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作ってもらったお風呂は快適で、渋られてたのが嘘って思うくらいのサービス具合だった。やっぱこれだよこれ、日本人は湯船に浸からないとね、浄化がなんだっていうのか。身体が綺麗にされててもお風呂は大切なのです、こっちにきてそろそろ一年くらい経つんじゃないかって思うけど上位に食い込むくらい嬉しい。
そんなわけで今日も仕事の疲れを癒そうと、お風呂場を開けたんですが。
「入ってますよ、って分かりやすくしたりとか…あと送風機構いるな」
「たしかに大事ですけど、今はなによりも服着てもらっていいですか?」
「身体火照ってるから待って」
「そこは魔法で冷やしてくださいよ…目の毒なんで…」
扉を開けるとそこには上半身裸の魔王様がいた。たしかにお風呂場に鍵かけなくていいと言ったのは私ですが心臓にかなり悪い、まだ私がアラサーだからいいものの花も恥じらう乙女なら叫んでたからね。なんだこの展開、下パンツ履いてくれてるからまだいいけど、かなりギリギリだよ。目を逸らしつつ片手で目を覆う、やっぱり気まずいからね。
手で身体を扇ぎながらバスルームと脱衣所を見て回ってる魔王様の様子を見るに、作ったものが気になってるんでしょうけども私今のところ不満を感じてないし、服着てから考えても全然いいと思うんだよね。
「サリィより全然普通だろ」
「単体でいると魔王様も暴力ですよ」
「ふーん」
濡れたまんまの髪とか、だらけてるのからは想像つかない引き締まった身体とかね、うっかり忘れがちだけど魔王様も相当なイケメンなので慣れてない姿を見せられると目が辛いです。はい。
魔王様はあんまり納得してない顔だったけど、ラフな服に着替えてくれた。一瞬で終わるのはちょっと羨ましいなあなんて思っていると、本人は若干居心地悪そうな顔だ。
「はぁ、やっぱ俺風呂って合わないな、身体熱くなるのが気持ち悪い」
「暑がりなんですね?」
「煮られてる気分になる」
「大袈裟な…」
異世界ものって、大体その世界の住民を現実の知識であっさり懐柔できるものなんだけど、魔王様には効かないな。甘いものを気に入ってくれてる?のが奇跡だったのかなって思うくらい。いや、別にこの人を懐柔したいわけじゃないんだけど、良いものって共有できたら幸せなのになぁとは考えないでもないよね。身体はほとんど人間のはずなのに何が違うんだろう。
とりあえず魔王様にはお風呂上がりは冷たい牛乳とか飲むと気持ちいいですよ、と言っておく。冷蔵庫のようなものはあるから置くだけで済むし、これで扇風機置いたら完璧なんじゃないかな。銭湯の休憩スペースみたいになるけど、良いものは良い、言わなきゃいいんだ。
そんな感じで意見を出しつつお風呂場を出る、お風呂入りに来たんだけど後にしよう。早速この人ドアとか弄ってるもんね、そう長くはかからないだろうし話でもしようか。
「バスルーム作れたのは驚きです」
「あぁ、そこは」
「魔獣達が有能だから、ね」
「あ、サリィさん」
「こんばんはハナコ、私はお風呂って好きよ」
空き部屋がたくさんあるのは知ってたけどお風呂場って特殊だしあっさり作れるとは思わなかったんだよね、そんな疑問を工事待ちにぶつけてみるとひょっこりサリィさんが現れる。魔王様に不評だったぶん肯定されると嬉しいなぁ、温泉でも思ったけど共感者ってありがたい。
「親への思いやりがあるといえ」
「ある意味ではそうかもしれないわね、だってどうせ変なもの作るって思われて空き部屋用意されてるんでしょう?」
「はぁ!?そんなことねーし!?」
「末裔の子が言ってたわよ」
「ばっ……えっ…いや、そ、んなことないだろ!嘘つくな!」
末裔っていうと、作った魔獣のだよね。7000年も昔なら本人?は生きてなくて当たり前なのか。てっきり長生きするんだと思ったけど。それにしてもこの規模のお城作った魔獣って凄いなぁ、どんな見た目だったんだろう、築城技術持った動物って全然想像つかない。
