214 筆頭聖女選定会 一次審査8
同じように教えたとしても、相手が希望して学ぶか、いやいや学ぶかによって、身につき方に差が出るはずだ。
そう考え、皆が飛びつくような魅力的な魔法を演出してみたつもりだけど、誰も食いついてこないところを見るとイマイチだったようだ。
他に皆の興味を引く方法を思いつかなかったため、私はこれ以上の回復魔法の押し売りを諦めると、アナたちに顔を向けた。
「私の治療はこれでおしまいよ。次はあなたたちの番ね」
すると、3人はまるで夢から醒めたかのようにはっと目を見開き、信じられないといった声を出した。
「フィーア、あなたものすごい聖女だったのね!」
「国王推薦の聖女の実力を勘違いしていたわ! こんなにレベル差ってあるものなのね」
「同じ魔法のはずなのに、違い過ぎて何が起こっているのかよく分からなかったわ!!」
あれ? もしかしたら少しは皆の興味を引けたのかしら。
だとしたら、ここで回復魔法を押し売らないといけないわね。
私はにまりとすると、説明を始める。
「私は独学で学んだから、教会で見慣れている魔法とは違うものに感じるかもしれないけど、全く同じものなのよ」
「「「いや、全然違うわ!!」」」」
顔をしかめる3人に、まあまあと言いながら話を続ける。
「私は回復魔法のコツを掴んだから、効率的な魔法を発動できるのよ。3人には特別に、私が長年かけて編み出した最高の方法を伝授するわね」
より興味を持ってもらうために、一段声を低くしてみる。
「構え方は好きにしていいし、呪文も慣れたもので構わないわ。でも、結局は勢いなのよね。いい? ……ここぞと思ったらずどんよ!」
最後の方は、すごい感じを演出するため、両手をばっと前に突き出す。
さあ、これが前世の人生をかけて編み出したとっておきの方法よ! と胸を張ると、なぜだか3人は頭痛がするとでもいうように頭を押さえた。
「…………」
「…………」
「……よく分からないわ」
それだけではなく、ケイティから分からないとはっきり言われてしまう。
「えっ」
ものすごく嚙み砕いて説明したのに、分からないと言われてしまったわ。
これ以上の説明なんて、私にはできないわよ。
困り果てた私は、もう一度皆の前で実践しようと考える。
「……じゃあ実際にやってみるから、見ていてね」
言葉だけの説明を諦めた私は、見て理解してもらおうと隣のベッドに寝ていた患者に顔を向けると、笑顔で話しかけた。
「こんにちは、今から治療してもいいですか?」
患者がおっかなびっくり頷くのを確認すると、カルテに視線を落とす。
「ええと……この方の症状は目のかすみね。つまり、目の周りだけ魔法をかければいいのね」
私は両手を構えると、アナたちをちらりと見た。
「分かりやすいように、ずどんのタイミングを声に出すわね。……いくわよ。『回復』 ずどん!」
私が呪文を口にすると同時に、私の手から魔法が発動し、患者の目元がギラギラビカビカ光る。
エフェクトを大きくして視覚的に分かりやすくしたうえ、ずどんのタイミングまで伝えるなんて、我ながら何て分かりやすいのかしら。
自分の伝授方法に満足し、どうかしらと自信満々に3人を振り返ったところ、アナたちは目を見開いて患者を見ていた。
それから、3人は何かを悟ったような表情で頷く。
「……ありがとう、フィーア。あなたがものすごく親切で、ものすごく優秀な聖女だということが分かったわ」
アナは褒めてくれたものの、肝心の魔法についてのコメントがなかったので、理解できたかしらと尋ねてみる。
「褒めてくれてありがとう。それで、効果的な魔法のかけ方は分かったかしら?」
すると、メロディが真顔で首を横に振った。
「間違いなく私には経験が不足しているみたいね。フィーアの言葉を理解できるようになるには、あと100年ほど訓練が必要だわ」
「メロディったらどうしたの? あなたは選定会に参加するほどの聖女なのよ」
突然気弱になったメロディに驚いていると、今度はケイティが大きなため息をつく。
「問題はそこよね。こんな風に限界人数を超えて次々と治療していくフィーアと同じ選定会に参加することが、申し訳なくなってきたわ。でも、こうやって実力差を理解させることがこの会の目的でしょうから、これはこれで正解なのかもしれないわ」
よく分からないけど、私の説明が理解できなくて、全員落ち込んでいるようだ。
そう言えば、前世の聖女たちも『ずどん』の意味とタイミングが分からない、とさかんに言っていたことを思い出す。
……もしかしたら、私の教え方が悪いのかしら。
「ええと、もしかしたら私の説明は分かりにくいのかもしれないわ」
恐る恐るそう言うと、3人はそうではないと首を横に振った。
「いいえ、フィーアは最善を尽くしてくれたわ」
「天才には天才の教え方があるから、凡人が汲み取らないといけないのよ」
