アナは私が持ってきた魔力回復薬の方が失敗作だと言いたいのね。
確かに、聖女たちが常用している魔力回復薬が失敗作だなんて、普通は考えないわよね。
いえ、激痛を伴う割には効果が薄いから、ほとんど使われていないってことだったかしら。
「だったら、私が持ってきたものは滋養強壮薬と思ってちょうだい。これを飲めば元気になるわよ」
3人が受け入れられそうな言葉に言い換えると、アナ、メロディ、ケイティの3人はこわごわと赤い魔力回復薬が入った瓶を見つめた。
「……お腹が痛くなったりするのかしら?」
「ならないわ」
「ものすごく苦いんでしょうね」
「いえ、甘いフルーツの味がするわ」
「教会から持ってきた魔力回復薬との飲み合わせは大丈夫かしら?」
「……それはあまりよくないかもしれないわね。たとえば食前にこの滋養強壮薬を飲んだら、ケイティが持っている透明の魔力回復薬は、食後まで飲まない方がいいわ」
本当は私が作った魔力回復薬と他の薬を一緒に飲んでも問題はなく、悪作用が出ることはないのだけど、苦くて痛みが出ると分かっている薬を飲んでほしくなかったため、適当なことを口にする。
3人には『飲むと朝までに全魔力が回復する』と説明したけど、実際にはそんな時間は必要なく、食事をする間に全回復するはずだ。
3人がそのことに気付いたならば、不良品である魔力回復薬を飲まないで済むんじゃないかしら、と思っての発言だ。
アナたちは無言で頷くと、魔力回復薬が入った瓶をしっかりと手に持ち、ごくごくごくと一気に飲み干した。
「カッコいいわね!」
同じ一気飲みでも、騎士たちのアルコール一気飲みとは違って気品があるわ。
そう感心しながら、アナたちが持ってきてくれた特産品を摘まんでいると、侍女たちが現れて夕食を並べてくれた。
豪華な王城料理に舌鼓を打ちながら、こんなに美味しい夕食を食べられるなんて、筆頭聖女選定会は何て素晴らしいのかしらと感動していると、アナが不思議そうに自分の体を見下ろした。
どうしたのかしらと見ていると、アナは手や腕、足をしきりと振り回しながら小首を傾げている。
アナは何をしているのかしら、とメロディとケイティを見ると、2人も同じように自分の体を見下ろして腕を振り回していた。
まあ、もしかしたら教会出身の聖女は、食事の途中に自分の体を見下ろしたり、腕を振り回したりする習慣があるのかしら。
あるいは、実際に何かを確認しているのかしら……はっ!
ぴーんと閃いた私は、3人に話しかける。
「3人とも、もしかしたら王城料理が美味しくて、食べ過ぎたことに気が付いたのかしら?」
でも、いくら食べ過ぎたとしても、そんなにすぐお腹にお肉がつくことはないんじゃないかしら……と思いながら3人を代わる代わる見ると、動揺した様子の全員と目が合った。
「「「フィーア!!」」」
「えっ、どうしたの?」
「信じられない話だけど、魔力が回復してきた気がするわ!」
「ああ……」
時間的に考えて、全回復しているんじゃないかしら。
そう考えながら3人を見守っていると、アナたちは興奮した様子で言葉を発した。
「こんなことがあり得るかしら? だって、私はこれっぽっちも痛みを感じなかったのよ!」
「美味しい晩御飯を食べていたら、魔力が回復するだなんて、そんな都合がいいことがあるわけないわよね!?」
「一晩中床をのたうち回っても、半分も回復しないのが魔力なのに、ほとんど全部回復している気がするわ! 一体私の体に何が起こっているのかさっぱり分からないわ」
「私には分かるわ。これで、明日も病院の患者を治療できるってことよ」
至極当然の答えを返すと、3人は驚愕した様子で私を見つめてきた。
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