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観劇しました


「すごかったですね…私、観劇とか人生初めてです」

「結構面白かったなー、原作あるみたいだからあとで頼んどく」

「王家に配達を頼むな」


今日はロクサーナさんの案内なしで昨日説明されたところを回っていた、今出てきた劇場は何回も王様から賞を貰ってる劇団のもので文句なしに面白かった。なんといっても迫力がすごい、日本みたいにワイヤーとかリフトとかそういう機械はないだろうなぁとか思ってたんだけど魔法とか使った演出が凄くてもう。だって火とか出るしなんなら雪も降ったんだよ、ここまでくると4DXだよね。舞台俳優さん達も当然の様に美形だし歌も綺麗だし、話もいいし、なるほどこれは観劇にハマる人もいるのも納得って感じ。


「それにしても魔王様も面白いと思うんですね」

「お前は何だ?俺のことを情緒が死滅してると思ってるのか?」

「違うのか」

「おい」


魔王様が原作の本を頼むっていうのに驚いて聞いてみたら露骨にむくれた。あ、うん、これは私の言い方が悪かったですね、サリバンさんが気をそらしてくれたけども。とはいえそれ以上に言い様がないんだもんなぁ。


「違いますよー、だって魔王様本とか読んでても全然顔動かないじゃないですか、恋愛モノだとしょっぱい顔するのに」

「それ拒否反応だからな、面白いのは楽しんでるって。第一熱中したらすぐ読み終わるだろ?俺があと何年生きると思ってるんだ」

「え、何年ですか?」

「いや知らない、5億とか?」

「もう少し謙虚に死ね」


魔王様は感情が出やすいけど基本的には無表情、話しかけたりしないと変わらないっていうのかな。別にこうやって言うとおかしいことじゃないかもしれないけど、面白いものを見たりしたら笑ったりするものでしょ、そういうの一切見たことない。さっきの観劇だって全然笑う気配とか横から感じなかったし、本読んでる時だって凄い仏頂面なんだもん、私が意外に思うのくらい許してほしい。


魔王様は隣で毒づいたサリバンさんを軽く睨んで仕方ないとでも言いたそうに頭を振った。そのまま劇場前の道を歩いてロクサーナさんオススメのパティスリーに向かう、特別なお客様用の個室を予約してくれていたらしく店内に入って魔王様が店員さんに話しかけると奥に通された。こんなにしてもらってるのに今日ロクサーナさんがいない理由?これだけしてもらってさらに2日連続案内とか申し訳なさすぎて恐縮しちゃうからです。まぁ、魔王様を案内無しで歩かせるなんてって食い下がり方が凄かったし、これ以上の重要なお仕事もなさそうだけど見てるこっちがヒヤヒヤするからね、昨日サリィさんになんとか言いくるめてもらいました。ずるいな私達、当の魔王様は全然気にしてないけど言っても無駄なので何も言わずにおく。


「魔王様はどんなものがいいなーってなるんですか?」

「やっぱり創意工夫、これに尽きるな。あ、でもいらないところゴチャゴチャにするっていうのは違うぞ」

「まぁ、そりゃあ全体整ってないと、ですね」

「そうそう、なーんか細かいとこをこだわるくせそもそものものを大雑把にするやついるんだよなぁ」


椅子に座って少し待つと直ぐにケーキが運ばれてきた、宝石が載ってるのかなってくらいに鮮やかなフルーツタルトについ前のめりになってしまう。え、この世界日本よりも文化レベル低いはずだよね、銀座とかで売っててもおかしくないくらいの綺麗さなんですけど。私の反応にちょっと笑ったパティシエの人が綺麗にタルトを切り分けていく、魔性2人に一切動揺してないのは魔法のおかげなんだろうな。多分ロクサーナさんも魔王様のことを魔王様とは言ってないと思うけどさ。ケーキが取り分けられて、個室からパティシエさんが出て行く。黙っていた魔王様がフォークを取って、綺麗なケーキに見惚れることもなく一口に切る。