「だって、フィーアにはできちゃうんだから、それ以外の教え方はできないわよね」
そう言うと、3人はなぜか壁際でうんうんと頷いていた医師と、分かり合ったような視線を交わし合った。
まあ、いつの間に医師と仲良くなったのかしらと驚いていると、アナたちは気を取り直した様子で笑みを浮かべた。
「フィーア、『ずどん』は理解できないけど、患部に集中して魔法をかけるってことは理解できたわ。やってみるから、見ていてくれる?」
もちろんよと頷くと、3人は患者に近付いていった。
黙って見守っていると、アナたちは治癒する患者を選択し、それぞれ患者に話しかけたり、体に触れて確認したりしている。
しばらくすると、3人は緊張した様子でカルテにもう一度目を通した後、患者に向き直った。
それから、患者に向かって手をかざすと、それぞれ定められた呪文を口にする。
「慈悲深き天の光よ、我が魔力を癒しの力に変えたまえ―――『回復』」
3人が言い終わると同時に、それぞれの手から魔法が放出され、ゆっくりと患者の体を包み込んでいった。
3人とも患部にだけ魔力を流そうとしているようで、初めのうちは患者の体全体を包んでいた魔法が、次第に患部に集まっていく。
残念ながら、完全に成功しているとは言えなかったけれど、明らかに他の部分よりも患部が光っていたので、患部に集中して魔法をかけることができているようだ。
3人とも手ごたえを感じているのか、嬉しそうな表情で魔法を行使し続けている。
「……終わったわ!」
しばらくの後、患者を治療し終わった3人は、満足した様子で手を下ろした。
それから、キラキラした目で私を見つめてくる。
「フィーア、できたわ! ものすごく難しかったから、完全に成功したとは言えないけど、やり方のコツは掴んだわ! ああー、ありがとう! 目の前で見せてもらったから、『こんな治し方がある』と理解することができたわ! フィーア、あなたはすごいわ」
「アナの言う通りよ。目の前で見せてもらうのって、ものすごくありがたいことね。正解が分かっているから、目指すべき形が分かるもの。フィーア、教えてくれてありがとう」
「フィーアは私に新しい道を示してくれたのよ! やり方を変えただけで、いつもより短時間で終わったし、魔力も少しだけど残っているもの。フィーア、本当にありがとう」
「どういたしまして」
手放しで褒められたことで、3人がいかに優れた聖女になりたいと考えているかが伝わってきて嬉しくなる。
「3人とも、とっても上手だったわ!!」
笑顔で褒めると、3人は歓声を上げながら私に抱き着いてきた。
「えっ?」
「フィーア、ありがとう! 私はあなたについていくわ!」
「ええ、こんなにとっておきのやり方を、出し惜しみすることなく教えてくれる聖女ならば信じられるもの!!」
「あなたみたいに独創的で有効的な技を知っている聖女なんて、他にいないわ」
まあ、3人とも魔法の技術が向上したことを喜んでいるのね。
「うふふふふ、聖女っていいわね」
魔法一つで分かり合えるんだもの。
嬉しくなった私は3人をぎゅっと抱き返したのだった。
その後、私はアナたちと別れた。
3人は魔力のほとんどを使ってくたくたになっており、すぐさま王城に戻って休みたいと希望したからだ。
一方の私は、他の聖女たちの魔法が見たかったため、全員がいなくなるまで病院に残ると皆に告げる。
そして、実際に最後まで残ったのだけど、その甲斐あって、3人の聖女の魔法を見ることができた。
さすが選定会に参加する聖女だけあって、全員とも素晴らしい回復魔法だった。
ただし、プリシラとローズは既に治療を終えた後のようで、病院に残っておらず、彼女たちの魔法を見ることはできなかった。
最後の聖女が病室を出て行ったのを確認すると、今日はここまでねと私も部屋を出る。
その際、患者を治療した後もずっと私に付き従っていた医師が、深々と頭を下げてきた。
「聖女フィーア様、赤い花が見えるようになるため、毎日精一杯精進いたします!!」
「え、ええ、無理はしないでね」
根を詰めそうなタイプに見えたので、ほどほどにねと返しておく。
すると、医師は笑顔で距離を詰めてきた。
「ご心配いただきありがとうございます! 明日以降も、お待ちしております!!」
「え、ええ、またね」
さすが医師ね。仕事熱心だわ。
手を振って別れたところで、廊下に待機していたカーティス団長とシリル団長から声を掛けられる。
「フィー様、お待ちしておりました!」
「フィーア、お疲れさまでした。遅くなったし、疲れたでしょう」
顔を向けると、カーティス団長は心配そうな、シリル団長は穏やかな表情を浮かべていた。
シリル団長を見たことで、特別な役目を仰せつかっていたことを思い出し、きりりとした表情を作る。
