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使えたみたいでした

更新が数年前で白目を剥きました。久々どころではない更新ですが相変わらずのしまらない日常回です、いつもこんな感じです。

「あ、九条くん久しぶり」

「うん」

「うんじゃないでしょー、大体スマホいじりながら返事って……」


数ヶ月ぶりの九条くんは、こっちに視線もなく生返事で挨拶を返してきた。まるで小言が母親だなぁ、なんて年とった感覚になる。はぁ、でも実際、歳はとってるんだよね、こっちからきて一年以上は過ぎてるわけで、だらだら進歩もなく魔王様のお城で居候してるわけで……というか、これ、実家出る時も思ったことなんだけど、家賃光熱費諸々払わなくていい環境から抜け出すのって気力がいるよね。おまけに魔王様、頼めばすっごい美味しい料理も作ってくれるし、魔法完備だから掃除しなくて済むし……。

そこまで考えて一時停止、いや、今、私なんて言った?というか、九条くん、何いじりながら帰ってきた?


スマホ?

スマートフォン?

現実世界の必需品の、アレ?


「まってスマホ!?!?!」

「うおッ!?なんっ、びっくりした」

「こっちのセリフなんだけど!?なんで普通に使ってんの?!」

「……え?使えるだろ。通信は出来ないけど」

「初耳なんですけど!!」


自分でもびっくりする反応速度で九条くんの肩を掴む。なんかちょっと前より背が伸びた気がするな、とか思う暇もなく九条くんの手元を凝視する。スマホです。間違いなく。マジックアイテムでもないあのスマホ。というかリンゴマークのアレ。私が生きてた時の最新モデル。ネット依存ってくらい触ってたのにこっちにきてからご無沙汰のこれ。うそ、使えるの?それってまさか、チート特典?モブの私はまた関係ないやつ?そうだったらそろそろ泣きたいんですが、どうにかなりませんか!神様!ノル様、創造神様!





「なあ、コレバラしちゃダメ?」

「何言ってるんですかっ!絶対ダメですっ!」


まあ結局頼るのは魔王様なんだよねえ。ほぼ神様だし。私がこっちにきた時のスーツとか鞄とかは一式綺麗にしてくれて、私の部屋に置いてあった。けど、もう袖を通すこともなければ、使うこともないしで存在は覚えてても掘り返したりはしなかったんだけど、九条くんが充電したら使える、なんていうからばたばた部屋から引っ張り出してきました。

その結果、魔王様はスマホをしげしげ見て、あっさり電源を入れた後、かなり真剣な顔でとんでもない要求をしてきた。流石にいいですよなんていうわけにもいかないので断固拒否。すると、今度は結構しっかり食い下がってくる。


「えー!頼むよ、な?絶対絶対!寸分違わず元通りにするから!中に入ってる情報も飛ばさないから、飛ばしたとしても完璧に復元するからさぁ!」

「……うーん、まぁ、魔王様だし……うーん…………絶対ですよ?元に戻さなかったら怒りますよ?」

「まかせろ!絶対戻す!……でも、そのぉ、じっくり調べたいから一週間位……」


バラしたあとそのまま、というわけじゃないよなとは思ってたけど、ちゃんと復元してくれるつもりだったとは。スマホもない世界なのに解体してデータを復元ってできるものなのかな、って思うけど相手は魔性最強の魔王様なわけで。好奇心だとは思うけど、魔王様が約束してくれるんならきっとなんかすごい理屈で守ってくれるんだろう。もうすっかり気安く接してはいるけど、魔王様は魔王様で、私の恩人かつ大家様のわけで。その人が真剣に頼み込んできてるんだから、ここは折れるべきだよね。

相当悩んでからオッケーを出すと魔王様は嬉しそうな笑顔。そんなに気になるんだ。魔王様ってやっぱり変わったもの好きなんだなぁ。大体のことはすぐわかっちゃう人だし。そう思うと、追加のお願い事も聞いてあげたくなってくるわけで。


