建国祭に行きました
そんなわけでロクサーナさん経由でお祭りに行くことを伝えて、私はバイト先に休みの連絡を入れて、あっという間に3週間が経過。無事マリエラのお祭りに来ることができました、やったね。珍しくサリィさんも起きてのお祭り見物、いつか2人と行きたいって言ったけどわりあい早く叶うものなんだねえ、ありがたや。
もはや恒例の転移でマリエラに向かうとそこでは少し動きやすそうなドレス姿のロクサーナさんが待っていてくれた。物凄く恐縮だけど、今日のガイドはお姫様自らがしてくれるらしい。VIP対応は納得なんだけどいいのかなぁ、お姫様にこんなことさせて。
「よーロクサーナ、久しぶり」
「魔王様、ご機嫌麗しゅうございます」
「あー本当そんなに堅くならなくっていいのに。友人なわけだろ?」
「そ、そうは…仰いましても…」
ドレスを裾を掴んでお辞儀するロクサーナさんに、魔王様はいつも通りめんどくさそうな顔で片手をひらひらさせていた。いや、ロクサーナさんの気持ち分かるよ、私はわりと最初から敬意とかないけどこっちの世界の人からしたら恐れ多い人だもの。苦しゅうないって言われてもその状況がそも苦しいっていうかさ。気まずそうに顔を上げたロクサーナさんは、魔王様の顔を見つめて少し目を見開いた。
「あら…?」
「ん?どうした?」
「ひゃっ」
「近いわよ」
「あっ、悪い。で、ロクサーナ、気掛かりなことでもあったのか?」
「あっ…いえ、大したことではないのかもしれませんが、その、左目が」
「あー、そっか、無くなってから会うの、初めてだよな」
戸惑った風なロクサーナさんにずいっと顔を近づける魔王様をサリィさんが素早く引き剥がす、流石です、あとご苦労様です、さっきから眠そうに目しばしばしてるのにね。
魔王様は納得したように頷いて左の方の前髪をかき上げて軽く片目をつぶった。そういえば最近やっと慣れてきたけど魔王様の片目だいぶ変わっちゃったんだよね。本人が全然問題なさそうだから気にしなくもなってるけどそりゃ違和感はあるよ。私はなんとなく目をそらして、淡々と勇者と戦って潰されたことを説明する魔王様の声を聞いていた。
「…っ、お身体に問題は…?」
「ないない。ちゃんとロクサーナだってしっかり見えてるぞ」
「あっ…え、あ…そ、それなら…」
「王女殿下、貴女自らの歓迎に感謝いたしますわ、立ち話もなんですしどこかへ案内していただける?」
「…そ、そうですね。申し訳ありません、こちらへ」
少し顔色を悪くしてロクサーナさんは心配そうに手を握り込んだ、魔王様はそれにお気楽な笑顔を返してついでにいらんことまで言ってる。油断も隙もないな、他意はないけど気になってる人から言われるとちょっと照れるツボを的確に抑えにくる、何?才能なの?ロクサーナさんの頬が少し染まったのを見てサリィさんがにこやかにリードした。うん、この2人に会話させないのが一番ですもんね、死ぬほど申し訳ないけどガイドしてもらおう。
ロクサーナさんがすっと片手で示した先はいかにもお祭りっていう感じで色とりどりの旗とか花とかで飾り付けられていた、アクセサリーとか食べ物とか本とか、あとは多分マジックアイテムやらいろんな露店が所狭しって感じに並んでいる。こんなに人がごった返してるところお姫様に護衛もなしで大丈夫なのかなって思うけど、面白いほど街ゆく人の皆さんがこっちを見ないんだよね。ちらっと魔王様に視線を投げるとドヤ顔されたので、まぁ、魔法なんでしょうね。
それでも一応心配なので先頭を歩いてくれているロクサーナさんにこそっと小声で話しかけてみる。
「あ、あの、ロクサーナさん」
「はい、何でしょう」
「えっと、お姫様がガイドさんって大丈夫なんですか?お仕事とか…無理してなら全然放っておいてもらってもいいので」
「おかしなことを仰いますね、魔王様をもてなす以上の国務があると?」
「あっはい、それもそうですね」
「それに…無理などは。建国祭にいらしてくださるのは名誉なことです。王家のものとして、楽しんでいただきたいと思っているのですよ」
心底意味がわからんという顔で返されてしまった。まぁそうですよね、ラスボスにつまんない思いさせて帰ったら国が滅ぼされるかもしれないし。魔王様はそんなことしないだろうけど、出来るだけ好感持って帰ってもらいたいっていうのはどの国もどんな人も共通だよね。
それに、続けて話してくれたロクサーナさんの目はとても優しくてこの人は自分の国のことをちゃんと誇りに思ってるんだなって思った。愛国心とかほとんどない生活してたから何気ないところでそういうのを発揮されると無駄に感動しちゃうや。
そして私、そんな人の前でマリエラのことそんなに知らないんだよね、失礼すぎる。深く知る機会がほとんどなかったっていうのもあるけど、ここは恥を忍んで伺うことにします。小さく咳払いしてそのままロクサーナさんに話しかけてみる。
「…えーと、すみません。文化の、って言いますけど特に力入れてるものってあるんですか?」
「いいえ、偏りなく発展していってほしいと思っています。けれど最近は、専ら料理が盛んではありますね…」