「特別業務の実施タイミングを見計らうため、聖女たちを観察していて遅くなりました。初日から全力を見せるのも何ですので、今日は手堅く皆さんの様子を見ていたところです。あ、でも、聖石の動作確認はしましたよ。サザランドの聖女たちがたくさん魔力を詰め込んでくれたので、中等症や重症の患者も治せそうです」
最終的にはこの病院にいる全ての患者を治すつもりなので、後で苦情を言われないよう予告しておく。
シリル団長はおかしそうに微笑んだ。
「ふふふ、勇ましいですね。聞きましたよ。軽症者を2人も治したうえに、聖女様のサポートまでしたらしいですね。フィーアの勢いがあれば、この病院にいる患者の大半を治してしまいそうです」
大半ではなく全員治します。
とは思ったけれど、披露する必要がない情報のため口を噤む。
シリル団長の隣ではカーティス団長が顔をしかめていたけれど、気付かないふりをすると、視線をシリル団長に固定した。
それから、聞きたいことがあったのだわ、とシリル団長をひたりと見据える。
「シリル団長、一つお尋ねしてもいいですか」
「はい、何でしょう」
「今回の患者の中に、モーリスという名前の元騎士がいました。ご存じですか?」
シリル団長はコンマ数秒ほど動きを止めたけれど、すぐに何でもない様子で笑みを浮かべると肯定の返事をした。
「ええ、知っています」
言葉少なに返してくるシリル団長を見て、普段の団長らしくないわねと思いながらモーリスの話を続ける。
「10年前に、『やんごとなき身分の騎士』をかばって両足を欠損したのだと、本人から教えてもらいました。そのやんごとなき身分の騎士は、サヴィス総長かシリル団長、もしくはデズモンド団長のことかなと思ったのですが」
シリル団長は驚いた様子で目を見張った。
「まさか、モーリスがあなたにそう言ったのですか? 彼はそのようなことを自ら話すタイプではないはずなのに。……フィーア、あなたは彼に何をしたのですか?」
「えっ、話をしました」
それから、彼が常時悩まされていた痛みを取り去ったけど、モーリスにはおまじないと説明したことだし、シリル団長に言う必要はないわよね。
「本当に話をしただけですか? それだけで、モーリスがあなたにそれほど個人的な話をしたのですか?」
信じられないとばかりに質問をしてくるシリル団長に、私はこれでもかと胸を張る。
「ふっふっふ、その話の内容が重要なのです! 私はモーリスの立派な筋肉を見て、元騎士であることを即座に見抜きましたからね!! モーリスは私の洞察力に恐れ入ったのだと思います!!」
こんなことは、現役の騎士である私だからできることよね!
そう得意げな表情を浮かべたけれど、私の言葉を聞いたシリル団長は、よろりと一歩後ろによろめいた。
「……それは確かに、モーリスには衝撃だったでしょうね」
「衝撃?」
言われた意味が分からずに首を傾げると、シリル団長は真顔で返してきた。
「今のフィーアの見た目は、どこからどこまでも神聖なる聖女様ですから。まさか清廉なる聖女様がモーリスの体を眺め回し、『その筋肉は元騎士のものだ!』と断定するとは思いもしなかったはずです。モーリスがどぎまぎして、普段にないことを口走ったとしても仕方ありません」
おやおや、シリル団長ったら特別任務を与えるほどの腹心の部下を痴女扱いですか。
「ほほほ、シリル団長、私は入団間もない新人騎士ですよ。私の言動に問題があるとすれば、それらは全て直属の上司である騎士団長のせいです!」
「何ですって?」
「もしも私が痴女だと言うのならば、それはシリル団長が行った痴女教育の賜物です!!」
胸を張って断言すると、シリル団長はよろよろとさらに数歩後ろに下がった。
それから、信じられないといった声を上げる。
「私がそのような教育をするはずがありません! フィーア、あなたの言動の原因は私の教育ではなく、あなたが生まれ持った資質によるものです」
まあ、シリル団長ったら往生際が悪いわね。
この場でどれほど抵抗しても、負け戦なのは確定しているのに、反論してきたわよ。
こうなったら、仕方がないわ。
「カーティス団長!」
私はいついかなる時も、必ず私の味方になってくれる元護衛騎士の名前を呼ぶ。
すると、どこまでも察しのいいカーティス団長は、即座に私に同意してきた。
「フィー様に痴女の資質などあるはずがございません! 間違いなくシリルの指導が間違っています!!」
「ほほほ、シリル団長、正義の審判を聞きましたか?」
カーティス団長という心強い後ろ盾を得た私は、完全勝利を確信してシリル団長を見つめたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
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