表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/312

81 慰問式5

何と言っても諦めないカーティス団長を前に、私は困り果ててしまった。

そのため、論点をずらすことにする。


「でもね、現実問題として、あなたは騎士団長だからこの地を離れられないでしょう? そうして、私は一介の騎士だから、あなたに仕えられるのもおかしな話でしょう? あなたの推測通り、私は聖女であることを隠していて、……だから目立ったりすると注目されて、私が聖女であることがバレるかもしれないわ。それは、私が最も望まないことなの」

「………………………………………………………………」


私の言葉を聞いたカーティス団長は、苦悩の表情で黙り込んだ。

数十秒ほどそのまま微動だにしなかったけれど、くっと奥歯を噛みしめると同時に視線を合わせてきた。

「でしたら、……私は第一騎士団所属になります。団員でも、副団長でも、団長でも、何でもいい。あなた様の側にいられるのであれば」

「へ? い、いや、だから、あなたは既に第十三騎士団長でしょう! その地位を捨てるだけで、注目を集めることになるって言っているのよ!」


物わかりの悪い騎士団長に思わず荒げた声を上げると、カーティス団長は説得するかのように語り掛けてきた。

「必ずしもそうとは限りません。特に、王族警護の第一騎士団は特別です。国王陛下付きになれば覚えがめでたくなり、出世につながるかもしれないと、他団の役付きになるよりも第一騎士団所属であることを希望する者は多いと聞きます。何せ国王制というのは、国王陛下のご一存で全てが決定されるものですから」


「ええぇ?」

私は無理があるわよという気持ちを込めて、声を上げた。


出世レースとか、そういう話題に私は詳しくはないけれど、きっとカーティス団長はその方面にぎらぎらしてはいなかったと思う。

それが突然、宗旨替えをして、出世をしたいから第一騎士団所属になる?

というか、騎士団長から一介の団員になるとしたら、第一騎士団への所属であっても、やっぱりそれは降格だと思うけど。


私はむむうと唸ってみたのだけれど、どこか楽天的なカーティス団長は突然にこにこと笑い出すと、全てが解決したかのような表情をした。

「では、フィー様。私が皆の違和感なく第一騎士団に所属することができましたら、あなた様にお仕えすることをお許しいただける、ということでよろしいですね?」

「へ? い、いや、私は一介の騎士だから、仕えること自体がおかしなことで……」

慌てて言い募るけれど、カーティス団長はもうあまり、私の話を聞いている風には見えなかった。


……駄目だわ、これは。

悪い感じで、カーティス団長とカノープスが混じっている。

優し気で人の話を聞く、けれど不思議と自分の意見をするすると通してしまうカーティス団長と、生真面目で自分の信念を曲げようとしないカノープスが混じってしまっているわよ!


私ははぁっと大きなため息をつくと、ちらりと横目でカーティス団長を見つめた。

「……カーティス団長の夢は何なのかしら? やりたいことは? カノープスがカーティス団長を塗り替えてしまったということは、ないわよね?」

「カーティスであることは私の基礎ですから、もちろん残っておりますよ。ただ、あなた様を目の前にすると、どうしてもカノープスの部分が強く出るようでして。……カーティスである私はこの地の民が好きで、彼らと騎士が仲良くなることを望んでいました。今思えば、この地の民を好きなのも、この地の民から慕われていたのも、私の前世が離島の民だったからでしょうね」

言いながら静かに微笑んだカーティス団長は、カノープスであることを思い出す前の微笑みと同じに見えた。


その微笑みを見て、私はやっと安心できた。


―――ああ、よかった。カーティス団長はちゃんとここにいるのね。


カーティス団長もカノープスもここにいる。そう思うと、他のことはもうどうでもいい気持ちになってくる。


「了解よ。あなたがどうやって第一騎士団に戻ってくるつもりなのかは分からないけれど、その時はよろしくお願いするわね」

私はにこりと笑って片手を差し出した。


カーティス団長は一瞬、信じられないものを見る目つきで差し出された私の右手を見つめたけれど、すぐに両手で私の手を包んできた。

「―――今度こそ、誰からも、何からも、この世の全てから、あなた様をお守りいたします」


そう誓うように口にしたカーティス団長はとても真剣だった。

だから、冗談で返そうと思っていたにもかかわらず、私はただ「はい」としか答えることができなかった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


前回、前々回と書籍のご紹介をさせていただきましたところ、「購入した」「前から購入していた」という声をいただきました。

素敵な本になったと思っていたので、読んでいただけて嬉しいです。

本当にありがとうございます!


今日は、コミカライズのお知らせをさせてください。

第3話を更新いただきまして、ファビアンに続いて、サヴィス総長とシリル団長が登場しました!

↓ のリンクから飛べますので、よかったらどうぞ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています
★アニメ化決定!大聖女TVアニメ公式X

★【大聖女 (本編) 】コミカライズへはこちらからどうぞ
★【大聖女(ZERO)】コミカライズへはこちらからどうぞ

コミックス12巻発売!
鳥真似編クライマックスのわくわくドキドキの一冊です!
また、通常版に加えて、小冊子(漫画【SIDEシリル】騎士の誓い+SS【SIDEシリル】遥か遠い空の下でフィーアを思う)付きの特装版もあります!
コミックス12巻

コミックス12巻特装版

コミックスZERO3巻が発売!
シリウスとセラフィーナの絆がどんどん深まっていき、魅力的な近衛騎士が大量投入されるお楽しみ満載の一冊です!
コミックスZERO3巻

3/14ノベル11巻が発売!
【SIDEザカリー】国宝の鎧を真っ二つにしてしまったオレの顛末、続・シリウスと恋人デート(300年前)など、5本を加筆しています。

また、通常版に加えて、小冊子(超美麗カラーポストカード+SS「フィーア、シリル団長の騎士服に刺繍をする」)付きの特装版もあります!
ノベル11巻

ノベル11巻特装版

ノベルZERO5巻が発売中!
近衛騎士団のメンバーが期間限定で『騎士カフェ』なる謎の仕事をしていると知ったセラフィーナは、
変装したシリウスとともに『騎士カフェ』を訪れることに…。

ノベルZERO5巻

どうぞよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] 早くフィーアの強さがバレればいいのにッ……と歯がゆく思う反面、フィーアが望んでないからなぁ……と思っております。 いつも更新楽しみにしています!
[良い点] いつも面白いですヾ(*´∀`*)ノ [一言] シリルさんは右の銀髪?
[一言] そして、これらの会話を物陰で聞いていたシリル団長 となったら盛大にワクワクする。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