「想像の豊かさっていうのはさ、それが知性体の豊かさと等しいわけ。貧しい生き物は食糧の夢を見るが、富めるものはわざわざそんなものは見ない」

「え、そうですか?好きな食べ物とか夢に出てきたら嬉しくありません?」

「例えだよ例え。要するに恵まれている生き物は単純な願いを抱くことは少ない、生存欲求に関わらない夢を見始めるってこと」


横目にタルトを見ると呆れたように苦笑される、魔王様はそのままタルトの小さな三角を口に運んでほんの少しだけ柔らかく目を細めた。


「ヒトはただ生きることから逸脱できる種だ、それなら真っ当に道を間違える姿が見たいと思うだろ?」

「え、ど、どういう…?」

「お前の言い方は理解し難い」

「えぇー?これ以上ないくらいに簡単だろ」

「何処がだ」


真っ当に間違えるって言い方がよく分からなくて瞬きすると、ティーカップから口を離してサリバンさんが顔を顰めた、不満を返す魔王様に重くため息を吐いてカップをソーサーに置く。少し考えるように首を傾けて、それからこっちを見てきた。


「…そうだな、ハナコ。以前復讐譚の本を読んでいただろう」

「あ、はい。途中でやめちゃいましたけど…」

「獣も魔性もあの様な真似はしない。何かを害するということは此方が命を落とすことにも繋がるからだ、種の存続、あるいは自己保存を至上とする我々に復讐や生存活動を擲っての行動をする意義はない。危険に身を晒してまでするべきことではない、と言い換えたほうが納得がいくか」


せっかく言葉がわかるんだしと読んでみた復讐モノ想像の何倍もキツくってリタイアしちゃったんだよね、社会的にも肉体的に死ぬのも因果応報で片づけられなかったし、思い出すだけでもモヤモヤしちゃうくらい。


サリバンさんはそれを人間というかヒト特有だって言う。そんなことってあるのかな、そりゃ動物が復讐するっていうのは聞かないけど魔性ならなくはないんじゃないの?家族ってものがあまりいないとは聞いたことあるけど、それでも親兄弟とか友達とか親しい人が嫌な目にあったらこんにゃろってなるもんじゃないのかな。納得がいかなくて首を傾げる私にサリバンさんも魔王様も静かに首を振るだけだった。


「ヒトってのはほら、社会を作って生きていくだろ。そういうのは俺たちでもあるけど、ヒトほど複雑じゃないしもっと曖昧なんだよ。そういうのがあるからかな、別に自分が子を残さなくても世界が回っていくと思ってる。皮肉なことだが繁栄に力を割いたヒトは何かが途絶えるって実感が薄れていってるのさ」

「今見てきた舞台も、鑑賞することも制作することも生存活動に必要のないものだ。だが、ヒトは娯楽がなければ短い生を謳歌できない」

「だからその余分を発展させる、ほら、生き物として間違いだろ?でも俺はどうせならその想像を楽しみたいって話。あぁいう物語とかの創造は俺だと出来ないと思うし」

「お前にしては珍しい、試さないのか?」

「そんなんするくらいなら子供のこと考えるっつーの」


なんだか薄情だなって思ったけど魔王様が今まで作ってきたものを思い出してはっとした。マジックアイテムも、薬草も、魔法も薬も料理も魔王様が作るものは全部いらなくはないものだった。最後まで渋られたお風呂は生活に余裕がある人が欲しがるもので絶対的じゃない、清潔にするのは大切だけど他のものほど衣食住に直結するものじゃないんだ。魔王様は創造神様の息子だけど積極的に作る余分な物は魔獣だけ、それに気がついた時なんだかちょっと寂しくて目を逸らしてしまった。


「えーと…つまり魔王様は娯楽が好きなんですか?」

「どっちかというと、娯楽じゃなくてその発端の気持ちってやつかな」


もっとあぁしたいこうしたい、そんな気持ちで生まれるものを楽しみたい、そういうこと、なのかな。よくわかんないけど、魔王様だって半分は人間なんだしそんな自分は別みたいな感じで楽しまなくていいのに、そうやって俯いた時にいつも通りの魔王様のぼんやりした声が耳に届いた。


「ま、呆れるけど。俺がその気になったら一瞬で色々死ぬのにな?なーんて…」

「…………」

「…………」

「おい、なんだその顔。冗談だって」

「洒落になりませんよね」

「全くだ」


なんか悔しい、魔王様と話すたび人間らしさとそうじゃなさを感じて勝手にこっちだけ切ない気持ちになる。半分神様、それってこんなに大変なのかな、ノル様は全部が神様なのにちゃんとお話出来るのに。呆れ顔のサリバンさんと顔を見合わせてほとんど同時に溜息をついたのでした。


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