表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/323

165 聖女デビュー3

広場を後にしてから数分後。


パフォーマンスを披露した観客たちから十分離れた場所まで来ると、セルリアンとドリーは足を止めた。

それから、よろよろとレンガ造りの建物の壁にもたれかかり、疲れ果てた声を出す。


「……お、終わった」

「し、心底、疲れたわー」


そこはメインストリートから一本入った場所になる、人通りの少ない一角だったためか、2人は周りを気にすることなく壁に背中をあずけると、はーはーと荒い息を吐いた。


その様子を見て、まあ、観客たちは元気にできたけれど、道化師の方が疲労困憊になっているじゃないのとびっくりする。


けれど、しばらく見守っていると、2人の呼吸が落ち着いてきたので、大丈夫そうねと安心した。

「2人とも、大丈夫? すごく疲れているみたいよ」


「だ、誰のせいだと思っているんだ!」

心配で声を掛けた私に対して、苦情を言いながら睨み付けてきたセルリアンを見て、まあ、ご機嫌が悪いわねと思う。

セルリアンのセリフから推測するに、彼から見た私の演技はまだまだで、私のパフォーマンス中は心配で気が気じゃなかったから、疲れ果てているってことかしら。


たとえそうだとしても、始めから及第点が取れるわけはないのだから、広い心で見守ってほしいわよね。

そう考えながら、私は2人に問いかけた。

「それは、私の聖女役がイマイチだったということかしら? でも、これでも私はできる限り頑張ったのよ。ところで、後学のために教えてほしいのだけど、私の聖女パフォーマンスの出来は何点だったのかしら?」


すると、2人は顔をしかめ、聞いてはいけないことを聞いたな、とでもいうかのような表情を浮かべた。

そのため、えっ、それほどひどい出来だったのかしら、と思ったけれど、答えを待って2人を見つめる。


そんな私を、2人はしばらくの間、無言で見つめ返してきたけれど、沈黙に耐えられなくなったのかドリーが口を開いた。

「えっ、何点って……それはどう考えてもまん」


「ドリー! そんなに簡単に合格させたら、フィーアは僕たちの許から去ってしまうぞ!」

せっかくドリーが点数を言いかけたというのに、セルリアンが制止の声を入れてしまう。


そのため、ドリーははっとしたように目を見開くと、不自然に口を閉じた。

「えっ、言いかけたのなら、言い切ってしまえばいいのに!」

私は不満を漏らすと、ドリーの言葉について考える。


「まん……まん……これは点数ではないわね。だとすると、まん……と言えば、あっ、『まんざらでもない』?」

そう口にしながらちらりとドリーを見たけれど、彼は表情を変えなかったので、これは違うわねと他の候補について考える。


「まん……『満喫した』? 『満足した』? 『万人に受ける内容だったわよ』?」

いくつもそれらしき言葉を口にしたのに、ドリーの表情は変わらず、最後は気を取り直したらしい彼から勢いよく答えを言われた。

「どれもハズレよ! 正解は、『慢心してはいけない』だわ!」


「えええっ!」

褒められるとばかり思っていたのに、釘を刺されるような回答が返ってきたためがっかりしていると、ドリーが慌てて両手を振った。


「あっ! あたしの言い方が悪かったわ! フィーアの聖女様はすごくよかったわよ! ものすごくよかったからこそ、慢心しないでねってことだから」

「そうなの?」


俯いていた顔を上げて尋ねると、ドリーは大きく首を縦に振る。

「そうよー! ねえ、セルリアンもそう思うでしょ?」


すると、セルリアンは複雑そうな表情を浮かべた。

「よかったというか……それどころではなく、最後の方は、皆の目にフィーアしか見えてなかったんじゃないか? 3人で並んでいたのに、誰もが『聖女様』『聖女様』と、聖女にしか着目していなかったからな。もしかして僕は誰からも見えていないんじゃないだろうか、と心配になったほどだ」


セルリアンの感想を聞いたドリーは、納得した様子を見せた。

「そうねー、セルリアンは背が低いから、そういうこともあり得るわね。だけど、皆からその場にいないよう扱われたのはあたしも同じだわ。そして、あたしの場合はどう考えればいいのかしら? 一番背が高いし、一番派手だったのに、やっぱり誰にも着目されなかったんだから!!」


