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86 慰問式10

「わあ、可愛い!」


鏡に映った、着用している極彩色のワンピースを見て、私は思わず声を上げた。


濡れそぼった服で海から上がってきた私を心配し、住民たちが貸してくれた服だ。

貸してもらった以上、着用するのが礼儀だよねと思って着てみると、想像以上にカラフルだった。


鮮やかな色を何色も使用してあるので、見ているだけで楽しくなってくる。そして、色使いがとっても可愛い。


すごく素敵な服ではあるのだけど、この服で騎士服姿の騎士たちに交じっても大丈夫かしら?

と、悪目立ちすることを心配したけれど、いや、そういえば、海に落ちた他の騎士たちも、住民たちから着替えを手渡されていたなと思い出す。

そして、皆が着用しているならば大丈夫よねと、ほっと胸を撫でおろした。


着替えてしまうとやるべきことがなくなり、どうしたものかと考えていたところで、住民たちを手伝うことを思いついた。

参加人数が増えたため、住民たちが計画していた追悼式の場所が領主館の前庭に変更になり、準備が大変だろうと考えたのだ。


シリル団長とカーティス団長は、突然のサヴィス総長の訪問にどう対応するかを話し合うため、総長を含めた三人で部屋に籠っている。

ちなみに、シリル団長とカーティス団長は、ご立派な騎士団長が2人とも、礼装を着用したまま濡れそぼっていたことで、総長から呆れたような視線を送られていた。


ほほほ、偉くなると大変ね。あー、一介の騎士でよかったわ。

そう思いながら、領主館の前庭まで走って行く。


「大聖女様! 濡れたお体は大丈夫でしたか?」

「まあ、大聖女様! 私たちの服がよくお似合いです!」

「ああ、まさか、私たちの服を着てもらえる日が来るなんて! 大聖女様、とってもお美しいです!」


私を見つけた住民たちが、次々に声を掛けてくれる。


私は嬉しくなって、にっこりと笑った。

「こちらこそ、私たちを大切な慰問式に招待してくれて、ありがとうございます! 参加できて、すごく嬉しいです!」


「まあ、何てお優しいお言葉でしょう! ですが、申し訳ありません、まだ準備が終わっていなくて……」

「ええ、だから準備を手伝いに来たのだけれど」

「えっ?」

「えっ?」


住民たちは私が手伝うと言ったことに驚いて、私は驚かれたことに驚いて、互いに驚いた顔を見合わせていたけれど、次の瞬間にはどちらからともなく笑い合う。


「ふふふ、何で驚かれたのかしら? 私はそんなにお手伝いをするようなタイプに見えないのかしらね? 明け方に終了した王国主催の慰問式は、住民の皆さんに準備を手伝ってもらったので、今度は私が手伝おうと思っただけなのだけど。お互いに出来ることをやって、助け合っていかないとね」


「助け合い……まあ、本当に言い伝えの通りのお言葉を使われるのですね! ええ、ええ、大聖女様。助け合いますわ」

こくこくと頷く住民たちを見て、私はこてりと首を傾げる。


……言い伝えって、まさか、私が300年前に発言した全ての言葉が残っているわけじゃあないでしょうね? そして、誰もがそれを覚えている?


ああ、まずい、まずい。

このままでは、私は『大聖女クイズ大会』の参加権すら与えてもらえないかもしれないわ。本人なのに。


「大聖女様?」


私が神妙な顔をしていたためか、不思議そうに尋ねられる。

私は「何でもないわ」と答えると、サザランドの住民たちに教えてもらいながら、慰問式の準備を手伝った。


まずは、前庭の柔らかい草の上に、綺麗な布を何重にも敷き詰め、色鮮やかな円座クッションを並べていく。

それから、木の枝のそこここに、薄くて長い極彩色の布をいくつも結び付けていった。


住民たちの話によると、この布がはためいたら、この地に御霊(みたま)がお帰りになったという合図らしい。


準備が終わった頃、総長とシリル団長、カーティス団長が連れ立って歩いてきた。


シリル団長とカーティス団長は、濡れた騎士服の代わりにと、住民たちから着替えを手渡されていたはずだけれどと思って見てみると、2人ともに極彩色の服を着用していた。


それぞれ色は異なるものの、どちらも鮮やかな色を大胆に使ってある服で、シリル団長にしろ、カーティス団長にしろ、好んで着用しそうな服では全くなかった。

にもかかわらず、勧められるままに着てくるあたり、この2人って本当にいい人だなと思う。

騎士団長の職位にあるので騎士服の着用が絶対ですと、断ることだってできるのに。というか、普通は断るんじゃないかしら?


そう思いながら2人を眺めていると、団長たちの普段のイメージとは程遠い服装であるにもかかわらず、恐ろしく似合っていることに気付く。


うわ、少しだけ遊び人風に見えなくもないけれど、に、似合っている。

本人の素材がいいと、何を着ても似合うものなのね。


シリル団長にしろ、カーティス団長にしろ、絶対に似合わないはずだと決めつけて、ちょっとだけ面白がっていたけれど、私の負けです。まいりました!


