夢魔の話
しょうもないですが遠慮ない暴言が飛び交います、ご容赦ください。
まず言っておきたい、魔王という男は冷徹である。
あいつを知らない輩は当然だと頷くだろう。
少しだけあいつを知る珍しいやつはそんな事がないと首を振る。
そして趣味が悪く、かなり入れ込んだやつは呆れたように頷くのだと思う。
私/俺はその1人。アイツとの出会いは最悪だった、こちらに非はあったがそれにしても最悪といえるものだ。それがまさか1000年一緒に暮らすほどの仲になるなんて世の中というものは分からない。自分の情けなさにも目眩を覚えるが、過去を変えるほど暇でもないので屈辱と現実を甘んじて受け入れたほうが気が楽だ。
しかし、回顧というものはたまにする、そうでなくてはこの想いを別のものと勘違いしてしまいそうになるから。それこそ最高で最低な屈辱を味わう羽目になる、だから、思い出そうと思う。アレとの出会いを。
「どうなっているのよ、この自我の強さ…」
夢の世界と聞けば、どこか虚ろな空間を思うものが多いのだろうが実際はそんなことはない。むしろ他者の無意識と無意識とが混ざり合わないようにしっかりと管理されているのだ、人の見る夢の数だけ扉があり、その自我の強さ、言い換えれば心の防御力に応じて扉は厚く、鍵は複雑なものとなる。
一つの大扉の前で美しい女が大きく溜息をつく、もっともただの女ではない。神を除けば夢の世界に干渉できるのは夢魔と呼ばれる魔性のみ。本当は兎人族の間引きの為の力であるのだが、サリィ・アニムスという個体はその単純作業に飽きが来て、好みの生きものからしか欲を絞り取らないという生き方をしていた。夢魔族の中では随一の美貌を備えてしまったが故の傲慢だ。
正直、こんな二度手間をするのならば一族ごと絶滅させてしまえばよかったのにと思わないでもないのだけれど、一度つくったものは壊しにくいという事情だろうか。まぁ、神の道理などは分からないし、勝手だと糾弾する気持ちもない。そも、ヒトも魔性も、神さえも、ある程度は勝手に生きる自由があるのだからお互い目を瞑ってやらなくてはいけないのだ。そう、禁忌に触れない限りは。
これは、禁忌ではない。扉に手を添えると冷たい感触がする。別に、魔性が誰かを襲うなど珍しい話ではないし、そんなことで神の裁きが下されるほど不寛容な世界の作りではないのだ。
「流石に魔王…ってことかしら?けれど、夢の世界で私に勝てる道理なんてないわ」
一族の決まりから逸脱した頃は人間を標的に食事をしてきた、あぁ、ただ繁殖にしか頭を使わぬ兎人と比べてその拘りばかりの情欲の甘美なこと、愚かしい事。今までの食事は捨てる脂を食わされていただけだ、楽しみも何もなかった、だからこそ、もっともっとと良いものを求めるようになった。
扉を撫でてみると、ダイヤルやら歯車やら鎖やらあらゆる障害が張り付いていた扉がやがて普通のノブをひねるだけのものに変わりゆっくりと開いた。問答無用、特権とはこういうことだ。もっとも普段であれば触らなくても扉は開くのだが持ち主が持ち主だからということなのだろう、とサリィは納得する。
扉の中、そこでは簡素なベッドの上で黒髪の青年が穏やかに寝息をたてていた。その姿につい、瞬きを繰り返す。
特別なモノを食べてみたい、そういう興味と挑戦でここに入り込んだのだけれども神話に聞くような苛烈さは全く感じないというか、寧ろあどけなささえある。これが、昔に世界を滅ぼしかけたと言われても全くピンと来ない。場所を間違えた、という線はあの重厚すぎる扉を考えればありえないので単に見た目が魔王らしくないだけなのだろう。なんだか肩透かしでも食らった気持ちだが、あっさり過去の災厄を打倒できるならそれはそれで面白い。そっと近づいて頭の両脇に手をつくと、パチリと青年の両目が開いて美しい琥珀がサリィを射抜いた。その虹彩の稀有さに驚いていると青年は怪訝そうな顔で首を傾げる。