「あっ…お手数おかけします」
「いつも変わったのありがとな、でも無理くり探さないでいいぞ。手紙でもいってるけどロクサーナも美味いって思うもの送ってくれ、絶対間違いないだろ?」
「は、はっ、はい…!」
「…まぁ、素敵な音。楽団もいい腕をしているのね」
「あ…えぇ、食文化が盛んになったといっても、他が劣るわけではありませんわ」
うわー、ナイスカード。遮り方が強引ではあるけどぶった切るしかないよね結局。不自然な割り込みに魔王様がなんで?って顔してるけど本当に自覚がないんだなぁ、困る。
でも実際街の中から聞こえる音楽はどれも綺麗だった、私特別習い事とかやってたわけじゃないからよくは分からないけどなんていうか気持ちが盛り上がるなーって感じの音色。
文化ってすごい漠然としてるけど、多分人の心が喜ぶものの発展を担ってるって感じでいいんだろうな。スイーツ然り、服、音楽、本、あともっと色々。
「ロクサーナさんも何か演奏とかしたりするんですか?」
「一通りは触れます、とはいえその道を極めんとする人々には遠く及びません」
「一通りってかなりすごいと思いますけど…」
私リコーダーくらいのものなんですけど、あ、鍵盤ハーモニカ引けるからほとんどピアノみたいなものかな。楽譜あんまり読めないけどね。
「いやー、結構発展してるんだな。祭なんて7000年ちょいぶりだけどやっぱ活気があっていい」
「え、魔王様の時代にもお祭りってあったんですか」
「そりゃある、祭事って元々は神に感謝を込めたものなんだぞ」
「…魔王様だとお父様にご意見を送る感じに?」
「そんなもんかな。村にいた頃は神の子だなんて信じてもらえなかったけどな、舞を披露する役目を任されたりとかしてたぞ」
「まぁ。茶番ね」
「それ言うなよー。豊作になるんだからしょうがねえだろ?」
しれっと明かされるロクサーナさんのスペックの高さに半目になってると、魔王様が楽しそうな顔で頷いていた。
懐かしいって感じなのかな、7000年前も祭りがあったって凄い。人が集まると自然とそういう発想になるものなのかな、もしかして最初のお祭りだったりなんてして。
それにしても舞、かぁ。舞って女の人が踊るものなんじゃないの?こういうのジェンダー観古いのかなぁ、どうしても神事の舞っていうと巫女さんが浮かんじゃうんだよね。でも獅子舞は男の人か、うーむ。
ま、創造神様的には魔王様が踊ってくれた方が嬉しいでしょうけど。なんかあれだよね、お遊戯会的な、豊作はご褒美。えーバリバリ贔屓してるじゃん、沢山神様が生まれる前っていってもいいのか、神。
「あ!そうだロクサーナ!せっかくだし踊ろうぜ、つってもあんまり曲とか知らないんだけど合わせるからさ」
「ええっ!?あ、あ、あの、それはっ、そ、その…っ」
「何言ってるんですか!!こら!!!お姫様が魔王様とホイホイおどっていいわけないでしょうが!!!」
「ダメなのか?せっかく音楽流れてんのに?」
「幾ら何でも無礼でしょう。それに貴方の気まぐれがどれだけヒトの社会に影響すると思うの?」
「認識阻害はかけてるぞ?いいじゃん、思い出思い出」
「…貴方のせいで姫が歩かされているのよ?」
「あ、う、うん…、まあ、そうだな…疲れてるよな…ごめん、また今度」
「は……は、い…」
「次回も無しよ」
「何でだよ」
懐かしい思いをするのはいいですが、思いつきに恋する乙女を巻き込まないでほしい。いや本当思うけど何でロクサーナさんは魔王様が好きなんだろう、そりゃド級のイケメンですけど多分顔だけじゃない、よなぁ。ちらっと様子を伺ってみたら、真っ赤なほっぺを抑えてらっしゃる。可愛い、とっても可愛いんだけど、心臓に悪い。
「…我が国の建国祭は無論神にも感謝を捧げますが、どちらかというと文化の発展を祝う側面が多いものになります、毎年各部門に褒賞を授けているのですよ」
「うんうん、やっぱヒトの社会には競争がなきゃな。それって俺たちでも見たりできるのか?」
「勿論です!…あっ、いえ、その、魔王様のお気に召すかは…」
「大丈夫だろ、多分な」
不安そうに見上げるロクサーナさんに魔王様はからっと笑ってみせた。その結果お姫様の顔がどうなったかはまぁ説明しなくても分かりますよね、うぶすぎない?それでもちゃんとおすすめとか賞をよくとってるところの説明をするあたりしっかりしてるんだけども。そしてそれに頷き返している魔王様といえば。
「…楽しそうですね?」
「そりゃそうだろ、別にヒトの社会なんてどうでもいいが研鑽された歴史や文明には価値があるもんだ、それを見られてるわけだから楽しいさ」
「はぁ…そういうものですか」
「それにほら、お前らも一緒だし。たまには悪くないよな」
「おおっ?!聞きましたかサリィさん!」
「えぇ、普段からこうならいいのだけど」
「えぇ…?今日は本当なんなんだお前ら…」
戸惑う魔王様をほっぽってサリィさんと顔を見合わせて笑った。勿論理由なんて教えません、ふとした時に一緒にいて楽しいってくくりにされるっていう、嬉しい気持ちはどっちかといえば自分で気がついてほしいものなので。
お久しぶりにもほどがありますがお久しぶりです




