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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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171 危機との遭遇6

「えっ、ど、どうしたの?」

驚いて声を上げると、セルリアンとドリーは無言のまま緩く首を横に振った。


「……気にしないでくれ」

そう言ったセルリアンの顔からは完全に血の気が引いていたため、心配になって近寄っていく。

「いや、もちろん気にするわよ! まあ、近くで見ると、2人とも酷い顔色よ」


けれど、セルリアンはゆっくりと片手を上げると、小さく振った。

「大丈夫だ、原因は分かっている。僕とドリーは……傷病者恐怖症なんだ」


「しょ、傷病者恐怖症!?」

初めて聞く単語に驚きの声を上げながらドリーを見ると、彼はよろりとよろめき、後ろの壁に背中を預けた。


その姿は、どうみても大丈夫ではなかったのだけれど、ドリーは気丈にも顔を上げると、微笑らしきものを浮かべる。

「そう、珍しい恐怖症だから気にしないでちょうだい。理由も理屈もなく、寝台に横たわる傷病者を見ると恐怖を感じるだけだから。しかも、20歳くらいの女性を目にすると症状が最も大きく出るから、今日は運が悪かったみたいね。……ああ、吐きそう」


そう言いながら、ドリーはずるずると体を下に滑らせると、ぺたりと床の上に座り込んだ。

その姿を見て、自分も紙のような顔色をしたセルリアンが、力付けるために声を掛ける。


「ドリー、耐えろ! そして、よく見ろ。彼女の髪は茶色であって、青銀色ではない。大丈夫だ、僕たちが彼女の最期に直面することは2度とない」

けれど、そんなセルリアンの声はどんどん小さくなっていき、彼自身もよろよろと力なく腰を落とすと、膝を抱え込む体勢で蹲った。


立つこともままならない様子の2人を見て、すごく心配になったけれど、セルリアンはもう1度心配するなとばかりに弱々しく片手を振った。

「僕らは本当に大丈夫だ。というよりも、心配してくれるのならば、早く用事を終わらせてくれ。今日、君を連れ出したのは僕だから、君の安全に責任がある。そのため、僕の体調がどれだけ悪かろうとも、君を置いて部屋を出るつもりはないからな」


まあ、セルリアンは子どもなのに紳士なのね。

そう感心した私は、急いで枕元まで取って返すと、エステルを見下ろした。


……さて、どうしたものかしら。

見たところ、取り急ぎ命の危険はなさそうだから、軽く回復させておいて、後日、シャーロットかプリシラに治しに来てもらうのはどうかしら。

そう考えていると、エステルはごほごほと苦しそうに咳き込み出した。


控えていた侍女が慌ててエステルの上半身を抱き起すと、彼女の口元に綺麗な白い布をあてがう。

その間もエステルは苦しげな様子で咳をし続け、喀血した。

白い布が鮮血で染まっていく様子を見て、私は先ほどの考えを投げ捨てる。


エステルはこれほど苦しんでいるのに、なぜ今できることを先送りにしようと考えたのかしら。

私はそう反省すると、咳が治まり、ぜーこぜーこと苦し気な呼吸をしているエステルに近付いた。

それから、彼女の片手を取ると、エステルははっとした様子で目を見張った。


「フィ……フィーア様、私から離れてください。この病は人から人にうつります。どうか……」

苦し気な呼吸の間に、私を気遣う言葉を発するエステルに対し、私は穏やかに微笑む。

「大丈夫よ。ほら、私のお友達は浄化と解毒を司るユニコーンちゃんと、全ての病を治すツァーツィーちゃんだから。あの2人が一緒にいてくれる限り、私は無敵なのよ」


そう言うと、私は身をかがめて、彼女の額にくっつくほど顔を近付けた。

それから、握った手に少しだけ力を込める。


「エステル、目をすこーしだけ細めてちょうだい。あなたは聖女だから、自分で治すのよ」

私の言葉を聞いたエステルは、驚いた様子で目を見張った。


「あの、フィーア様……わ、私は聖女ではありますが、それほど力が強いわけではなく……」

「そうだとしても、あなたの体のことはあなたが1番よく分かっているでしょう。だから、あなたにならできるはずよ」


静かな声でそう諭すと、エステルは自信なさそうな表情で私を見つめてきた。

そんな彼女に対して自信満々に頷くと、私はもう1度同じことを繰り返す。

「大丈夫、あなたならできるわ。それに、今はユニコーンちゃんとツァーツィーちゃんが一緒にいてくれるから無敵なのよ」


派手な衣装を着た、明らかに道化師然とした2人を褒めたことがおかしかったのか、エステルは小さく笑った。

「そうですね、ユニコーンさんとツァーツィーさんに無敵の力があるのなら、聖女である私にも力があると信じてみるべきですね」


そう言うと、エステルは素直に目を細めた。

そのため、私は彼女の両手を胸元まで持ち上げると、ぎゅっとそれらを握りしめる。

「ねえ、エステル、目を細めて視界が狭くなっても、どこに体があって、どこに足があるかは分かるでしょう? そのまま自分の体をぐるっと見回してみてちょうだい。何か他と違っているところはないかしら?」


