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お久しぶりでした

本当に申し訳ありませんでした…


「…なんか、増えてない?」

「あ、九条くんおかえり」

「おかえりー」

「…うん」

「ただいまも言えないのか、小僧」

「うっさい」


九条くんの顔を見るのもちょっと久しぶり。大変な仕事だっただろうに疲れた感じがしないのはスキルなのか九条くんが強すぎるからなのか。ただやっぱり知らない人がいるのはびっくりしてるみたいで首を傾げている。


「…アンタ、にほ…陽ノ東の人間だよな」

「うむ。昨日から世話になっている、何ぞ一宿一飯の恩を返せば立ち去らせて頂く故、そう苦い顔をせずともよいぞ」

「も、元からこんな顔だし」

「ごめんなさい、至貴さん。九条くん柔かなお年頃なので」

「アンタも子供扱いやめてくれる」


恩返しってことで懐かしの和食を作ってくれた至貴さんを微妙そうな顔で見る九条くんをそっとフォローする。怒られたけど。あんまりこの子のこと知ってるわけじゃないけど今どき珍しいくらいの反抗期というか素直になれない少年だよねぇ、あんまり友達とはしゃぐのも得意じゃなさそうだし。


そんな勝手な想像をしてると、顔にでも出てたのか九条くんがじとっとこっちを見てきたのでそっと目を逸らす。そして誤魔化しついでに至貴さんがここにいる経緯をさらっと話しておく。方向音痴で行き倒れてたこと、それを助けたところ、あとはまぁ、サリィさんに一目惚れしたこと。

話していくうちに九条くんはどんどん引いた表情になっていってぼそっと一言を吐き捨てる。


「………趣味悪っ」

「失礼だよ!?」

「そうだぞー、サリィに惚れるのは普通だろ。何といってもこの俺が美しいって思ってるんだし」

「お前の言葉はいつも虚しいな」

「何でだよ、信じろよ」


相変わらずサリバンさん達に対して当たりがきつめ、いや、普通の対応がこういう子なのかもしれないけど絶世どころではない美形に何をいうのか。もしかして九条くんって一切人の外見気にしないタイプなのかな、それはそれでいいことだけど珍しい。そんな私の戸惑いを感じ取ったのか、九条くんは億劫そうに口を開く。


「普通、男が女になったり、女が男になったら怖いもんじゃね。そういうのないわけ」

「む?否、我が国には魔性というのはむしろ近い存在として知られていた。実際目にするとこれは、と思うが…サリバン殿もお美しい、戸惑う気持ちはないとも」

「お前は見る目があるな、天寿を全うする日に夢を見させてやってもいい」

「おーコラコラコラ、ハナコが引くから裏でやれ」


そもそも、裏でもやることを勧めないでください。流石に知り合いと知り合いがそういう感じになるの知りたくないよ。誤魔化しついでにお味噌汁を啜って一息、うぅ、美味しいのに空気というか会話が不味いよ。


「来夢殿、といったか。聞き慣れぬ響きだが混血ゆえか?」

「…え、あ………うん」


ずっと穏やかに笑っていた至貴さんが九条くんの方に向き直って世間話ついでの質問をすると、九条くんの顔はあからさまに曇った。あれ、もしかして、日本かこっちの世界かで嫌なことあったのかな。いつも大体同じ表情なのに珍しいや。

無神経なことを片隅で理解しつつ、隣の魔王様にそっと耳打ちをしてみる。


「ハーフ…えっと外国人との子供は混血っていうんですね」

「ん、人間同士なんだから血も何もって感じだけどな。ヒノアズマは外交を厭う風潮があるからそう区別してるんじゃないか?」

「はぁ、なるほど…」


なら、日本で嫌なことがあったって考えるのが妥当かな。こっちの世界はそんなに差別とかないと嬉しいけどどうなんだろう。


「…すまない、気を害したらしいな。余計な詮索をしてしまったことをお許し願いたい。煌びやかな名だな」

「…別に。慣れてるし」


九条くんの顔に申し訳なさそうに頭を下げる至貴さん。それにぶっきらぼうに答える九条くんの顔も何だか気まずそうで一層空気が重く感じる。そう感じてないのは魔王様とサリバンさん達だけみたい。くっ、ヒトのなんか柔らかい問題はそんなに興味ない人たちなのかな!しょうがないけど!


