お風呂もらいました
「魔王様はいいですよね…なんでもうまくできて…」
「んんー血だからな、そこは」
「でも…っ!ずるいですよ!私が時間かけたご飯より魔王様の楽ちんスープの方が美味しいのは!」
一口掬って勝ち目のなさに打ちのめされるスープってどうなんだろう。私ってそこまで家事真面目にやってたわけじゃないから、悔しさは無いんだけどやるせなさとか敗北感とかそういうものはビンビンにありますね。しかもこれ15分くらいで作り終わってたし、私はハンバーグ作りとかで手間取ってそこそこ時間かかってた。
うぅ、悲しい、まぁ段取りが悪いとかも色々あるんだけど。項垂れつつスプーンでまたスープを掬う、向かいのテーブルに座る魔王様は憐れむような顔をしていた。
「レシピ後で書いてやるからそんな拗ねんなって」
「え、レシピとかあるんですか?」
「そりゃあるだろ、感覚だけで作ってんじゃねえぞ」
「私魔王様ってゼロから何かを生み出してると思ってました…」
「そこまで強い補正じゃねーから」
なんか勘だけで作ってるイメージあったんだよね。この人直感だけで生きていそうっていうか、既存のルールに縛られないっていうか。それに神の血のお陰でまず作ることに関しては失敗しない、むしろ上手くいくって話だしね。キャベツを見た瞬間ロールキャベツ発明しそうなキャラじゃない?魔王様。
でも、私がそういう「血だけで最強」みたいな印象持ってたのが不満らしく魔王様はむすっと唇を尖らしている。流石に全部が全部半神だからーって思ってるわけじゃないんだけど、自分の実力蔑ろにされてるみたいで気に食わないのかな。私は基礎スペックすら低いんだから全然いいじゃん、逆にこっちが不満になってくるわ。
「ハナコがそう思うも無理はないだろう、お前はなんでも一段飛ばしにしすぎだ」
「そんなことないって」
そして隣で優雅に食後の紅茶を飲んでいたサリバンさんが魔王様を宥める、けど機嫌は治らなかった模様。本人なりに色々考えてるのをサクッと才能で片付けられるのは嫌なんだろうな。凡人的にはどこからが個人の力なのか分かりにくいのです。
曰く神の血の創造ボーナス?みたいなものはこれはこうするといい、みたいな知識がぼんやり浮かぶくらいらしくて、しっかりした組み立て自体は魔王様がやってるんだってさ。
本当かなぁ、あんまり考えてなさそうなんだけど。疑いの目で見ていると魔王様がじっとりした眼差しを返してきた、ごめんなさい。
「じゃあマジックアイテム作りでも見る?」
「えっ、それ秒で終わったりするんじゃ…」
「確かに分はかからないけど初めて作る物ならちょっとはかかる。何か欲しいものあるか?」
「えっ、うーん…急に言われると…」
どうしても自力ですって納得させたいのか、正直言ってマジックアイテム作ってもらっても私はこっちの世界の知識あんまりないし本当だ!とはならない気がするんだよね。
いや、でもムキになってる魔王様にワガママ言えるチャンスと前向きに捉えて騙したほうがいいのか…ちょっと後ろめたいなぁ。良心の呵責に苦しんでいると、欲しいもので悩んでいると思われたらしくサリバンさんがちらっと私を見てから助け舟を出してくれた。
「浴槽、ではないのか」
「えっ!?いやあればめっちゃ嬉しいですけど、何もアイテムにしなくても…」
「あー、まぁ、妥当か?自動で水汲み、あと洗浄機能と保温機能付けて完成でいいか…あ、女だし保湿効果とかいる?むくみ解消的な機能も搭載できないこともないけど」
「え、保温効果だけで充分な気が…」
「えー、洗うの怠くねぇ?」
「前から思ってましたけど家事嫌いなんですか?」
「お前にかかればそれこそ一秒かからないだろうに」
「自動化するべきものはするべし!」
つまりそれジャグジー付きのお風呂ってことでしょ、いきなり豪華すぎる。そしてあんなに「城に入るだけで浄化されるから」という理論で却下されていたお風呂があっさりと手に入りそうな事実よ。
こうチョロいと不安になってくるなぁ、どっかの昔話にあったよね。変身が得意なお化けが頭のいいお坊さんに騙されて餅に包まれて食べられちゃうやつ。そんな感じで足元掬われなきゃいいけど、とはいえお風呂は嬉しいので黙っておくのでした。
「なーハナコ、聞きたいんだけど、お前風呂で泳ぎたい派?」
「いやっ!いいです!いいです!いらないです!ガルム様スケールで作らないでくださいね!?」
「そうか?…よし、素材見つけてくる」
「あ、いってらっしゃい」
ぼんやり考えていると、魔王様の構想がヒートアップしてたので食い気味に止めた。大きい方が時間かかるからってことかもしれないけど、どうせメインで使うの私だけなんだしそんな勿体無いことできませんて、というかそれどこに置くつもりなの。そもそも温泉で泳ぐのはマナー違反というやつでして。
強めに頭を振った甲斐あって通常サイズになってくれるそうです、多分。ひらひら片手を上げて魔王様はいつも通り、転移魔法で目の前からいなくなった。
その間にサリバンさんには改めてお礼を言っておく、優柔不断な私の事だし誘導がなかったら結構悩んでたと思うんだよね。なんていうか魔王様と同じくらい頭上がらないや、サリバンさんもサリィさんも細かいところで気を遣ってくれてありがたいな。
「はい、ただいま」
「言わなきゃ良かった…」
「なんでだよ」
「ものの10分で帰ってくるな」
見つけてきた大理石がそこそこ大きいという事で私達は食堂からお城の前へと移動することになった。ちなみに魔王様はマジックアイテム作るときはいつも実験室みたいなところでやってるんだよ、私は暴発とかあったら怖いので入ったことないけどね。
当然のように虚空から出された石は真っ白で綺麗なんだけど、光が当たるとちょっと虹色に光ったりしてなんだか大理石ってより宝石みたい。初めて見るなぁ。魔王様はそれを指でなぞりながら考えるように首を捻っていた。
「大きさどうする?2人分くらいの余裕は欲しいだろ」
「あ、はい。そうですね…あの、これって宝物庫にありましたっけ?」
「いや、これは今ガルムに貰ってきた」
「…そうですか」
「諦めるな、突っ込んでいけ」
「お裾分けって思えば普通かなって…」
10分でガルム様のところに飛んで帰ってきたんだ…そりゃ鉱石が主食っていうなら適切なものは知ってそうだけどいくらなんでもそこまでしなくても。私厄介なところ突っついちゃったかなぁ、あるいはこの人が凝り性なのか。
魔王様は私と大理石を交互に見た後に手のひらをつけて石をなぞった、すると触ったところから削れていってあっという間にバスタブの形が出来る。今度はその上に手をかざしてもうひと往復、さっきはただ削っただけのものに艶が出た。加工したってことなのかな、よくわからないけど。
「おぉう…綺麗」
「よし、こっから」
魔王様が指を鳴らすとその前に魔法陣が5個ほど浮かび上がった。魔獣を作る時は地面に描いてたけど、こういう風にもなるんだ。あ、ダンジョンの時の光の輪も魔法陣だったのかな。そんなファンタジーな光景についワクワクしていたら、突然魔王様がどこからか出したナイフで勢いよく手首を突いた。
引き抜かれるナイフに引き摺られた血は地面に落ちることはなくて、液体のまま球状になってふよふよと浮かんでいる。それを引っ張るように魔王様が手を動かして、血の球は魔法陣を全てくぐり抜ける。最後を通った時には球は小さく固形になっていてまるでルビーみたい、というか、あれ、アミュレットについてるやつ、ですね。そのまま赤い石を浴槽の小さな窪みに嵌めて、ふっと息を吹きかける。なんだか全体が一瞬光った気がした。
「はい完成!不具合出たら報告してくれよ?直すから」
「……………あっ、はい」
「ハナコがいる。血を出すなら言え」
「え?あ?まだ慣れてなかったのか?」
ドヤ顔でこっちを見た魔王様にサリバンさんがツッコミを入れてくれた。ごめんなさい、血を見ると卒倒するみたいな可愛げはなくても突然大量出血されると戸惑うものなのです、人間は。
使うってわかってても不意打ちはちょっと。あとやっぱり、どこからが魔王様のお力なのかは分かりにくいです、私はそう思いながら力無く笑った。
少し忙しいのが続いているので間が空きがちになるかもしれません、すみません




