209 筆頭聖女選定会 一次審査3
回復魔法のかけ方は、人それぞれ異なる。
ボールを投げるベストフォームが人によって異なるように、同じ基本形を教えられたとしても、術を繰り返すことでその者のくせが出て、自然と自分に1番合った魔法のかけ方になっていくからだ。
選定会に参加するほど優れた聖女たちであれば、もはや共通的な方法を学ぶのではなく、自分のやり方を極めることに専心すべきだろう。
他の聖女の技を目にして、優れていると思った部分を自分の魔法に組み入れるのか、あるいは、より経験のある聖女に指導を仰ぐのか。
いずれにしても選定会は、聖女として成長するいい機会じゃないだろうか。
300年前の話ではあるけれど、私は結構な数の魔物を倒したり、病人を治したりしていたから、それなりの経験はあるはずだ。
あの頃は、回復魔法を使用した後に中三日空けなければならないというルールもなかったから、魔法を行使した回数は多いのだから。
私はよし、と握りこぶしを作ると独り言を呟く。
「やるわよー」
「ふふ、フィーアったら張り切っちゃって」
「頑張って次席聖女に選ばれないといけないものね」
「応援しているわよ」
3人から応援された私は、はっとして皆を見上げる。
3つの部屋を見て回った私たちは、いったん廊下に出て、談話スペースで今後の方針を話し合っている最中だった。
その結果、それぞれが得意とする魔法を使って、それぞれに適した患者を治癒することで落ち着いたのだけれど、皆で相手の魔法を見学しようということになったのだ。
発端はアナの一言だったけれど、この会の目的に合っていると思う。
「せっかくだから、皆の魔法を見せてほしいわ」
素直に要望するアナの言葉に全員が頷き、私も後押しする一言を添える。
「いいわね、選定会の目的に合っていると思うわ!」
私の言葉を聞いた3人は、不思議そうに首を傾げた。
「選定会の目的?」
「選定会は次代の代表となるトップ聖女を決めるために開かれるんでしょう?」
「他の聖女の魔法を見ることは、関係ないわよね?」
3人から繰り出される質問にその通りだと頷く。
「最終的にはそうだけれど、1位の聖女を決めるためだけならば、それぞれの聖女を個室に入れて、同程度の怪我や病気をした人を治療させる方が簡単だし、平等性を担保できると思うわ。こんな風に一堂に集めて、それぞれ内容や難易度が異なる患者に対応させる必要はないんじゃないかしら」
アナ、メロディ、ケイティは納得した様子で頷いた。
「それもそうね」
「でも、だったら何のために今のような方式にしたのかしら。違うものを比べて順位を付けるのは、主催者側の手間も増えるから大変よね」
「疑い過ぎかもしれないけど、本当は5位なのに4位にしようとか、ちょこっと順位を入れ替えたい時に今のやり方は便利な気がするわ」
ケイティは鋭いわね。そういう側面もあるのかもしれないけど、今の方式を取っているのは、きっと聖女たちに学ばせたかったんじゃないかしら。
「国は選定会を、聖女たちが学ぶ場にしたかったんじゃないかしら。選定会だったら誰もが全力を出すだろうから、自分以外の聖女の魔法を学習するいい機会になるはずだもの。そして、得意な魔法は皆違うから、他の聖女たちが様々なタイプの患者を治療する場面を見られるはずだわ」
「えっ、選定会で学習するの? フィーアったら突拍子もないことを考えるのね!」
「皆が必死で少しでも上の順位になろうとしている最中に、そんなことを考える聖女はフィーアくらいじゃないかしら」
「フィーアは国王推薦枠の聖女なんだから、もう少し強い上昇志向を持つべきよ」
「そうかもしれないわね」
でも、誰が1位になるかなんて、本当はどうでもいいのだ。
聖女として生まれた者はずっと聖女であり続けるから、いかに自分が望むような魔法を行使できるようになり、人々を救えるかが大事なのだから。
でも、これは私の考えだし、人によって大事なものは違うのかもしれないわ。
そう考え込んでいると、アナが躊躇う様子を見せた後に口を開いた。
「フィーア、聞いてもいい? フィーアは開会式の時にベールを被っていたわよね。なのに、どうして外したの? 玄関前で会った騎士たちが驚いていたし、外してはいけなかったんじゃないかしら?」
まあ、よく見ているわね。
私は嘘をつかないようにしながら、話せるべきところを口にする。
「実のところ、私は聖女として人前に出続けることに問題があるのよ。多分、選定会後は聖女として活動できないから、選定会も順位がつかないように途中で抜けるつもりなの」
「えっ、それは」
「大丈夫なの?」
「元気そうに見えるけど」
3人が心配そうな表情を浮かべたので、言い方が悪かったわと慌てて補足する。
「あっ、心配しないでね。体調が悪いとかでは決してないから。何というか、その、私は特殊な過去があって、ある人から姿を隠さなければならないの。そんなわけで、継続して人前で活動することは困難なのよ」
「「「そうなのね」」」
ぼかした部分を何と解釈したのか、3人は神妙な顔をして頷いた。
「今後は聖女として活動できなくなるという私の事情を、国王腹心の騎士たちは知っているから、私が皆に認知されることがないようにとベールを被ることを勧めてくれたの。ただ、王都は広いし、人の記憶は薄れるものだから、偶然もう1度出会ったとしても、誰も『あの時の聖女だ』と言い出すことはないと思うのよね。だから、思い切ってベールを取ったの」