「…え、えっと、この世界ってハーフは少ないんですか?」

「別種との子供は少ないな。寿命の差も大きい。それ故に人間は人間同士が多くなる。ついでに言えばエルフと獣人は相性が悪い」

「え、そうなんですか?グウェンドリンさんみたいな美人に猫耳とかついてたら可愛いと思いますけど」

「獣人って毛深いんだぞ、エルフは美容に関して世界一うるさいから無理無理。というかな、たかが一代で耳が4つになったりしない」

「あ、そ、そうなんですか…」


み、耳が4つ…まぁ言われてみればそうだけど人間に置き換えると怖いな。日本的に猫耳に一切疑念持たなかったけどこっちの世界だと引かれそうだからうっかり言わないようにしよう。


「あ、じゃあ、魔性とヒトのハーフっていないんですか?」

「…は?」

「ハナコ…」

「え、え?何か私変なこと言いました?」

「むう、なるほど。事情があるというのは真らしいな」

「…そんな変な空気になることか?お前だってある意味ハーフだろ」

「神と魔性を同列に語るな、お前らなー根本的なこと忘れてないか?」


私と九条くんを除いて食堂にはなんだか冷えた空気が漂った。そんなにおかしいことなのかな、いそうじゃない?特にヴァンプあたりとかは人間と恋に落ちてくれそうなテンプレ感がありそうというか。顔を見合わせる私たちに魔王様が一度やれやれと首を振ってからゆっくりと喋った。


「魔性は、そもそも、ヒトに、興味ない」

「………え、いや、そういう関係になる人が絶対にいないとはならないんじゃ」

「そんなの可能性の話でしかないっつーの、あぁ…近い見た目ばっかりと話してるからそういう認識になるのか?」

「…あまり適切な例えではないが。ハナコ、お前たちの世界に猿はいるか?」

「え…まぁ、いますけど」

「では、お前は猿と婚姻関係を結びたいのか?」

「……はい!?」


あまりにもな例えに一瞬思考が遅れる。え、え。それってそれって魔性から見たらヒトは動物みたいなものってこと!?


「いや!いやいやいや!それとこれとは大違いじゃないですか!?」

「そ…そうだろ、猿は猿で人間は人間…」

「同じ同じ。魔性は魔性で、ヒトはヒト」

「こうやってちゃんと話してますけど!?そ、それにサリバンさん達はその…えっと………」

「言っていなかったが、俺達が人間の見た目なのは人間で養分を補っているからだ。フィーにいた時は兎人の見た目だったし、もしエルフで腹を満たそうとすればエルフの見た目になる。夢魔にはっきりとしたカタチはないからな」

「え、えぇ……」


曰く、どんなに話が通じても、どんなに心が通じても魔性からヒトを愛するってことはまず無いんだそうな。寿命も違う、生活形態も違う、種族によっては産まれ方事態が違うとかで中々噛み合わないとか。何よりも前に聞いた通りで魔性は元々家族を作ることはほとんどなくて、自分の何かを繋げたいとかそういう思いがなければ子供を作らないから自然と配偶者という思考に行きつかない。だから大体の相手に対して友人止まり。

それを聞いても私はあんまり納得できなかった。そういう暮らし方だからって言ってもそんなにかっちり線引きしてる人いるのかなぁ。首を捻る私に至貴さんは苦笑して肩をすくめた。


「花子殿、某がサリィ殿ほどの美女を前にして引いた理由はそこにあるぞ?でなければ地の果てへでも追っていたとも」

「情熱的だな」

「愚かと口にしていただいても構わんさ。まぁ条理は弁えているが、あなた方を美しいと受け止めることに障りはないのだしな」


さらっとサリバンさん、というかサリィさんをベタ褒めして至貴さんは少し居住まいを正した。それから軽く咳払いをして話し出す。


「意思疎通が可能であれば恋愛対象になりうるという考えを否定する気はないが、双方の同意があってこそのことよ。尤も、ヒト同士でも変わらぬのだがな」

「そんなにはっきりしなくてもいいと思いますけど…」

「ハナコは本当に夢見すぎだと思うぞ、恋愛脳」

「このことに関して魔王様に言われるの本当に納得いかないです」

「あーはいはいそうですか」


よりによって神と人間の子供!って人がなんでこんなにドライなんだろう。お母さんから惚気とか聞かされなかったのかな、創造神様も優しい人だと思うし愛し合っての結果だと思うんだけどどこでこんなに冷めた人が生まれてしまったのか。なんとなくやるせなさに溜息をつくと至貴さんがきょとんとした顔でこっちを見ていた。


