204 筆頭聖女選定会2
国王は開催を宣言するとすぐに、取り仕切る役をサヴィス総長と交代した。
総長は表情を変えないまま一歩前に進み出ると、事務官たちに向かって合図をする。
すると、事務官の一人が立ち上がり、選定会の概要について説明を始めた。
「これより約2週間にわたって、次代の筆頭聖女を選定するための会を実施します。参加する聖女は12名です。全部で3回の審査を行い、それぞれの回が終了するごとに筆頭聖女、王弟殿下、大主教2名、代表貴族の計5名で審査を行います。最終的には、全ての審査結果を総合的に勘案し、聖女の能力に応じて順位付けを行うことになります」
あら、サヴィス総長と王太后も審査員に含まれているのね。
というか、王太后が審査員であるのならば、王太后が推薦したローズ聖女が有利になるんじゃないかしら。
とは思ったものの、そんなことは皆分かっているから、筆頭聖女の特権なのだろう。
審査員は全員この場に臨席しているとのことで、一人一人紹介される。
イアサント王太后、サヴィス総長、ガザード大主教、サザランド大主教、それから代表貴族のバルフォア公爵の5名だった。
……たまたまだけど、全員に少しだけ馴染みがあったり、縁があったりするわね。
サヴィス総長は騎士団の上司だし、イアサント王太后は総長の母親だ。
それから、大主教は―――それぞれの教会には主教が配置されており、複数の主教を束ねる者として、地域ごとに大主教が派遣されているのだけれど―――ガザード地域とサザランド地域の大主教が審査員として選出されていた。
事務官の説明によると、今回参加する聖女たちの出身地域と被らない地域の大主教が選ばれたとのことだけれど、ガザード地域はザビリアが棲んでいた霊峰黒嶽がある場所だし、サザランドは私が大聖女の生まれ変わりだと見做された場所だ。
すごい偶然があるものねと思いながら、審査員を眺めていると、最後に貴族代表としてバルフォア公爵が紹介された。
バルフォア公爵と言えば、言わずと知れた道化師のロンだ。
貴族の頂点は公爵だから、多分、三大公爵のうちの1人が審査員となる予定だったのだろう。
勝手な推測だけど、義娘が選定会に参加するのでオルコット公爵は不適、サザランド大主教が審査員として選出されているので、地域が重複するサザランド公爵は不適と、消去法でバルフォア公爵が選ばれたのではないだろうか。
うーん、私がたまたま審査員たちと接点があるから、世間は狭いような気になるけれど、普通に考えたら滅多にお目に掛かれる方たちではないはずだ。
きっと他の方法で審査員を選べ、と言われてもこれ以上適切な選び方はなく、バランスよく選出されているのだろうなと考えていると、事務官が審査について説明を始めた。
「これより別会場に移動して、第一次審査を行います。第一次審査は病気の方を治す審査になります。審査は5日かけて行いますが、内容の詳細は審査会場にてご説明します」
どうやら王城から別の場所に移動するようだ。
事務員の説明に従い、私を含めた聖女たちは広間を出ていくことになったため、椅子から立ち上がる。
一方、騎士団長たちは移動する様子を見せなかったので、どうやら開会式のみの参加のようだ。
いくらベールを被っているとはいえ、同じ部屋にいると私が誰であるかを見破られる危険が大きくなるため、早々に別れられてよかったわと胸を撫で下ろす。
けれど、広間を退出している間中、騎士団長たちの視線が背中に突き刺さっているように感じたため、疑われているのかもしれないとドキリとした。
これは何とかして誤魔化さないといけないわねと、必死に頭を働かせた結果、歩き方でバレないためにスキップで広間を出ていく方法を思い付く。
私は天才だわ、と自画自賛しながら、早速アイディアを実践した。
団長たちは私のスキップ姿なんて見たことがないから、もしも疑って私のことをじっと見つめていたとしても、これで見破られることはなくなるはずだ。
素晴らしいアイディアを閃いたことに加えて、とっても上手にスキップができたことが嬉しくなり、笑い出したい気分になったけれど、我慢して唇を噛み締める。
ああー、デズモンド団長にはいつだって「お気楽だな」と羨ましがられるけれど、私も人知れず努力をしているのだ。
そのことをぜひ分かってほしいわね、と思いながら私はスキップをし続けたのだった。
長い廊下を歩いた先に辿り着いたのは、広々とした別室だった。
テーブルが5、6台並べてあり、その周りにそれぞれ椅子が複数脚配置されている。
馬車の準備ができるまではこの部屋で待機するように言われたため、用意されていた椅子の1つに座ると、私はこれ幸いとベールを取った。
なるほど、このベールは何のためのものかと不思議に思っていたけれど、私が聖女として選定会に参加することを、騎士団長たちから隠すためのアイテムだったのね。
一方、聖女たちはベールを被っていた私が気になっていたようで、顔をさらした途端、一斉にじろじろと見つめられる。
まあ、そうよね。全員が素顔をさらしていたところに、1人だけベールを被った聖女が交じっていたら、怪しさ満点よねと思いながら、皆の視線を受け止めた。
一目見たら、私が無害であることを分かってもらえると思っていたけれど、聖女たちは私の顔を確認した途端、ぎょっとしたように目を見開いたり、ぐっと唇を噛み締めたりしたので、どういうことかしらと目をぱちくりする。
