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98 特別休暇4

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

1年前の今日、ノベル1巻が発売されたので、記念として更新しました。



グリーンは騎士団に入団する前に知り合った冒険者だ。


とは言っても、「グリーン」と言うのは偽名で、きっと本名は別にあるのだろうけれど……


そう考えながら、私はグリーンたちに出会った時のことを、懐かしい気持ちとともに思い返してみる。


―――今から半年以上前、『成人の儀』の最中に黒竜ザビリアに襲われて死にかけた私は、前世の記憶を取り戻した。


前世では大聖女だったけれど、今世では3歳と10歳で受けた聖女検査で一切の回復魔法なしと判定されている身だ。

大聖女の記憶はあっても、一体どれ程前世の力が使えるのかしら……と、騎士団試験を受けるまでの3か月間、色々な回復魔法を自分にかけ、聖女の力を試していた。


けれど、怪我や状態異常の回復については、被験者なしでは確認が難しいことに気付き、怪我をしそうな冒険者と冒険をすることで回復魔法を使ってみようと閃いたのだ。

そんな私の前に現れたのが、グリーンたち3兄弟だった。


3兄弟は自己紹介の際、長男は「レッド」、次男は「グリーン」、三男は「ブルー」とその髪色にちなんだ偽名を名乗った。

出会った当初、レッドとグリーンは顔面から流血しているという怪しさ満点の存在だったので、用心のために偽名を名乗ったことは当然だと思う。


詳しいところはぼかされたので良く分からないのだけれど、グリーンたち3兄弟はナーヴ王国と大陸の勢力を二分する巨大帝国アルテアガの出身とのことだった。

レッドは長男で、家督を継ぐべき立場ではあったけれど、生まれた時から「顔から流血する」という呪いをかけられており、それを理由に腹違いの弟が跡目を継ぐことになると説明された。

ただし、占い師からナーヴ王国にしか生息しない魔物を討伐すれば、その呪いは解けると占われ、兄弟3人で魔物討伐にはるばるやってきたとの話だった。


同行して分かったのだけれど、この3兄弟は本当に強かった。

そして、結果として、見事に魔物を討伐した。

ただし、呪いは自動で解けるはずもなく、私が助力を申し出て、聖女の力で解除した。


もちろん、用心深い私は、二度と会わない相手でも聖女と認定されるのはよくないなと考え、呪いには呪いを、と違和感のない設定を披露した。

つまり、私自身が『冒険者を聖女の力で助けなければ、行き遅れる』という呪いに侵されており、『呪いのおかげで聖女でもないのに聖女の力が使える』と説明したのだ。

そうしたら、3人ともに素直に信じてくれたので、この3人は物凄く人を信じやすいのだと思う。


ただし、今思い返してみると、その時の私は聖女の弱体化についてあまり理解していなかったので、少し力を使いすぎたかもしれない。

平均的な聖女の力を使用すれば怪しまれないだろうと考え、力を加減したつもりだったのだけれど、……3兄弟に身体強化魔法をかけたし、魔物に属性弱体化魔法をかけたし、肉体の欠損を再生させたし、生まれた時からかかりっぱなしだったという状態異常を回復させた。

……あ、思い返していたら、すごくやり過ぎた気持ちになってきた。


まあ、でも、半年以上前の話だし、『私も呪いに掛けられていたから、呪いの力です!』の一言で見逃してもらえる気がする、うん、きっと、多分、大丈夫なはず。


そう思いながらグリーンを見上げると、以前別れた時と変わらない、偽名通りに美しい緑色の髪をした大男が立っていた。


その表情は以前別れた時よりも晴れ晴れとしており、別れていた半年間がグリーンにとって有意義なものであったことを物語っているようだった。

その表情を見た私は、嬉しくなってにこりと微笑んだ。


呪いにかかっていることを理由に、レッドは長男にもかかわらず跡目を継ぐことが出来ず、3兄弟は家族から冷遇されているとのことだった。

けれど、グリーンたちは魔物を倒し、呪いを解いて国へ戻ったのだ。

そのことで、グリーンたちの状況が好転し、少しでも家での環境がよくなればいいなと考えていたけれど、……グリーンの晴れやかな表情は、今の暮らしが良いものであることの表れではないだろうか。