「………誰?」
「…知る必要はないわ、瑣末なことですもの」
なんとも緊張感がない、普通自分の顔を見れば正気を失って陶酔した表情になるものなのだがそこは流石魔王というべきなのか。ただ間抜けな顔で見つめ返されるというのは、多少腹立たしい。しかし、やはり知りもしない相手が自分の上にいるというのは居心地が悪いらしくもぞもぞと下で動いていた。
「あぁ、逃げないで頂戴な、悪いことなんてしないわ…ただ、とっても、気持ちいいことをするだけよ?」
死ぬほど。
にっこりと天上の笑顔を向けてやり、首筋に口付けを落とそうとすると頭上から「あ」とまた間抜けな声が聞こえた。
「なるほど」
何に合点がいったのだろう、つい顔を上げるとそれと同時に身体に無数の茨が巻きついて締め上げた。その隙に魔王はベッドから降りて首元を軽くさすった。急な痛みにサリィが顔を歪め振り払おうとしたがまた虚空から生えて来た茨が襲いかかる。
「ッ、何!?」
「やりようはある、まぁ…かなり疲れるけど」
多少気怠げに髪をかきあげて、興味無さげにサリィの方を見つめるその瞳には一切の焦りはない。焦るのはサリィの方で、絡みついて離れようとしない茨を憎らしげに睨みつける。
こんなことはおかしい、勿論反撃をされるのではと思ってはいた。しかし夢の世界は夢魔の領分だ、いかな猛者といえどここでは赤子ほどの力になるはず、それが何故。動揺するサリィを置いて、魔王は人差し指でとんとんと額を突いている。
「…ええと。サキュバスとインキュバスの融合体だっけ。初めてみるから多少戸惑ったけど…まぁ俺さ、そんなに甘くないっつーか」
「どう、して…!」
「実際、業腹なことに今の物理性能はお前以下だ、だが思考は違う」
事実頭にきているのか先程と違って目付きは鋭く、まるで獣のようだった。それでいてその視線は氷のように冷たい、背筋に一筋汗が流れる。一瞬魔王は顔をしかめて額を抑えた、そして軽く舌打ちをしてまたサリィへと目を向ける。茨がもう一段階締まり、白い肌が血で染まった。
「…魔法は想像と創造の力だ。出力が抑えられているならそれを上回る速度で演算して、捌けなくすればいい、この際量より質…お陰で頭痛がするが、な」
「あ…くっ」
「さて、どうしてくれようか。魔性の一匹二匹、殺したところで咎められんとは思うが、いかんせん夢魔となると前例がない」
魔王が片手を翳すと束縛から解放される、安堵もつかの間中に浮き上げられ衝撃と共に地面へと叩きつけられた。痛みに息が止まり、殺されるのだという恐怖が頭を塗り潰す。圧迫感が体を押さえつけて身動きさえままならない。
夢魔は一応、神の不始末の尻拭いをさせられている魔性だ。けれどそれから離れてしまった自分は。ゆっくり近付いてくる魔王の足音が処刑人の様に思えて身が竦む、屈みこんでこちらを覗き込む一対の黄金の、どれだけ痛い事か。
「侮りには至上の苦痛を以って応える、それが俺のルールで…あれ?」
「………!」
「催すものはないが、お前美しいな」
「…は?」
「んっんー、正直殺しても芸がないし、せっかくだから醜女になる呪いでもかけよっか?魔核にズドンとねじ込んじゃえばいけそうだし。はは、ヒトもそんなのに犯されたら別の意味で枯れて死ぬかなァ」
今更な賛辞に目を丸くすると、砕けた口調で続けられた言葉にふつふつと怒りがこみ上げてくる。この男、どうやら今の今までこの自分の顔を認識してさえいなかったらしい、ボロボロの状態でそんなことを言われても何一つ嬉しくはない。屈辱に恐怖を忘れ、へらりとしたその顔へ吠える。