もしかしたら顔に何か付いているのかもしれない、と心配になって撫で回したけれど、顔には何も付いていなかった。
そうであれば、私の顔に見覚えがないことを不審に思っているのかしら、と笑顔を向ける。
怪しい人ではありませんよー、との表れだったけれど、皆からふいっと顔を逸らされたので、安心してもらえなかったのかもしれない。
……と、考えたところで、シリル団長が『赤い髪のあなたが聖女であると名乗りを上げれば、聖女様方の中に大きな衝撃が走るはずです』と言っていたことを思い出した。
ああー、もしも顔を背けられた原因が私の髪色ならば、どうしようもないわね。
時間が経てば、私が無害ということは分かってもらえるでしょう、と私は椅子に背中を預ける。
辺りを見回すと、聖女たちは椅子に座って、思い思いに好きなことをやっていた。
窓際の椅子にローズ聖女が座っていたので、私は立ち上がると彼女に近付いていく。
シリル団長の希望は、1度でいいから私がローズ聖女を上回って、彼女を動揺させてほしいとのことだった。
というのも、シリル団長は王太后をよく思っておらず、その弟子であるローズも王太后と同じような考えを受け継いでいる可能性が高いから、サヴィス総長の未来の妃として相応しくないと考えていたからだ。
けれど、私がローズの足を引っ張る是非が分からないと述べると、私に判断を任せてくれたのだから、団長自身もまだ何をすべきかを迷っているのじゃないだろうか。
いずれにせよ、シリル団長と約束したから、ローズが次代の筆頭聖女にふさわしい聖女かどうかを確認しなければいけない。
それだけではなく、サヴィス総長が一目惚れするほど素晴らしく、騎士たちに優しい聖女を探さなければいけない。
ううーん、やることが多いわね。
とりあえず、第一次審査では無茶をせず、ローズの様子を見ることにしようかしら。
というよりも、彼女がどのような聖女かを見極めるためにも、話ができる間柄になっておきたいわよね。
そう考えた私は、笑みを浮かべるとローズに声をかけたのだった。
「こんにちは、ローズ聖女」
いつも読んでいただきありがとうございます!
10/12コミックス9巻、10/18ノベル9巻が発売されるのでお知らせします。
〇10/12(木)発売のコミックス9巻
大半がWEBにない、書籍オリジナルの話になります!
サザランド編アフター、アルテアガ帝国SIDE、霊峰黒嶽編スタートまでが描かれています。
世にも貴重な聖石をもらって騎士団長たちがわちゃわちゃする話や、もらえなかったシリルが激おこになる話、アルテアガのイケオジ騎士団総長登場など、お楽しみがいっぱい詰まった1冊になっています!
〇10/18(水)発売のノベル9巻
キャラ人気投票上位6名のお話を加筆しました。
1 シリウス・ユリシーズ「セラフィーナ、お忍び中にシリウスにナンパされる(300年前)」
シリウスの言いつけを破り、彼抜きでお忍びに出かけたセラフィーナ。街でばったりシリウスに遭遇したものの、彼は変装したセラフィーナに気付かない様子で、彼女をナンパしてきて!?
2サヴィス・ナーヴ「【SIDEサヴィス】フィーアの本命として彼女の世話係を引き受ける」
夜の王城でフィーアと出会ったサヴィスは、彼女の本命として世話係を引き受けることになり!?
「うふうふうふ、まさかそんな。至尊なる騎士団総長様に送ってもらったりしたら、身に余る光栄で気絶しそうです」
「酒を飲み過ぎて眠いということだな。フィーア、眠る前に足を動かせ」
3 シリル・サザランド「フィーア、シリルと休日デートをする」
「フィーア、今日一日、私に付き合ってもらえませんか?」
第一騎士団が誇るイケメン騎士団長様が、休日の朝一番に女子寮までやってきたと思ったら、驚くべきことにデートを申し込まれた。……と考えたフィーは至極まっとうだったはずだが、シリルは異なる考えを持っていた話。
4 フィーア・ルード「フィーア、ザビリアと城内を堂々と散策する」
「ああ、私は何て不甲斐なかったのかしら! せっかくザビリアが生まれ育った山を捨てて私のもとに来てくれたのだから、堂々とザビリアとともに過ごすべきだったのに、完全に日和っていたわ!!」
から始まる、彼女に巻き込まれた人々が大変な1日の話。
5シャーロット「【SIDEシャーロット】聖女としての一歩」
「シャーロット聖女、鹿型の従魔用に色付きの回復薬を分けていただけませんか?」
から始まる、シャーロットの奮闘。
6 クェンティン・アガター「【SIDEクェンティン】新米母はか弱い雛にたぶらかされる!?」
「ふははははは、まずいな! 世界で一番かわいい子を産んでしまったようだ!!」
から始まる、クェンティンの子育ての日々。
〇初版特典SS(※初版のみ、別葉ではさみこんでもらうペーパーです)
「ファビアン、フィーアが聖女かどうかを確認する」
ファビアンと出かけていたフィーアが、以前回復薬で怪我を直した少年から「聖女様!」と呼びかけられてしまい!?
とっても楽しいできあがりになったと思いますので、どうぞよろしくお願いします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾









