10 騎士団試験3
……そして、1時間が過ぎ、2時間が過ぎたころ、やっと順番が近付いてきた。
うん、最後尾に並んだ弊害ね。
あと3人で順番だというところで、他グループの試験官が私の属するグループの試験官に話しかけてきた。
「我々のグループは、担当する受験生全員の試験が終了した。何人か、こちらで対応しよう」
やだわー、この男性にしてはちょっと高音のセクシーボイス、よく知っていますよー。
ほ・ら・ね、アルディオ兄さんだ!
私は、話しかけてきた試験官の顔を見ると、がくっと膝をついた。
何をやっているのよ、兄さん。
周りを見たら分かるでしょ。どの試験官も、自分のグループが終わったら、手伝いなんてせずに撤収しているのよ。
頼むから、帰ってくれ!
精一杯の気持ちで兄さんを睨みつけてみたけれど。
願いむなしく、兄さんが私を含めた3名の受験生を受け持つことに決まってしまった。
……合否の基準となる一次試験と三次試験の両方を、実の兄が担当するってどうなんだ?
これ、仮に合格しても、後からクレームが付くパターンじゃないのか。
どうしようもないことを悩んでいると、ヒラリと兄さんが試験台に上った。
「え?『氷の騎士』自らお相手してくれるのか?」
「すげーな、マジ光栄だな」
残り二人の受験生が興奮したようにつぶやいている。
いやいや、ちっとも光栄じゃないからね。
兄さん、手加減を知らないよ。私たち3人は、完膚なきまでに叩き潰されるからね。
……果たして予想通り、一人目が2分でギブアップし、二人目も1分半でギブアップした。
うっは、久しぶりに兄さんが戦っているところ見たけれど、相変わらず教本のような剣技だよね。
正確で精緻な剣筋。
……コレは、まともに戦っても勝ちはないわ。地力が違いすぎる。
一撃必殺というか、一発必中というか、特殊攻撃しないと無理だわ。
「フィーア、殺すつもりでかかってこい」
……静かに挑発されたけど。
ふはは、買いませんよ。返り討ちにする気でしょうが。
私は、地味にインチキすることを決めました。
胸ポケットから、魔石を取り出すと、剣の柄頭に開いた穴にはめ込んだ。
もちろん、黒竜ザビリアにもらった魔石を加工したものだ。
武器にしろ防具にしろ、材質によって付与できる魔法の上限がある。
鉄剣は、私が付与した攻撃力2倍、速度2倍が限界だ。
対して、魔石は、他の材質に比べて魔法を付与しやすい。直径5センチの魔石になると――Aランクの魔物からしか出ないということからも分かるように――貴重で、大きな魔法を付与できる。
「兄さん、必殺『ビリビリ剣』を受けてみるがいいわ!」
私は、試験台で兄さんに向き合うと、得意気に必殺技の名前を口にした。
「……お前は、もう少し語彙を増やした方がいい。それは、ただの擬音語だ」
少し目を細めて、平坦な声で答えてくる兄さん。
相変わらずの説教ですね!必殺技くらい、好きな名前を付けたっていいじゃないの!!
私は、開始の合図とともに、兄さんに切りかかった。
かきん!
一合。
たった一合切り結んだだけで、兄さんは膝から崩れ落ちた。
「ふははははは、見たか『ビリビリ剣』の威力!!」
私は、ふんぞり返ると、再度必殺技の名前を高らかに告げた。
対する兄さんは、片膝をついた形ながら、剣を支えにして上半身を支えている。そして、ぎりりとこちらを睨みつけた。
「何をした……」
「状態異常よ、兄さん。この剣に触れるとね、100%の確率で麻痺するのよ」
「なっ……」
兄さんは、信じられないといった顔でこちらを睨みつけた。
「お前、そんなすごい魔剣をどこで手に入れた! 黒竜に頼んだのか?! というか、この麻痺状態はいつ治るのだ?!」
「30分とか、1時間とか? 少なくとも、3分では治らないわよ。でも、そんなのは判定者には分からないから、私はこうやって3分間、兄さんに対して剣を構えていれば、兄さんは動けず、時間切れとなって、私の勝ちと合格が転がり込んでくるってわけよ」
「……お前、そんな卑怯な勝ち方でいいのか?」
「愚問ね、兄さん。敗者には、弁を述べることすら許されないのよ。勝ちは勝ちだわ」
「私は妹に、そんな騎士道を教えた覚えはない……」
「当然ね。最近の兄さんは、私を無視していたから。教わった記憶はないもの」
ふふんと兄さんに答えると、物凄い目で睨みつけられた。
「覚えておけよ、フィーア……」
あら、怖い。それ、結構な捨て台詞だわ。
そして、3分間、兄さんはそのままの姿勢で私を睨みつけ、時間切れとなった。
判定者を含め、その場にいた大勢の者が、一合を切り結んだだけで膝を落とした「氷の騎士」を茫然と眺めていた。
一次試験と同じく目立ってしまったんじゃないかと私が気づいたのは、宿に帰った後だった。