「……いいですよ。九条くんが触ってなかったら使えるとも思ってなかったものだし。たまに返してくれるんだったら、もうそれ、あげます」

「流石にそれはハナコに失礼だろ。思い出の品ってやつなんだろ、コレ」

「……あ。はい、ありがとうございます」


触ってるうちにこれ欲しいまで行くんじゃないかな、と思って言ってみると魔王様は意外にもちょっと顔を顰めて断ってきた。こういうところあるよね、ちょっと冷たいなーと思うこともあるけど基本的に優しいというか、こっちの意思は汲んでくれるというか。サリィさんたちは魔王様のこと心ってものをわかってないって愚痴るし概ね同意見だけど、でも何もわからないって人じゃないんだよね。そこがちょっと難しくてもどかしかったりもするけど、このお城で過ごしやすいところでもあるんだよなぁ。

しみじみ思いながら見ていると、魔王様もなんだかしみじみ喋り出す。


「お前らの世界って凄いな、これの理屈知らないのに大抵のやつが使ってたんだろ?」

「まあ……その通りなのでなんとも言えないですけど……」

「バカにしてねえぞ?知らなくても技術が普及してるのはいいことだよ」


よく転生チートってやつで、チョコ作ったりシャンプー作ったりしてどっかんどっかん丸儲けとかあるらしいけど、私には到底できない。裏の成分表とか見たところでカカオをどう加工するのかとか、どういう成分をどう組み合わせてツヤツヤの髪にするのかとかまるで理屈を知らないし、まず自分で作ってやろう!って気持ちになることもない。当然だよね、だって作らなくてもよかったもの、今無いからって作る気にはならないよ。化粧水とかならまだいい感じの植物のエキス?でやれそうな気はするけど、結局あれはプロの技だしなー。

それに、もうマリエラでチョコは作られてるし、最近はヘアケアの油?の開発も頑張ってるみたいだし、何より魔王城いると肌の乾燥もしなければ肩凝りもなく、髪の毛も自然とケアされるからねぇ…いや、ほんと、魔王様様様くらいまでいくというか。なんかこのお城、生活してるだけで身体が改善されてくから怖いよ。至りすぎ、尽くされすぎ。

だから、そう、改めて思うけど。こうして頭のいい人が作ってくれたものを何も気にせず使って過ごせてたっていうのは幸せなことなんだよなって。魔王様のいう通りに、凄いことなんだなって。ごめんね、私のスマホ。何度も電車とかで落としたりしてごめん、こっちにきて触ってなくてごめんね。なんて、罪悪感さえ湧いてくる。


「九条くん、こっち来てからずっと使ってたの?」

「ううん、冒険者になってから。写真とかムービー撮ったり、メモ取ったり。S級だから変なの持っててもなんとも言われなかったし」

「あ、確かにな〜。ハナコ、お前は外で使わない方がいいぞ」

「そうですよね。転移具だって大変なのにこんなの……」


なんとなく魔王様にお願いする時に勢いで連れてきちゃった九条くんに聞いてみたら、あくまで便利道具として使ってたみたい。まぁ電話もメッセージも電波飛んでないと使えないしね。せっかく私と九条くん転生仲間なのに、スマホ使えないと気持ちもったいないよなぁ。……これ、魔王様に言ったらなんとか出来たりしないのかな、ちょっと期待を持ちつつ聞いてみる。ほら、冒険者的にも連絡手段が色々あったほうがいいと思うし。まぁ、魔法でやってるのかもしれないけどさ。


「魔王様っていろいろ作ってるんですよね。こういう、他の人と連絡取れるみたいなものはないんですか?」

「ないことはないが距離は限られるな。それにそういうの作って流すと軍事利用されるからって、量産してくれないんだよな。別にいいじゃんな?戦争くらいさあ」

「よくは、ないです……」

「なんでだ?技術が広まるなら大勢が死ぬくらい大したことじゃねえだろ」

「それは魔王様が強すぎるから言えるんです。私だったら巻き込まれるし、関係がなくても嫌ですよ」


魔王様、なんかこう、ヒトが嫌いなわけでもないのに簡単にこういうこというからリアクションに困るよ。悪意ないし、何より魔王様だから肩書き的にはおかしくない言葉だけど、見た目大学生くらいのお兄さんがちょっと高いもの買うくらいの感覚で凄いこと言い出すの何度ぶつけられても慣れない。言っても魔王様だしなぁと遠い目をすると、なんだか九条くんから憐れんだ目を向けられてしまった。解せぬ。


