行き倒れてました
活動報告に毒にも薬にもならない与太話を載せてみました、無事に1年この作品をかけて嬉しいです。ブクマや評価など励みになります、これからも気長によろしくお願いいたします。
マリエラのお祭りも満喫してお城に戻って数週間、すっかり季節は秋めいて涼しくなってきた。そろそろ魔王様も軽めの服装でいられなくなってうんざりしてるようで、玉座の上に胡座なんてかいて微妙な顔をしてる。行儀が悪いって言おうとしたんだけどその前に魔王様は長く息を吐いてこっちに目を向けてきた。
「露骨に怪しいな〜って思うことって意外にあるよな」
「え、押すとまずそうなボタンが放置されてたりバナナの皮が道に落ちてたりとかですか?」
「お前の例えがよく分からん」
「要するに罠が罠丸出しの状態ということでしょう?」
「あ、はい、そういう感じです」
「あ、わかったわかった」
ぼん、と手を打って魔王様は虚空を見る。多分何が別のものを見ているんだろうと思うんだけど魔王様の視点ってどこまでもいくから何見てるんだか予想もつかない。サリィさんと一度顔を見合わせてから首を傾げる。
「何か罠でもあるんですか?アルカディアから招待券でも来たとか」
「来た瞬間燃やすけどな?そっちのがまだ露骨じゃないレベル」
「えぇ?」
「なんか森に人間が倒れてんだよな」
「いや助けましょうよ!?」
なんでもないように言うけど、それってシンプルに遭難者じゃん、行き倒れじゃん。しかもこの魔王城の近くでって大丈夫なの、私は魔王様は無害って分かってるけど普通の人ならもうちょっと村まで行こうって頑張るものでしょ。もしかしたら相当まずい状況なんじゃないかな。私の食いぎみの声に魔王様は鬱陶しそうな顔をして背もたれに頭をつけた。
「えー、だってここの森危険な生き物いないし、あとちょっと歩いてくれりゃ結界の範囲だから元の場所に飛ばせるんだけどなー」
「そこはサービスで飛ばしてあげましょう!?あ、いや、せめて介抱するとか!私の知り合いかもですし!」
「いや、それはないな」
魔王様がふと空間を見つめると映像みたいなものが中に浮いた、そこには確かに人が倒れていたんだけどその格好と言ったらこっちでは見ないだろうなって思っていた袴姿。黒髪を一つに縛って腰には日本刀らしきものまで下げてる、この世界で時代錯誤っていうのもどうかと思うんだけど、これは。
「……お侍、さん?」
「この服装、ヒノアズマの人間ね」
「あぁ、不審すぎる。ここからあの国までは遠すぎるし、そもそもあそこの国民は外交に消極的なはずだろ?それが旅人ってだけで怪しいのに、態々俺の城に来てるんだ、こちらから手を出すのはちょっとな」
確かに日本みたいな国があるって聞いたことはあるけど、こんなにモロだとは。なんか変な感じ、向こうと全然違うのに部分部分日本っていうか現代に通じるものがあるのが不思議で仕方ない。そりゃ1から100まで違ってたら困るし、寧ろ似た部分があるとホッとするんだけど。
あ、いや、そうじゃなくて。魔王様もサリィさんもあんまり助ける気ないな、怪しいって気持ちを否定する根拠はないけど行き倒れ出る人を見ちゃって見捨てるのは私の良心が凄い痛む。私も昔は行き倒れみたいなものだったわけだしここは助けないといけない気がする。
「…あ、あの、じゃあアナログな方法で助けてあげるのはどうでしょう?」
「ん?」
なんか危ない人だったら助けてくださいって魔王様にお願いして、水を持って森に行った。転移具で帰ってきてるからちゃんと森の中歩いたことないんだけど雰囲気あるなぁ、危険な生き物いないって本当だよね?でも魔王様以上に危険なのがいたら見てみたい気持ちも、いややっぱり無いや。
侍の人の身体にはあんまり傷ってものはなくて一安心、うつ伏せになってたから分からなかったけど普通に寝てるだけって感じ、なんで寝るかなこんなとこで。内心呆れながら肩を軽く揺すってみるとすぐに起きてくれて、きょとんとした顔でこっちを見てきた。起こした理由を話しながら水を渡すとお侍さんは納得したように頷いて、照れ臭そうに水を受け取る。その全然動じてない自然な感じに私は違和感を感じた、普通もう少し驚いたっていいんじゃないのかな。
「いやぁ!相済まぬ!まさか行き倒れる無様を晒すとは思わなんだ」
「い、いえ、ご無事でよかったです」
「ふむ、やはり天は某に味方してくれるらしい。異国で故郷の人間に会えるとはなんたる僥倖」
「あ、そ、それなんですけど、私その国の生まれじゃなくて…ちょっと事情があるというか」
「なんと。その容貌にして、陽ノ東の者ではないのか、不思議な縁もあるものだな」
「す、すみません」
おおぅ、話し方も侍って感じ。そういえば最近時代劇ってテレビでやらなくなったなぁ。日本にいた時にずっと小さい頃はおじいちゃんの家に行った時見たものだけど、もう大河くらいでしか見ないかも。あ、ダメダメ。また脱線してる。軽く頭を振ってお侍さんが水を飲み終わるのを待っていると、その人は苦笑いして頭を下げた。
「助けてもらったというに、名乗りもまだだったな。浦葉至貴と申す」
「しきさん、ですか」
「のりたか、でも構わんぞ。何せ恩人だからな!」
「あ。それなんですけど…」
恩人、なんてそんな風に言われるのはちょっと。この水もお城のだし、そもそも魔王様に守ってもらってるから出てきたし、第一に見つけたの魔王様だし。
私は別の人が至貴さんを見つけたってこと、当人は至貴さんを怪しんでるから出てこなかったことを包み隠さずに話した。言ってから怪しんでるって言わなくても良かったなって気まずい気持ちになったけど至貴さんは気にしていないようで納得したように頷いている。
「ふうむ、なるほど道理だ。だが、某も何故ここにいるか分からん」
「えっと…何か魔法をかけられたとかですか?」
「否、昔から…だな」
「え?」
私が聞き返すと至貴さんは初めて渋そうな顔をして項垂れた。
「………某は、重度の方向音痴なのだ」
「……………それ、方向音痴で片付けていいんですか?」
確か魔王様と九条くんから聞いた話だと東南の遠いところにあるのが日本によく似た国らしい。多分陽ノ東ってそこのことだよね、で、そんな海を跨いだ遠いとこから至貴さんはストバイトに流れ着いたっていう。
うん。絶対それ方向音痴じゃない。私の頭は謁見の間で呆れた顔の魔王様と苦笑いのサリィさんが物凄くはっきり思い描けたのでした。




