186 王城勤めの聖女たち5
その後、聖女たちに離宮を案内してもらった。
ドロテが離宮内の主だった場所を順に案内してくれたのだけれど、その際に他の聖女たちも同行して、説明を補足してくれる。
聖女たちの表面的な態度はつんつんしているけれど、実際には親切なのじゃないかしら。
そう考えながら、シャーロットと手をつないで歩いていると、プリシラからじろりと睨まれた。
「あなた方は仲がいいの?」
「ええ、そうですね。シャーロットは幼い頃から家族と離れて暮らしているので、友達であると同時に、私は母親代わりでもあるんですよ」
そう胸を張ると、シャーロットがびっくりした様子で目を見張った。
「フィーアはまだ15歳でしょ。母親だなんてとんでもないわ! 私は今日で8歳になるのだから、……そうね、フィーアが嫌でないならば、お姉さんかしら?」
シャーロットは相変わらず気遣いの達人だったけれど、そのことよりも、今日が彼女の誕生日だという情報にびっくりする。
「えっ、シャーロットは今日が誕生日なの? 何てことかしら、急いでプレゼントを準備しないと!」
何がいいのかしら、と頭の中で考えていると、シャーロットはにこりと微笑んだ。
「フィーアの顔が見られたから、それだけで何にもいらないわ。だって、フィーアが私のお姉さんならば、誕生日に家族の顔を見ることができた私は贅沢者だもの」
「シャ、シャーロット!」
どうしてこの子はこんなにいい子なのかしら。
私が姉だというのならば、ますますとっておきのプレゼントをあげないといけないわね!
何がいいかしら、と考えていたところで、こちらを見つめているプリシラと目が合った。
あ、しまった。会話の途中だったわ。
シャーロットと私は仲がいいのかとの質問に答えたところだったから、次はこちらが同じことを尋ねるべきかしら。
「プリシラ聖女の仲がいいお友達は、大聖堂にいるんですか?」
きちんと考えたうえで質問をしたというのに、どういうわけかプリシラは頬を紅潮させた。
「友達だなんて、そんなチャラチャラしたものは私に必要ないわ!」
「チャラチャラ……。まあ、友達がチャラチャラしているのだとしたら、私はシャーロットにとって装飾品なのかしら」
プリシラは面白いことを考えるわねと思いながら呟くと、話を盗み聞きしていたロイドが会話に加わってくる。
「それならば、フィーアの友人である僕も、フィーアの装飾品ということになるね。僕は見栄えがいいから、いつだって身に着けてほしいものだな」
「うーん、そういうことを自分で口にするのはいかがなものかしら」
ロイドは綺麗な顔立ちをしているから、自分の外見を褒める発言をした場合、冗談に聞こえないのよね。そんな応対は、道化師としてイマイチじゃないかしら。
とは思ったものの、今は公爵モードなのかもしれないと思い直す。
それから、私の友達はシャーロットの他に誰がいたかしらと考え……ザビリア、シリル団長……と浮かんだところで、装飾品として付けて歩くにはギラギラし過ぎているわ、と思考を停止した。
さて、私はお友達から思考を離すと、せっかくプリシラが話しかけてきてくれたのだから、このチャンスを逃すものではないわと、彼女と仲良くなるべく共通の話題を探すことにする。
「プリシラ聖女は大聖堂で暮らしていた、力の強い聖女様なんですよね? よければその話を聞きたいです」
シャーロットも顔を輝かせると、すかさず同意してくる。
「私も聞きたいわ! プリシラさんは筆頭聖女の最有力候補だと聞いているから、色々と教えてほしいと思っていたの」
シャーロットから期待に満ちた目で見上げられたプリシラは頬を赤らめたので、どうやらまんざらでもないようだ。
ちょうど離宮内の案内がいち段落したところだったので、再び広間に戻ってきた私たちは、大きなテーブルの周りに座って話をすることにした。
他の聖女たちも近くに座ってきたので、どうやら皆で聖女について語らう時間が持てるようねと嬉しくなる。
皆から視線を向けられたプリシラは、もったいぶった様子で髪を後ろに払うと、テーブルの上で指を組み合わせた。
それから、皆を見回しながら口を開く。
「私は3歳の時の聖女検査で聖女だと判明したの。初めは出身地近くの教会で過ごしていたのだけど、7歳になった時に大聖堂から呼ばれたわ」
私の後ろに座ったロイドが、にこやかに補足してくれる。
