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落ち込みました

ほぼ一年ぶりです。本当に申し訳ないです。まだまだずっと続くんじゃ

やっぱり、慣れっていうものはあるにしろ、見たくないものというのはあるのです。別に見るだけで貧血起こすってほどじゃないけど、ドラマとか映画とかのフィクションで見るのと現実で見るのとで怖さが違うものはあるでしょ。その最たるものは残念なことにこのお城ではよく見ちゃうものなんだよね。


ぽたぽた。

ぽたぽたぽた。


真っ赤な血は魔王様の手首からとめどなく流れ落ちていて、魔王様はそれをどうでもよさそうにじっと見ていて。


「…バッ、お前、相談しろ!」

「うーん既視感」


通りがかりの九条くんが魔王様の肩を掴んで、慌てた顔で止めるのにドン引きしつつ見ていたわたしはほっとしたのでした。





「ま、紛らわしすぎ…」

「そう思うよね。毎回やりかたが物騒っていうかさ」

「だって楽だし」

「注射器とか作って下さい、そっちの方が見てて安心できるので」


九条くんが脱力しながらそうやって言うのにうんうんと頷く。魔王様は貴重な素材をたくさん持っているくせに、最終的に自分の身体が一番だとか言って自傷行為に走るんだよね。いくら痛くないっていっても見てる方が痛いんです。ちらっと魔王様の腕を見てもそこには傷ひとつない、結構ざっくりいってるのに魔法ってすごいんだなぁなんて現実逃避をするくらいしかわたしにはできなかったりする。魔王様は考えとく、なんて適当な返事をして私たち2人の微妙な視線に平気な顔をしていた。それにこっそり溜息をついて、ふと疑問にぶつかる。


「そういえばラヴィニアさん来ないんですか?」

「来ない来ない。神の血を毎年やるわけないだろが」

「そういうものなんですか?でも…一年分にしては小さめの瓶だったような」

「ヴァンプはそもそも、薔薇のひとしずくだけで生きていける生き物だもの。燃費は恐ろしくいいわ」

「へ、へぇ〜」


あれ、300mLあるかどうかって感じの瓶だったと思うんだけどすごいな。ラヴィニアさんなんて一気に飲んじゃってまたちょうだい!って突っ込んできそうなものだけど、その辺は流石に自重するのかな。脳裏に涎を垂らしながらじっと瓶を見るラヴィニアさんを思い浮かべて頭を振った。やめよう、妙に想像しやすいけど失礼だからやめよう。わたしが勝手な想像をしているうちに、魔王様ショックから立ち直ったらしい九条くんが、血の詰められた瓶と魔王様を交互に見て小さく首を傾げていた。


「…あのさ、お前の血って魔力貯められるんだよな」

「あぁ。基本血ってのは魔力の伝導力いいけど、貯めるってのは難しいんだ。俺はそれができるから魔力を流す手間がない」

「えーと、それだけでそんなに変わるものなんですか?」

「うーん、そうね。ハナコにわかりやすく言うなら、温めたらすぐ食べられるご飯と、材料を切るところから始めるご飯、って感じかしら」

「わ、わかりやすい、ですけど…そんなに庶民的にしなくても…」

「あら、ごめんなさい」


サリィさんの解説は分かりやすいのでこちらとしてはかなりありがたいんだけど、なんていうか居た堪れない。にしてもそうか、レトルトと手作り並っていうのじゃだいぶ違うよね。初歩の魔法だって使えないっぽい私には縁遠い話だけど、あはは、悲しい。


「神の血って言ってもラグらないくらいの違いか…」

「ラ…?」

「時間差がないって言いたいんじゃないかしら」

「あー、うん、まぁ、大体そうだけど、何?」

「お前の血全部抜いて別の血入れたらどうなんの」

「発想怖っ」


何その猟奇的発想、九条くんこっちの世界きて荒んでるんじゃないだろうか。そんな吸血鬼じみた発想高校生くらいの子に口にしてほしくなかったなー、異世界って残酷だなー。ていうかこの中で引いてるの私だけなんですけど、もしかしてそんなに怖い発言でもないのでしょうか。そんな。九条くんは横目にちらっと私を見て、罰が悪そうに頭の後ろをかいていた。


「…血全部抜いたら人間になるんじゃないのかって思って」

「お前とんでもねぇな。まぁ無理だと思うぞ。やったことないからわからんが」

「あったら引きますよ」

「なんというか、俺の身体の中に入った段階で神の血になるんだよ、器の大半は人間でも一応神の因子、みたいなものがあるからな」

「…なんだ」


九条くんは魔王様の回答を聞いて、若干残念そうに頭を振った。うーん、よくわからないけど、やっぱり同じくらい強い相手が人間の方が九条くんも寂しくなかったりするのかな。なんか、そういうわけでもなさそうな気がするけど、どういう気持ちであの顔してるんだろう。私が首を傾げていると、魔王様は若干呆れたように息を吐いて軽く肩をすくめた。