「ふ、ざけ、ないで…っ!」
「え、真面目に考えてんだけど…何?死に方に希望あんの?あ、嫌なこと聞けば計画立てやすいしわりかし助かるな」
「貴方っ、本当に魔王なの!?子供みたいなことを言って!」
「はぁ!?ガキ扱いすんな!お前よりか年上だわ!」
「精神の話をしているのよ!この、不能小児!暗黒間抜け男!天才的ろくでなし!」
「どういう語彙力してんだお前!えーと…性欲処理係のくせに!」
先程までの空気は何処へ行ったか、子供のように子供ではしないような罵詈雑言を互いに返す。もっとも魔王が苦し紛れに口にしたのはただの事実でしかなかったので恥も怒りもなかったのだが。馬鹿馬鹿しくなりはじめたサリィは大きく息を吐き出して抵抗も諦め、潔く地にひっついた。
「あぁもう!どうだっていいわ!好きに殺せばいいじゃない!絶対怨念になってでもへばりついてやる!」
「なんで?」
「屈辱を受けたからに決まってるでしょう!私は私の全てを試しに来たのに!」
「あ、そう」
そう、興味もあったが、挑戦なのだ。地上の自然淘汰のシステムの一部に過ぎない自分が、自然淘汰たから大きく逸れた神話の王を飲み干せたなら何か胸が空くような気がしたのだ。思い付きと詰られれば頷くしかないけれど、肉欲をもつ生き物であれば機能として夢魔である自分が勝つと確信はしていた。それがこうなって、挙句美しさについても侮られたのなら死んだ方がマシだ。
そう吐き捨てれば、魔王は少し目を丸くしてすっくと立ち上がった。同時に身体にかけられていた圧力のようなものが消えて、混乱する。
「え…?」
「うん、ならいいや、一世一代の勝負はお前の負け。はい、お帰りはあちら」
「な、なぜ…?」
「根っこにあるのが俺の軽視じゃなかったから。あ、うん、アレだ、根性的な?そういう奴って好きだぞ」
こんなに憎たらしい事があるのか、先程まで睨むだけで呼吸を止められるような顔をしていたのに、今度は人好きのする笑顔を向けられる。切り替えの早さに演技を疑うが、感情の読み取りにおいても優れた技能を持つ夢魔の目には一つの淀みも見られなかった。
信じられない、と心で呟く。そしてこれが魔王なのだと心で納得した。
ついさっきまで仕留めようとした虫を、あっさりと窓の外へ放ってやるあべこべさ、それが魔獣の王なのだ。
翌朝、おかしな夢から目を覚ました魔王がいつも通り、1秒のズレすらなく謁見の間に向かうと自分が座るはずの玉座に見知らぬ男が座っているのを目撃した。結界を抜けたということは魔性のはずだが、一切記憶にない。一度首をひねってみると、男はいかにも不愉快そうに眉をひそめた。
「え、誰?」
「昨日お前に辱められた夢魔だが」
「あー、言われてみれば似てる。こうなってんだな、やっぱり美しい」
「………」
「何?あ、男女どっちでも湧き立たないから勘違いしないように。魅了どころか催淫も効きませーん、お生憎様でぇーす、はっはっは、わはは」
兎人が生まれる前のこと、サキュバスとインキュバスという今の夢魔で見れば先祖と呼べる魔性がいた。それはただただ、精を食らい欲を満たすだけのものであったのだがより効率よく、より万事に秀でるように、そしてより楽に増えるものを消せるようにと神の手により統合され、肉の器が捨てられ、夢の世界に生きる特殊な魔性として生まれ変わった。まやかしの場に生きるものとして、その身の美しさは理想を背負った。それこそ瞬きのその刹那であれこの美しい生き物から目をそらすくらいならば死んでしまいたいと思えるほど。言うなれば美の暴力装置なのだ。
…なのだ、なのだが。
