18 魔物討伐2
私は、よっぽど呆けていたのだろう。
ファビアンから、お昼だよと言われて我に返った。
防腐の役割をする大きな葉っぱに包まれたお弁当を受け取ると、ファビアンの隣に座る。
「ファビアン……」
「どうしたの、フィーア?」
「ええと、聖女様って、すごいね? 魔物の牙が腕を貫通していて、騎士の腕に穴があいていたよね。その傷を、たった3人で治すなんて、とてもすごいね? たったの30秒くらいで治すなんて、とてもとてもすごいよね?」
……私は、いまだに、頭が混乱していた。
ほんとうに?
……ほんとうに、さっき見た力が聖女の全力なのかな?
あの3人は、聖女見習いとかで、本当の聖女の力は、もっともっと強力なんじゃないのかな?
そう思ってファビアンに尋ねてみたけど、無情にも彼は、私の言を肯定した。
「そうだね。奇跡の御力だと思うよ。手をかざすだけで、ほんの数十秒で跡形もなく傷を治すなんて、聖女の福音だよ」
「………………………………そっかぁ」
「え、フィーア?!」
ファビアンが慌てたように、顔を覗き込んでくる。
「フィーア、………泣いているの?」
「ふええええええ」
わかんない。わかんないけど、目から水が流れてくるのよ………
ファビアンは、慌ててポケットからハンカチを取り出すと、渡してくれた。
「フィーア、大丈夫?」
「ふぃいいいいい」
私は、ぎゅうぎゅうとファビアンに抱きついた。目からは、ぽろぽろと水が流れ続ける。
………くやしいな。
前世の私は、聖女であることに誇りを持っていた。
必ず。
必ず、戦いの中心に身を置いたし、戦場がどれだけ陰惨であろうとも、逃げることも引くこともなく、剣を持ち斧を持って戦う者たちを癒すことだけに注力した。
騎士が私の盾であったように、私が彼らの盾であったのに。
いつから、聖女がゆがんでしまったのだろう。正しい形を見失ってしまったんだろう。
私は「大聖女」とまで呼ばれ、聖女の能力を最大限に使用していたのに、結局、何も残せてはいない………
ファビアンは、ぼろぼろと目から水を流し続ける私を、彼にしがみつくままにしておいてくれた。
そして、落ち着いた頃を見計らって、顔を覗き込んでくる。
「大丈夫、フィーア? 魔物と戦闘した場に居合わせたのが、怖かった? それとも、聖女様の御力に感動したのかな?」
「………………………………どっちでもない。目の蛇口を閉め忘れていたから、目から水が出ただけ……」
「……そっか。今度、私に君の目の蛇口の場所を教えてくれるかな。そうしたら、君が閉め忘れた時は、私が閉めてあげられるから」
ファビアンは、優しいな。
うん、次に彼がしょんぼりした時は、私が慰めるね。
私は、お弁当の包みから、おにぎりを取り出すとぱくりと口にした。
「ふふ、目から出た水でびちょびちょになっていたから、べっちょりしたおにぎりになったかなと思ったけど、ちょうどいい塩味が付いて、おいしい」
ファビアンは、しんみりした私の気持ちを思いやってくれたようで、お昼の間、それ以上は話すことなく、静かに隣に座っていてくれた。
……ファビアン、あなたは本当にイケメンね。









