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【アニメ化】転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す  作者: 十夜


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12 騎士団入団式1

入団式当日は、からっからの晴天だった。


昨日支給された騎士服に身を包み、自室の鏡に映してみる。


騎士団の制服は、理想・誠実を象徴する青地をベースに、差し色として黒が入れてある。

そこに、第一騎士団の証として、王家の紋章である黒竜が描かれた襟章をはめる。

「……制服効果ってすごいな。2割増しでイケて見える気がする」


鏡に映った自分をまんざらでもない気分で眺め、ポーズを取ってみる。

すると、鏡の中に、アホな子どもを見つめる目つきで私を眺める女性の姿が映りこんだ。


「はっつ、オルガ騎士! 朝から、不愉快なものをお見せしました!」


オルガは、温かい飲み物が入ったカップの一つを私に手渡すと、空いた手を面倒くさそうにふった。


「オルガって呼べって言ったでしょ。次に騎士を付けて呼んだら、返事をしないよ」

「……了解しました、オルガ」

「その敬語もなし。私たちは、ただの同僚だからね。敬語を使う相手は、隊長とか団長とか階級が上の者に対してだけだ。みんな、そうしている」

「……分かりま、……分かるた」


しまった。かんだ。


「ははは! あんたは、昨日からよく噛むなぁ!」


豪快に笑うオルガとは、寮の同室になった。


騎士団の合格が発表された昨日、王都に滞在予定の第一から第六騎士団は、騎士寮への入寮が許可されたのだ。


騎士寮は、男女、そして団毎に分かれている。役付き以外は2人部屋で、風呂やトイレは共同だ。


同室になったオルガは、象牙色の肌に黄色の髪をした長身の女性騎士だ。

騎士団に入団して12年目の27歳で、第一騎士団は2年目らしい。

性格はさばさばとしており、10歳以上も年下の私にも対等に接してくれる。


「そろそろ行くかい? 新人は、早めに集合するんだったろ」

「そうね! ちょっと早い気もするけど、迷ったらいけないし、先に行くわ」


部屋を飛び出し、第一騎士団女子寮を飛び出すと、入り口にファビアンが立っていた。

私に気づくと、軽く笑んで片手を上げる。


……ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!


ファビアンを一目見た私は、驚きに飛び上がった。


青と黒の騎士団の制服を着た銀髪のファビアンは、きらっきらの完全なる王子様だったのだ。


「おはよう、フィーア。一人で行くのは心細かったから、待っていたんだ。一緒にいいかな?」

「す、すみません! 制服着たら2割増しで自分イケてるとか調子こいてすみませんでした」

「……えぇ?」


意味が分からず不思議そうにファビアンは見つめてきたけど、私は10分前の自分を思い出して、穴があったら入りたい気分だった。


「フィーア?」

「いや、騎士服に浮かれて、調子に乗っていました! ……ファビアンを見たら、我に返れたわ」

「ふうん? 役に立てたようで、よかったよ」


ファビアンは不思議そうに微笑んでいたけれど、私は朝一番から全身で脱力してしまった。

私ごときでちょっとイケてると思うなんて、どんだけうぬぼれているんだ自分!と喝を入れながら、入団式会場に向かうファビアンに大人しくついていった。


入団式は王城内の騎士訓練所で行われ、新入団の騎士200名に加えて、全団の団長・副団長と王都在住の第一から第六騎士団の全員が参加予定となっている。


式次第は、①騎士団総長からのお言葉、②新人騎士代表の挨拶、③新人騎士と既存騎士代表の模範試合の三本柱だ。

そんで、②と③は誰が選ばれたのかを事前に知らされず、その場で突然指名されるらしい。

いや、チキンな私には無理な話だな……

とか思いながらも、なんとなく挨拶の言葉を考えてきてしまったあたり、少し自意識過剰なのかもしれない……


新人騎士は、会場の中央に固まって整列するということだったので、同期の新人騎士たちと直立して待っていた。

少しずつ各団の騎士が集まってきて、新人騎士を囲むように楕円を描いていく。第一から第六騎士団は、それぞれ200名程度いるらしいので、全体で1,200名程度が集まることになるのだろうけど……集まった騎士たちは、圧巻だった。