この野郎…
青筋を立てなかったことを感謝してほしいくらいだ、腹立たしい。サリバン・アニマは気の抜けた勝利宣言をした目の前の男に足早に近寄ると鼻先まで深く隠すローブのフードを掴むふりをして、その頭蓋を鷲掴んだ。
「なんだよ」
「顔が見にくい」
「ふーん」
抵抗が無いのは、夢の世界でもない自分に脅威を一切感じないからだろう。的確な判断なだけに怒りが収まりそうにない。半身であり自分でもあるサリィがダメだった時点で分かっていたが、腹にくすぶるものはあるので乱暴にフードを引き上げると夢で見たものと変わらない瞳がこちらを不思議そうに見つめていた。そして下されたフードをまた被り直そうとしたものだから、腕を掴んで止める。
「いや、なんだよ」
「何故顔を隠す」
「隠してない。雰囲気作りだ」
「…は?」
「魔王っていうなら、分かりにくい方がいいと思って」
魔性相手ならいいか、という風にフードを下ろしたまま魔王が空いた玉座へ腰を下ろす。似合わないと思うのは本人の色々雑な仕草ゆえなのか。
「夢魔ならヒトの恐怖心の材料を知ってるだろ」
「…未知、では」
「大正解。あるいは変容か?知性体ならなんでもそうかもしれないけど、今の事実が崩れることを恐れがちだし、知らないものの為にはどこまでも愚かになれるもんだよな」
「それが、どう関係ある」
「うん?俺が魔王なんて呼ばれ方されるなら、付き合ってやろうかと」
「はぁ?」
要するに魔王と呼ばれたから魔王らしく振舞ってやっている、ということらしい。理解ができない、人間を嫌って虐殺の限りを尽くしたのがこの男ではなかったのだろうか。人々の恐怖から生まれた想像になぜ律儀に応える必要があるのか。疑問を顔に浮かべると、魔王は足を組んで腿の上に肩肘を立てた。
「じゃヒトを駆り立てるものは何か知ってるか?」
「馬鹿にしているのか。快楽だろう」
「そう、それこそ死体の数ほどあるけど、知らないものを暴くってのも含まれるんだよな。奴ら、被虐的かつ加虐的だから」
分からないままでいると、勝手に向かってくるものがいる。分からないものとして定義された魔王としてある方が都合がいい、そういう理屈らしい。
なるほど、理解は出来る。恐れながら、むしろ恐れているからこそ知りたくてたまらない。正体不明の生き物をバケモノなのかただの木の影であったかどうかを確かめたくてたまらない。そういう者はいくらでも見てきた。
しかし、だからこそ思う。それならば魔王としてバケモノに成り果てて憐れな愚者を呼び誘い、食らってしまったほうがらしい、のではないか。
「何故だ、何故人間を憎んでいない?」
「…にくい?」
その一言をまるで初めて聞いたように聞き返す、その万能を思わせる目が白痴のような無垢さを浮かべたのでサリバンは面食らった。やがて魔王は大きく肩を揺らし、腹を抱えて、おまけに目尻に涙すら浮かべて震え出した。
「っ、う、は、あははははは!ンッフ、くくっ、ぷ、ふははっ、あーー!んんん!お、おま、アハッ、笑かすなよ、ひひっ、あははははは!」
笑わせる要素なんてなかった、戸惑いながらその様子を見ていると喋れる程度に回復した魔王が目をこすりながら口を開く。
「あーー…ふっ、あぁ、もう、こんな笑ったの生まれて初めて…お、お前凄いぞ……まぁ若干嫌なもの思い出したけどこの際許す、いひっ」
「………」
「あれ…褒めたつもりなんだけどな…夢魔が健全に他人を喜ばせるなんて滅多な話じゃないだろ」
「殺されたいのか」
「俺がお前殺す方が早いじゃん」
