198 選定会前相談2
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王太后の子飼いの聖女:フリジア
オルコット公爵の養女:プリシラ
名前が似ていたため、フリジア→ローズに変更しました。
シリル団長の言いたいことが分からずに首を傾げると、団長は唇を歪めた。
「王太后は聖女としての高い誇りをお持ちです。ですが、私はどうしても王太后が掲げる聖女像に賛同できないのです。恐らく、王太后とともに暮らしているローズ聖女も、そんな王太后の思想を受け継いでいるはずです」
シリル団長は一旦言葉を切ると、考えるかのように目を細める。
「筆頭聖女は全ての聖女様の頂点に立つご存在です。そのため、その考えは全聖女様に影響を与えますが、私は聖女様方に王太后を見習ってほしくないのです」
セルリアンが王太后との確執について語った際、その回想話にシリル団長が何度か出てきた。
つまり、この2人は幼い頃から親しくしていたのだろうから、シリル団長が直接王太后と顔を合わせる機会があったのかもしれない。
また、シリル団長のお母様は王太后の妹で、当時最も強い力を持っていたものの、年齢の問題で王太后が筆頭聖女になったとの話だった。
そのため、シリル団長しか知り得ない隠された話があるのかもしれない。
シリル団長は公平で公正な人物だから、『王太后が掲げる聖女像に賛同できない』ことに理由があるのだろう。
けれど、団長が口にしないということは言いたくないのだろうなと考えていると、シリル団長がじっと私の髪を見つめてきた。
「歴代最も優れた聖女様は誰かと問われれば、誰もが300年前の大聖女様のお名前を挙げるでしょう。そのため、聖女様方の間では、大聖女様と同じ色を持つことが優れた聖女であることを示す指標となっているのです。だからこそ、聖女様は皆赤い髪に焦がれますが、フィーア、あなたほど鮮やかな赤い髪を私は見たことがありません」
そうかもしれないけど、私が何色の髪をしていようと、聖女たちは気にしないんじゃないかしら。
「お言葉を返すようですが、先日、プリシラ聖女は私の髪が赤髪だろうと、黒髪だろうと、気にしないと言っていましたよ」
私の言葉を聞いたシリル団長は、同意するかのように頷いた。
「そうですね、聖女様が気にするのはあくまで聖女様のみです。ですから、騎士のあなたに興味はないのでしょうが、赤い髪のあなたが聖女であると名乗りを上げれば、聖女様方の中に大きな衝撃が走るはずです」
「えっ、そ、それはそうかもしれませんけど、私は騎士ですからね!」
シリル団長が何を言いたいのかが分からなかったため、予防のために皆が分かっていることをあえて口にする。
なぜなら私は本当に聖女だし、そのことを隠しているから、『聖女です!』と宣言することは身バレのリスクを伴うことになるからだ。
サザランドでは『大聖女の生まれ変わり』ということになっているから、今さらのような気もするけど……
いやいや、それはそれ、これはこれよね。リスクは少ない方がいいに決まっているわ、と自分に言い聞かせたところで、先ほどセルリアンが王太后の前で、堂々と私が聖女であると発言していたことを思い出す。
王太后が息子の言葉を信じたかどうかは分からないけど、少なくともぎりりと奥歯を噛みしめていたわ。
「セルリアンは王太后に私が聖女だと信じ込ませたいの? だとしたら、選定会で私は聖女の振りをしないといけないのかしら? ……いえ、もちろん出るつもりはないのだけど」
カーティス団長が心配そうな表情で見つめてきたため、最後の一言を付け足す。
皆が私に望んでいることが分からなかったため、小首を傾げながら見回すと、シリル団長が一歩前に進み出た。
「フィーア、同意を取ることなく、私たちの事情に巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。そのことを反省しています」
そう言って項垂れたシリル団長は、本当に反省しているのだと思う。
通常だったら、上下関係の厳しい騎士団の団長として、上意下達で命じればいいだけなのに、シリル団長はいつだって相手の気持ちを思いやってくれるのだから。
「いえ、シリル団長は成り行きに便乗して発言したのでしょうから、私の同意を取る時間がなかったことは分かっています」
そう、シリル団長はセルリアンの売り言葉に便乗したのであって、元々何らかを計画していたのではないはずだ。
私の言葉を聞いた団長は眉尻を下げると、困ったような表情を浮かべた。
「そう物分かりがいいことを言われると、ますます申し訳ない気持ちになりますね。……よければ、少しだけ話を聞いてもらえませんか。筆頭聖女選定会及び私の希望について説明したいのです」
これは聞いてしまったら否応なく参加しなきゃいけないとか、そういうものではないわよね。
「もちろんいいですよ。選定会には大勢の聖女様が参加されるんですか?」
疑問に思ったことを尋ねると、シリル団長は首を横に振った。
「いえ、そうではありません。この国に住む全ての聖女様は教会に登録され、その能力を把握されています。そのため、選定会の参加者は基本的に教会が決定するのです。より詳細に言うと、教会に推薦された者10名に、国王や筆頭聖女といった特別推薦枠持ちの方々から推薦された若干名を加えた、合計15名前後の聖女様が参加する形となります」