「聖女検査は3歳と10歳の時に行われるが、多くの聖女様は10歳の時の検査で聖女様だと認定されるんだ。3歳で認定されるのは魔力が強い聖女様だけだから、数が少ないんだよ」
その説明を聞いて、シャーロットは3歳の聖女検査で聖女に認定されたと言っていたことを思い出す。
つまり、シャーロットは幼い頃から魔力を感知することができた、力が強い聖女なのだろう。
頷く私に向かって、ロイドがさらに説明を続ける。
「それから、大聖堂に集められるのは、国内でも指折りの魔力が強い聖女様だ。あの場所には我が国選りすぐりの聖女様たちが集められているが、全員を合わせても50名に満たないのだからね」
ロイドの言葉を聞いたプリシラは、得意気な表情を浮かべた。
「大聖堂の聖女は入れ替わりが激しいの。あの場所では、高い能力が要求されるから、期待に応えられない者が出てくるのね。能力不足の聖女たちは大聖堂から出され、代わりに新たに認定された有望な聖女が招き入れられているわ」
聖女たちは黙って話を聞いていたのだけれど、プリシラが口を噤んだ途端、不快そうに顔をしかめる。
それから、皆を代表する形で1人の聖女が口を開いた。
「そういう言い方は止めた方がいいわ! 大聖堂は有能な聖女を地域に分配する役割も務めているから、聖女が大聖堂を出て行く理由は、能力が低いことだけではないはずだもの!!」
激しい口調で反論されたプリシラは、ムッとした様子で髪を後ろに払う。
「ああ、この中には大聖堂から異動してきた聖女がいるのかしら? ……そうね、そう言われれば、大聖堂から出される理由は魔力の多寡だけではないかもしれないわね。でも、これだけは言えるわ。大聖堂は決して、自分たちが手放したくないと思う強力な聖女を外に出すことはないわ!」
「な、何ですって!?」
「だからって、あなたが強力な聖女であるとは限らないでしょう!!」
突然、けんけんごうごうと言い合いを始めた聖女たちを見て、これは意見交換の範囲なのかしら、と首を傾げる。
聖女として誇りを持つことも、自分の能力を信じることも悪いことではないから、もう少し放っておくべきかしら。
ただちょっと、プリシラは言い方で損をするみたいだけど……と悩んでいると、ロイドが袖を引っ張ってきた。
それから、小声で囁いてくる。
「フィーア、仲裁をしたいんだったら、君がデズモンドと肉ツアーに行く話をするのはどうかな。こういう場合は、全く違う話をして話題を転換するのがいい方法なんだよ」
まあ、どうしてロイドは肉ツアーのことを知っているのかしら。
そう驚いたけれど、彼は楽しそうに手をひらひらと振ってきたので、そうだった、ロイドは公爵だから、情報収集はお手の物なのだわと納得する。
それから、そんなロイドの提案は的確なのかもしれないと考え、アドバイス通りに明るい声を上げてみた。
「ああー、大聖堂と言えば、ディタール聖国にあるんですよね! 筆頭聖女の選定会が終わり次第、私はデズモンド団長と一緒に、あの国にお肉を食べに行く予定になっているんです」
だから、ディタール聖国にある美味しいお店を教えてほしいわ、と続けようとしたところで、聖女たちから口を差し挟まれる。
「デズモンド騎士団長ですって? 彼は王城警備を担当する第二騎士団長でしょう! そんな彼が、何の用務でわざわざ大聖堂に赴くというの!?」
「というよりも、『筆頭聖女の選定会が終わったら』ってどういうことかしら? 選定会終了後に、あなたが大聖堂に何事かを報告に行くというの?」
いえ、私はお肉を食べに行くだけだから、大聖堂には近寄らないわ……と思ったところで、はたと開きかけた口を閉じる。
あれ、待って。
そう言えば、デズモンド団長から誘われた肉ツアーは、なぜか聖国への旅費まで騎士団が持つという、出来過ぎたものだったわよね。
まさかデズモンド団長は肉ツアーのついでに、あの国で騎士団の仕事をするつもりなのかしら。
さらに思い出したけど、デズモンド団長は私が肉ツアーに参加する許可を、シリル団長から取ったと言っていたわよ。
わざわざ私が所属する騎士団の団長に許可を取るなんて、もしかして本当に騎士団の仕事が絡んでいるのかしら。
そうだとしたら、私がここで下手なことを言うと、「肉ツアーがメインで、ついでに騎士団の仕事をするのですね。そうであれば、騎士団が旅費を持つ必要はありませんね」というようなことを、シリル団長が言い出すかもしれない。
そんなことになったら、間違いなくデズモンド団長から文句を言われるわ!