愛する我が子からの不信を受けてややショック受けてる魔王様を見つつ、首をかしげた。サリィさんは言ってたって言うけど、基本的に魔獣ってヒトの言葉離さないよね。
「あの、前から思ってたんですけど…魔性は魔獣の言葉がわかるものなんですか?」
「あ、そういうことじゃないぞ。俺は親だから分かるし、サリィは夢魔だから分かるっていうか」
サリィさんはヒトの欲望に寄り添う魔性だから、心の機微とかを読み取りやすいんだって。その特性を活かして、えっと…ターゲットの人にまず悪感情を与えないように働きかけてるんだそう。
確かにサリィさんとかサリバンさんと話してるとあんまり嫌な感じしないなぁ、普通はもうちょっともやっとするべきところもサラッと流してしまうような。うわ、別にいいように誘導されたことないけどなんとなく怖い。
で、その流れで言語の壁とかもあっさり突破できるらしい、魔王様の感情視とは別だって話だけどどっちにしろ便利だなぁ。
「ははぁ…なるほど」
「でも、喜怒哀楽くらいならヒトでもわかるのではなくて?」
「まぁ…ヘルハウンドさんくらい怒ってたら…」
「ははは」
「笑い事ではないのよ」
「あ、そう?なんなら翻訳アイテム作るけど」
「バウ…的なものですか」
「バウ?」
鳴き声でペットの言葉が分かるアレ、今もあるのかな。効果ってどんなもんなんだろう、結構胡散臭いよね。
どっちにしろ魔獣って可愛いタイプならまだしも、魔王様の少年的なアレが暴走してる結果怖いの多いもんね。だったらそこまではって感じだし、企みがあると思われるって事で近くに住んでもいないし。私の願いは頭からグワッと食べられないことだけですね、ほにゃリンガル作ってもらうよりはね。
「うーん大丈夫です、早々会わないじゃないですか」
「それもそうだな、こういう時は城暮らしがわりと怨めしい」
「こっそり抜け出してる身分で何を言うのかしら」
「…いっ、いや、繁殖期に会いに行くのはヒトの為でもあるわけだし…」
「苦しいわね」
確かに動物って子供産むってなると気が立つけど、魔王様じゃれつかれるとめちゃくちゃ嬉しそうだし半分以上子供の顔見に行きたいだけだよね。優しい人だとは思ってるけど、ヒトが危ないから…って事情で動く人でもないもん。当たり前だけど、サリィさんはよく知ってるよね。魔獣達からもお父さんと一緒に住んでる人ってことで、仲良くしてたりするのかな。私と違って魔性だし威嚇はあんまりされなそうだよね。
「サリィさんは魔獣には懐かれてるんですか?」
「まさか。話はしてくれるけどそれだけよ、基本的に家族にはドライだもの」
「それでも魔王様のダメ事情は暴露されるんですね…」
「ダメなところごと好きなのよ、きっとね」
「あぁ、分かりにくい惚気のような…?」
「おいコラァ!好き放題言いやがって!」
あるよねー、私も友達にされたことあるわ、愚痴を装った惚気。「あいつほんとしょうもなくてさー私くらいしか相手できないよね」みたいな、みたいな。ふふ、彼氏もいたことのない私は毎度死んだ目をしていましたとも。辛いわぁ、まぁ、もういいけどね。幸せなのはいいことだもんね。ふふ。
そして魔王様はダメ事情って言葉がわりと胸に刺さってるのか珍しく涙目でサリィさんに噛み付いてきた。身内からの否定には弱いって聞いてたけどここまでとは。子供って強いな。
そしてサリィさんは魔王様の剣幕にも涼しい顔で応じている。
「満更でもないのでしょう?」
「んなわけあるか!かっこいいって思われたいのっ!父親としてっ!」
「魔王様のこと父親っぽいなぁって思ったことないですよ」
「そ…それは…その…アレだろ…ヒトと魔性の違いとか…?」
「あるわけないでしょ」
「ありませんよ」
常々思ってたことなんだけど、魔法陣から生まれた魔獣と魔王様って本当に親子って言うのかな。私とサリィさんのダブルパンチを受けてよろめく魔王様を見ながら考えてみる。
うーん、家族も下手だな、この人。




