213 筆頭聖女選定会 一次審査7
回復魔法を使用する際に詠唱していない、と指摘された私は、そこが気になるのねと思いながらアナたちを見返した。
実のところ、詠唱すべきかしら、と一瞬迷ったのだ。
けれど、私はこれまで回復魔法を何万回もかけたことがあって、詠唱の一文字一文字に強い力を込めているから、省略せずに詠唱したら大変なことになる、とすんでのところで気付いて止めた。
もしも私が呪文の全てを詠唱したならば、恐らく、この建物の中にいる人たちは全員、治癒されてしまっただろう。
そんな事態になったらさすがに言い訳できないわと考えて、敢えて省略したのだ。
だから、私の選択は間違っていないはずよ。
「えーと、その……これは大聖女様のやり方なのよ」
私は誰にでも通用するであろう、万能の言い訳を口にする。
この『大聖女のやり方』という言葉は便利よね。
これさえ口にすれば、魔法の言葉のように皆が納得してしまうもの。
……と考えた私は甘かったようで、アナが驚いた様子で目を丸くした。
「それも本から得た知識なの? まさかとは思うけど、フィーアは本で読んだだけで、大聖女様の魔法を同じように再現できるの!?」
続けてメロディが信じられないとばかりに大きな声を出す。
「あなた、天才だわ!!」
ケイティも大きく頷く。
「ええ、本を読んだだけで大聖女様と同じことができるなんて、考えられない!!」
「え、いや、思っているほど大したことではないのよ」
困ったわ、この3人は相手を褒め過ぎるんじゃないかしら。
ここはさらりと流してほしかったのだけど。
困った私は笑って誤魔化すことにする。
「うふふ、大聖女様の禁書にはとても詳細に、大聖女様の魔法について記載してあるから、私は見様見真似でやっているだけよ。私にもできるってことは、意外と簡単なのかしら」
作り笑いを浮かべて皆を見ると、アナ、メロディ、ケイティはもちろん、汗だくになった2人の聖女、それから患者たちも目を丸くして私を見ていた。
誰もが無言のまま私を見つめてくるだけだったので、居心地が悪くなった私は沈黙を破ろうと、先ほどまで憤っていたルドミラに質問する。
「ええと、それで、もう一か所患部が残っていたことは、理解できたかしら?」
あれほどギラギラビカビカ光ったし、スローモーションに見えるくらいゆっくりと魔法をかけたから、見えないはずはないと思うけど。
どうかしらと首を傾げると、ルドミラは怒っていた表情から一転、ぽかんと口を開けると、その表情のまま大きく頷いた。
「あ、分かったのね。よかったわ」
ルドミラに分かってもらえたのなら目的達成ね、と話を打ち切ろうとしたけれど、誰もが驚いた表情のまま動かない。
仕方がないわね、と思った私はこの場を収める言葉を口にする。
「ええとね、ここだけの話、私は魔力が少ない分、他の方の魔法を真似るのが得意なのよ」
精霊と契約していない以上、前世の魔力の10分の1しか使えないから、あながち嘘ではないわよね。
「魔力が少ない? そんなに一瞬で魔法をかけておいて?」
「えっ、一瞬?」
ものすごく遅かったわよね。
とは思ったものの、そう言えば先ほどのルドミラたちは30秒とか、50秒とかかかっていたことを思い出す。
もしかしたら私はこの2人を基準にしないといけなかったのかしら。
しまった、普段の私を基準にしてしまったわ。
「えっと、魔法の速度については、王様にもらった古の秘密グッズを使用して底上げしているのよ。選定会のルールには抵触しないらしいから」
国王推薦の聖女ってのは、思ったよりも便利ね。
困った時は、『王のおかげ』って言っておけばいいんだもの。
実際に王城の宝物庫には、色々とすごい物が入っているはずだから、私が言ったようなグッズもあるかもしれないしね。
これ以上話をするとボロが出る、と思った私はくるりと体の向きを変えると、事務官と医師に向き直る。
対応する相手を変えることにしたのだ。
「回復魔法のエフェクトが見えたかしら? 胸部が少し悪かったみたいね」
先ほど話をした時の印象では、医師はおとなしいタイプに見えたため、すぐに納得してもらえると思ったからこその相手変更だ。
それなのに、どういうわけか医師は先ほどまでとはがらりと雰囲気を変え、興奮した様子で私に詰め寄ってきた。
「聖女様、どうして分かったのですか? 聖女様は先ほどの患者を担当しておらず、遠くから治癒場面を眺めていただけですよね? どうして患部が残っていると分かったんですか!!」
さすが医師ね。細かいことを聞いてくるわ。
「一目見たら、相手が子どもか大人か分かるわよね。それと同じことよ」
「意味が分かりません!」
そうなのね、ものすごく分かりやすく言ったのに。
「ええと、それじゃあ、ほら、あの花瓶には赤い花と白い花が挿してあるでしょう。あの中から赤い花だけ選びなさいと言ったら、間違いなく抜き取れるわよね。そういうことよ」
「実際の場面では、私には全て白い花にしか見えないはずです!!」
難しいわね。私は一目見て分かるものを、一目見て分からない者にどうやって説明すればいいのかしら。
面倒になった私は、にこりと笑みを浮かべる。
「そのうちに、白い花の中に赤い花が見えるようになるんじゃないかしら」
それから、話を変えてしまおうと、アナたちに提案する。
「ところで、ちょうど事務官の方がいるから、私たちも患者を治すのはどうかしら」
「え? え、ええ、そうね。でも、フィーアは今、魔法を発動させたばかりだから、今日は止めておいた方がいいのじゃないかしら」
メロディが心配そうに尋ねてきたので、問題ないわと手を振る。
「大丈夫、さっきのは魔力を全然使ってないから」
「ぜ、全然使ってないの? ものすごくビカビカ光っていたから、大変な魔力量だと思ったけど」
ああー、それはエフェクトの効果を普段より派手にしただけだから、使用した魔力量とは関係ないのよね。
「私は必要な部位に必要なだけの魔力しか使わないから、他の方よりも少ない魔力で済むの」
多分、ルドミラの半分以下の魔力しか使っていないはずだ。
半信半疑の表情をされたので、一人の患者に近付いていく。
「じゃあ、見ていてちょうだい。この方の症状は……『指先の痺れ』だから、両手の指先だけに魔法をかけるわね」
さっきの魔法でも速過ぎるって言われたから、もっとゆっくりかけた方がいいわね。
分かりやすいように、エフェクトは今回も派手にしておこう。
「回復」
呪文を唱えると同時に、私の手から魔法が発動し、患者の指先を包み込む。
それから、きらきらと2秒ほど輝いた後、すっと患部に吸い込まれていった。
上手くいったわ。見ていてすごく分かりやすかったんじゃないかしら。
「ね?」
笑顔で聖女たちを振り返ると、アナたちは興奮した様子で歓声を上げた。
「すごいわ! 一から治療したのに、今度もほんの一瞬だったわ!!」
いや、2秒はかかったわよね。
「フィーアったらものすごいコントロールだわ! 本当に指先だけにしか魔法をかけないなんて、どうやったらそんなことができるのかしら!!」
実際には、初めに患者の体全体に魔法を巡らせて、他に悪いところがないかを確認したんだけど、それは速過ぎて見えなかったようね。
これは後日覚えればいいことだから、今日は割愛するけど。
「今度もまた詠唱しないのね。フィーアの魔法はどうなっているの!?」
うーん、詠唱できない理由があるというか、詠唱ありで魔法をかけた場合の結果に責任が取れないというか、私には呪文を省略する以外の方法が採れないのよね。
3人の質問はどれも答えるのが難しかったので、にこにこと笑っていると、側で見ていたルドミラまでもが震える声で質問してきた。
「し、信じられない。こんな短時間のうちに2度も魔法をかけるなんてありえないし、あんなに正確に患部にだけ魔法をかけることなんてできるはずもないし、もう2人も治癒しているのに汗一つかいていないなんて、一体どれだけ魔力があるの!?」
あらあら、私の初めの話を聞いていなかったようね。
「私の魔力量は多くないわ。患部にだけ魔法をかけるから、他の方よりも少ない魔力で魔法が使えるだけよ」
精霊と契約しない今世において、私のやり方はとっても有効なはずよ。
さあ、ぜひ真似してちょうだい!
そう考えて胸を張ったけれど、その場に落ちたのは沈黙だけで、私に教えてほしいと希望する声は一つも上がらなかった。
あれ?
いつも読んでいただきありがとうございます!
3/13(水)に大聖女コミックス10巻 & 大聖女ZEROコミックス1巻が、3/15(金)に大聖女ZEROノベル4巻が発売されます。
どうぞよろしくお願いします。








