表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/312

99 特別休暇5

説明された話によると、グリーンとブルーは休暇でナーヴ王国の王都へ遊びにきているとのことだった。


アルテアガ帝国とナーヴ王国の間には、小国とは言え1つの国が挟まっている。

だから、ちょっと遊びにこられるような近い距離ではないはずだけれど、この2人は長い休暇を取っても食べていけるほど、よい職業に就いているのだろうか。


そう思い、ちらりとグリーンとブルーを見上げると、グリーンが私の疑問を拾ってくれた。

「どうした、フィーア?」

「いえ、お2人は長めの休暇を取っているように見えたので、そんなに仕事を休んで大丈夫なのかなと思いまして」


「あー、それは大丈夫だ。フィーアに助けてもらったおかげで、オレらは家業を継ぐことができたんでな。オレらが遊んでいる分、レッドが頑張ればいいだけの話だ」

「な、なるほど。それで長男のレッドはご一緒ではないのですね」


……可哀想に。八百屋だか魚屋だか知らないけれど、レッドは今頃一人で働いているのだわ。

あれ、そう言えば家柄がいいとか言っていたから、案外、実家は商会とかをやっている……感じはしないわね。

体を動かすのが得意そうだから……うーん、先ほどは否定してみたけれど、やっぱり帝国でも冒険者をやっているのかもしれないわ。


そう考え込んでいると、黙って会話を聞いていたクラリッサ団長と目が合った。

「あっ! す、すみません! 私ったら、互いに紹介していませんでしたね!」


まずい、まずい。そういえば、グリーンたちとクラリッサ団長は初対面じゃないの。私が紹介しないといけなかったのに。

そう思い、慌ててそれぞれを紹介する。

「こちら王国のクラリッサ騎士団長です。王都警護を司る第五騎士団の団長をされています。……そしてこちらは、半年前に一緒に冒険をしたグリーンとブルーです。お2人は兄弟です」


私の紹介を黙って聞いていたクラリッサ団長は、紹介が終わると、にこやかな表情でグリーンたちに片手を差し出した。

「初めまして、クラリッサです。まさかフィーアちゃんにこんな美形なお友達がいるなんて思わなかったわ。フィーアちゃんは恋愛音痴そうなんだけれど……案外、こういう娘が素敵な男性に恵まれるのかもしれないわね」


「……どうも」

クラリッサ団長に褒められたグリーンとブルーだったけれど、無表情で素っ気なくお礼を言うだけの対応だったので、その姿を見て驚く。


えっ!? この2人は赤面症の照れ症だと思っていたのだけど、突然すごくクールになったわね。

はっ! もしかして、あまりに可愛らしいクラリッサ団長に身構えてしまい、意識して格好つけることで、照れないで済むのかしら?


そう考えながらも、いやいや、だとしたら、全く意識されずに毎回赤面される私があまりに可哀想だわと思い、考えることを放棄する。


2人が普段になくクールな対応をしていることには気付かないようで、クラリッサ団長はいつものようににこやかに話しかけていた。

「ところで、お2人は外国の方なのかしら?」


「……なぜ、そう思う?」

純粋そうなクラリッサ団長の質問に対し、グリーンが用心深そうに問い返す。

対するクラリッサ団長は、やはり純粋そうな表情で可笑しな返事をしていた。


「私は職業柄、国内の全ての重要人物の顔を覚えているわ。でも、お2人の顔には、全く見覚えがないから」


「クラリッサ団長、……その、グリーンとブルーは重要人物ではないと思いますよ。ええと、私の推測ですが……」


私が意見をした途端、グリーンとブルーはびくりと体を強張らせると、2人ともに髪をかきあげた。


さり気ない様子で辺りを見回していたクラリッサ団長の唇が、興味深そうに弧を描く。

「……へえ、フィーアちゃんの言葉が絶対なのね? フィーアちゃんが2人を重要人物ではないと表現した途端、取り巻いていた護衛が解除され、重要人物ではないように擬態するなんて。……ちょっとフィーアちゃんへの忠節ぶりが度を越しているけれど、害をなす感じではないわね」


