ノベル3巻発売記念SS【SIDE】第六騎士団長ザカリー 「ぽっこり救世主」改め「XXXX救世主」への挑戦
【ご紹介】
本日、ノベル3巻が発売されました。どうぞよろしくお願いします!
【お礼】
ノベル3巻がKindleストア様のライトノベル部門で1位でした。すごく驚いて、何度も見返しました。お手に取っていただいた方、どうもありがとうございます。
「ぽっこり救世主」
それは、オレが騎士団長を務める第六騎士団の団員たちが、新人騎士であるフィーアに付けた二つ名だった。
まるっきりでたらめな二つ名を聞いて、こんな呼ばれ方をするなんてひでぇもんだとフィーアに同情したことを覚えている。
けれど、「救世主」という部分は悪くない。
そう思い、名付けの由来を詳しく団員たちに聞いてみたが、誰もが『第六騎士団はフィーアに救われた』としか言わねぇ。
恐らく、フラワーホーンディアの討伐時に、団員たちはフィーアに助けられたのだろう。
しかし、ベテランの騎士たちが新人騎士に助けられたというのは、恥ずべき話だ。騎士たちの口が重くなる理由が分かるため、オレはそれ以上追及しなかった。
だが、―――「ぽっこり」という部分は、二つ名としては酷いとしか言いようがねぇ。
先日の宴席で、フィーアのぽっこりと突き出た腹を目にし、これはひでぇなと思ったことは記憶に新しい。
が、あの腹はいくらでも改善の余地があるはずだ。というか、改善の余地しかないはずだ。
恐らく、フィーアには一切の腹筋がないのだ。
あの腹の全てが脂肪で出来ていて、腹回りを押さえる壁の役割が果たされていない。
つまり、フィーアにとって急務なのは、腹回りの腹筋をつけることだろう。
例の二つ名を返上するためにも。
―――そう考えながら城の中を歩いていると、丁度、廊下の向こう側からフィーアが歩いてくるのが見えた。
「フィーア、ちょっと来い!」
声を掛けると、嬉しそうに小走りで駆けてくる。
オレは片腕を伸ばすと、フィーアを見下ろした。
「フィーア、この腕にぶら下がって見ろ。そして、お前の顎がオレの腕の高さになるまで、身体を引き上げてみろ」
……まずは、現状把握からだ。
フィーアにどのくらいの筋量があって、何が出来るのかを見極めるべきだろう。
オレの言葉を聞いたフィーアは面白そうな表情をすると、直ぐに挑戦し始めた。
両手を伸ばしてオレの腕に掴まり、……けれど、そのまま、時間だけが経過していく。
何をやっているんだ、と顔を覗き込めば、「ぐぎぎ……」と噛みしめた歯の間から小さな声が漏れており、両腕はぷるぷると震えていた。
「は?」
驚愕してよく見ると、力を込めているのか顔は真っ赤になっており、はーはーと荒い息を繰り返している。
「お、おい、フィーア、お前は一体何をやっているんだ!」
「も、もちろん、身体を引き上げているんです……よ……」
「いや、出来てねぇだろ!!」
「せ、千里の道も一歩からと言うじゃないですか……」
「だが、一歩目がこれじゃあ、到達できるわけがねぇ!」
おい、待て。フィーアは第一騎士団所属だったよな。心技体が揃ったエリートのみが配属される第一騎士団所属だったよな。
「フィーア、嘘だろう!? これがお前の実力なのか?」
「いえ、ですから、これは一歩目なのです。私にはあと999歩あります」
「お前の一歩は、アリの一歩だ!!」
言い切った後、心配になって言葉を掛ける。
「というか、なぜ999歩という話になった? お前がしていたのは千里の話だったろう? いつの間にか、千歩の話になっているぞ。お、おい、もう止めておけ! 酸素が脳まで回っていないんじゃあないのか?」
……マジなのか? フィーアは自分の体一つ、引き上げられないのか!?
フィーアに試させた懸垂もどきに使用するのは、背中と腕の筋肉だ。
フィーアに自信を付けるために、腹回りよりも筋肉が付いていそうな部位を使用する動きをさせたというのに、これでは……
無理だ、フィーアの肉体は脆弱すぎて、オレの力が及ばない範囲だ。
「フィーア、悪ぃがオレにはお前の二つ名を返上してやることはできねぇ。……お前に、『ムキムキ救世主』の二つ名を与えてやりたかったのに」
がくりと項垂れるオレに向かって、フィーアはあっさりと言い切った。
「ム……ムキムキ救世主!? い、いりません! 結構です」
……どうやら、フィーアは筋肉の偉大さが分かっていないようだった。
まずは、フィーアに筋肉理論を理解させることからだなと、オレは項垂れながら思ったのだった。
読んでいただき、ありがとうございます!
ノベル3巻ですが、WEB版と書籍版の内容をリンクさせ、両方を読んでいる方が1番楽しめる作りにしたつもりです。こっそりな取り組みだったのですが、気付いてくださった方がいて嬉しかったです。
3巻にはたくさんの「楽しさ」を詰め込みましたので、お手に取っていただき、楽しんでいただければ幸いです(^-^)