少なくとも、晴れ晴れとした表情を浮かべられるほどには、満ち足りた生活を送っているということだろう。


そう考えた私は、目の前にいるグリーンと、ここにいないレッドとブルーを思い浮かべ、良かったねと心の中で祝福した。


以前の冒険を1つ1つ思い返していると、グリーンが元気で再び出会えたことが、すごく貴重なことに思われる。

そのためか、一緒に冒険したのは5日だけで、別れてから半年しか経っていないというのに、古い友達に会ったような懐かしさと嬉しさが込み上げてきた。


私はその喜びのままに、グリーンに駆け寄るとがばりと抱き着いた。

「グリーン!」


けれど、どういうわけか、先ほどは不動のまま大柄な男性3人を地面にひっくり返した大男は、「ぎゃあっ!」と大声を上げて、後ろにひっくり返った。


「へ? グリーン?」

いや、いくら助走をつけたからといって、私ごときの体格の者にぶつかられただけで地面に倒れ込むのは不自然だろう。

そう思って首を傾げると、グリーンは真っ赤な顔で両手を前に突き出してきた。


「フィーア、お前はまだその凶悪な性格が直っていなかったのか! どうして、結婚もしていない相手に抱き着いたりするんだ? それは完全にわいせつ行為だからな!」

「ええ? 大袈裟な」


完全なる言いがかりに顔をしかめたけれど、そうだったわ! と思い出す。

そうだった、レッドとグリーンは生まれた時から20年だか30年だかずっと顔面から流血していたため、怖がられて避けられて、女性とは話をしたこともないと言っていたんだったわ。

だからなのか、何を言ったとしても、すぐに赤面して照れる大男たちだったのよね。


けれど……


「そうでした、グリーンってすごい美形だったんですよね。流血の印象が強すぎて、美形だったことを忘れていました」

改めて正面からグリーンを見つめた私は、正直な感想を漏らす。

すると、グリーンは地面に座り込んだままぴょんと後ろに1メートルほど跳び退った。器用だと思う。


「ひぃっ! お前は、面と向かって何てことを言うんだ? オレを殺す気か!」

「へ? そうではなくてですね。別れてから半年くらい経っているので、流血が止まって美形になったグリーンに女性がわさわさと寄ってきて、少しは女性に慣れたんじゃないかと思っていたんですよ」


「悪かったな! オレの不人気ぶりの理由は顔面流血だって言ったが、違ったわ! 純粋にオレの魅力の問題だった。その証拠に、先日も大勢の女性を呼んで食事会をしたが、最初から最後まで誰一人オレに話しかけないほどの不人気ぶりだったわ!!」


「まあ、皆さん見る目がないんですね。グリーンはこんなに素敵なのに」

心から不思議に思って呟くと、グリーンはべたりと上半身を倒し、完全に地面に這いつくばった。


「ぐふっ、無理だ! のっけからこのペースじゃあ、オレが息絶えるのも時間の問題だ……」


けれど、そんな姿だって、髪はきらきらと美しい緑に輝いているし、服の上からでも鍛えられた肉体が見て取れるし、びっくりするほど魅力的に見える。

そんなグリーンを見て、私ははて? と首を傾げた。


グリーンは間違いなく美形だし、ちょっと行動を一緒にすればすぐに分かるほど気が利くし、優しいし、強いのに、何が駄目なのかしら?

お国は帝国と言っていたけれど、帝国の女性はグリーンのような精悍なタイプは好まれないのかしらと首を傾げていると、私の後ろにいたクラリッサ団長が低い声で呟いた。


「……社交の場では、立場が上の者からしか話しかけることができないわ。つまり、この『グリーン』さんとやらは、大勢いたという女性の誰もが、自ら声を掛けられないほどの高位者ということなのかしら?」


「クラリッサ団長、すみません。よく聞き取れなかったのですが?」

低く呟かれたクラリッサ団長の言葉を上手く拾うことができなかったため聞き返すと、団長は答えることなく、逆に真剣な表情で質問された。

「ねえ、フィーアちゃん。この方は何者なのかしら?」


「へ? 冒険者ですよ。私が騎士になる前の話ですけど、魔物の森を数日間一緒に冒険したことがあるんです」


答えながら、ああ、そう言えばグリーンたちは帝国民であることを知られたくないと言っていたなと思い出し、出所については黙っていることにする。


というか、帝国では何をやっているのかについて一切聞いていなかったことに遅ればせながら気付き、小首を傾げる。

以前説明された話の感じからは、帝国で冒険者をやっているような印象は受けなかったので、もしかしたら帝国では別の仕事をしているのかもしれないと思い至ったけれど、具体的な仕事の話はしなかったため、答えが分からない。


そう思って困ったようにクラリッサ団長を見つめると、団長は僅かに唇を歪めた。

「……そう、フィーアちゃんも知らないのね。でも、私が気付くのに遅れる程、気配を消すことに長けた騎士たちが百人単位で護衛をしているなんて、……滅多にないほどの高位者のはずなのだけれど」


