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148 王様ゲーム9

沈黙を最初に破ったのはセルリアンだった。


「フィーア、君だけ立っているのも話し辛いから座って。ああ、いや、隣室に行こう。僕は疲れた」

セルリアンはそう言うと、席を立って隣室とつながっている扉まで歩いて行った。


すかさず先回りをしていたロンが扉を開け、セルリアンを部屋に通す。

サヴィス総長、シリル団長に挟まれる形で、私は隣室に移動した。


入った部屋は、国王の私室のように思われた。

なぜなら最高級品で埋め尽くされているものの、配置してあるのは暖炉やソファなどで、くつろぐための部屋であることが見て取れたからだ。


促されるまま、セルリアン、サヴィス総長、シリル団長とともにテーブルを囲むようにソファに座ると、慣れた様子でドリーがテーブルに4人分の飲み物を載せてくれた。

それから、ドリーはロンとともに離れた席に座る。


セルリアンは呷るようにグラスの中身を飲み干すと、やさぐれた様子で口を開いた。

「こんにちは、フィーア。君が見抜いた通り、国王のローレンスだ。でも、対外的には影武者が王を務めているから、ここにいるのは道化師のセルリアンだ。そう接してくれ」


「ええと……」

困惑して言葉に詰まると、シリル団長が補足してくれた。

「国王が影武者であることを知っているのは、ごく限られた者のみです。宰相を始めとした大臣たちの一部、騎士団長の一部、他数人です。合わせても20名程度でしょう」


これほど多くの人数が国王に仕えている中、たった20名程度しか知らない秘密とはよっぽどだ。

けれど、漏洩を防ぐためには必要なことだろう。


あれ、でも、毎年第一騎士団に配属される騎士は、この国王面談を受けているのよね?

つまり、毎年多くの騎士がセルリアンのゲームに付き合っているはずで、今年だけでも私を含めて20名の騎士が参加したはずだ。彼らには真実が知らされていないのだろうか?


首を傾げて考えていると、シリル団長が疑問を読み取ったかのように続けた。

「第一騎士団の騎士たちは国王が影武者であることを知らず、本物だと信じて影武者を警護しています。ただし、国王にとって道化師のセルリアンは誰よりも大切な存在なので、国王とセルリアンが同時に危険な目に遭った場合は、セルリアンを優先して警護するよう命じてありますし、セルリアンが個人行動をする場合には別途騎士を付けています」


「なるほどですね」

騎士は命令に忠実だから、不審に思ったとしても、道化師を優先して守れとの命令に唯々諾々と従うだろう。


頷く私を見て、シリル団長はまとめるかのように話を続けた。

「そのため、国王との面談を行った騎士たちは、『国王面談は国王のお気に入りである道化師セルリアンを紹介するための場だった』との説明を信じています。つまり、これまであなた以外の騎士は、おかしな口調でおかしな話をしゃべる、毎日プレイしているはずのカードゲームが異常に弱い道化師を、奇妙奇天烈な護衛対象だなと思うだけで終わっていたのです」


「えっ、ということは」

「ええ、あなた以外の国王面談を受けた騎士たちは全員、セルリアンが国王であることを見抜けませんでしたし、そのため、現在もって彼が真の国王であることを知りません。哀れな騎士たちに構うことなく、セルリアンは毎回毎回、国王面談という名の下に、趣味の悪い私的な遊戯を繰り返しているのですから」


「シリル、お前の説明は的確だが、最後の一文は不要だろう」

セルリアンはふてくされた様子で顔をしかめると、ソファに深く座り込んだ。


けれど、そんなセルリアンに対し、総長が渋い表情で苦言を呈した。

「少しの苦言も耳にされたくないのでしたら、今後はこの趣味の悪い試みの実施を再考ください。真実に辿り着く者が一人もいないうちは、何が行われているのかを当人たちが理解していないため問題ありませんが、フィーアのように正解者が出てしまうと、陛下の行った試みを本人に説明しなければならなくなりますからね」


「…………」

セルリアンは不満気な様子で唇を噛み締めたけれど、考えてみようとでもいうかのように片手を振った。

それから、私に向かって肩を竦める。


「ということだ、フィーア。下がらせた騎士たち、側近もどきの誰もが僕を国王だとは知らないから、君が先ほど僕を国王と呼んだ行為は、世迷い事として処理されるだろう」


「なあああっ!」

私は思わず、驚愕の声を上げた。


そ、それは酷くないかしら? そして、恥ずかしくないかしら!?

警護していた第一騎士団の騎士たちは、私が道化師に対して「王様」と呼びかけたと思い続けるってことよね。


え、え、何これ!?

正解を引き当てたのに大恥をかかないといけないなんて、まるっきり罰ゲームじゃないの!!