そして魔王様、同じ大陸くらいなら話が出来るマジックアイテム前に作ってたらしい。そのスケールで距離限られるとか言わないでほしいな。やっぱり解析してもらったら九条くんと私のくらいは連絡取れるくらいできるんじゃないでしょうか。そんな希望を頭に浮かべていると魔王様が何度か首を傾げて液晶をこっちに向けてきた。


「ハナコ、何これ?」

「え?あ、ゲーム……そっか、通信できなくてもこういうのは残るんだ」

「ゲーム?この間やったすごろくみたいな?」

「全然違います。これはえーっと、落ちものパズルって言って、落ちてくるブロックを消すゲームなんですよ」


なんとなーく無性にやりたくなることがあるコレ。いろんな形のブロックを詰めて落として消していくやつ。こういうシンプルなパズルゲーム暇つぶしにやるの好きだったなー。周りはいろんなソシャゲやってたけど、ああいうのイベントとかやるのめんどくさくてこういう昔ながら〜な感じのとか、買い切りで安いの入れてたっけ。懐かしくなってなんとなくアプリアイコンを見ていると、横から覗き込んできた九条くんが微妙な顔で首を傾げた。


「それ買ってまでやる人いるんだ」

「九条くんにはわからないかもだけど、広告ってすごい邪魔なの。お菓子くらいの値段だし別にいいでしょ」

「ふーん……音ゲー買ってないの?」

「あー、うん、そんなに得意じゃないから」

「なんだ」

「がっかりしないでよ……」


なるほど、音ゲー派でしたか。それっぽいな。露骨にガッカリされたけどないものはないのでしょうがない。そして魔王様はというとまじまじとアイコンを眺めていらっしゃる。気になるのかな?私の説明簡単すぎて心惹かれる要素なかった気もするけど。


「やっていいか?」

「いいですよ。スコアとか気にしないので」

「ありがとな。なるべく早く解析して返す」

「大丈夫ですよ、それにゲームくらいならいつでも貸しますから」


魔王様は初めてのはずなのに説明なしに操作を始めた。そういえば全然気にしてなかったけどスマホの触り方も教えてないのに分かってたなぁ、凄い。文字とか、私の世界のもののはずなのにわかるのかな。

そのままなんとなく操作する魔王様を見ていたけど、流石にすぐゲームオーバーにはならないみたいで。見られてて緊張するって人でもないけど、集中させてあげた方がいいのかもな。液晶を見つめる魔王様に軽く声かけて、連れてきてしまった九条くんに声をかける。私が寂しくなるのでご飯に付き合ってもらういつものやつです。何か話し込むわけでもないけど、今のところ断られないので迷惑ではないと思い込みたい。それからそのままスマホを預けて、お風呂入って、すっかり魔王様のことを気にせず朝を迎えたわけですが。




朝、今日は仕事もお休みってこともあってのんびり起きる。着替えも済ませてさあ朝ごはんってなったところでドアのノック。珍しいと思いつつ開けると朝からの魔王様。なんか気持ち顔が曇ってらっしゃる。


「ハナコ……」

「どうしたんですか、若干疲れてません?」

「お前のゲーム、終わんないんだけ、ど」

「え?」


よろよろと目の前に液晶を持ってこられて、ポーズ画面をまじまじ見つめるとそこには見たことのない数字の桁。え?これってオーバーフローとかしてない?数回画面と魔王様を行き来して、内心確信しつつゆっくり聞いてみる