「そりゃ血に依存してる部分もあるけど、俺は魔法だけじゃないってライムがよく知ってるだろ」

「…まぁ、そうだけど」

「つかそもそも、血全部抜いたら普通に死ぬわ」

「え?」

「なにがえ?だよ」


おばかさんが、と言いたげな眼差しで魔王様が九条くんを見る。いや魔王様の気持ちもわかるけど九条くんの気持ちもわかるよ。無敵そうだもんね。実際のとこは眼だって治らないからそんなのは他人の勝手な思い込みでしかないわけだけど。そういえば、魔王様の目が治ってないのを未だに気にしてるのってなんだかんだで九条くんなのかも。魔王様はぐでーっとソファにねっ転がってめんどくさそうに口を開く。


「だからー、俺は老衰で死なないってだけで人間が死ぬ大怪我したら死ぬんだって。一回ギリで生き返ったけど二度は無理だぞ」

「その辺よくわからないんですけど、一回できたことが出来ないとかあるんですか?魔王様なのに」

「あるある。今はメェム、死神がいるからな。死んでなきゃおかしいものを許しちゃくれないよ、ただでさえあいつ俺のこと嫌いだし」

「えと、死神…って、結局どういうお仕事なんですか?」

「前にも言った神々も含めた魂の取り立てね、あの方は珍しい立場というか、神のための神という側面が強いのよ」


前にノル様が言ってた降格うんぬんで死神様が怖いっていうのは神様でも死ぬからっていうのがあるんだよね。でヒトとか魔性が死んだときも同じようにする、と。当たり前だけど寿命ってものがこの世界にもあるから、それを使い切るか、もう生きていける身体じゃなくなった時に死神様の出番が来るんだとか。

うん。なんというか、神様にとって信者の魂はお給料って話らしいけど、それを持ってきてくれるのが自分を殺しかねない死神様ってなんか心臓に悪そうだなー。どっちにとってもなんとなく気まずそう。すごい貧乏くじみたいなポジションじゃないだろうか。そりゃ死神様も魔王様のこと恨めしいと思ったりするんだろな、だって魔王様が大暴れしなければ神様は生まれなかったわけだし。微妙な気持ちになって黙っていたら、あんまり納得いってない顔の九条くんが首を傾げながら喋り出す。


「神ってのは信仰で成り立つんだろ、そんなのが神になるのか?」

「なるなる、ヒトってのは案外死にたがりが多いから。そうだな、たとえば死は救済、とかいって。はは、理屈がバカっぽいよなー、たかが生き死にに意味があると思ってるんだから」


神様にうさんくさーいって態度の九条くんに返した魔王様の言葉で談話室がしーんと静まる。いや、その、魔王様が一般人的な価値観じゃないってのはわかってたけど、冗談まじりに言われてしまうとわたし何て言ったらいいかわからないというか。対して魔王様はひとりだけ置いてけぼりみたいな顔をしてきょろきょろしてた。


「え、なに?この空気」

「…要するに。辛いことがあって何もかも頼れなくなってしまったとき、死を選ぶヒトはそこまで少なくないということよ。貴方たちの世界でもそういうことがあったのではなくて?」

「………そう、ですね」


まぁ、嫌な話だけど、自殺っていうのは珍しい話じゃなかったし、電車とかの人身事故なんてしょっちゅうだった。それをいつも通りの日常に組み込んで今日は遅延だ、ついてないなんて素知らぬ顔をして生きていた。振り返ってみるとなんて冷たいんだろうな、魔王様の素っ気なさに私、どんな顔して何が言えるんだろう。その人のことも、その人がそうしてしまったつらさもろくに知らなかったくせにね。

生きる死ぬに意味はないって魔王様は言う。でも、それはきっと、明日にも昨日にも心残りがない人だからだ。そうじゃない大半の人は、ちょっとしたことで脚を踏み出してしまって、救いがあるって思うんだろう。だからこそ、この世界にも死神様がいるんだ。

でも死神様は、それでいいのかな。望んだわけじゃないのに貧乏くじを引いて、お仲間の神様にも怖がられて、人には怖がられたり勝手に崇められたりして、嫌になったり、しないのかな。神様はつらくなんて、ないのかな。

気まずくなってなんとなく下唇を噛んでいると、九条くんが目を泳がせながら億劫そうに口を動かしてくれる。最近思うけど、九条くんて無愛想だけど、冷たい人じゃないんだよね。


「…で、お前はいつ頃死ぬの」

「んー、あいつには悪いけど、あと一万年は生きたいかな。だってほら、父上の神殿絶対つまんねえし」


いちまん。スケールが大きすぎる。

いや、魔王様の実年齢が7000歳ってこと考えると私があと80年生きたい!っていうのと同じ感覚なのかな、なんか絶対違う気がするけど。だってこの人魔王様だし。

当たり前だけど、私はそのときとっくのとうに死んでるんだろうな。一回死んでるからこっちでどうなるかどうかはわからないけど、魔王様が私たちがいなくても平気な顔で生きてそうなのが少しだけ寂しいや。子供みたいにそう思って何となく窓の外に目を向けると太陽燦々だった外が一気にゲリラ豪雨もかくやって具合の土砂降りになる。もはや天変地異。まあ、このスケールの天気の変化って言うと、心当たりなんて一つしかないんだけど。


「あれ?今日一日晴れじゃなかったか?」

「…魔王様って、自分に関すること恐ろしく鈍いですよね」


魔王様が驚いた顔で窓の外を見るのに思わず半目になった。おお、創造神さま、魔王様は今日とて平常運転でこんな感じです。なので、なるべく早く立ち直ってくださると嬉しいかも。

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