ひどいひどいと心の中で呟いていると、哀れに思ったのかサヴィス総長が慰めの言葉をかけてくれた。

「フィーア、慰めにもならないだろうが、オレやシリルはお前が有能であることを理解している。国家安全のための任務だと思って耐えてくれ。もちろん全ては嬉々として歪んだ遊戯を行ったセルリアンが悪いから、償いとしてポケットマネーからお前に豪華な夕食を馳走するだろう」


「え?」

頬杖を突いてこちらを眺めていたセルリアンは、動転した様子で手のひらから頭を滑り落としていた。


その様子を見て、サヴィス総長が冷たく言い放つ。

「あたら有能な若い騎士に恥をかかせたのです。当然のことでしょう」


有無を言わさない様子で返事を待つサヴィス総長に対し、セルリアンは従順な様子でこくこくと頷いた。

「も、もちろんだ、サヴィス! お前のところの騎士に対して、大変失礼な結果を背負わせてしまったことは反省している。悪かった」


それから、セルリアンは上ずった様子で首元の服を握りしめた。

「そうだな、あれだな。フィーアは全く状況が分かっていないよな。まずは僕が少し説明すべきだよな」

どうやらサヴィス総長の発言から、私に不当なことをしたのだと思い当たり、親切にしようと心変わりしたらしい。


「まず見た目の話でいくと、僕は10年前の19歳の時、突然体が若返り始めたんだ。恐らく精霊王の血のせいだ。王族には精霊王の血が流れているから、時々、不思議な力を継承する者が現れる。それが僕だ。だが、そんなことを表明したら、国民は気味悪く思うだろうから、影武者を立てているわけだ」


私は驚いて目を丸くする。

「まあ、そんなことがあるんですね! その姿は10歳くらいですか?」

私より頭半分小さいだけだから、もしかしたらもう少し大きいかもしれないわね、と思いながら質問すると、セルリアンから「だいたい当たっている」と返された。


「毎年、年を取る代わりに1歳ずつ若返っているみたいだから、計算通りなら9歳の体だと思うよ」

「まあ、9歳! それにしては大きくないですか?」

私が9歳の時にはもっとずっと小さかったわと考えながら、シリル団長とサヴィス総長を振り仰ぐと、2人は私の答えに否定的な考えを示した。


「いえ、逆に9歳にしては、小さすぎると思います。私が9歳の頃は、これよりずっと大きかったですし」

「ああ、オレもこれほど小さくはなかったな」

2人から、そんな反論の言葉が発せられる。


後方では、ロンとドリーも「9歳にしては小さいわよねー」と呟いていた。


……そうだった。この部屋にいるのは大男の集団で、私とは決して分かり合えない連中だった。

くうう、体が資本の騎士が長身なのは分かるけれど、国王の側近であるロンとドリーまで長身なのはどうしてなのかしら、と考えたところで答えが閃く。


ああ、恐らくこの2人は国王の護衛も兼ねているのだ。

騎士団の騎士たちは命じられた対象を命懸けで守るし、対象が道化師であっても同様だけれど、それでも万が一の時のためと、この2人は護衛の役も兼ねているのだろう。


まあ、頭がいいだけでなく護衛もできるなんて、ロンとドリーは大したものだわと感心する。

目を見開いて2人を交互に見つめていると、セルリアンがじとりとした目で見つめてきた。


「ロンとドリーはどうでもいいだろう。それよりも、フィーア、僕は君の話が聞きたいんだ」

「えっ、こ、国王陛下が私に私的な興味をお持ちですって!?」

胸を押さえながら驚いて聞き返すと、嫌そうに顔をしかめられる。


「いや、だから、僕のことは道化師だと見做せって言ったよね。セルリアンと呼んで、ため口でいいから。そして、私的な興味って何だよ? 僕に全然興味がないくせに、何でそういう反応なんだ!?」


雇い主である国王に、興味がないなどとマイナス感情を抱いていると思われては堪らない。

私は慌てて否定の言葉を発した。

「えっ、な、何を言っているんですか!? 私は陛……セルリアンに興味があるに決まっているじゃないですか! 敬愛する主君におかれましては……」


セルリアンは片手を突き出してくると、うんざりした様子で私の言葉を遮った。

「うん、そういうのはいいから。僕が国王だと見抜いたうえで、『国王キングを上回るのは道化師ジョーカーだけですね!』などと粉々にしてきた者が、僕を敬愛しているわけないだろう!! 僕は賢い道化師だから、騙されないよ」


ロンとドリーがひそひそと後ろで私語を交わしている。

「いや、賢くない道化師でも、フィーアがセルリアンを馬鹿にしていることは分かるだろう」

「うーん、このとぼけたところまでもがフィーアの計算で、さらに深くセルリアンを馬鹿にしているとしたら最高なんだけど……」


2人の悪口が聞こえたようで、セルリアンは八つ当たり気味に私に文句を言ってきた。

「それから、その慇懃無礼ななんちゃって敬語は止めてくれ! フィーアが普段から礼儀正しいって言葉も、間違いなく嘘だって分かっているから! 僕は万が一にも『道化師でないかもしれない』と疑われたくないから、粗雑に扱ってくれ!!」


まあ、礼儀正しい私が国王を呼び捨てするなんて畏れ多いことだわね!