よし、ここは安全策を取って黙っておこう、と考えた用意周到な私は、曖昧な笑みを浮かべるに留める。
そんな私を、聖女たちは全員でねめつけてきたため、……あら、もしかしたら話題をズラすという作戦が上手くいったんじゃないかしら、と内心でにまりとした。
しめしめ、私の素晴らしい話題転換術のおかげで、皆、新しい話題に食いついてきたみたいだわ。
そう嬉しくなったところで、デズモンド団長と一緒に聖国に行く理由を尋ねられたままになっていたことを思い出す。
そのため、聖女たちと友好的な関係を築くためにも、答えられることには答えようと、にこやかに口を開いた―――その際、聖国を訪問する主目的については割愛し、後日、どれだけでも言い逃れができるような形を整えたのだから、私も日々成長していると言えよう。
「ええと、先ほど、なぜデズモンド団長と一緒に聖国に行くのかとの質問を受けましたけど、それはあの国でお肉を食べるためです。そのため、本来用務は関係ありません。用務無関係という意味では、イーノック団長も同行する予定ですから」
デズモンド団長と一緒に聖国に行くことに意味はありませんよー、ということを補強したくて、イーノック団長の名前を出したけれど、聖女たちはさらにまなじりを吊り上げた。
「『王国の虎』と呼ばれる第二騎士団長と、天才魔導士と呼ばれる第三魔導騎士団長の2人を護衛に付けるですって!?」
えっ、イーノック団長は天才と呼ばれていたの?
それは驚愕する事実だったけれど、本筋から離れてはいけないわ。
「護衛? う、うーん、確かに私の方が弱いかもしれませんが、いざとなったら私だって2人を守ることは……できるような、できないような」
騎士団長の職位に就いているのは、とっても強い騎士だということだ。
だから、2人が強いことは間違いないだろうけど、私だって騎士の端くれだし……と考えていると、聖女の1人が鋭い声を上げた。
「そんなに赤い髪をして、あなたは一体何者なの!?」
「え、私ですか?」
もちろん私は騎士だけど、……と考えたところで、そう言えば最近、サヴィス総長にも私が騎士であることを必死で訴えたわね、と思い出す。
そのため、私はその時使用した言葉をそのまま流用することにした。
「私はとっても素直で役に立つ、どこにでもいる一介の騎士です!」
けれど、私の言葉を聞いた聖女たちの反応を目にしたことで、図らずも先日のサヴィス総長たちの反応をも思い出す。
……そうだった。あの時も、その場にいた全員が無言で私を凝視したまま、口を開かなかったのだったわ。
同様に、今日も今日とて聖女たちは、全員で私を凝視したまま沈黙を守っていたのだった。
〇2/15(水)発売のノベル8巻に、店舗特典SSをつけていただけることになりましたので、お知らせします。
対象店舗は、くまざわ書店様、WonderGOO様、ゲーマーズ様、メロンブックス様、TSUTAYA BOOKS様、電子書店様です。
また、書泉・芳林堂グループ様ではイラストペーパーが付いてきます。
同日発売のノベルZERO2巻には店舗特典SSは付きませんが、書泉・芳林堂グループ様ではイラストペーパーが付いてきます。
詳細は、活動報告に載せていますので、よかったら覗いてみてください。
〇現在、出版社H.P.でキャラクター人気投票を実施中です。
どなたでも1日1回参加できますので、よかったらお好きなキャラに投票ください。
後日、1位になったキャラのSSを出版社H.P.で無料公開予定です。
☆出版社H.P.☆
https://www.es-novel.jp/special/daiseijo/?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=seijovote
〇その他たくさんの企画を実施中です。詳細は下記Twitterにてご案内しています。









