211 筆頭聖女選定会 一次審査5
「アナ、メロディ、ケイティ、話があるの! どの患者を治すべきかについて答えが出たわ! 正解は『一番の重症者を治すべき』よ!」
モーリスと別れた後、廊下の隅で話し合いをしている3人に再会したため、私はチャンスとばかりに駆け寄ると、自分のアイディアを披露した。
この3人の力を借りて、モーリスを治してしまおうと考えたのだ。
けれど、残念ながら思うようにはいかなかった。
3人は呆れたように私を見ると、ため息をついたからだ。
「フィーアったら、それは絶対に選んではいけないカードよ!」
「フィーアは若いから、最も酷い患者を治すことが煌びやかな道だと思い込んでいるのでしょうけど、自分の力を過信してはいけないわ。聖女は万能でないから、古傷は絶対に治せないのよ」
「というか、いいタイミングね。たった今、ここは軽症者を治して手堅くポイントを稼ぐ場面だということで一致したわ」
ああーっ、何ということかしら。正論で言い負かされてしまったわ。
もう少し相談の仕方を工夫するべきだったかしら、と項垂れたけれど、大丈夫、まだ時間はあるわと自分に言い聞かせる。
第一次審査は5日かけて行われるから、そのうちの1日だけ協力してもらえればいいはずだもの。
というか、私たち以外にもプリシラやローズといった聖女がたくさんいるから、ひょっとしたら彼女たちが治してくれるかもしれないわ。
その場合は、彼女たちの魔法をぜひ見たいわね。
様々に思考が入り乱れながらも、ここは3人の言葉に従おうと大きく頷く。
「皆の言う通りね! 今日は軽症者を治すことにするわ」
まずは基本に立ち返って、3人の回復魔法を見せてもらいながら、色々と学び合うことにしよう。
笑顔で3人に同意すると、アナたちは満足した様子で頷いた。
「フィーア、焦ってはいけないわ! 私たちも最初は意見が分かれたの。というか、他ならぬ私自身が中等症の患者を治療しようと言い出したんだけど、2人に説得されたの。中途半端なまま完治できないで終わるよりも、まずは軽症者を治して様子を見ることにしようって」
「今回は医師のカルテがあるから、普段よりも少ない魔力量で治せる気がするけれど、まずはどれくらいのことができるのかを試してみた方がいいはずよ」
「一人でも多くの患者を、完全に治すのがベストだと思うわ」
3人ともしっかりした考えを持った堅実な聖女だわ、と感心しながら軽症者の病室に連れ立って歩いていく。
扉を開けて入室すると、そこには既に2人の聖女がいて、患者の様子を確認しているところだった。
「あの2人は、地方教会出身の聖女よ」
2人の聖女をこっそり指さしながら、アナが小声で教えてくれる。
彼女たちが対応していた相手は、それぞれ『咳が止まらない』患者と、『声がかすれる』患者だった。
しばらく見ていると、聖女たちは患者を一通り確認した後、手をかざして呪文を唱え始める。
「慈悲深き天の光よ、我が魔力を癒しの力に変えたまえ―――『回復』」
「慈悲深き天の光よ、我が魔力を癒しの力に変えたまえ―――『回復』」
2人の聖女が口にした呪文は全く同じもので、先日、シャーロットが唱えたものとも同じだった。
どうやら教会では、統一した呪文を教えるようだ。
興味深く見守っていると、聖女の手から回復魔法が放出されて患者を包み込んでいった。
医師が作成したカルテに、この2人の症状はそれぞれ『咳が止まらない』『声がかすれる』と記載されていたため、その部位を集中して治そうとしているようで、患者の首元を中心に魔法が発動している。
けれど、なかなか上手くはいかないようで、結局は全身に魔法が広がっていた。
カルテに記載されている患部以外にも治癒すべき部位があるのならばいいけれど、そうでなければ魔力の無駄遣いになってしまうわ。
そう思いながら、2人の魔法を見守る。
……10秒、20秒、30秒、35秒。
声がかすれていた方の患者の治療が終わったようで、聖女がかざしていた手を下ろした。
……40秒、50秒、52秒。
咳が止まらない患者の治療も終わったようだ。
聖女たちは汗びっしょりになっていて、いかに多くの魔力を行使したかを全身で物語っていた。
言いたいことだらけだったけれど、ぐっと我慢すると一つだけに絞る。
「お2人とも、素晴らしい回復魔法だったわ。ただ、『声がかすれる』患者の方は、胸部にまだ少し病気が残っているのじゃないかしら?」
翌日に治療を持ち越したいのだろうか、とも思ったけれど、その患者を担当した聖女には、まだ三分の一ほど魔力が残っている様子だ。
そうであれば、一気に治療してしまう方がいいのじゃないかしら、と思っての質問だ。
できるだけ穏やかな口調で言ったつもりだったけれど、指摘された聖女にとっては余計な口出しだったようで、苛立たし気な声を上げられる。
「言いがかりは止めてちょうだい! 私は完璧に治療したわ!!」
その表情は非常に不愉快そうで、心から自分の言葉を信じている様子だったので、どうやら完治できていないことに気付いていないようだ。
患者のためにも分かってほしいと思った私は、もう一度丁寧に説明する。
「そちらの患者に関しては、医師のカルテに誤りがあるみたいね。声がかすれているのは間違いないけど、そもそもの原因が喉だけではなくて胸にもあるのよ。だから、併せて胸を治療しなければ、完治したとは言えないのじゃないかしら」
治癒の難易度で考えると、この患者だけ軽症者のレベルを超えている。
だから、「軽症者ならばこのくらいだろう」という思い込みもあって、担当聖女は喉だけに着目してしまったのかもしれない。
でも、このままでは患者は苦しいままだ。
病人を完治させてほしい、との気持ちから発言したのだけれど、私の言い方が悪かったのか、担当聖女は腹立たし気に言い捨てた。
「そんなことを言うのなら、自分で治してみせたらいいじゃない!」
「えっ、私が?」
まさか任せてもらえるとは思わなかったため、私は驚いて目を見開いたのだった。