でも、国王直々に命じられたのなら、従わないわけにはいかないし。

「……分かったわ。私は元々礼儀正しいから、国王陛下相手にため口だなんて心苦しいけれど、命令なら従います」


私の言葉を聞いたセルリアンは、疲れた様子でため息をついた。

「……サヴィスとシリルは大変だな。それで、君の話に戻るけど、……誤解のないようにきっぱりはっきり言っておくと、君の趣味や好みの話を聞きたいのではなく、どうやって僕が国王であることを見抜いたかの話だから」

「ええ、もちろんだわ」

私は従順さを強調するため、ことさら大袈裟に首を縦に振った。


「君が見抜いた事柄のうち、名前の件と、格好の件はいいや。いや、本当はもちろんよくないし、たったあれだけの時間で洞察するなんて常識じゃ考えられないけど、それでもいいや。名前の件は文字列の置き換えに興味があれば気付くかもしれないし、格好の件は前の代の国旗と聖獣についての知識があれば指摘できるかもしれないからね。でも……僕の呪いに気付いたのはどうしてだ?」


「えっ」

それこそ1番簡単な話じゃないかしら。見れば分かるのだから。


「そもそも僕に呪いが掛かっていることを、気付くこと自体が大変なことだ。ましてやそれが精霊王の呪いだと見破るなんて」

不思議そうに尋ねてくるセルリアンに、私は至極当然じゃないのと答えを返す。

「えっ、だって、セルリアンの左腕は全く動かなかったし、呪いがかけられているのは見たら分かるじゃないの!」


「いや、腕が動かないだけじゃ、それが呪いかどうかなんて分からないよね!? え、何、僕の左腕が動かないことに気付いたフィーアの洞察力は凄いけど、でも、そこまでで、呪いであると断言したのは根拠のないあてずっぽうだったということ?」


いや、全くそうではないのだけれど。

眠そうな人とか、疲れている人とかは、見たら分かるでしょう。

同じように、呪いにかかっている人も見たら分かるでしょう。

そういう簡単な話なのだけれど……どうやって説明すればいいのかしら?


そういえば、同じような会話を300年前にも交わしたことがあったことを思い出す。

『呪いにかかっていることなんて、見れば分かるわよね』との私の発言に対し、聖女たちは首を捻っていたのだ。そして、誰一人理解してくれなかった。


突然300年前の残念な記憶が甦ったため、私はセルリアンにどう説明したものかと考えるために口をつぐむ。


すると、私の表情を観察していたセルリアンが、信じられないといった様子で言葉を続けた。

「……まさかとは思うけど、王家の始祖が精霊王の子だという話も当てずっぽうじゃないだろうね?」


えっ、もちろん違う。

「当てずっぽうではないわよ! 王家の始祖が精霊王の子というのは、誰もが知っている話じゃないの! それで、腕が丸ごと動かないような強い呪いならば、相手は精霊王に違いないと考えただけよ」


「いや、フィーア。それは誰も知らない話だよ。『王家の始祖が精霊王の子だ』という話は広まっているけど、誰もがおとぎ話だと考えているし、それを真実だと思っている者なんていやしないから! えっ、フィーアは逆に常識がなさすぎて、真実に辿り着いたってこと?」

セルリアンは驚いたように目を見開いた。


けれど、私は違う、違うと心の中でつぶやいた。

前世の私は正にそのナーヴ王家の生まれで、精霊王の血を色濃く受け継いでいた。

実体験として精霊王の恩恵にあずかっていたからこそ、王家に精霊王の血が入っていることを確信しているのだけれど……これは一体、どう説明したものかしら?


「そっか……、そうなのか……? 先ほどの君の言葉は非常に断定的だったから、確実な根拠を持っているかと思ったんだけど、そんなすかすかな推測で僕が王だと導き出せたの? そんなことがあるものかな?」


あらいやだ。

私は有能だという雰囲気から一転、残念な子だとの雰囲気に変わってしまったわよ。


どうしてこうなったのかしら?

メリー☆クリスマス。読んでいただきありがとうございました!


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