エステルはゆっくりと首を巡らせていたけれど、しばらくすると申し訳なさそうな声を出した。

「……私には分かりません」


うーん、自分の体だとしても、初めての場合は難しいかもしれないわね。

そう考え、彼女にもはっきり分かるようにと、胸元と背中部分に輝きを追加する。

簡単に言うと、それは回復時に現れるエフェクトを黒っぽくしたような光だったため、エステルにも馴染みがあるもののはずよ……と考えていると、彼女ははっと息を呑んだ。


それから、恐る恐る声を出す。

「あっ、……も、もしかしたら見えるかもしれません! 胸元とお腹です」


惜しいわね。

「うーん、体は立体だからね。それはお腹ではなくて背中ではないかしら」


私がそう答えていると、壁際では道化師の2人組がことさら大きな声で私語をしていた。

「あれー、気分が悪くなり過ぎて朦朧としてきたのかしら。あたしにもあの娘の体が黒く光っているのがみえるわよー」

「奇遇だな。僕にも見えるぞ。確かに胸と背中だな」


……どうやら加減を間違えたらしい。

おかしいわ、エステルにしか感じ取れないような光にしたつもりなのに……私の精神の安定のために、あの2人の視力がよすぎることにしておこう。


そう自分に言い聞かせると、私はエステルに向かって声を掛ける。

「だったら、その部分に回復魔法をかけてみましょうか。ほら、怪我をした時は、怪我をした部分に対して魔法をかけるでしょう? 病気の時はどの部分が悪いか分からないから、体全体に対して魔法をかけるわよね。そのため、本来の必要量の何倍もの魔力が必要になっていたのよ」


私の言葉を聞いたエステルは、ぱちりと大きく目を開けると、納得した様子で頷いた。

「まあ、言われてみればその通りですね」


素直に頷くエステルとは異なり、壁際では私の忠実なる元護衛騎士が独り言を呟く。

「もちろんその通りではあるが、身に秘めた魔力量が破格に多い場合は、そのような操作は不要となるはずだ」

ほほほ、カーティスったら一体何を仄めかしているのかしら、と思った私は、当然のこととして彼の言葉を丸っと無視した。


「だから、悪い部分はどこかしらとまず探してみて、その部分に対して魔法を集中してかけると、より少ない魔力でも対応できるんじゃないかしら」

そうアドバイスをすると、エステルは小さく頷いた。

「やってみます」


それから、エステルは自分の胸元に向けて両手を広げると、ゆっくりと呪文を口にする。

「体中に満ちたる聖なる力よ。どうか我が病を治したまえ。『回復』」


その言葉とともにエステルの手から魔法が放出されたけれど……

「ん?」

私は思わず小さく呟いてしまった。


運のいいことに、エステルは回復魔法の発動に一生懸命なようで、私の呟きは聞こえなかったみたいだけれど……え、これはどうしたらいいのかしら?

エステルの魔法を発出する出口がものすごく狭くて、びっくりするほどちょっとずつしか出てきていない。


ああ、もしかしたら魔力放出口が狭い聖女も、一定数いるのかもしれないわね。

だから、以前、『星降の森』に行った時、聖女たちが騎士を回復させるのにたくさんの時間がかかったのだわ、と遅まきながら納得したけれど……それよりまずは、目の前のことから片付けないといけない、と考えを切り替える。

私は彼女の両手の上に私の両手を重ねると、ぐっと魔力放出の出口を広げた。


「えっ? えええええ……!」

その途端、エステルが大きな声を上げる。


「まあ、エステルったら大きな声が出せるのね」

初めて聞く彼女の大声に感心していたけれど、エステルは涙目になって私を見つめてきた。


「どどどどうしましょう!? 魔力が突然、大量に体から出ていき始めたため、もう今すぐにでも空っぽになってしまいます!」

「えっ?」


私が広げた大きさは常識的な範囲だし、これくらいの放出量で、そんなわずかな時間で空っぽになるはずは……

「あるわね。まあ、本当だわ」


どうやらエステルの魔力量は、思っていたより何倍も少なかったようだ。

もしかしたら長い間病気だったので、そのことが影響しているのかもしれない。

「エステルは病気だったからかしら。じゃあ、奇跡の存在であるユニコーンちゃんとツァーツィーちゃんのお友達である私が、お手伝いするわね」


本物の聖女であると悟られないよう、しつこいくらいユニコーンとツァーツィーの知り合いであることを強調する。

それから、私はさり気なくエステルに重ねていた手を離すと、彼女の体から少し離した部分で構えた。


「回復」


すると、私の言葉に呼応して、手から魔法が放出される。

結果……


「えっ?」


エステルの病気は瞬きほどの時間で治ってしまい、そのことを理解した彼女は、びっくりした様子で目を見開いた。


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★Xやっています

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【SIDEザカリー】国宝の鎧を真っ二つにしてしまったオレの顛末、続・シリウスと恋人デート(300年前)など、5本を加筆しています。

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どうぞよろしくお願いします。

― 新着の感想 ―
[良い点] フィーアが徐々に聖女として認識されるんじゃないかという瀬戸際がとても面白い!早く続きが読みたーい [一言] 悪役令嬢溺愛ルートの方も楽しませてもらっています。続きが気になって仕方ないです。…
[良い点] つまり、回復魔法を発動した後に、「しまった!ばれないようにゆっくり回復するようにかければよかった!」という意味ですかね? 一瞬で治ったことも、フィーアが回復と唱えたことも、エステルにはわか…
[一言] 「エステルはこれほど苦しんでいるのに、なぜ今できることを先送りにしようと考えたのかしら。」 手間が違うのなら、先送りにする理由も分かりますが、治療にあたっての手間が全く変わらないのに、先送…
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