158 第一騎士団配属の理由2
私はびっくりしてファビアンを見つめた。
……そう言われてみれば、入団試験はそれほど良いできじゃなかったかもしれない。
特に最終試験では、アルディオ兄さんに麻痺異常をかけた後、動けない兄さんを3分間眺めていただけだった。
試験官が立ち尽くす私を高評価したとは考えにくいし、あれ、どうして私は自分の成績がよかったと思い込んでいたのかしら?
「ファビアン、私は入団試験の成績が良かったと思い込んでいたけれど、よく考えたら、10年分の騎士経験に匹敵するほどではなかったかもしれないわ」
今さらながらそのことに思い至り、首を横に振りながら同期を見つめると、ファビアンは分かっていたという様子で頷いた。
「うん、そうだと思ったよ。そして、もちろん私もそんなすごい成績は取れなかったから、第一騎士団に配属された理由は別にあるのだろうね」
さらりと同調してきたファビアンを見て、首を捻る。
んんん、誰かがファビアンの入団試験の結果は、数年ぶりの満点だったと言っていたわよ。
しかも、その際に、ファビアンは騎士養成学校も首席卒業だって聞いたのよね。
わぁ、1位の人って、実際にどこかに存在するんだ! って驚いたもの。
その1位の人は……わぁ、隣にいたぁ!
「フィーア、ころころと表情を変えて楽しそうだね。私にも君の頭の中身を共有してもらえないかな?」
にこやかに尋ねてくるファビアンに、私は逆に問いかける。
「ファビアンは入団試験で、1位合格だったって聞いたわよ。だから、ファビアンが第一騎士団に配属された理由は、成績じゃないかしら?」
すると、知っていたんだねとばかりに、ファビアンは肩を竦めた。
「……恐らく、私はそうだろうね。フィーアと比べると、何ともつまらない理由だよね」
「え、いや、つまらない話ではなくて、すごい話でしょう! それこそ、10年分の騎士経験に匹敵するほどの好成績なんだから」
勢い込んで言うと、おかしそうに笑われた。
「ふふふ、そんな成績なんて、あるはずないよ。私は問題のない成績の上、家柄的にも信頼が置けるものだったから、適任だと思われたんだろうね……君のお目付け役として」
「お、お目付け役?」
「そう。恐らく元々は、新人の中からフィーア1人だけを第一騎士団に配属すると、君が心細いだろうからとの配慮から、同じく新人の中で1番問題がなさそうな私を併せて配属したのだろうね。だが、入団してからのフィーアを見ていて思ったけど、君は心細いって感覚を持ち合わせていないよね。むしろ、次々に問題を起こしているよね。だから、お目付け役が適当かなと思って」
何だか酷いことを言われた気がする。
じろりとファビアンを睨むと、「そうだね、フィーアが起こすトラブルをちっとも防げていないから、私はお目付け役として機能していないね」と返された。
違う、私が言いたかったことはそうじゃない。
けれど、私の心の声が聞こえないファビアンは、つらつらと説明を続けた。
「これは私の父から聞いた情報なんだけど、教会は赤い髪の者を尊ばれるんだよ。だから、高位の聖女様の周りには、赤い髪の者を配置したがるんだ。今回、フィーアが異例の配属をされたのは、君のその滅多にないほどの赤い髪が理由だと思うよ。それから、年齢がお仕えする高位の聖女様に近いことかな」
「私がお仕えする高位の聖女様?」
ファビアンは一体何の話をしているのかしら、と大きく首を傾げる。
すると、ファビアンは丁寧に説明してくれた。
「そう、とある高位の聖女様の警護担当が、近々、必要になるんだよ。そのため、鮮やかな赤い髪を持つフィーアが選ばれたんだと思う。気付いていないかもしれないけど、能力的に問題がなさそうな、赤い髪をしている騎士がたくさん第一騎士団に集められているよ。けれど、彼らのうちの誰一人だって、君ほど赤い髪はしていない」
「えっ、そうなのね」
同じように過ごしているのに、ファビアンはいつそんなことを観察しているのかしら。
びっくりして目を丸くすると、ファビアンはおかしそうに微笑んだ。
「そうだよ。だから、このままでいけば君と、そして私が、その聖女様の警護担当に選ばれるはずだ。もちろん、私たち以外にも、多くの者が選ばれるだろうけどね」
「そうなのね。ところで、その警護対象はどなたなのかしら?」
高位の聖女様って条件だけじゃ、範囲が広すぎて特定できないわと思って尋ねると、ファビアンは呆れたように目をぐるりと回した。
「これまでの私の説明から想像がつくかと思ったけど、……もちろん、新しく選ばれる筆頭聖女だよ」
「ああ、なるほど!」
そうだったわ、新たな筆頭聖女が選び直されると、教えてもらったんだったわ。
「プリシラ聖女が筆頭聖女の最有力候補って話だったわよね。ああ、だから、事前にシリル団長とデズモンド団長が、警護対象者を確認に行ったのね」
なるほど、だからこそお忙しい2人の団長が、わざわざオルコット公爵邸を訪問したんだわ。
2人はプリシラ聖女を見極めに行った、とファビアンが言った意味がやっと分かったわよ。