「クラリッサ団長、何かおっしゃいましたか?」

またもや、低く呟かれたクラリッサ団長の言葉が聞き取れなかったため、聞き返す。


……もしかして、クラリッサ団長は口の中で独り言を呟くタイプなのかしら。

だとしたら、何度も聞き返すのは失礼よね。


「ふふふ、こんなに興味をそそられる相手に出会ったのは、久しぶりだと考えていたのよ。残念ながら、私なんて目に入らないほど、既に特定のご令嬢に夢中のようだけれど。もしかして、……そのご令嬢に会うために、この国を訪問されたのかしら?」


クラリッサ団長の質問に対して、グリーンもブルーも何一つ反応しなかったため、それは団長に対して失礼じゃないかしらと思ったけれど、団長が何かを理解したかのように微笑んだので、えっと思う。

グリーンたちは全く微動だにしなかったように見えたけれど、何事かの返事を返していて、私だけが読み取れなかったのだろうか。


「……ふふ、やだわ。さすがにそんなことはあり得ないと思ったのに、本当にそんな目的でこの国を訪問するなんて。1つ聞きたいのだけれど、フィーアちゃんの意思を無視して、何事かを強行することはないわよね?」


にこやかに、けれど底冷えがするような迫力で(うっす)らと微笑むクラリッサ団長に対して、グリーンは無表情のまま口を開いた。

「フィーアの意思に反する行動や、フィーアの害になる行動をすることは、絶対にねぇ」


「……そう。ひとまずはその言葉で満足しておくべきかしらね。仮にあなた方が重要人物であれば、これ以上踏み込むのはお互いに危険すぎるようだから。それに……本物の護衛が来たようだわ」

クラリッサ団長は満足したかのようににこりと微笑んだけれど、その微笑みが消える間もなく私に声がかけられる。


「フィー様!」


「カーティス?」

あれ、待ち合わせは夕方だったはずだけれどと思いながらも、その声を間違えるはずはないと、名前を呼びながら振り返る。


果たして、思った通りのカーティス団長が―――とは言っても、騎士服を脱いでいたので、私服に剣という傭兵のようないで立ちだったのだけれど―――走り寄ってくると、私とグリーンたちの間に立ち塞がった。

「カ、カーティス、どうしたの?」


呼びかけに返事をしない上、見方によってはグリーンたちを警戒しているようにも見える行動に戸惑いを覚え、もう一度問いかけてみたけれど、やはりカーティス団長は返事をしなかった。


それどころか、私に背中を向けたまま、まるで私を守る高い壁でもあるかのように、目の前に立ち塞がり続けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています
★アニメ化決定!大聖女TVアニメ公式X

★【大聖女 (本編) 】コミカライズへはこちらからどうぞ
★【大聖女(ZERO)】コミカライズへはこちらからどうぞ

コミックス12巻発売!
鳥真似編クライマックスのわくわくドキドキの一冊です!
また、通常版に加えて、小冊子(漫画【SIDEシリル】騎士の誓い+SS【SIDEシリル】遥か遠い空の下でフィーアを思う)付きの特装版もあります!
コミックス12巻

コミックス12巻特装版

コミックスZERO3巻が発売!
シリウスとセラフィーナの絆がどんどん深まっていき、魅力的な近衛騎士が大量投入されるお楽しみ満載の一冊です!
コミックスZERO3巻

3/14ノベル11巻が発売!
【SIDEザカリー】国宝の鎧を真っ二つにしてしまったオレの顛末、続・シリウスと恋人デート(300年前)など、5本を加筆しています。

また、通常版に加えて、小冊子(超美麗カラーポストカード+SS「フィーア、シリル団長の騎士服に刺繍をする」)付きの特装版もあります!
ノベル11巻

ノベル11巻特装版

ノベルZERO5巻が発売中!
近衛騎士団のメンバーが期間限定で『騎士カフェ』なる謎の仕事をしていると知ったセラフィーナは、
変装したシリウスとともに『騎士カフェ』を訪れることに…。

ノベルZERO5巻

どうぞよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全文 [気になる点] 面白過ぎる [一言] 全然このページの感想ではありません、すみません Kindleで小説8巻も購入して読みました。何故かとゆうと小説にしか無いお話しや、シリウスが素敵…
[一言] またハーレムが増えてしまった
[良い点] 小説版とWEB版の異なる点、気づかせてくれたこと。 [一言] フィーアが聖女として活躍する話が大好きです。 レッド、グリーン、ブルーと冒険されたサイドストーリ読みたく、電子書籍3巻とも即購…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