思ったより参加者が少ないけれど、選定会に参加する聖女が既に選りすぐりということだろう。
もしかしたら地方の教会に所属している聖女の中には、正しく能力が把握されていない者もいるかもしれないけど、そこは仕方がないと見逃されているのかもしれない。
「それから、選定会の内容ですが、全部で3回の審査があります。第一次は病気の方を治す審査、第二次は薬草の知識を問われる審査、第三次は魔物討伐に随行して怪我をした騎士を治癒する審査です。それら全ての結果を総合的に勘案した結果、筆頭聖女が決定されます」
ふうん、第三次審査では魔物討伐に随行することになっているのね。
通常、騎士に随行する聖女たちは戦闘に参加しないのだけど、選定会の場合は戦闘に参加するのかしら。
「審査を行うのは、現行の筆頭聖女や教会関係者といった、事前に選定委員として選出された者になります。選定会は非公開で行われますが、参加者の名前及びそれぞれの審査結果は随時、国民向けに広く発せられ、最終的な結果は、筆頭聖女の選定及び参加聖女の順位付けという形で周知されます」
「えっ、選定会が非公開ということは、選定会に参加しなければ、聖女たちの能力を見られないんですか?」
思わず質問すると、カーティス団長から警告するかのように名前を呼ばれた。
「フィー様!」
分かっているわよ、カーティス。選定会に出ようというのではなく、ただの質問だから。心配しないでちょうだい。
そんな思いを込めて、カーティス団長に向かって大きく頷く。
……でも、選定会に出たら、現在の聖女の最高水準を目の当たりにできるってことよね。
へー、ほー、そうなのねー、と考えていると、カーティス団長が心配そうな表情で見つめてきたため、大丈夫よともう1度頷いた。
一方、シリル団長は誘い込むような綺麗な笑みを浮かべる。
「フィーア、あなたの言う通りです。選定会に参加しなければ、聖女様方の能力がどれほどのものかを知ることはできません。逆に言うと、フィーアが参加したとしても、その能力が外に漏れることはありません」
「えっ、そうなんですか?」
意外に思って聞き返すと、シリル団長はしっかりと頷いた。
「ところで、今回の選定会ですが、教会が最も力があると認めたプリシラ聖女が筆頭聖女に選ばれるものだと私は考えていました」
そうでしょうね。だからこそ、プリシラをオルコット公爵家の養女にしたのでしょうから。
「ですが、王太后が隠し玉を出してきました。そのため、恐らく選定会では、ローズ聖女とプリシラ聖女の一騎打ちになるでしょう。が、……先ほども述べたように、王太后の流れを汲んだ聖女は筆頭聖女に選ばれるべきでないと私は考えています」
きっぱりとそう言い切ったシリル団長を見て、セルリアンが不満気な表情を浮かべる。
「シリル、お前がそう思う気持ちは理解できる。だが、こればっかりはどうしようもない。僕だって、コレットを妃にしたいと考えた時に色々と手を尽くしたが、王太后にしろ、教会にしろ、確固たる考えを持っていて簡単に懐柔できる相手ではなかった。だから、結局のところは力の強い者が選ばれるんだろう」
それから、セルリアンはちらりと私を見た。
「それに、もしもフィーアが選定会に出てくれたとしても、第二次審査はどうにもならない。さすがに聖女たちほど薬草の知識があるはずもないからな。そもそもいくら聖石を使ったからといって、確実に聖女と同じように病気や怪我を治せるとも限らないから、優勝するのは不可能だ」
「その通りですね」
シリル団長が素直に頷いたため、セルリアンは訝し気な眼差しを団長に向けた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
8/18(金)に大聖女ZERO3巻が発売されるので、お知らせします。
☆story☆
楽しかった西海岸での生活もあと数日となり、
最後にオリーゴーに会いにいきたいと思ったセラフィーナは、
「お友達を紹介する」という名目でシリウスや騎士たちを連れて離宮へと向かい……!?
王城へ戻ってからもシリウスや騎士たちと愉快な日々を過ごすセラフィーナ。
一方でシェアトやミアプラキドスたち元第一騎士団の面々は、
現第一騎士団のメンバーとの間になにやら問題を抱えているようで……。
黒フェンリルのその後や、ミラクの実家に同行するエピソードなど、
その他のエピソードも盛りだくさん!
さらに人気投票上位キャラの特別SSも公開!
〇初版特典SS(※初版のみ、別葉ではさみこんでもらうペーパーです)
「セラフィーナと理想のお店屋さん」
家族が新たに店を開こうとしていると、騎士から相談されたセラフィーナ。「私だったらストロベリー屋さんをはじめるわね!」と答えたけれど……
※書店特典SSはありませんので、お好きな本屋でご購入ください。
シリウスが騎士団に入団した日の話や、セラフィーナが騎士たちと人攫い訓練をする話、セブンのセラフィーナに対する想いの話等、盛りだくさんの内容になっています!
とっても楽しいできあがりになりましたので、ご購入のほどよろしくお願いします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾









