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105 ガザード辺境伯領2

「あら、フィーアはガイ団長と知り合いなの?」


不思議そうに姉さんが首を傾けるけれど、私はそれどころではないと姉を背中に庇う形で、ガイ・オズバーンの前に立ちはだかった。


「ま、魔人ガイ・オズバーン! いくら姉さんが美しくて優しくて強いからって、懸想されても渡さないからね!」


私の言葉を聞いた姉さんは、嬉しそうにふふっと笑う。

「あら、嬉しい。フィーアが私を守ってくれるのね」


一方、ガイ・オズバーンは顔を真っ赤にして、恐ろし気な声を上げた。

「な、な、な、オ、オレがオリアを好きって! お前、い、い、一体、何を根拠に……!!」


「根拠はお前のその動揺している態度だろうな」

椅子に座ったまま、カーティス団長が面白くもなさそうに呟く。

「ガイ、お前は30を幾つも過ぎていたよな。フィー様の当てずっぽうな言葉にそれほど慌てるなんて、思春期からやり直してこい」


カーティス団長の言葉を聞いた私は、ますます自分の言葉に自信を持つ。

「まあ、カーティスまでそう感じるなんて、やっぱり! このたてがみ魔人め! 姉さんは絶対に渡さないからね!!」


「『たてがみ魔人』? ……そういえば、オレのことをそんな風に呼んでいた子どもがいたな。赤髪の……おま! お前、フィーアか!?」

訝し気な表情でガイ・オズバーンから名前を呼ばれ、私は焦った声を上げた。

「ひゃあああああ! 魔人に名前を呼ばれたあああ!!」


「いや、だから、オレだよ! ガイ・オズバーンだよ!!」

「だから、知っているわよ! ガイ・オズバーンというたてがみ魔人でしょう!!」


「……どうやら、知り合いのようね。ガイ団長もフィーアも成人しているのだから、自分たちで解決すべきだとは思うけれど、私は久しぶりに妹に会ったのだから、時間が惜しいわよね」

姉さんはそう言うと、睨み合っているガイ・オズバーンと私の間に入り、ぱんっと両手を打ち合わせた。


「はい、いったん休憩!」


その音で我に返ったガイ・オズバーンと私は、驚いて姉さんを見る。

「あ? オ、オリア!」

「姉さん!」


すると、姉さんは威圧感のある微笑みでガイ・オズバーンを見つめた。

「それで、ガイ団長? どうして私の妹は団長を魔人と思い込んでいるのでしょうか?」

「そ、それは……!」

「それは?」

「お前の妹が、思い込みが激しいからだ!!」

ガイ・オズバーンの答えに、オリア姉さんは不同意を表すように目を細めた。


……ガイ団長の説明はこうだった。

第十一騎士団の副団長であった5年ほど前から、ガイ副団長(当時)は数日間のまとまった休みが取れる度に、近隣地のそこここに足を延ばしていたらしい。

そして、不幸なことに、我がルード騎士領は、第十一騎士団の駐屯地から馬で1日程度の距離だった。


そのため、ひょっこりとルード領に遊びにきたガイ副団長は、そこで赤髪の子どもに出会ったらしい。


ガイ副団長は体格がいいし、髪は逆立っているし、三白眼だし、見た目が怖い。

だから、子どもには必ず怖がられるそうだ。


「ぎゃああああああ!」

案の定、ガイ副団長はルード領で出会った赤髪の子どもに叫び声を上げられた。


けれど、そこで何を思ったのか、叫び声を上げる子どもに向かって、ガイ副団長は自らを魔人と名乗ったのだ。

「ふはははああ、叫ぶなあ、子どもよ! オレは伝説の魔人ガイ・オズバーンだ! 叫ぶと喰らうぞ!」

「ひゃ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぃ、ぃ、ぃ―――」


―――続けられた説明によると、ガイ団長の出身地には独特の慣習があり、年に1度、大人たちが魔人に扮して子どもたちを脅かして回る行事があるらしい。

魔人を見て大声で泣く子どもほど、その1年は健康に過ごすことが出来ると言われている行事が。


そのため、定期的にルード領を訪れていたガイ団長は、いつ見ても赤髪の子どもの剣技が上達しておらず、毎回他の子どもに負けていることを見ては悔しく思い、元気を出させるつもりで、魔人の振りをして赤髪の子どもを泣かせていたという。


「……なるほど、そうやってガイ団長は、何の非もない妹を脅かして遊んでいたんですね。控えめに言っても酷い話です。全く、私の可愛い妹に何をやってくれているんですか!」

話を聞き終わった姉は、心底呆れたような表情でガイ団長を見下ろしていた。


「はい、誠にもって面目ないことです」

対するガイ団長は、姉の目の前の床に正座をし、両手を膝の上に置いて、神妙な顔をして頭を下げている。

私はというと、姉の後ろに隠れ、姉の背中から顔だけを出してガイ団長を睨んでいた。

カーティス団長とグリーン、ブルーは離れたテーブルに座って、お茶を飲んでいる。


姉さんがガイ団長に言いたいだけ文句を言い、一息ついたのを見たカーティス団長は、確認するかのように口を開いた。

「……オリア、君の気はすんだか? そうであれば、次は私がガイに物申したいのだが」


「カーティス!!」

ガイ団長はカーティス団長が助け舟を出してくれたと思ったらしく、助かったというような表情でカーティス団長を振り仰いだ。


……けれど、それはどうですかね? 多分、カーティス団長は言葉通り、物申すと思いますよ。

だって……カーティス団長は前世の私が魔人の手によって絶命したことを、知っているはずだから。


はっきりと確認したことはないけれど、以前、魔王城が前世の私の墓標だと言っていたから、あの城で魔人の手によって命を落としたことをカーティス団長は知っているはずなのだ。

だから、前世で私の命を刈り取った存在と同じ種族名を名乗り、私を脅したガイ団長を、カーティス団長が無罪放免するとは思えないのだけれど……


そう考えながら、私はかたかたと震え出した自分の両手を見つめると、へにょりと眉を下げた。

『伝説の魔人から姉さんを守らないと!』と、無我夢中だった時は恐怖を感じなかったのだけれど、ガイ団長が偽魔人だと分かった今になって、魔人への恐怖が蘇ってきたのだ。

情けない話だけれど。


震える体を誤魔化すように、後ろから姉さんにぎゅうっとしがみ付いていると、カーティス団長が痛まし気な表情で口を開いた。

「幼い頃の経験は、強烈な体験としていつまでも記憶に残ると言います。お可哀そうに、小さなフィー様はどれ程恐ろしかったことか……」


カーティス団長はそこで一旦言葉を切ると、オリア姉さんに視線を向けた。

「オリア、悪いがフィー様を頼む。その間、私はこの男に話がある」


続けて、カーティス団長はぎろりとガイ団長を睨みつける。

「この思慮浅き騎士団長がいかに愚かで、極悪非道な行いを幼いフィー様に行ったのかを懇々と説明する必要があるからな。問題は、このたてがみの下にある頭が貧弱すぎて、私の説明を理解出来ないだろうということなのだが……なぁに、明日の朝まで時間はたっぷりある」


カーティス団長の言葉を聞いたガイ団長は、驚いたように目を見開いた。

「は? いや、カーティス、明日の朝までって、今はまだ朝だぞ! おい、冗談だろう? というか、お忙しい第十三騎士団長様であるお前の時間が無駄になるだろうが! え、本当に今から説教が始まるのか? ま、待て、落ち着け! 他にやるべきことが幾らでもあるだろう! お前が訪れた理由を聞いていないし、尋常じゃないほど存在感があるあの大男たちの紹介もしてもらっていないし………」


色々と抵抗していたガイ団長だったけれど、聞く耳を持たない様子のカーティス団長を見て、途中から作戦を変えてきた。

往生際悪く、様々な話題を持ち出しては気を逸らせようとしていたけれど、カーティス団長には全く効果がなかった。

それどころか、カーティス団長は無言のままガイ団長を一睨みすると、その襟首を掴み、ずるずると引っ張って扉へ向かって歩いて行った。


ただし、どこまでも気を遣うカーティス団長は、扉を閉める直前に姉さんと私を振り返ると、頭を下げる。

「フィー様、大変申し訳ありませんが、どうしてもガイの不誠実な行いを見過ごすことが出来ませんので、彼への説明を優先させてください。フィー様は明日の朝まで、姉上様とごゆるりとお過ごしください。……それから、オリア。世話を掛けて申し訳ないが、そこにいる2人のために1室用意してくれ」


そう言うと、カーティス団長は抵抗するガイ団長を引きずるようにして部屋を出て行った。


……本当に、説明の足りない元護衛騎士だけれど。


けれど、普段のカーティス団長らしからぬ荒っぽい様子で部屋を出て行ったのは、自称であれ『魔人』と名乗った者を、一刻も早く私の見えないところに連れ去ろうとしてくれたのだろう。

それから、私を慰めるのは自分の役目と思っていないから、私が姉さんに甘えられる環境を作ろうとしてくれたのだろう。


……こんな風に全く説明もない状況で、ここまでカーティス団長のことを理解できるのなんて、私だけでしょうけれどね!


そう思いながら、折角カーティス団長が用意してくれた環境だからと、もう一度姉さんにぎゅううと抱き着いたのだった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


前回は久しぶりの投稿だったにもかかわらず、たくさんのコメントをありがとうございました(*^-^*)

(嬉しくて、投稿しました)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] フィーアはカーティスに言った、魔王を封じた時に相討ちになったという嘘説明をカーティスが信じたと思い込んでるから、魔人に対してのどうこうって思考の流れはおかしいです
[一言] なまはげ文化をしっている日本人としては、 彼にそんなに説教しないであげてほしいけどw
[良い点] 応援してます。 更新ありがとうございます。 愛が深いですね。
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