遠目にも、一人ひとりが卓越した騎士であることが分かる。

しっかりと鍛えられた体に、騎士服を着て、あるいは鎧を纏い、腰には剣をさしている。


全員が揃ったかと思われたころ、50名弱の騎士が入ってきた。

副団長以上にのみ着用を許された、信頼・清廉を象徴する白地の騎士団服を身にまとっている。

見るからに屈強な騎士たちで、雰囲気が違う。空気が突然、重くなったような感じだ。

ざわついていた会場も、いつの間にかしんと静まり返り、しわぶきひとつ聞こえない。


緊張感が最高潮に達した頃、一人の騎士が入ってきた。


千人以上の人間が集まっているというのに、その騎士が歩を進める度に、ブーツを踏みしめる音が聞こえる。

会場は、静まり返っていた。


その騎士が発する存在感は普通ではなかったが、彼の異常性を高めているのは、周りの騎士たちの彼への態度だった。

彼は、勝利や成功といった目に見える形で結果を示し続けているという。

それが絶対的な盲従という形で、周りの騎士の態度に表れていた。


騎士団長も一介の騎士も、彼が眼前を歩むと、直視が耐えられないといった風に(こうべ)を垂れていく。

それが会場全体に広がり、気づくと頭を上げているのは、彼一人となっていた。


―――ナーヴ王国黒竜騎士団総長、サヴィス・ナーヴ。


彼は、その存在一つで、恐ろしいほど騎士団を掌握していた。


「まずは、我々に新たな同胞が加わったことを喜び合おう」

檀上に上ったサヴィス総長は、朗々としたよく通る声で口上を述べ始めた。


その場の誰もが、一言一句聞き逃すまいと耳をそばだてる。


彼の声や姿が、サヴィス総長が神格化されることに一役買っていることは間違いなかった。


鍛えられた筋肉と見事な長身。その体躯が、他騎士よりも長い膝まである白衣の騎士服に包まれている。差し色は黒と金で、緋色の裏地が鮮やかな黒いマントを片方の肩に掛けている。

マントと同じく黒光りする髪は、少し長めで襟足まで届いており、前髪の下からは、髪色と同じ黒瞳が輝いている。

秀でた額、黒曜石のような瞳、すっと通った鼻筋、薄めの唇、それらが組み合わさって至上の造形美を作り上げていたが、最も特徴的なのは、右目が黒の眼帯で覆われていることだろう。


隻眼。

……しかしながら、その特徴は彼の魅力を少しも損ねていなかった。

むしろ、完成された美貌に一筋の影を落とすことで、新たな魅力が一つ追加されたようにも見え……


「我々は、清貧・貞潔・忠節を誓おう。何者をも略奪せず、排除せず、屈服しない。騎士の十戒を守り、血の最後の一滴までをこの国と国民に捧げよう。……天と地の全ては、ナーヴ王国黒竜騎士団と共に!」


その声は、波動となって会場中の騎士を打った。


騎士たちは唱和しながら、拳を反対側の肩に打ち付ける。

「天と地の全ては、ナーヴ王国黒竜騎士団と共に!!」



……………………………なんというか。

……………………………………………………すごいな。


私は、感動に打ち震える騎士たちの中、感心してサヴィス総長を眺めていた。


前世では王女だったため、父王や兄王子、近隣諸国の王の演説を聞く機会が多かったが、これほど人心を掴む人は初めて見た。


……本当にすごい。天性のもの、プラス実力を示し続けた結果なんだろうけど、並大抵の人生じゃあなかったはずだ……


そう感服して見つめていると、サヴィス総長と目が合った。……気がした。


うん、こういうことだよね。

人心を掴む人って、皆に自分はその人の特別だって思わせるのが上手なんだよね。

いかんいかん。自意識過剰にも、総長様と目が合ったとか思ってしまったわ……


さて。会場中を打ち震わせたサヴィス総長のご挨拶の後、不運にも新人騎士代表挨拶を申しつかったのは、ファビアンだった。


……うん、そうかなって思っていた。

例がない新人騎士からの第一騎士団入団だもん。ファビアンか、自意識過剰かもしれないが私かもって思っていた。よ、よかった。ファビアンで。


安堵しながら、ファビアンを見守っていると、さすがは侯爵家嫡子。


傍から見ても、すごく緊張はしていたけど、つかえることもなく立派な挨拶をしていたし、先輩騎士たちにする礼は、とてもきれいなものだった。


ふぅ、これで2つも次第が終わった。後は、模範試合だけだなー、と思っていると、司会席あたりがざわつき出した。

訝しく思いながらも、挨拶を終えて戻ってきたファビアンをねぎらう。


「一回も噛まなかったなんて、すごいね。上手だったよ」

「……その基準は、フィーア独特のものだと思うけど。ありがとう」


その時、進行役の騎士がひきつったような声で告げた。

「続いて、模範試合を行う。新人騎士代表は……第一騎士団所属のフィーア・ルード」


「………は?」


私は、間抜けな声を出し、ぽかんと司会進行役を見つめた。


司会の騎士は、何度か咳をすると、声を張り上げる。

「相対するのは、……………、その…………、そ、総長、…サヴィス・ナーヴ王国黒竜騎士団総長!」


………………………………………………………は?


今度は、声も出なかった。




読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これはもう、負けるしか無い(・・)(。。)うんうん
[良い点] 100%麻痺付与の必殺びりびり剣使えば天下無双じゃね? 耐性つけられてたら終わりだけど
[気になる点] 脱字:微 私に気づくと、軽く笑んで片手を上げる。
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