「ひ、一晩中、やってたんですか?」

「だって終わんねーんだもん」

「嘘ぉ……」


終わらないってことないと思うんだけどなぁ、こういうのは途中で想定外のミスしたりブロックの回転間に合わなかったりあぁー!ってなって上まで行ってゲームオーバーして……それで悔しくてまたやるっていうゲームだと思ってたんだけど違うの?しかも魔王様、言っちゃえばこれ初見なんでしょ。操作ミスとか一切しないで黙々やってたってこと?寝なくていいからって、本当に寝ずに?悔しいとかそういう気持ちを通り過ぎて純粋に引いちゃうなあ、そこまで行くと。魔王様はやる気ないため息をついて、普段より力無い目でだらんと液晶を見下ろしている。


「お前らって苦行が好きなのか?果てしなさすぎるだろ」

「普通終わるんですよ、途中で消せなくなって。魔王様なら地雷の方紹介したほうがよかったかな……」

「地雷?」

「ブロックの中の触っちゃいけないやつを探すやつです、面ごとに終わりがあるから一日中やるみたいなことにはならないと思いますよ」

「なるほど」


九条くんがいたらこれもそんなの買うの?って薄い反応されるんだろうなー。でも私ソシャゲって苦手なんだよね、手軽だけど広告がやたら出てくるゲームもイヤだし、こういうシンプルなのを買い切る方が好きというか。マス目埋めて絵作るゲームとかも好きだったなー。

私が説明すると、凄まじいスコアを出しておきながらあっさりゲームをやめる魔王様。うわ、葛藤とかないんだ。まぁないか、だって寝なければいつでも出せるスコアってことだもんね。にしても、つまんなそうなのに一晩中やり続けるって、律儀なんだか真面目なんだかわかんないな。


「……あの、楽しくなかったらやらなくていいんですからね?」

「一通りやってからじゃないとハナコに失礼だろ」

「そんなことないですよ、人って向き不向きあるんですから」

「そうか?でも嫌じゃないぞ」

「それならいいですけど」


楽しくないけど嫌じゃない、ってことかな。楽しくなかったらゲームってやる意味あるの?こういうのって暇つぶしとストレス解消目的なのに、さっきみたいになったらストレス溜まっちゃう気がするけどな。首を捻りながら魔王様はスマホをいじりながら、何故か少し楽しそうに笑った。


「すげえな、お前らの世界の発明者は。向き不向きあるものを作るんだから」

「……魔王様の褒めって、ちょっとだけ嬉しいですよね」

「サリィいなくてもわかるぞ。それ褒めてないんだろ?」

「これは褒めてます」

「ふーん?」


嬉しいですよ、ちゃんと。そろそろ魔王様の言葉の意味が「時間の無駄なのにこんなに頑張ってすごい」があるのは分かってきてるけど、それでも言ってくれてた通り馬鹿にしているわけじゃないんだよね。

きっと。この世界ではまず暇つぶしなんてやる人ほとんどいないし、原理のわからないものを手に取れるほど平和じゃないし、誰かにとっては合わないものを率先して作る理由がないんだと思う。魔王様が前言っていた他人の試行錯誤が好きっていうのの延長なんだよね。多分。言い方がちょっと、って感じだし、なんとなく心の裏側がわかっても手放しで喜べる気持ちにはならないけど、私たち人間たちを認めてくれてるんだって思えるし、だからちょっと嬉しいよ。もっとも、この私は紹介しただけで何にも携わってはいないんですけどね。

魔王様の怪しむ目つきにへらっと笑って次の生き残りのゲームを探して教えてみる。何か一つでも気に入ってくれたらもっと嬉しいけど、そううまくはいかないよな、と思ってみたりしながら。

テトリスもマインスイーパもピクロスも大抵広告付きですが花子の世界では買い切りが売られていたってことで一つお願いします

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新きていてびっくりしました。 嬉しい! おかえりなさい。 [一言] 主人公は相変わらず何の能力もないんですね。 同じ日本人の九条くんはすごいチート持ちなのに。 私ならグレたり凹んだりする…
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