私の言葉を聞いたメロディが理解しているとばかりにぎゅっと手を握ってくる。
「フィーアの気持ちは分かるわ! 患者の気持ちを考えたんでしょう。聖女と対面する機会はなかなかないから、たいていの場合、回復魔法をかけられる人ってものすごく緊張しているのよね。聞いた話では、病状が完治した後もしばらくずっと、再び体に不調が訪れるんじゃないか、もっと悪くなるんじゃないかと、心配し続けるらしいのよ。そんな人たちからしたら、ベールを付けた聖女なんて怪しさ満載で、落ち着かないわよね」
続けてケイティも理解を示してくれる。
「そうそう、ベールを被った男性が聖女の振りをして、相手の体をべたべた触っていたって事件もあったわよね。あれなんて、男性が聖女を装っていたじゃない。選定会でそんなことが起こるはずはないけど、患者からしたら相手の性別も分からない、ってのは不気味よねー」
「いや、いくらベールを被っていたとしても、私が男性に間違われることはないでしょう」
さすがにその可能性はないわ、と思って否定する。
「…………」
「…………」
「…………」
「えっ、どうしてそこで沈黙するの??」
驚いて尋ねたけれど、誰も返事をすることなく、アナが話を変えてきた。
「あと、フィーアのことだから、私たちに対しても出自を明らかにしようと、ベールを取ってくれたんでしょう? 国王推薦の聖女なんだから澄ましていればいいのに、フィーアからは仲良くなりたいオーラが出ているもの」
「あら、でも、途中で棄権するつもりならどうして選定会に参加したの?」
ケイティが不思議そうに尋ねてきたので、私は神妙な顔をする。
うーん、ローズを脅かすためとサヴィス総長の結婚相手を探すためとは言えないわよね。
それに、せっかくこの国でも有数の聖女たちと一緒にいるのだから、できれば色々と学び合いたいわ。
「それは、私が国王に秘匿されていた聖女だから……」
ううーん、何て答えようかしら。
そう言えば、選定会前にセルリアンがやたらと大聖女に関する禁書を持ってきて読ませようとしていたわよね。あっ、閃いたわ!
「実は、王から特別に大聖女関連の禁書や、王家に代々伝わってきた秘密文書を読ませてもらったのよ」
真実味を持たせるため、必要もないのに声を潜めてみる。
「えっ、そうなの?」
「すごいわね!」
「でも、そんなことをしゃべっちゃっていいの?」
驚いた様子で尋ねてくる3人に、私は笑顔で答えた。
「全く問題ないわ! というか、私はその大聖女の秘密の技を他の聖女たちに伝えたくて選定会に参加したの」
我ながらこの会話の流れは天才的じゃないかしら、と心の中で自画自賛する。
これならば、もしも私が大聖女と同じことができても誰も疑わないわよね。
「えっ!」
「大聖女様の技を教えてくれるの??」
「それはやり過ぎじゃないの!?」
興奮した様子で頬を赤らめる3人に、私はにこりと微笑む。
「今後、私は聖女として活動できなくなるから、誰かが大聖女の技を覚えて行使してくれると嬉しいわ」
「「「フィーア!!」」」
感激した様子の3人を見て、ううーん、私の創作話を完全に信じ切っているようね、と申し訳ない気持ちになる。
どうやら最近、私の創作話を作る技術が上がってしまったようなので、皆が信じるのは仕方がないことだけれど。
「残念ながら、私は実践向きの聖女じゃないから、魔法の行使はイマイチなの。だけど、知識はたくさんあるから、アドバイスはできると思うわ。もちろん、そんなもの必要ないというのであれば、私は後ろの方で大人しくしているわ」
できれば一緒に魔法について学びたいけど、一人でやりたいと言われたらごり押しはできないものね。
そう考え、私は3人の返事を待つことにした。
いつも読んでいただきありがとうございます!
感謝の気持ちを込めて、WEBを更新しました。
「このライトノベルがすごい!2024」で、大聖女が2位、大聖女ZEROが21位になりました!!
キャラ男性部門でシリウス22位、女性部門でフィーア6位です。
めちゃくちゃすごいことで、全ては投票してくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました。ゥヮ―。゜(PД`q*)゜。―ン
(感激のあまり? 発熱したので、感謝の気持ちとともに今日は1日寝ていることにします)
(出版社が記念ケーキを用意してくれました)
【以下、別作品で恐縮ですがお願いです】
〇「悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?」が「電子コミック大賞」にエントリーされています。
2クリックで済むので、よければぜひ応援してください。
★投票ページ
https://www.cmoa.jp/comic_prize/novel/#entryArea
〇「誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる」が「つぎラノ」にノミネートされています。
どなたでも1人1回投票できるので、応援いただけたら嬉しいです!!
★投票ページ(か行から「誤解された……」で検索ください)
https://form.tsugirano.jp/
お時間があられる方は、この機会にぜひ読んでいただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾









