15 騎士団入団式4
私はぐるりと周りを見渡すと、目当ての相手を見つけ…その相手を見つめながら言った。
「その剣は、成人の儀をクリアした祝いに父からもらったものです」
がたがたん、と派手な音をたてて、団長クラスの席から一人の騎士が転がり落ちた。
言わずと知れた、ルード騎士家の当主で、第十四騎士団副団長でもある私の父親ドルフだ。
「なっ、何だと?! あの剣は、館の武器庫に入っていた剣の中から適当に選んだだけだぞ! そんな、国宝とか、見たこともないとか、そういう類の剣ではない!」
そして、総長に向かって必死に言い訳をする。
「こんな非常識な魔剣だと知っていたら、即座に王国に献上していました!! 知らなかったんです!!」
……それは、そうだろう。だって、武器庫に入っていた時点では、ただの鉄剣だったし。
父は、必死になって、その魔剣は差し上げますとか、部下を自宅の武器庫に派遣し、残りの武器を全て確認しますとか、総長に約束をしていた。
よしよし、私から注目が外れたぞ。
お役御免になったことに安堵しながら、そろりそろりと新人騎士の中に混じろうとしたが、そう簡単にはいかず、総長に呼び止められる。
「待て」
「ひゃい!」
思わず奇声を上げてしまったが、そのことには触れず(優しい!)、何でもないことのように尋ねてきた。
「最後に一つ質問だ。模擬戦で、オレの左側にばかり打ち込んだのはなぜだ?」
おおぅ、質問は、優しくなかった!
私はきりっと真顔になると、総長に答える。
「騎士道精神です。決して攻撃はしないと宣言された総長に対して、視界の悪い方に打ち込むことは良しと思いませんでした」
いいね、いいね!新人騎士として完璧な答えですよ!
心の中でガッツポーズを決めていると、総長に馬鹿にしたような目で見られた。
「ほぅ、こんな魔剣まで持ち出して勝ちにこだわった奴が、騎士道精神だと?」
いやいや、それは考え方の相違でして。その剣に魔法を付与したのは私なので、剣の力も私の力だと考えているんですよ、私的には。
……なんて、とても言えないけど。
困ったな。さっきの答えで解放してくれるつもりはないのかな?
ちらりと見ると、こちらを見返している総長と目が合い、………耐えられなくなったので、正直に答えることにした。
「はい、おっしゃる通りです。勝ちにこだわることが、総長への礼儀だと思いました。総長は、左足を怪我してらしたので、左に打ち込みました」
「はぁっ?!」
そう叫んだのは、どの団長だったのか。
私の答えを聞いた瞬間、団長・副団長たちが全員一歩前に踏み出し、殺気のこもった目で私を睨みつけてきた。
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
団長・副団長40人って!こ、殺される!!
敬愛する総長に対して、騎士道精神と真逆の攻撃をしてしまって、すみませんでしたー!!
と、怯えおののいていると、上から総長の声が降ってきた。
「なぜ、左足を怪我していると思った?」
「へ? だって、歩かれている時、左足が地面につく時間の方が、右足が地面につく時間よりもわずかですが短かったですし、立っている時も、わずかに体重が右足に多くかかっていました。総長のように肉体が発達している騎士は、左右のバランスがとても良いです。それが崩れているとしたら、ケガしか考えられません」
正直に答えると、目に見えて、団長・副団長の殺気がなくなっていった。
というか、驚愕したように目を見開いて、見つめられる。
……え?な、なんで?
「……なるほど。フィーア・ルード。お前の名は、覚えたぞ」
そう言うと、総長は片手を上げ、それが合図だったのか、司会が入団式の閉会を宣言した。
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