14 騎士団入団式3
「勝ちは無効だ! オレは、攻撃は一切しないと自ら発言したが、それを破った!」
サヴィス総長は、大声で判定者の言を否定した。
勝どきをあげていた騎士たちは、ぴたりと口を閉じる。
そして、総長は、ひたと私を見つめてきた。
「フィーア・ルード」
「は、はい!」
「お前の剣を見せてみろ。先ほどのスピードと攻撃力は、とても、その体から繰り出せるものじゃない」
ひいいいいい。さすがのご慧眼ですわ、総長様!!
弾き飛ばされた剣を慌てて拾うと、おずおずと総長に差し出した。
総長は、何の変哲もない鉄剣を無表情で眺めると、右手でつかみ……軽く試し振りをした。
びしゅっ!!
異常な音がし、剣の勢いに合わせて、土ぼこりが舞い上がる。
「……速度上昇と攻撃力上昇の付与魔法がかけてあるな。鉄剣に複数の魔法付与なんて初めて見た。しかも、付与を隠蔽するため発光隠しの目くらまし魔法までかけてあるとは。………シリル!」
総長は、振り返りもせずに誰かの名前を呼んだ。
団長・副団長が集まっていた席から一人の騎士が走り出てくる。
白い騎士団服の上からサッシュを斜め掛けしていることから団長で、サッシュの色から第一騎士団だと分かる。
わぁ、私の上司ですね!
シリル第一騎士団長は、グレーの髪と青い目をした20代後半の騎士だった。
総長のように、体が厚く、圧倒的な存在感があるタイプとは真逆の感じで、細身の、どちらかというと優男タイプの美形だ。
「剣を構えろ。一勝負するぞ」
総長の言葉に、シリル団長はうっそりと微笑むと、しゃらりと剣を抜いた。
うわぁ、綺麗な剣。白銀色をしているから、ミスリル製ね。
ものすごく高価で、この剣1本で鉄剣100本以上の値段がするはずだ。
ミスリル製の剣が買えるとは、さすが団長。給金がいいんだな。
シリル団長は、中空の雲を指すように剣を振り上げると静止した。
団長が構えたのを確認した総長は、軽くステップを踏むと、一気に踏み込んだ。その速度が尋常じゃなく速い!
とっさに手首を返してガードしたシリル団長の剣に向かって、真上から総長の剣が振り下ろされ……がきん!と、そのまま団長の剣をへし折った。
「………は?」
半分になった自分の剣を、シリル団長は茫然と眺めていた。
信じられないといったように軽く頭を振ると、総長を見つめる。
「……確認ですが、総長。これはミスリル製で、それは鉄製ですよね。鉄でミスリルを折るって………どれだけ速度と力が乗っているんですか?! そもそも、今の踏み込みの速さは何なんですか?!!」
「答えは、そこにいるお前の部下が知っているんじゃないのか、なぁ、フィーア?」
………しまったああああああああああああ!!
私は、ものすごい後悔で、地面を転がりまわりたい気分だった!
攻撃力は、数値化できる。一般的な騎士で100だ。
だから、攻撃力を付与する場合は、プラス10とか、プラス15とかという形で付ける。この付け方が付与師ができる唯一の方法だと言い換えてもいい。
そう、私はやっちゃったのだ。
大聖女として、精霊から教えてもらった私だけの付与方法を使ってしまったのだ。
2倍、とかって。
化け物クラスの総長が倍化されたら、どんな化け物が誕生するんだよおおおお。
自分が使うことしか考えてなかった。
あああ、私が攻撃力80として、どうして、プラス80とかの付与にしなかったのよおおお。
2倍とかって。
総長が500とかだったら、1,000になってしまうじゃないか!!!
「フィーア、これは、国宝クラスの代物だ」
総長が話しかけてきたが、地面に跪いて顔を上げられない。
だって、総長に告げる言葉が決まっていないから。
「この剣の付与内容は、攻撃力プラス100や200どころではない。速度についても同様だ」
いいえ、違うんです。皆さんが知らないだけで、倍化付与ってのがあるんです。足し算では、もはやないんですよ。
「この剣を握ると、魔人になった気分だ」
ええ、本当に。あなたは、魔人になるんですよ、その剣を握れば!
………私は、言うべき言葉を決めると顔を上げた。
「その剣は……」
総長と私のやり取りを聞いていた騎士の面々が、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。