「クラリッサ団長?」

何事かをぼそぼそと口の中で呟かれたので、思わず名前を呼ぶと、背後から懐かしい声がかけられた。


「フィーア!!」


「え?」

聞き覚えのある声に、まさかそんな、と思いながら振り返ると、今度はグリーンの弟であるブルーが立っていた。

宝石よりも美しい青い髪をなびかせて、滅多にないほど整った美形が、満面の笑みでこちらを見つめている。


「フィーア! 何てことだ、本当に君に逢えるなんて!!」

ブルーは感極まったように叫ぶと、一直線に私の元に駆けてきた。


私はグリーンに会った時と同じように、物凄く嬉しくなって、「ブルー!」と両手を広げて抱きつこうとしたけれど、「ぎゃああ!」と叫ばれながら、後ろに跳び退られてしまう。


「フィーア! 君は成人していると聞いたぞ!! むやみに男性に触れるものではないだろう!!」

名前を体現するかのようにどこまでも青く綺麗な髪をした、恐ろしく造作が整った美形が、滅多にないほど堅苦しいことを言ってくる。


「……ふふっ」

相変わらずな兄弟を見て、私は思わず笑いを零したのだった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

WEB版と書籍版についてコメントをたくさんいただきましたので、ちょっとご説明を。


本作の場合、書籍版を出す時に、「より楽しんでもらえるように」と2~3割加筆しています。

すると、WEB版より楽しくなった気がするので、より多くの人に楽しんでもらえればと、可能なものは新たな形でWEB版にも落とし込もうと試みる時があります。今回の「グリーン」もそうです。


で、WEB版に落とし込もうと決めた時は、違和感なく溶け込めるよう構成しますので(少なくとも私はそのつもりで書きますので)、「ゆっくり楽しんでもらえると、嬉しいです」。

カーティスもね、彼が何者か分かったのは登場してしばらく経った後だったかと思います。

そんな風に、1番面白いだろうという構成を考えて説明を入れますので、(今回に限らず、今後に関しても)ちょっとだけタイミングを待ってもらえると嬉しいです。


読んだ方が楽しくなれればと思って小説を書いていますので、楽しく読んでもらうと1番嬉しいです。

ええ、もう1度感謝します。いつも読んでいただき、ありがとうございます(o^∇^o)ノ

(話のストーリー以外のことで、もやっとした方がいらっしゃったら、本当に申し訳ないです)



☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜


そして、薄々ずっと気付いており、気になっていたのですが、ノベル2巻の内容について今まで1度も詳しく説明していませんでした。

丁度ご質問もいただいたので、ご紹介させていただきます(半年以上前の宿題で、申し訳ないです……)。


挿絵(By みてみん)


ノベルはWEB版を基に加筆修正しているので、全体的に色々と内容が補強されています。

そして、以下については新たな話を追加しました。


1 【挿話】縮小騎士団長会議

 フィーアの従魔が黒竜であることについての話し合い。ザカリー団長発案で、他参加者はシリル団長、デズモンド団長、クェンティン団長、ギディオン副団長です。

参加者の大多数にとって、フィーアの従魔=黒竜という話は寝耳に水なので、今までで一番カオスな状態になっています。


2 【SIDE】第二騎士団長デズモンド

 縮小騎士団長会議を受けた、デズモンド団長内心の吐露。デズモンドは立派な肉体を使って、黒竜への実地調査を行ったりもします。


3 【SIDE】第一騎士団長シリル

 縮小騎士団長会議を受けた、シリル団長内心の吐露。フィーアとシリルがいかにしてお友達になったかの話でもあります。


4 【挿話】アルテアガ帝国の憂鬱

 アルテアガ帝国の話です。


5 フィーア、黒竜ザビリアと『ザビリア粛清リスト』を確認する

 ザビリアは『粛清リスト』を持っていたようです。さて、1位は誰なんでしょう。


6 フィーア、ザビリアの鱗をクェンティン団長に供与する

 黒竜の鱗という希少で貴重なものを手にしたフィーアは考えます。『大きくて多くて邪魔だな。よし、欲しそうな人にあげてしまえ!』勿論、向かった先はクェンティン団長で……


7 フィーア、ザカリー団長と成長について議論する

 フィーアはザカリー団長と身長について話をしていました。そうしたら、あの2人の団長が巻き込まれ……フィーアは耐えられず逃げ出します。


その他、「登場人物一覧」や「騎士団一覧」を作ってもらいました。「登場人物一覧」は素敵イラスト付きで、「騎士団一覧」は、誰なのかが一目で分かる便利機能です。


お手に取っていただいた方が楽しめますように! と、色々なアイディアを詰め込んで出来た1冊ですので、楽しんでいただけば嬉しいです。


以上、ご紹介でした。

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