「む?魔王?」

「えっ」

「…今?」

「…あー、そういえば自己紹介してなかったな。すまん、俺が魔王のルキウスだ」

「何故忘れるんだ」

「なんか普通に話進んでたから流れで」


話が進むのもおかしいけど、まぁ至貴さんが細かいこと気にしない人だから名前だけで済んじゃったのかなぁ。気が付かなかった私も私なんだけど。

ちらっと至貴さんの方を見るとぽかんとした表情からやがて大きく口を開けて笑い出した。


「………ははは!ルキウス殿は中々冗談がお好きなのだな、魔王などいるわけがあるまい。大昔の神話の存在だぞ」

「いや嘘じゃねえけど」

「まさか。恩人の言葉を疑うは無礼なれども某には首を振ることしかできぬ」

「いやっ、いやいや至貴さん!本当なんですよ!」

「花子殿まで某を揶揄うのか?」

「本当なんですってばー!」

「…じゃ、なんで嘘だって思うわけ」

「それは簡単だ。魔王がこのように気さくであるわけがなかろう!」


ばばん!と至貴さんの手のひらが魔王様の方へ向く。魔王様を除いた私たち3人は数秒の後同時に頷いた。


「反論の余地もないな」

「おい」

「確かに」

「同調すんなそこ」

「….無駄に生きてて強いだけだしな」

「せめてライムは否定しろよ!勇者だろうが!」


魔王らしくなるように頑張ってるのに、とかウニャウニャ言いながら魔王様は渋い顔で腕を組む。

一体どの辺がだろう。私はその緩さに助けられているけど、魔王っていうには恐ろしさとか威厳とか足りないと思うんだよね。ヤンチャが洒落にならない人って感覚が近いもん、ほんとに。ぬるい目で見ているとやがて魔王様はハッとしたように目を見開いた。


「あれ、待てよ…俺って魔王の証明になるもの持ってないのか…」

「えぇ…今更気がつくんですか」

「うん、大体のやつは信じるからな、暴力とかで」

「お前は昔から力に走りすぎだ」

「ってかそれ…信じてるんじゃなくてビビってるだけなんじゃ…」

「えぇ嘘ぉ…」


あっさり怖いこと言う魔王様がぐっぱと拳を開いたり結んだり。こういう仕草がそもそも魔王っぽくないんだけど、やる時はやる人なのがまた、なんとも。

…っていうかこの人本当によくわかんないな、服装が嫌とかいうけど魔王ってイメージ自体は嫌じゃないっぽいのがなんか変、な気がする。


「…じゃあちょっと山とか裂いてくるかな」

「ステイステイステイ」

「待てバカ」

「なんでだよ、だって神話上の俺山裂いて海割ったりしてるやつもあるんだろ」

「自棄になるな、ガルム様がお怒りになるぞ」


疑いの目が向けられているのが我慢ならなかったのかやや不機嫌そうに食堂を出て行こうとする魔王様を私が言葉で、九条くんがマントを踏む形で阻止する。えっと、手で掴むんじゃダメなのかな。それかなりいい布だと思うんだよ九条くん。


なんとか魔王様を宥めすかしあーだこーだと至貴さんを説得して、最終的には魔王様のちょっとした…いや、かなりすごいらしい魔法を見せてようやく至貴さんが頷いてくれた。とはいってもその顔が微妙なのには変わりなく。

いや、わかるよ。私だって神様とかが実は社会で生きててひょっこり現れて名乗られたりしたら絶対信じないもんね。


「ははぁ……ふうむ…今ひとつ納得はしておらぬが、真実ルキウス殿は魔王であらせられるのか」

「そうだよ。お前ほど信じない奴も珍しいな」

「これは失敬…なにせ国柄もあってな」

「お国柄?あ、あんまりこっちの方のお話は流れてこないって感じなんですかね」

「否、国を閉じていた島国とて、精霊や神々からの話を拒むことはない。何度も聞いた話である」

「そこは別に広まって欲しくなかったなー…」

「じゃあ尚更何で?」


魔王様の話って身内経由で世界各地で広まってるんだ…なんかちょっと気の毒になってきたな…やらかしたことに比べたら小さいことかもしれないけど。ぼそっとつぶやく魔王様を横目に気まずげな至貴さんの言葉を待つ。


「うむ…大変心苦しい話になるのだが、我が国はかなり脚色が好きな国柄…というかだな、神話ともなると様々な形で語り継がれているというか……いっそ語り継がれすぎて…実物を目にしても想像と違うというのが…その…」


あ、あぁ……

あー………


これはもしかすると、陽ノ東で魔王様がかっこいい感じの脚色をされていたパターン、では。絞り出すように言葉を吐き出した至貴さんの顔には罪悪感が塗りたくられている。うん、きいたことある、要するにこれ、解釈違い、というやつですね…?


魔王様を除いて私達はどうしようもない気持ちで顔を見合わせる。なんとなく九条くんも他人事じゃないような顔をしている気がする、ネームバリューが凄い人、大変ですね。ははは、私モブで良かったなー、なんて、は、はは…。


「ま…まぁ……現物ってぶっちゃけテンション下がることもあるし…」

「…理想は人によって違うということだな」

「なんだそれ、疲れる……」


珍しく魔王様をフォローする2人を喜ぶ気にもなれず冷めたお味噌汁をすする私なのでした。


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