私は心の中で、こっそりと謝罪した。



―――それから間もなくして、式が始まった。


式始めの挨拶については、サヴィス総長にお願いしたいとラデク族長から申し入れがあったけれど、「サザランドに眠る御霊(みたま)が聞きたいのは、一族の声だろう」との総長の発言により、あっさりとラデク族長が対応することに決まった。


ラデク族長の誠実で実直な挨拶に、多くの住民たちが大きく頷いているのを見ながら、総長の判断はいつだって正しいわねと感心する。

それから、人を動かす言葉を上手に操るわよねと。


総長が挨拶をした場合でも、住民たちは勿論受け入れただろうけれど、一歩引いて族長に花を持たせたことで、総長の株が上がったように思われる。


さすが総長だわ、心得ているわねと思いながら、近くに座る総長をちらりと見上げる。


―――そう、総長は私の近くに座っていた。

恐ろしいことに、私の座席は上席の一員に入れられていたのだ。


会場の正面に配置された座の上席には、サヴィス総長、シリル団長、カーティス団長、ラデク族長とそうそうたる顔ぶれが並んでいたのだけれど、当然のように私もその一員に加えられていた。


サザランドの住民たちが、大聖女の生まれ変わりと信じている私を上席に座らせたい気持ちは分かるけれど、騎士団総長に、騎士団長に、族長だ。

冷静に考えて、一騎士が隣に座るなんて、全く釣り合っていない。


そう思ったけれど、言いたいことを飲み込み、せめてもと上席の中でも末席だと思われる場所を急いで確保する。


……覚えていますよ。騎士やサザランド公爵家がこの地に受け入れられるよう協力すると、私自身がシリル団長に申し出たことは。

自分から言い出したのですから、想定と異なった状況に陥ったからといって、文句は言いません。


ええ、たとえ、何の根拠もなく大聖女の生まれ変わりだと言い当てられ、下にも置かぬおもてなしを受けて、居心地の悪さを感じていたとしても。

一緒に頑張ろう的な立場だったカーティス団長がカノープスの生まれ変わりだと判明し、それ以降、私の扱いがおかしくなって困惑しているとしても。


……ええ、いいんです。想定できなかった私が悪いのでしょうからね!


そんなことを考えている間に、お酒や料理が振舞われ始めた。


簡易テーブルに並べられた多くの料理を見て、私はごくりと喉を鳴らす。


……お、美味しそう。そうよね、サザランドは海が近いから、魚介類が新鮮ですごく美味しかったのよね。


そう思いながら、私はサヴィス総長に声を掛ける。

「サヴィス総長、お好きな料理はありますか? あるいは、苦手なものがありますか?」


サザランドの料理は全て大皿盛りで、各自好きな料理を自分で取り分けながら食するスタイルとなっている。

そのため、取り分けるに当たって好みを聞いておこうと思っての発言だった。


「お前が勧めるものなら何なりと」

けれど、返ってきたのは、本気なのか冗談なのか分からない回答だった。


ちらりと総長を見ると、面白そうな表情で見つめ返される。


……ああ、為政者ってのは、本当に心を読ませないわよね。

総長が面白がっているのは本当だろうけど、きっとその部分は2割程度だ。

8割は別のことを考えているのだろうけれど、一切考えを読ませてくれない。


お忙しい総長がサザランドへ来たこと自体が変則的な行動だし、一体何を企んでいるのかしら。


そう気にはなったものの、一介の騎士には関係ないとの結論に達し、取り敢えずは美味しいと思われる料理を皿に取り分けて総長に渡した。

同じように、シリル団長、カーティス団長の分も取り分ける。


すると、どういうわけか、カーティス団長からは私の分の料理を取り分けられた。

驚いて手渡された皿を見ると、見事に私の好物だけが載っている。


さ、さすが元護衛騎士。私の好みは完璧に把握しているわね。

そして、生まれ変わっても、好みって変わらないものなのね。


そう思いながら、私はまず卵料理を口にする。

「お、美味しい!」


トロトロとした部分が残っていて、加熱具合が絶妙だ。


私が美味しさを堪能していると、にこにこと笑顔の住民たちに見つめられていることに気付く。


どうやら住民たちが主催する式典は、お酒や料理を楽しみながら、席の移動も可能な自由形式のものらしい。

そのため、住民たちは入れ替わり立ち替わり、私のところに話をしにきてくれる。


嬉しくなって、彼らと次々に話をしていると、見覚えのある小さな女の子が母親に手を引かれて立っていることに気が付いた。

バジリスクに襲われているところを助け、帰り道ではシリル団長が抱き上げていた女の子だ。


「シリル団長」と声を掛けると、団長はすぐに気付いて近くに寄ってきてくれた。


そんな団長を見て、女の子の母親は緊張したように女の子の手を握りしめた。


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[一言] 新しく連載する小説よりも、転生した大聖女を多く投稿してほしいです。こっちの方が、内容が面白いです。
[一言] 前向きで明るい主人公を読んでるとつられて元気になってくるのが良いですね。もっと幸せになってほしいです。
[気になる点] 展開がスローでトーンダウンしている印象です。 [一言] 更新ありがとうございます。 いつも楽しみにしています。
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