そう言い返してきたドリーに対し、セルリアンは困った様子で大きく首を傾げる。

「うーん」


けれど、どうやらドリーはその返事が気に入らなかったようだ。

なぜならドリーはセルリアンの背が低いため、皆から見えなかったのだろうとフォローを入れたのに、一方のセルリアンは何も思いつかなかったのか、うーんと唸るだけだったからだ。

そのため、ドリーは腹立たし気に長い髪を後ろに払う。


「ちょっと、沈黙と言う形で、消極的に肯定するのは止めてちょうだい! ああ、もうあたし、フィーアの師匠でいることに自信がなくなってきたわ!」

けれど、これっぽっちのことで師匠を辞められると私が困るため、ドリーを慰めるために声を掛ける。


「まあまあ、ドリー師匠。元気を出して! 私が誰でも元気になる、とっておきのダンスを見せてあげるから」

ふと前世で好評だった踊りを思い出したため、披露しようと後ろに下がったけれど、運悪くその場に樽の山が積んであったため、背中がぶつかる。


「あっ!」

その反動で前に転びそうになったけれど、すんでのところで後ろから2本の腕が伸びてきて、誰かに支えられた。

そのため、お礼を言おうと笑顔で振り返ったけれど、その笑顔が驚きで固まってしまう。


「えっ?」

なぜなら、私を両手で支えていたのはカーティス団長だったからだ。

驚いて瞬きを繰り返してみたけれど、何度確認しても、目の前に立っているのはカーティス団長だった。


「えっ、ど、どうしてカーティスがいるの?」

カーティス団長は今日、国王の警護をしているはずだ。

それどころか、国王警護の責任者だったはずで、それなのにどうして王の警護もせずに、こんなところにいるのだろう。


驚いて問いかけると、カーティス団長は生真面目な表情で口を開いた。

「フィー様がセルリアンの護衛に就かれたため、シリルが本日の騎士たちの配備を見直し、再編成を行いました。その結果、私が追加でこちらに伺うことになりました」


「ええっ!?」

ま、まって、まって、どういうこと。

私がセルリアンの護衛に就いたから、彼の護衛は元々の予定より1人少なくなる形で編成され直されると思っていたのに、どうして新たに騎士が投入されるのかしら? しかも、一騎当千の騎士団長が??


「えっ、シリル団長は私をマイナス人員としてカウントしているのかしら!?」

まさか、まさかね。そう思いながらカーティスに質問したけれど、なぜか無言のまま返事をしてくれなかった。


そして、私のすぐ後ろにはセルリアンとドリーがいて、彼らにも私の声は聞こえていたはずだけれど……2人ともカーティス同様に、無言のままで返事をしてくれなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています

★【大聖女 (本編) 】コミカライズへはこちらからどうぞ
★【大聖女(ZERO)】コミカライズへはこちらからどうぞ
ノベル11巻が発売中!
【SIDEザカリー】国宝の鎧を真っ二つにしてしまったオレの顛末、続・シリウスと恋人デート(300年前)など、5本を加筆しています。

また、通常版に加えて、小冊子(これまでの超美麗カバー等ポストカード+SS「フィーア、シリル団長の騎士服に刺繍をする」)付きの特装版もあります!

ノベル11巻

ノベル11巻特装版

10/16ノベルZERO6巻が発売!
立派な聖女になりたいと思ったセラフィーナは、聖女の修行をしようとするけれど……
『騎士団長たち酷い』案件勃発。

ノベルZERO6巻

10/10コミックス13巻発売!
フィーアがサヴィス総長にとっておきの花を取ってきたり、クェンティン団長に特別なお土産を渡したりします。
半分以上がWEBにないノベルオリジナルの話になります。

コミックス13巻

10/10コミックスZERO4巻発売!
とうとう西海岸に到着した近衛騎士御一行様。不審な男性に遭遇するも……
コミックスZERO4巻
どうぞよろしくお願いします。

― 新着の感想 ―
[一言] マイナス人員ってwww自称エセ聖女フィーア様、自分からそれに気づいても誰も幸せにならないよ…w シリル団長は後始末(というより延焼かもしれない)要員でカーティス送ったの大正解だけど…少し、…
[良い点]  フィーア至上主義者のカーティス登場、フィーアがこけそう(樽による事故)になったところをカーティスが助ける内容はかっこいい。本物の騎士。  セルリアンのあせりっぷり。 [気になる点]  細…
[一言] カーティス団長一足二足遅かった…! 王国民からすれば住民に身近な親しみやすくそれでいて実力ある聖女の奇跡を見た後 何よりカーティス団長は前世踏まえフィー様が望むことを尊重し否定しない存在。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