「ふふふ、どなたが筆頭聖女に選ばれるにしろ、その警護を担当できるなんて楽しみね! ところで、警護が必要になるということは、どこか危険な場所をご訪問されるのかしら?」
純粋に疑問に思って尋ねると、ファビアンは困ったように眉を下げた。
「うん、まぁ、フィーアは分かってないとは思ったけどね」
「え、何を?」
きょとんとして問い返すと、ファビアンは苦笑した。
「我々は、第一騎士団だよ。王族の警護しかしない。まれに外国の要人警護を引き受けることはあるけれど、その対象も基本的に外国の王族・皇族に限られる」
「うん? でも、現在、王族の方って国王陛下と総長のお二人しかいないんでしょ? あれ、でも、サヴィス総長のお母様はご存命だって話だったわよね。王太后陛下も王族じゃないの?」
ぴんと閃いて尋ねると、ファビアンは頷いた。
「そう、王太后陛下は王族と同列に位置する方だ。同様に、筆頭聖女も王族に並び立つ方になられるのだと思うよ」
それから、ファビアンは言葉を選ぶ様子で、慎重に口を開く。
「サヴィス総長は27歳で独身だ。通常、男性貴族の適齢期は18歳から25歳くらいとされているから、他の方々より遅れる形となっている。しかも、総長の身分は王弟殿下で、王位継承権第一位だ。王族の一番大事な務めは世継ぎを残すことだから、適齢期を過ぎたのに独身というのは、尋常じゃないと言わざるを得ない」
「はっ! も、もしかして、身分違いの恋人がいらっしゃるとか!」
私は突然ひらめいて、その考えをファビアンに披露したけれど、あっさりと却下される。
「うん、非常に乙女的な考えではあるが、違うと思うよ。多分、サヴィス総長はプリシラ聖女が大人になるのを待っていたんだ。代々の国王陛下は、その時代で最も力のある聖女をお妃にされるし、プリシラ聖女は10年以上も前に、その類まれな能力を見出されていたからね」
「あっ、そうなのね」
なるほど、10年間も1人の女性を待ち続けていた、というのもいい話じゃないの。
うんうんと頷いていると、ファビアンが何か言いたそうな表情をしたけれど、思い直したようで説明の続きに戻った。
「来年にはプリシラ聖女も17歳になられて、ご結婚できる年齢になられる。だから、彼女が筆頭聖女に選ばれたならば、速やかにプリシラ聖女を王城に招き入れて、サヴィス総長とご婚約なさるのじゃないかな。そして、その際には、新たな筆頭聖女専用の近衛騎士団が結成されて、フィーアと私がその団員に選ばれるのだと思う」
ファビアンの話を聞き終えた私は、不思議に思って首を傾げる。
「え、『来年にはプリシラ聖女も17歳になられて、ご結婚できる年齢になられる』って、どういうことかしら? 女性は17歳にならないと結婚できないわけではないでしょ? 王族とか貴族の方々って、もっと幼いころに結婚する人も多いわよね」
すると、ファビアンは「ああ」と言いながら補足してくれた。
「これは聖女様側のルールなんだよ。聖女様は17歳を過ぎないと、結婚することができないんだ。理由は分からないけど、300年前に決められたらしい」
そう言えば、以前、シリル団長のお母様の話を聞いた時にも、同じ話が出たんだったわ。
そして、『聖女様は17歳にならないと結婚できない』って、シリル団長が言っていたわよね。
だけど、前世で私が聖女だった時には、そんなルールはなかったわよ。
300年前に決められたのならば、前世の私が死んだ直後くらいにできたのかしら。
「教えてくれてありがとう、ファビアン。言われて思い出したけど、シリル団長からも同じ話を聞いたんだったわ。でも、新たな筆頭聖女専用の近衛騎士団が結成されるなんて、大掛かりな話ね!」
そして、その一員に選ばれるなんて、責任重大だわ!
私はぎゅっと両手で握りこぶしを作って気合を入れると、ファビアンを仰ぎ見た。
「いずれにせよ、総長がご結婚されるのはおめでたい話よね!」
なぜなら我が騎士団の騎士団長たちは、超高給取りであるにもかかわらず、全員が独身だからだ。
そして、その団長たちを司るサヴィス総長も独身だったため、「あれほど金と整った顔面と地位を持っているのに、全員が独身だなんて、騎士団長以上には結婚できない呪いがかかっている!」と、飲み会の席では必ずといっていいほど話題に上っていたのだ。
まあ、とうとう総長がその呪いをとかれるのだわ!
そう嬉しくなって笑顔を浮かべると、ファビアンも大きく頷いた。
「うん、おめでたい話だ。だが、サヴィス総長は女性に大人気だから、この話を聞いた王国中の女性が涙を流すんじゃないかな。そして、それ以上の量の涙を、騎士たちが流すんじゃないかな」
ああ、分かる気がする。
多分、総長を一番愛しているのは、騎士団の騎士たちだ。
彼らの暑苦しくて、重苦しい愛を想像し、私が総長なら嬉しくないなと思う。
「うん、まあ、男泣きに泣く騎士たちが続出するでしょうね」
そんな暑苦しい場面に巻き込まれるなんてごめんだわ。よし、しばらくは騎士たちに近付かないでおこう!
賢い私は、そう決心したのだった。