面倒そうに顔を顰められると、ぐうの音も出ない。一度は襲われた魔性を始末しなかったのは気紛れが大きいのだろう、そう思うと退屈な眼差しに思い出した恐怖が蘇って軽く肩を震わせる。しかし、それにしてもだ、自分は真剣な問いを投げたのに大笑いで返されると流石に無礼ではないか、サリバンはムッとして目を細める。それに魔王は平坦な声を投げ掛けた。
「ヒトみたいな事言うなよ、食い過ぎなんじゃないの?」
「…はぐらかすな」
「あー、えっと?人間がなんで嫌いじゃないのかって話?単純だろそんなの。俺以外の生き物なんてどうだっていいじゃんか」
「…なら、何故」
「俺が、ムカついたから。それ以外に理由が必要なのか?」
理由などそれだけでいい、気に食わなかった、腹に据えかねた、自分の意のままでなかった。総じて自分が嫌ならば、是と思うならば何をしたって良い。それを狂気も正義もなく、ただ習性のように自然に言ってのけたのだ、この魔王は。蟻が噛んだから潰した、その程度の感慨しかないのだろう。サリバンはゆっくりと唾を飲む。
ヒトの欲を喰らい、心を識り、ヒトに近い魔性だからこそ分かることがある。こいつはまともな感情も心も道徳もないろくでなしのバケモノだ、と。
「…魔王にいう話でもないのかもしれないが」
「ん?」
「お前生命体としてどうかと思うぞ」
「…えっ」
そして何より、普通に失礼で最悪。
予想外の言葉に目を丸くした魔王の顔には信じられない、と書いてあったけれどこっちだってそっくりそのまま同じ気持ちである。
もぞり、とベッドの毛布が動いて魔王はうんざりした顔と共にそれを剥ぎ取る。そこにはどんな職人が魂を込めたとて描けぬ女神の、いや女夢魔の裸体が寝そべっていた。しかしそれにも赤面せず鬱陶しそうに顔をしかめている。
「おい。まーたお前はそうやって潜り込みおってからに」
「仕方がないでしょう?ベッドに鍵をかける方が悪いのよ」
「自衛だっつの」
ここは魔王の自室では無く、夢の中の空間だ。部屋には出入りされないように鍵を掛けられているから、こうするしかないのだと納得する点が一つとしてない説明に大きな溜息を零す。出て行く気は無いのだろう、手を出せば吹き飛ばすが今日はからかいに来ただけのようだ、変わらぬ顔色に不機嫌そうに眉を寄せたサリィを気にせず魔王は布団を自分だけに掛けて丸まりだした。
「ねぇ」
「なんだよ、もう俺寝るからな」
「ルカって、呼んでもいい?」
「…………おお」
「何よその顔」
「渾名?愛称ってやつだろ?初めてだからちょっと感動した」
「…いいってことかしら?」
「いいよ、新鮮だから」
ルキウス、という名前を初めて聞いた時サリィは悪趣味さと母親の見る目の無さに呆れたものだ。光、などと、暗雲をもたらしたこの暴虐の化身に似合うはずもないだろうに、神の子という像がどれだけの幻を見せたのか。
その馬鹿馬鹿しさに少しの気まぐれで提案してみたのだけれど、蛹になろうとしていた魔王が、ルキウスが唖然とした顔で隙間からサリィを見つめ返して、可笑しそうに微笑んだ。その笑顔に内心気持ち悪いと苦笑する、なんて歪なのだろう。こちらのことなどいつでも殺せるものとしか認識していないくせに当然のように友のように扱うのだ、これは。
そうだ、魔王という男は冷徹だ。
極限まで洗練された優しさに見える他人への無関心と、自分以外を顧みない傲慢さ。それは正直1000年では変わっていない、多少人に合わせるということを覚えただけの本当にどうしようもなく、恐ろしいいきものだ。
だのに、この男の末路を見届けてみたい。そう、思ってしまった。
惚れていた方がまだマシだったのだろうに、真実愚か者につける薬はないらしい。私/俺は小さく笑って男の側で目を閉じる、決して牙の立て方を忘れたわけではない。
ただ、そう、ほんの少し休むだけ。




