146 王様ゲーム7
ゲームの順番は、セルリアン、私、総長、シリル団長だった。
セルリアンが1枚目として、ナンバー1のカードを出しながら説明を追加する。
「ああ、ちなみにカードは一番早くなくなった者が勝ちだって説明したけれど、ジョーカーが入ったため、特殊ルールが1つ追加される。最後の手札がキングで終了した際、次の人にジョーカーで切られた場合のみ、キングでの終了者は1位でなくてビリになるんだ。まあ、最強カードにも弱点を作ることで、ゲームをより面白くする工夫かな」
印象付けるため、あえてキングとジョーカーの関係を遅れて説明したセルリアンの手法に心の中でため息を漏らす。
完全に茶番だと思いながら、私は手元のカードを見つめた。
ナンバー3のカードを出す。
残ったカードは、3、4、5、5、6、8、9、10、キング、キング、キング、ジョーカーだ。
4枚しかない最強のキングカードが3枚に、切り札である1枚しかないジョーカーがある。
意図的に配られたと信じられるくらいには偏っている。
説明された特殊ルールは、最後にキングであがろうとした場合、ジョーカーで切られてしまうとビリになるというものだった。
けれど、私が1枚きりのジョーカーを持っているのだから、キングを最後の1枚として出しても、他の人物にジョーカーで切られる心配はない。
つまり、できるだけ最後までキングを持ち続けることが、シンプルに考えたら最上の方法だろう。
なぜならジョーカーは最も強いカードであるものの、ジャック、クイーン、キングの3種類しか切れないという制約があるため、早めに使い切ってしまった方が安全だからだ。
それに、そもそも私はキングを3枚持っているので、ジョーカーのありがたみはあまりないのだ。
……と、こんな風に思わせることが、キング3枚とジョーカーを私の手札とした意図なのだろうな。
私は無言のまま、次々にカードを出していく。
はじめは可能な限り小さい数字を使用するのがいいだろうと、3、4、5……とカードを出していく。
そして、全員が次々にカードを出していき、手札は残り数枚ずつになった。
セルリアンがクイーンを出す。私がキングを出す。残った私のカードはキング2枚に、ジョーカー1枚だ。
セルリアンがジャックを出す。私がキングを出す。あとはキングカード1枚に、ジョーカー1枚。
セルリアンがジャックを出す。……私は迷わず最後のキングカードを出した。
―――瞬間、テーブルについていた3人は一瞬だけ身を強張らせた。
にもかかわらず、誰一人私に視線を向けないのはさすがだと思う。
身を強張らせたことだって、私が3人の一挙手一投足を気にしていたがために気付いたのであって、通常であれば気付かないほどの僅かな動きだ。
……本当に、国の中心にいる人たちってポーカーフェイスが得意よね。
でも、これで確実になった。
この3人は私の手札を知っているのだ―――少なくとも、私がキング3枚とジョーカーを持っていたことを。
だからこそ、どうしてジョーカーではなくキングを出したのかと衝撃を受けたのだろう。
私のカードを知っている3人からすると、すごい悪手になるのだから。
なぜなら私に残ったのはジョーカーのみなので、ジャック、クイーン、キングのフェイスカードしか切れないからだ。
けれど、3人とも分かっているように、このゲームは何もせずとも私が勝つように仕組まれているのだ。
だからこそ、私が工夫すべきことは、どのように勝つかということなのだろう。
そう考えている間に、最後と思われる周回になった。
残りの手札はセルリアン2枚、私1枚、サヴィス総長2枚、シリル団長2枚だ。
そして、テーブルの上にあるのは9のカードだった。
セルリアンはちらりと手札を見ると、無言のままジャックのカードを出す。
私は無表情にカードを見つめると、口を開いた。
「パスでお願いします」
瞬間、セルリアンが驚いたように顔を上げた。
「フィーア、ルールを分かっているの?」
私は至極当然という風に頷いた。
「もちろんルールは理解していますよ。初めに手札がなくなった人が勝ち、でしょう? それから、現在、まだ場に残り1枚のキングとジョーカーが出ていないので、特殊ルールが適用中ですよね。最後の1枚がキングで終了した場合、通常なら勝ちだけれど、次の人にジョーカーで切られたら、キングの持ち主は1位ではなくてビリになる。ちなみに、ジョーカーはジャック、クイーン、キングのフェイスカードしか切れない。……ですよね?」
「……そうだ」
不承不承といった感じで答えるセルリアンを見て、私は心の中でため息をつく。
……セルリアン、あなたは間違いなく私の手札を知っているのね。
だからこそ、どうして場に出ているジャックを手持ちのジョーカーで切ってあがってしまわないかと訝しく思っているのだろう。
私の目の前に、1位になる道が用意されているというのにどうして、と。
サヴィス総長がクイーンを出し、シリル団長がパスをした。
セルリアンは一瞬躊躇したけれど、彼の取れる行動は1つしかないのだ。
勝ちにいくためには、最後の手札を場に出すしかない。
果たしてセルリアンは、最後の1枚であるキングのカードを場に出した。
それから、じとりと恨めしそうに私を見つめる。
「あれ? 最後の1枚を出したんですよね? 勝利宣言をしなくていいんですか?」
「……『国王崇拝』!」
セルリアンの声は、非常に悔しそうに響いた。
私は顔を上げると、ゲームテーブルの周りにいる全員を眺め回す。
セルリアンはもちろん、サヴィス総長、シリル団長、それから残った道化師たち全員の視線を集めているのを確認すると、わざとらしく微笑んだ。
「ああ……と、失礼。特殊ルールが適用されるんでしたっけ? 私の勝ちです」
言いながら、セルリアンが出したキングの上にジョーカーを重ねる。
私が出したジョーカーには、趣味の悪いことにセルリアンの格好そっくりな―――青と白の市松模様の馬の衣装を身に着けた道化師が描かれていた。
「国王崇拝!」
それから、超高位者たちの意味不明な茶番に付き合った苛立ちを込めて、勝ち誇った表情で皆を見回した。
「なるほど、国王を上回るのは道化師だけですね!」
―――その瞬間、その場にいた全員が、まるで雷の直撃を受けたかのように驚いた表情をした。
その中には、サヴィス総長とシリル団長も含まれていたが仕方がない。
この2人だって、国王と一緒になって訳の分からない遊びを私に強要したのだから自業自得なのだ。
誰もが衝撃を受けたかのように驚愕した表情で私を見つめる中、私は席を立つと、道化師に扮しているセルリアンの前まで歩み寄った。
それから、丁寧に騎士の礼を取る。
「……そうですよね、国王陛下?」
しんとした沈黙がその場に落ちる。
恐ろしいほどの静寂の中、セルリアンは―――ナーヴ王国の国王陛下その人は、憮然とした表情で私を睨み付けていた。
読んでいただきありがとうございます!
今回の話はどうしても書きたくなって、2年前に書き上げていました。
(続きは、明日更新します)
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